”アフターコロナ”の世界を情シス的に考える
この数ヶ月間、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の世界的な広がりをうけ、移動制限・接触制限が求められてきました。企業においてもその規模の大小を問わず「テレワーク(在宅勤務)」の実施が求められ、システム構築のみならず、制度や運用ルール作りなど様々な取り組みを行ってきたのではないでしょうか。
先進国においては各国の対策の効果か、徐々に制限緩和の傾向にあり、日本も例外ではなく緊急事態宣言の解除が今日明日にも予定されています。今回は、今の新型コロナウィルス騒動が落ち着いた後の世界について考えてみましょう。
アフターコロナという時代
「アフターコロナ」、直訳すると「コロナ以降」となるのですが、自分には何か新しい時代が始まったような気がしてなりません。現代では世界的にキリスト紀元(西暦、AD:Anno Domini)を用いていますが、これ以前の紀元前についてはBC:Before Christと呼ばれています。このBeforeとの対比もあり、アフターコロナ(AC:After Corona)が新時代の幕開けのように感じてしまうのかもしれません。
しかしながら、厚生労働省からも”新しい生活様式”が公表されるなど、以前と同じではない時代になったことは間違いなく、普段の生活の仕方、企業における働き方など、様々なことが変わらざるを得ないという意味では新時代の幕開けと言っても良いかもしれません。
<データ出典:厚生労働省HP>
連日、様々なメディアが情報発信しており、新型コロナウィルスについてはここで多くは語りませんが、名前は”新型”ですが、基本的な対策といえば「マスク、手洗い、うがい」と季節性のインフルエンザと変わりはありません。
しかしながら、この新型コロナウィルスが季節性のインフルエンザと大きく異なるのは、感染力が強く、高齢者の致死率が高いことでもなく、現時点ではワクチンも治療薬も存在しないことにあります。故に、これまで感染爆発による医療システムの崩壊を防ぐため、各国はロックダウンやそれに相当する措置を実施してきたという経緯があります。
ちなみにスウェーデンは他国とは異なる独自の考え方があり、ウイルスにさらされる人の数を増やすことで「集団免疫」を形成し、感染拡大の第2波を防ぐといった対策を実施していました。結果として、感染者の死亡率は10%を超え、近隣諸国よりも数倍高いというのも事実です。(英国も当初、この方針の宣言をしましたが、国民の反発もあり、早々に方針転換しています。)
日本においては、これから夏を迎え、気温と湿度が上昇することで季節性のインフルエンザ同様、感染力は弱まることが想像されます。しかしながら、根絶することはありません。この先、ワクチンができ、国民の大半が集団免疫を獲得するまでには2年程度の時間がかかるとも言われています。それまでは新型コロナウィルスに感染するリスクを抱えながら日常生活や常務を行う必要があるのです。
ソーシャルディスタンスや濃厚接触者の把握などはこれからも継続されますが、企業も「働き方の新しいスタイル」を取り入れ、テレワーク(在宅勤務)やオンライン会議、並びにそれらを可能にするシステムの構築または導入の準備をしなければなりません。
テレワークの更なる浸透!?
以前にも世界規模でテレカンファレンスやテレワークが広まる可能性があった出来事がありました。それは、「9.11 アメリカ同時多発テロ」です。
米国に向かう航空機のすべてが米国領域内への飛行制限をされたことで、米国に入国することも出国することもできなくなりました。この影響を受け、多くの企業人が米国への出張が禁止となり、飛行制限が解除されるまでの間は米国企業との打ち合わせはテレカンファレンスで実施された記憶があります。
当時、自分も米国出張を1週間後に控えていましたが、打ち合わせはすべてテレカンファレンスに切り替えることになり、機材の手配、場所の確保などに右往左往しました。今の時代ほどテレカンファレンスツールが発達していなかったこともあり、ほぼ音声だけで行う”英語”による会議は自分にとっては拷問でしたが、PDFで資料配布するなどの事前準備により、一定の効果もあったことから、「(経費削減できるので)もう出張は不要なのでは?」と感じた瞬間でした。
残念ながら、この時は今のようなコミュニケーションツールや情報共有基盤もなかったこと、また今回のように全世界的に長期間の移動制限とならなかったこともあってか、テレカンファレンスやテレワークが広まることはありませんでした。
(もしくは大企業にお勤めのマイラーさんがステータス維持の為にもどうしても出張したかったのかもしれません。苦笑)
しかしながら、新型コロナウィルスの出現により、間違いなく時代は変わり、新しい働き方への一歩を踏み出しています。
