シリーズ”ウィズコロナ”#02:テレワークで管理すべきは時間か成果か

テレワークにおける評価はプロセスなのか、成果なのか?

希望的観測でささやかれていた「新型コロナウィルスも暑い夏がくれば終息する」、そんな期待とは裏腹に夏を過ぎ、様々なGoToキャンペーンの拡大と共に第3波が押し寄せ、2度目の緊急事態宣言が発令される事態を迎えました。
そんな二度目の緊急事態宣言も一度延長されたにもかかわらず、東京では新規感染者数も下げ止まってしまい、リバウンドが危惧されています。
東京において1日の新規感染者を150人以下にするには”自粛”ではなく、世界の都市で行われている”ロックダウン”レベルのことを行わないともはや難しいのかも知れません。

なかなか終息の出口は見えない状況ですが、一度目の緊急事態宣言発令をきっかけにテレワーク(在宅勤務)を基本的な勤務形態へと見直す企業も現れました。中にはオフィスそのものの廃止を英断、すなわちフルテレワーク化した企業もあります。それから約1年、テレワークが可能なIT企業を中心に、積極的にテレワークベースんの社員採用を行っている企業も増えてきています。

COVID-19の感染拡大により、世界的に”ニューノーマルな時代”へ移り変わったといえます。ワクチンの効果が発揮されるまでの数年は、この新しい時代に即した働き方をしなければなりません。
その対策の一つに「出社人数7割削減」が企業に求められていますが、これを実現する為にはテレワークの導入は欠かせません。
そして、このテレワークには会社と従業員の双方にメリットがある仕組みであることも明かになっています。会社はオフィス賃料や定期代などの経費削減効果、従業員は感染リスク減やQoLの向上などがあります。だからこそ、企業と従業員双方がwin-winとなれるように考えて導入すべきです。

しかしながら、その為には業務がうまくいっているという結果が必要です。
当然と言えば当然なのですが、物事がうまくいかない際には必ずと言っていいほど犯人探しが行われます。
そして、その理由に「テレワークだから」と言われることもあります。
何故このようなことになってしまうのか、考えていくことにしましょう。

 

前説:日本企業の企業文化は高度成長期に培われた

その昔、栄養ドリンクのCMで「24時間、戦えますか♪ ビジネスマーン、ビジネスマーン…♫」というのがあったのをご存じでしょうか?
今でいったらかなり真っ黒なブラック企業なのかもしれませんが、昔はどこもかしこもこんな歌を地で行く”モーレツ社員”ばかりだった記憶があります。(苦笑)

今のような日本の働き方が構築された原点として、”戦後の高度経済成長時代”が挙げられます。
先進国に追いつき、追い越せと突き進む過程で「(会社への)忠誠心」「終身雇用」「年功序列」というような特徴を持った”日本型雇用システム”が構築されていきました。そして国民性も相まってか、過度な残業も厭わず、会社を最優先して家庭を顧みず仕事に邁進するという日本の企業戦士が誕生したと言えます。

もちろん、企業差はあるでしょうが、未だに大多数の日本企業においては「マネジメント≒時間管理」なのではないでしょうか。

24時間働けますか♪では時間管理さえ放棄されていたかも知れませんが、大企業でもサービス残業は恒常的に行われていました。
かくいう自分にもサービス残業の経験はあります。人は記憶を美化しがちではありますが、毎日残業で大変だった反面、不思議と愉しかったという記憶もあります。(いい仕事仲間に恵まれていただけかも知れませんが…)

少し話がそれてしまいましたが、当然仕事である以上お尻は決まっているので、その意味では強制という側面もあるかもしれませんが、目標達成の為にどうすれば良いかということをまずは個人が、次にチームで自主的に話し合いながら決められる環境があったことが幸いして、乗り越えてこられたのかも知れません。
(今考えると恐ろしく働いていたし、そしてどうせタクシーだからと仕事終わりに寝る時間削って吞んでましたからw)

 

日本も新たな時代へ対応する働き方を

では、今日の日本はどうでしょうか。高度成長期における日本の経済モデルは既に終焉を迎えていると考えることに誰しも異論はないでしょう。
テレビ・洗濯機・車が三種の神器だった”一億総中流”から、バブル期を超え、多様なライフスタイルが存在する現代においては企業が取るべき戦略も大きく転換しています。目の肥えた消費者を納得させられる価値の創出、つまりクリエイティビティを必要としています。

このような新たな価値が求められる時代、“長い時間を働くことが結果を生み出す”ということはなく、結果こそが全てであり、そこに労働時間は関係ない働き方が求められるのではないでしょうか。
新しい発想を生み出し、質のいい仕事をすることに適した労働環境や仕組みが必要ということです。

