シリーズ”ウィズコロナ”#01:テレワークと安全配慮義務
新型コロナウィルス(COVID-19)の話題がNews等で取り上げられない日はありません。特効薬かワクチンでコントロールできるようになるまでは、既にこれが日常なのです。
感染リスクを避けることは、従業員側の問題だけではなく、企業側にとっても事業継続の為には必要なことなのです。
今回はキーワードとして取り上げられることが多い、『安全配慮義務』について取り上げたいと思います。
安全配慮義務とは
富士通のように働き方を大きく変えた企業もありますが、一般的には緊急事態宣言が解除されたことで、これに伴い出勤する機会は増えたのではないでしょうか。また、「Go To トラベルキャンペーン」の前倒しなどもあり、一時期に比べて気が緩んでいることも確かです。
「今のこの環境が日常なんだ」と言えばそれまでですが、東京都ではまだまだ毎日100名を超える感染者を出している状況、これから秋、冬となれば第三波もやってきます。
若い方は自覚症状無し、または軽症で済んでしまうケースも多いCOVID-19ですが、幼いお子さんや特に高齢のご両親がいらっしゃる方にとっては、とてもデリケートな問題です。
最も怖いのは「自分を媒介して両親が感染し、重傷化もしくは死亡に至る危険」ではないでしょうか。最悪の事態になってしまっては「何故あの時に!」と悔やんでも悔やみきれないことになります。
COVID-19の厄介なところは、自分の具合が悪くなるだけでなく、自分も気が付かぬ間に他人にもうつしてしまうところにあります。だからこそ「君子危うきに近寄らず」ではありませんが、国を挙げてテレワーク(在宅勤務)が求められています。
また、緊急事態宣言以降、「ニューノーマル」な働き方を求められるようになりましたが、サービス業のようにテレワークがそもそも難しい職種を除き、「在宅でできる業務なのに出勤を命令された」「同じ業務をしていても自分だけ出社させられている」「時短勤務や時差通勤が認めてもらえない」などの声があるといいます。
現在のような状況下において、会社への出勤強要が続くことは、従業員を感染リスクにさらし続けるといっても過言ではありません。
こうした問題を考える上で知っておくべきキーワードが『(企業の)安全配慮義務』なのです。
安全配慮義務とは、「労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をしなければならない」という使用者(企業)の義務のことになります。
これは、労働契約法第5条と労働安全衛生法第3条1項において、明記されています。
「会社は従業員の健康等に危害が生じないように安全な就労環境を提供する義務がある」という内容を解釈すれば、「テレワークが可能なのにテレワークをさせてもらえない」というのは、法律に違反しているとして訴えることはできます。
しかしながら、法律というのは解釈が様々にあります。また、個別にその条件は様々です。完全にアウト!”なこと以外については、ケースbyケースで対応せざるをえず、極論としては裁判の結果を待つことになります。
でも、これってみんながハッピーなことではありませんよね?
まずは話してみる
COVID-19の感染拡大が進む中、電車という閉鎖空間、しかも満員で混雑していれば感染リスクが高いことは明白です。(実態は計測不可能に近いが、可能性はゼロではないのでリスクとしては存在する)
勤務地が都心であるがゆえに、感染のリスクに日々さらされることになります。このような場合、企業はできるだけ従業員が感染しないような適切な処置をとる必要がありますが、その一つの策がテレワーク(在宅勤務)であり、これが可能と考える従業員はこうした措置を企業側に要望するべきです。
でも、一人で企業に立ち向かい、話し合いを持ちかけるのは大変ですし、そもそも応じてくれない、話し合っても認識が一致しないという場合もあります。そんな際には労働組合に相談したり、労働組合がない場合は一人でもはいれるユニオンに加入することで、「話し合い」はより確実にできるので覚えておきましょう。
または、行政(労働局や労働基準監督署、または都道府県に設置されている労働関係の問題を扱う窓口)や弁護士に相談するというのも一つの手かもしれません。
しかしながら、一番大事なのは会社にその意思を伝えることにあります。よほどのブラック企業ならいざしらず、企業の成長には人材が欠かせませんから、何かしら相談にはのってもらえるはずです。
まずは「テレワーク(在宅勤務)にさせてほしい」と企業側に話すところから始めてみましょう。
最悪の感染、あなたは何ができる
感染リスクが高い行為をしないという観点から企業側に”出勤をやめる=テレワーク”を求めていましたが、その道半ばにして運悪くCOVID-19に感染してしまった場合、一体どうすればよいのでしょうか?(医療的な視点での話はここでは割愛します。)
このようなケースで、企業が適切な予防措置を取らなかったとして責任を追及することができるのでしょうか?