GMO熊谷社長は自身のtwitterで「在宅勤務開始から3週間、業績への影響ほぼない。そもそもオフィスが必要なのか真剣に考えている。」(一部抜粋)とコメントをされています。 ⇒全文
当然、業種によってはという前置きはつきますが、テレワークが難しいとされる飲食業などであっても、店長会議など対面でやっていたことをWeb会議にするなど、それぞれのレベルでできることはあるはずです。
また、企業にとってもテレワークを前提としたフリーアドレス制を導入することで、利用面積が削減できます。これはオフィス賃料の負担が減ることになり、企業にとっては大きなメリットです。中には、これを機にオフィスを廃止し、社員全員をノマドワーカーとして「実態のあるペーパーカンパニー」としてしまった会社もでてきました。
尚、熊谷社長は「在宅勤務が採用できないというのでは、もはや今の時代の会社ではなく、在宅勤務の方が生産性が上がり、業績が上がる会社にしていかなければならないと考えている。」ともコメントされています。
今や様々なツールや手段があり、生産性を落とさずにテレワーク(在宅勤務)ができる業種も増えていることから、アフターコロナにおける企業の在り方として、一つの形なのかもしれません。
会社としてもオフィス賃料・通勤手当等が削減でき、一方で社員も働き方の選択肢が増えることでQoLもあがる。双方にとってハッピーな関係になる「デフォルト テレワーク」への準備が必要になってくるでしょう。
デフォルト テレワークを目指すには
IT企業を中心にテレワークをデフォルトとした企業の在り方を目指す流れは必然と言えます。しかしながら、テレワークを実現するには、テレワークがしやすいシステム導入だけすればよいものではありません。各企業の業務や勤務形態にあったテレワークが利用しやすい制度や運用ルールが必要になります。
例えば、社員の勤務実態をどう把握するか? 企業にとっては悩ましいことと思います。法改正により、時間外労働の上限が罰則付きで法律に規定されたこともあり、勤務時間を正しく企業側が把握することを求められています。PCの稼働をモニタリングできるツールを導入するなどが望ましいですが、その際は心理的安全性を担保し、雇用者の守るために用いる(管理するためではない)ように心掛けねばなりません。
一方で、テレワークが利用しやすい制度になっていることも重要です。雇用者が平等に、且つ、その利用が負担にならないようにすることも必要です。これまで「在籍時間=労働時間」として管理してきた企業では、社員がオフィスに出社しないことで、管理ができないと頭を悩ませているかもしれません。しかしながら、テレワークを導入するには企業側・雇用者側、双方に努力が必要です。
企業は「管理のいらない組織」を目指すことをゴールとして、まずは実績(結果)で正しく評価できる体系や評価者のスキルを整備するひつようがあります。雇用者にも、これまでのように時間で管理される意識を変え、期待される成果を決められた時間でやり終えるという(個人事業主が顧客に納品するような気持ちの)意識改革が必要でしょう。
ブラック企業と言われないための勤務管理と個人の裁量に任せた時間配分という相反することを、ITシステムを使い、どこで折り合いつけられるかが、腕の見せ所かもしれません。
また、前出の熊谷社長は「(テレワークを導入して)削減されたオフィスコストの分配」を考えていると言っています。テレワークは光熱費や通信費など何かしら個人のインフラを使用していることもあり、「在宅勤務手当(テレワーク手当)」なども検討の余地があるかもしれません。
アフターコロナと情シス
では、アフターコロナの世界において情シスは何をすべきなのでしょうか?
テレワーク(在宅勤務)が勤務形態のデフォルトとなった場合を想定して検討する必要があります。
これは社内システムの在り方やセキュリティの考え方などに大きな影響をもたらします。
今後、オフィスが縮小、もしくはなくすことを考慮するとオンプレミスな構成は不向きです。また、セキュリティにおいてもこのオンプレミスなシステムを外部の脅威からどう守るかという考え方で構築されており、社員が自宅の通信回線やモバイルルーターなどから業務をすることを想定していなかったと思います。これからは「ゼロトラスト」な仕組みなどを検討する必要があるでしょう。
故に情シスとしては、自社の業務をテレワーク化するための”ゴール=最適解”を見出すことが必要です。そしてそのゴールに向かい、予算や対応人員などを考慮しながら、PoCの有無、導入のステップなどを決め、実現に向けたシナリオを描いていくのです。
アフターコロナの世界は、テレワークという新しい働き方が認知された世界であり、情シスはこれに向けた対策を実施することで社内でのプレゼンスが増すことでしょう。「ピンチはチャンス」とも言いますが、情シスはその存在価値が再認識される好機なのです。
【執筆:編集Gp ハラダケンジ】