しかしながら、実態はどうでしょうか。コロナ禍以前の大半のオフィスといえば「島型に机を並べて上司が監督」し、「社員が顔を見合わせながら仕事をする」という衆人環視の緊張感のあるレイアウト。デザイン系やIT系では多少事情は異なるかもしれませんが、大企業であっても多くの部署ではまだまだこのスタイルが主流と言えるでしょう。

コロナ禍以前には”働き方改革”の名の下に、この「日本的なワークスタイル」の改善に注目が集まっていましたが、COVID-19の蔓延により、それどころではない状況になってしまったどころか、新しい生活様式(ニューノーマル)における企業活動が求められるという、これまでの常識を根底から覆されてしまったような状況になってしまっています。
その対策の一つとしてテレワーク(出社70%減)が求められていますが、本来、テレワーク云々の前に日本の企業には「新しい発想を生み出し、質のいい仕事をすることに適した労働環境や仕組みが必要」であることを思い出して頂きたいです。
この前提をテレワークの視点からどのように達成するのか、自社の企業活動にどうアジャストさせていくのかが、情シスの腕の見せ所でしょう。

繰り返しになりますが、新しい生活様式の一部としてテレワークの導入は一部の企業・職種を除き、避けては通れないものです。
テレワーク導入に向けた準備の前に、まずはテレワークが従来のオフィスでの労働と何が違うのかおさらいをしましょう。

 

テレワークという働き方を考える

多くの書籍やBLOG等で「テレワーク/リモートワークは移動時間の有効活用ができ、長時間労働の削減や営業の効率化に効果的」というようなことが謳われています。皆さんも”上手に活用すればメリットになる”ことは感じられているでしょう。労使共にメリットはありますが、当然ながらデメリットもあります。
そしてデメリットは、テレワークという働き方を考慮していなかったことに起因することも多いのです。

そもそもテレワークとは、「tele = 離れた所」と「work = 働く」を合わせた言葉です。(参考:使える!情シス三段用語辞典114「リモートワーク/テレワーク」
直接的には会社以外での勤務場所ということになりますが、たいていの場合は自宅でしょう。ですので、在宅勤務という言い方もあります。

会社のオフィスではないからこそ、テレワーク環境を理解しておきましょう。

1.働く環境の違い

まず一番に挙げられるのは、労働環境の違いです。自宅にDENなり執務室、または専用の作業スペースがあればオフィス同等に働くことができるかも知れません。しかしながら、一般的な家庭ではリビングの端などで作業をしているのではないでしょうか。(これについてはコワーキングスペースで仕事をしていると思えば同等という意見もありますが)
仮にマンション暮らしで幼稚園入園前の子供がいる家庭を想像してみてください。
このような環境においては、オフィスに出社しているように9時~18時を業務だけに費やすというのは少し難しいのではないでしょうか。
例えば、子供がやってきて抱っこをねだったり、はたまた奥さんに何かを話しかけられれば返事をしたりと、割り込みが発生するものです。(割り込みはネコでも起きるかも知れませんがw)

企業側として理解が必要なのは、”オフィスにいる環境とは大きく異なる”ということです。制度やルールを検討する際にはこれを考慮しておくべきです。
テレワークであっても、オフィスへの出社同等の労働を求めると環境の違いでどこかにその歪みが現れます。

2.従来型マネジメントの限界

次にマネジメントについてです。先に述べたように、大方の日本企業においては、”キチンと出社していれば働いているとみなす”という文化なのではないでしょうか? 高度成長時代は労働時間に比例した生産性だったこともあり、管理作業を軽減するにはこれはこれで機能していたと思います。
しかしながら、時代は変わりました。クリエイティブさが求められる現代では、成果は時間に比例しない時代でもあると言えます。
極端かも知れませんが、「業務内容は現代、マネジメント手法は旧来」といった状況にある企業も多いのではないかと思います。もちろん、働き方改革先進企業であるMicrosoftでは週休三日制のトライアルなどを行うなど、既に何歩も先に進んでいるのですが…。

このような状況にあって、更にテレワークが導入されるとなると、一体何が起こるのでしょうか?
そうです! 唯一のよりどころであった、”目に見える勤怠”さえなくなり、マネジメントする側はもう何を信じて良いか分からない状況になります。

管理職が監視職とならないためのマネジメント改革もセットで導入されるべきでしょう。

個人の創造性を重視する時代に、工場の単純作業を測るように、PCに向かう時間を測っても意味がないことは明白です。
サービス残業を防ぐ目的だけであれば、操作ログ+仕様アプリケーション程度を記録しておけば良いと思います。

