DX推進に向けたアジャイル開発版の「情報システム・モデル取引・契約書」-IPA

IPA(独立行政法人情報処理推進機構)は、アジャイル開発を外部委託で行うケースを想定したアジャイル開発版「情報システム・モデル取引・契約書」を公開した。

経済産業省が推進するデジタルトランスフォーメーション(DX)では、その中核となる情報システムの開発にも、ビジネス環境の変化への俊敏な対応が求められる。 そのため、技術的な実現性やビジネス成否が不確実な状況でも迅速に開発を行い、顧客の反応に基づいて素早く改善を繰り返すという、仮説検証型のアジャイル開発が有効となると考えられている。
このような観点から、同省が2018年9月に公開した「DXレポート」では、DXの進展によるユーザー企業とITベンダー(ベンダー企業)の役割変化などを踏まえたモデル契約見直しの必要性が指摘された。

これに基づきIPAでは、2019年5月に「モデル取引・契約書見直し検討部会」及び「DX対応モデル契約見直し検討WG」を設置して、アジャイル開発を外部委託する際のモデル契約について検討を行い、この度、アジャイル開発版「情報システム・モデル取引・契約書」を取りまとめた。
これらはアジャイル開発を外部委託する際の契約条項とその解説、および補足資料で構成されており、主な特徴は次のとおりである。

概要と特徴

アジャイル開発版「情報システム・モデル取引・契約書」は、アジャイル開発を外部委託する際の契約条項とその解説、および補足資料で構成。 なお、本版ではアジャイル開発手法としてスクラムを採用しています。

● 準委任契約が前提

開発対象全体の要件や仕様を確定してから開発を行うウォーターフォール開発とは異なり、アジャイル開発は、そのプロセスの中で、機能の追加・変更や優先順位の変更、先行リリース部分の改善などに柔軟に対応することができる手法である。
そのため、あらかじめ特定した成果物の完成に対して対価を支払う請負契約ではなく、ベンダー企業が専門家として業務を遂行すること自体に対価を支払う準委任契約を前提としている。

● アジャイル開発に関する理解を共有するための資料構成

迅速かつ柔軟に価値の高いプロダクトを開発するための手法であるアジャイル開発の利点を活かすためには、ユーザー企業の主体的かつ積極的な関与が必要となる。そのため、ユーザー企業とベンダー企業の間でアジャイル開発に関する認識の齟齬を防ぐことができるよう、次の補足資料を提供している。

✓ 契約前チェックリスト

契約締結に先立ち、プロジェクトの目的・ゴールやプロダクトのビジョンが明確になっているか、開発対象がアジャイル開発に適しているかといった項目を両当事者が確認するためのチェックリストを用意。
当事者間の理解に齟齬がある場合には、このチェックの過程で補正されることが期待される。

✓ アジャイル開発進め方の指針

アジャイル開発では、プロダクトのみならず、開発の進め方もスクラムチーム(*1)によって自律的かつ継続的に改善されることが想定されている。アジャイル開発のプロセスの核心部分は契約本体に記載しつつも、開発プロセスの詳細は、「アジャイル開発進め方の指針」(進め方指針)で取り決めることにしている。この進め方指針は、スクラムチーム内の合意で容易に変更が可能であり、ユーザー企業とベンダー企業が、進め方指針を通じて開発プロセスについて共通認識を確立・維持することができるようにするものである。

● アジャイル開発の要となる「プロダクトオーナー」の役割等を明確化

アジャイル開発においては、プロダクトの方向性および内容に対して責任を持つ「プロダクトオーナー」(PO)の役割が非常に重要となる。 ユーザー企業がPOを選任することとし、開発チームが必要とする情報や意思決定を適時に提供することや、ステークホルダーとの調整など、迅速な開発を進めるためにPOが果たすべき役割を明確化している。
一方で、ITの専門家であるベンダー企業は、善管注意義務(*2)のもと、プロダクトの価値向上に向けて担当業務を行うとともに、ユーザー企業に対しプロダクトの技術的なリスクに関する説明等を行うこととしている。また、スクラムチーム全体の活動が円滑になるよう支援する「スクラムマスター」はベンダー企業が選任することとしている。

 

IPAでは、ユーザー企業・ベンダー企業双方がアジャイル開発版「情報システム・モデル取引・契約書」を活用することで、アジャイル開発に関する十分な共通理解のもと、両当事者の緊密な協働により価値の高いプロダクトが開発され、ユーザー企業のビジネス価値向上につながることを期待している。

アジャイル開発版「情報システム・モデル取引・契約書」
https://www.ipa.go.jp/ikc/reports/20200331_1.html

(*1)スクラムチーム:アジャイル開発の代表的な手法の一つである「スクラム」における3つの役割「プロダクトオーナー」「開発チーム(開発者)」「スクラムマスター」で構成されるチーム
(*2)善管注意義務: 民法第644条に規定される、委任の本旨に従い善良なる管理者の注意をもって委任事務を処理する義務


本内容は、IPA様のプレスリリースを元に作成しております。
ソース:https://www.ipa.go.jp/about/press/20200331.html

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