労災を活用する
こんな時にまず考えるのは労災です。これに関して厚生労働省より通達(令2.2.3基補発 0203第1号)がでており、以下の基本な方針を元に取り扱われます。
一般に、細菌、ウイルス等の病原体の感染を原因として発症した疾患に係る業務上外の判断については、個別の事案ごとに感染経路、業務又は通勤との関連性等の実情を踏まえ、業務又は通勤に起因して発症したと認められる場合には、労災保険給付の対象となる。
<令2.2.3 基補発0203第1号より抜粋>
労災と認定されるためには、すなわち感染経路が特定でき、且つ、それが業務由来であることが証明される必要があります。
このケースに該当する例としては、(業務での)会議室における会議、このご時世減っているとは思いますが、取引先と酒席を伴う接待などが挙げられます。
労災が認定されるということは、企業側の過失が認められたことにもなるので、まずはここから手を付けるのが良いでしょう。
感染経路が特定できない、その場合は
一方で調査によって感染経路が特定されない場合についても、通達(令2.4.28 基補発0428第1号)では以下のように取り扱うこととしている。
調査により感染経路が特定されない場合であっても、感染リスクが相対的に高いと考えられる次のような労働環境下での業務に従事していた労働者が感染したときには、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められるか否かを、個々の事案に即して適切に判断する。
<令2.4.28 基補発0428第1号より抜粋>
結局のところ個別対応にはなるのですが、感染経路不明であっても労災は認められる可能性があります。
しかしながら、「満員電車による通勤」となるとハードルはかなり高いような気もしますね。
企業側への損害賠償請求
出勤強要の結果、COVID-19に感染した場合、企業が感染防止の適切な措置を施さず、安全配慮義務違反が認められ、且つ、企業の行為と損害の間に因果関係が認められる限り、従業員は損害賠償請求が可能です。自分自身のことのみならず、先に述べたように、自分を媒介して肉親が重症化または亡くなってしまったようなケースでは慰謝料の請求も考えられます。
(注:慰謝料の請求は可能ですが、調停ではなく、民事裁判ともなれば、その結果は裁判所にゆだねられます。)
しかしながら、損害賠償請求の為には立証上の問題もあることに注意が必要です。企業がどの程度安全配慮義務を負い、それをどのように怠ったか証明する責任は従業員にあるからです。
COCOAなど、自衛できる手段はすべてやりつくしておく必要があるかもしれません。
まとめ:テレワークと安全配慮義務
感染予防の観点から出社を強要された場合の対応やその後について解説をしました。
従業員の方はシンプルに声を上げることから始まるというのはご理解いただけたと思います。
一方で企業側もこうした命令を出さないに越したことはありません。多くの企業では人材の流失を防ぐように何かしらのコストをかけていると思います。それであれば、企業側も従業員及びその家族の健康を第一に考え、不安を取り去り、従業員のQoLを高める努力をすることが”良い会社”と言われる道の一つではないでしょうか。
企業はできるだけ従業員が感染しないような適切な処置をとる必要がありますが、テレワーク(在宅勤務)はその一つとして国もプッシュしている施策の一つ。可能な限り、対処するのがニューノーマルな働き方と思います。
しかしながら、テレワークをやみくもに適用できないなどの企業側の事情もあるでしょう。テレワークは従業員側にも求めるべきことも多くあります。
企業にとっては、どう従業員と向き合い、生産性を高めるための制度設計をトライ&エラーでもいいので回し続けることが必要であり、こういうアプローチがこれからの企業の評価軸になるのかもしれません。
【執筆:編集Gp ハラダケンジ】
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