3.従業員の適用性と裁量のバランス

そしてもう一つ重要な要素として、従業員のテレワークへの適用があります。
どうしても”勤務が目に見えない”という性格上、テレワークには”セルフマネジメント”が強く求められます。
「上司に言われたとおりにやる」という状況では、マネジメントへの負荷が高く、短期的にはカバーできても長期的には成り立たないことでしょう。
理想としては従業員一人一人が自立し、自身の担当業務を通じて、自身が所属する企業を経営視点から俯瞰するようなことができるようになれば、「何もしていない」と経営層に思われるような行動はなくなるはずです。
仮にそこまでいかずとも、会社からの期待に対して、キチンと成果として貢献できていれば、何も問題はないでしょう。

しかしながら、人には向き不向きがあります。中にはできない人だっています。できる限り本人の希望は優先させるとしても、場合によっては状況に応じた対話が必要でしょう。

その一方で、セルフマネジメントを行うには”裁量”、すなわちどこまでを任せるかのバランスも重要です。
一挙手一投足の報告を求めるような状況を作ってしまっては、本人も考えることを停止させてしまいます。

4.目標設定の数値化を徹底する

そして、最も重要なのが目標の数値化になります。 情緒的な評価を介在させないことが成功の鍵と言えます。
業務が目に見えない以上、期待する成果への達成度で評価することが、最も公平で納得感のある結果となります。
その為には期初の目標設定を正しく行えるようにマネジメント側も配慮が必要です。
期待もあってストレッチ目標を設定することもあるでしょうが、結果が大幅な未達成とならない為に設定目標の修正が行える中間レビューのような機会があると良いでしょう。

また、全ての職種や業務がテレワークに向いているわけではありません。(サービス業などはそもそもテレワークが当てはまりませんが)
営業職のような成果重視のワークスタイルにはマッチするものの、事務職のようなプロセス重視のワークスタイルにはマッチしにくいのかもしれません。

営業職の多くは目標(またはノルマ)設定がされていると思います。これをクリアできるかどうか、そこがすべてです。
極論を言ってしてしまえば、目標達成の対価としての給与であるため、目標達成をしている限り、正直プロセスなど関係ないとも言えます。
(目標未達だった場合には、目標達成の為にどんなことを行ったのかなどのプロセスも評価されるかもしれませんが、そうはいっても達成率など、何かしら数値化されて評価されているのではないかと思います。)

事務職のようなプロセス重視のワークスタイルにおいても、従来の時間管理型マネジメントから成果重視型マネジメントへの切替は必要です。
企業活動である以上、何かしらの結果はあるはずであり、成果の数値目標を設定することは可能なはずです。
業務によってもすぐにフィットするもの/しないものがあるかも知れませんが、そこはトライ&エラーで調整しながら、やってみることが必要です。

本来、テレワークを導入するにあたって、対象者を「裁量労働制」としていれば、インフラ面の対策は別として、労務の観点からは様々な問題から解放されます。 しかしながら、裁量労働制を採用するには超えるべきハードルが非常に高く、その運用は従業員の誰もが適用できるものではない為、苦労がつきません。

このようなテレワーク事情を考慮した運用や制度設計を行うことで、従業員が安心してパフォーマンスを発揮できるようになります。

 

テレワーク導入でやっておきたいこと

テレワークについては、ご存じのようにコロナ対策よりも前から推奨されていましたが、その前提となっていたのは「働き方改革」です。

少し脱線になりますが、働き方改革というのは単に残業時間を減らすための措置ではありません。”非効率な業務(または業務の無駄)”を見直し、生産性を向上させることにあります。その結果、収益を落とさずに労働時間を削減されるようにすることが真の目的になります。(DXと言っても良い部分もあります)
”業務の無駄”の中には、従業員一人一人の仕事の範囲や責任の所在を曖昧にしてきたという慣習も含まれます。
個人の責任を明確にし、合理的に仕事を進めることにこそ意味があり、テレワーク云々の前に本来は「働き方改革」が必要ではないでしょうか。

しかしながら、現実は異なります。COVID-19が蔓延し、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の観点からも企業に求められる”新しい生活様式”の実践は待ったなしです。その為、テレワークの導入がまずありきになってしまっています。
そうなると前述のような大上段に構えた”(自社の)働き方改革”から着手する時間はありません。
とはいえ、「”非効率な業務(または業務の無駄)”を見直し、生産性を向上させること」は忘れずに取り組無必要があります。

では、一体どのようなことに注意すれば良いのでしょうか?

鍵は信頼関係構築!?

