IoT Vol:04「ワイザー博士よりも早くIoTを描いた日本人、坂村教授」
- 2018/6/19
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2018/06/19
IoTのコンセプトは日本で生まれた!
以前の記事では、IoTの源流「ユビキタス・コンピューティング」と、その概念を30年も前に構想した「マーク・ワイザー博士」を紹介しました。そんな昔からあるのかとインパクトを受けた人もいると思います。しかし、もっと歴史を辿ると、実は概念はユビキタス・コンピューティングよりも前に誕生しているのです。さらに、それを考えたのは、日本人。そう聞くとよりIoTに興味が湧くのではないでしょうか。
少し唐突ですが、「TRON」を知っていますか?
なぜなら、このTRONの開発者が、概念をいち早く考えた人物。今日「IoTの父」とも呼ばれる「坂村健教授」だからです。
それでは、TRONとはなにか、坂村教授がどのようにして「あらゆるモノがインターネットでつながる」概念を生み出したのか見ていきましょう。
TRONは、PCやスマホでおなじみのOSの仲間です
TRONの概要からはじめましょう。それは「OS」。オペレーション・システムで、機械が動作を行うための核になる基本ソフトです。OSと聞くと、まずイメージするのがPCやスマホ。WindowsやmacOS、iOSやAndroidでしょう。でも、これら「汎用OS」はOSの世界ではほんの一部にすぎません。例えば、携帯電話、テレビ、デジカメ、工場の機械、自動車のエンジン、さらに壮大なものでは小惑星探査機など、あらゆるデジタル機械にOSは搭載されています。
そう聞くと、デジタル機械にはなんのOSが使われているのか? が気になるところ。実はその多くがTRONなのです。TRONはOSのなかで「組み込みOS」という部類に入りますが、そのなかでのトップシェアを誇っています。また、それ以前に「組み込みOS」自体、OS全体の9割のシェア。つまり、TRONは全世界でもっとも普及しているOSなのです。
TRONは1984年からスタートしました
TRONがスタートしたのは1984年のこと。坂村教授が学生時代、アメリカでマイクロコンピュータの勃興を目の当たりにした体験がアイデアに結びついたそうです。そして、「いずれ生活の隅々までマイコンが入り込む。そして、それらが人間に密接な関わり合いを持つ」と考え、その基盤になるオペレーション・システムを構想。「TRONプロジェクト」を立ち上げたといいます。
いずれ生活の隅々までマイコンが入り込む−−、もうおわかりでしょう。これこそが「モノのインターネット」IoTの源流。坂村教授は、ワイズ博士に先駆け、1989年に論文を発表しています。
そうして、時を経てTRONは「世界中の組み込みOSのなかで6割」を占めるまでに普及していきました。これには、「ITインフラを築くためには、標準のOSが必要。どこかが独占する必要はない」との考えも後押しになったそうです。 TRONは「オープンアーキテクチャー」であり、TRON搭載のコストは不要。誰でも手軽に利用できるものとして開発されました。つまり、1984当初からTRON は “あそこにもここにもあるコンピュータ世界の実現”のためにつくられたのです。この事実とシェアを考えれば、IoTの下準備は、すでに出来上がっていたといっていいのかもしれません。
参考:https://news.mynavi.jp/article/20141207-tron/
余談で、ひとつユニークな話をすれば、坂村教授はTRONの概念を当初「超分散システム(HFDS=Highly Functonally Distoribute System)」、または“どこでもコンピュータ”としていたとか。
「どこでもコンピュータ」はかの名作マンガを彷彿とさせ微笑ましくあるものの、これからの世の中を端的に表しているようで、現代でも魅力を感じさせてくれます。
IoTには、なにが求められますか?
さまざまな企業がIoTに注目し、あらゆるモノにデバイス化しようとしている昨今。この動向を見れば、OS機能のニーズはますます求められていくことでしょう。
そして機能性とはなにか? それは、「リアルタイム処理と安全性、省電力性」です。
TRONはこれらにすでに貢献していることが証明されています。携帯電話や自動車、さらに小惑星探索機の実績を聞けば明らかです。今後、あらゆるモノのデバイス化が行われるとき、 TRONはその存在の大きさを増していくことでしょう。
加えて、「 TRONプロジェクト」は現在も推進中。組み込みOSの TRONを「I(アイ) TRON」といいますが、ほかにもPCなど向けの「B TRON」、サーバ向け「C TRON」はじめ、 TRONの応用技術プロジェクト「TRON HOUSE」、「TRON電脳都市」、「TRON電脳自動車」などもあるそうで、坂村教授の軌跡は「東京大学大学院情報学環ダイワユビキタス学術研究館」や「東洋大学赤羽台キャンパス(INIAD)」の見ることができます。
最後に、経済は停滞し、IoT推進についても出遅れたといわれる日本。その再生へのキーワードに「オープン性」に置きつつ、坂村教授はこう話しています。
“これからのIoT環境が整った社会では、例えば失敗しても、やり直しを低コストで気軽に何度でもできるようになっていきます。失敗に対する負い目なく、思う存分、試行錯誤を繰り返すことができるようになれば、1つの世界についてものごとを究めてきた日本のものづくりの伝統が、改めてそこで蘇えるかもしれません。
また、エッジノードとクラウドが融合したアグリゲート・コンピューティングにより、大量のデータ、いわゆるビッグデータが集まりオープンデータなどと合わせて解析されることによって、日々の生活から得られるミクロな視点から新しいアイデアが生まれる可能性も出てくるでしょう。それは、改善・改良を重ね、高品質なものを小さく作ることが得意な日本人にとって都合のいいことです。繊細な感性を持ち、手先が器用で優秀な日本人の美点を、IoTはこれまで以上に活かすことができます。コンピューティングはようやくここまで来ました。IoTは日本再生の大きなチャンスになると考えています。“
【執筆:編集Gp 坂本 嶺】