昨今、「テレワーク中の従業員の活動を見える化する」というツールを目にする機会が増えました。芸能人をイメージキャラクターに使う「SKYSEA Client View」などはTV CMでも見かけるので、ご存じかも知れません。
その他にも、自社で利用する為の開発からスタートしたパーソルの「MiTERAS」やオフィスを持たない企業として有名なSonicGardenの「Remottey」をはじめ、「KnockMe!(ノックミー)」、「LanScope Cat」、「AssetView Tele」、「SS1」など、キーロガー中心のライトなものからデスクトップキャプチャ、更にはPC内蔵のカメラを使った着席確認まで行うガチガチ監視のものまで、サービス提供各社のテレワークに対する考え方が反映されたサービスが多数存在します。

しかしながら、従業員がパソコンの前に座っているか監視するというのは、成果ではなく、同じ空間を共有した時間でしか社員を評価できないというマネジメントの問題の表れではないでしょうか。
管理とは、「ある規準などから外れないよう、全体を統制すること」であり、「不正が起こらないように警戒して見張る」監視ではありません。
従業員を束縛するよううな監視を行っては、社員のパフォーマンスに悪影響が出るかも知れません。
また、SEやプログラマのようにPCありきの仕事であれば、PCの使用状況≒勤務かもしれませんが、R&Dや企画などでは文献参照などもあり、PCだけを使う環境にない場合もあり、業務の特性も考慮した運用が必要です。(そこを十把一絡げにするとトラブルにもなります)

このようにその線引きは難しく、ケース・バイ・ケースで判断しなければならない状況もあると思いますが、原則として”何か問題があった場合の状況確認用ログ”としての位置づけは変えずに、情報漏洩防止やオフィス外での社内ルールの遵守、またサービス残業の抑止など、利用目的を明確化して運用すべきです。(Cookieポリシーと一緒ではないかと思ったりもするのですが…)

企業と従業員、双方に信頼関係があってこそ、企業としてのパフォーマンスは最大化するのではないでしょうか?

まとめ:成果による評価で期間を決めてトライアル

テレワークはメリットにもなるし、どうせやらなければならないものなのであれば、導入が容易な部署から期間を決めてトライアル導入することをオススメします。
但し、その際はできる限り”縛り”は緩くしてトライしてみてください。
性悪説か、性善説かは永遠の課題かも知れませんが、同じ釜のメシを食う仲間であると考えれば、できるだけ自主的に活動できる運用とした方が、実は管理する側も楽になるからです。(がんじがらめにすればする程、それが正しいかを確認しなければならず、余計な工数が増えます)

下記にテレワーク導入トライアルのためのポイントを記載します。


  1. 評価について
    評価軸は成果とし、その為の目標設定は全て数値化する(情緒的な評価はしない)
    期初に目標を設定し、上長とその内容を共有する
    通年評価であれば、半期のタイミングで目標設定が正しいかを確認する(大きく未達成が予想される項目は見直しも)
  2. 勤務時間について
    1日8時間を原則とし、5:00~22:00の間で勤務する
    休憩等は除外して申請すること
    (月間フレックス勤務の場合は、1ヶ月の所定勤務時間を勤務すること)
  3. 業務状況可視化ツールの導入について
    勤務状況を把握するために業務状況可視化ツールを導入する
    その使用目的はサービス残業の抑止とし、「従業員を守る為」に使用する(その他の目的には使用しないことを明示する)

1.評価について

(時間ではなく)成果による評価を行ってください。その際、評価すべき目標設定は全て数値化されるように配慮が必要です。
また、通期ではなく半期ごとに評価を行う会社であれば、評価期間の半分程度の時期に中間レビューを行ってください。
トライアル期間が半年未満という場合は中間レビューは行わなくてもよいでしょう。

2.勤務時間について

それぞれの家庭事情に配慮しつつ、深夜勤務を抑制できるようなルール作りが良いのではないでしょうか。
5:00~22:00としているのは”加算がつかない勤務時間帯”を意味しています。企業の事情に応じて、6:00~21:00としても構いませんが、制度の利用者である従業員のメリットが最大化するようにしてトライしてみるべきでしょう。

もちろん、従業員も倫理的対応が求められます。しかしながら、仮に不正をしていたとしても、目標設定が適切に行われていれば、結局は評価に現れることになるので、そのような運用となるようにしていくことが大切です。

3.業務状況可視化ツールについて

勤務状況の可視化という意味で、可能であればツールの導入はした方が良いと思います。 企業も労働基準法違反とならないように、そして従業員の健康を守る為に使うべきです。
このような目的からすると、画面キャプチャやPC内蔵カメラで着席確認というレベルまで求めるかどうかは疑問がありますが、最後は企業文化によると思います。
先にも述べましたが、そのような状況でも労使双方の信頼関係が構築できているのであれば、何も言うことはありません。

 

「まだこれから」という方だけでなく、「一度導入したもののどうも上手くいかなくて」という方も今一度見直すきっかけとして頂ければ幸いです。

 

【執筆:編集Gp ハラダケンジ】

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