あぁ、まただ・・・、せっかく導入したシステムが使われないのはなぜ?
2018/4/4
はじめに、ある企業の情シス担当者が経験したシステム導入談をご紹介します。
この記事の目次
<じっくり検討してこれだと思ったのですが・・・、失敗でした。(情シス担当者Aさん女性25歳)>
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社員の要望もあり導入した社内SNS。個人が自由に意見を投稿でき、部門を超えたフラットな情報共有が可能となるシステムは、以前から魅力的だと感じていました。
さまざまなサービスを比較して、ベンダーの魅力的なプレゼン、見栄えの良いデモ画面、思いは確信へ。そして導入に至りました。
結果は上々でした。「これは面白い」と盛り上がり、私も満足感がありました。でも・・・、しばらくすると、投稿は目減りし、特定社員のメッセージばかり。
たまに投稿があっても、部署をまたぎ共有するほどのものではなく、質も低下してしまいました。
いったい、何が問題だったのでしょうか・・・?
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Aさんのケースの場合、ソーシャルネットワーキングサービスのシステムを導入したものの、社内に根付かなかったようです。
このように「せっかく導入したシステムが活用されない」といった悩みを抱える情シス担当者は少なくありません。
他にも、以下のような事例も数多く見られます。
・「ノウハウを共有しようとドキュメント管理ツールを導入したのに、ドキュメントの格納は依然として各自のPC・・・」
・「業務データを効率的に分析できるようビジネスインテリジェンスの仕組みを導入したのに、使われるのは定型帳票・・・」
・「顧客とのインタラクションを蓄積し業績向上に活用できるとCRMツールを導入したものの、結局出来上がったのは営業案件リスト・・・」
多額のコストを費やして構築し、メリットがあるはずのシステムであるのに、なぜ活用されないのでしょうか?
<システムは何のために導入する?>
使われないシステムが発生する要因を理解するためには、そもそもの「目的」に立ち返る必要があります。
これまで企業がシステムを積極的に導入してきた目的、その最たるものは「業務効率化」でした。見積書や契約書の作成、受発注管理、勤務管理、会計帳簿管理など、今ではIT活用が当然であり、誰しもシステムのない業務は考えられないと思います。ITを活用したシステム導入は直接的な業務効率化をもたらしてきました。
しかし、近年ではIT導入の目的に変化が生じています。これまでのように「業務効率化」が主目的ではなく、「売上拡大」「顧客満足度の向上」「組織力の強化」といった効果を期待し、システムを導入するケースが増えてきています。前述のAさんは「フラットな情報共有」をIT(システム)に期待したわけですが、そもそも「フラットな情報共有」とはいったいどういった状態なのでしょうか? また、フラットな情報共有ができると本当に組織力の強化になるのでしょうか? さらに、それはどうやって測るのでしょうか?
近年のITでは、システム導入によって直接的な効果を期待できるわけではありません。ここに考慮すべき課題が潜んでいるのです。
・システムを使わなくても業務は回る
これまでの業務効率化を目的としたシステム導入では、システム化対象が必須の業務プロセスであるため、システムが多少使いづらくても活用しなければ業務が回らないという一定の強制力や、利用することで明らかに手間が減るという直接的なメリットがありました。しかし「売上拡大」「顧客満足度向上」「組織力強化」などでの活用を目的としたシステムでは、「使わなくても業務は行える」傾向にあります。さらに、使ったところで直接的な効果(生産性向上)が感じにくい傾向にもあります。つまり、利用当初は珍しさもあり利用されますが、次第に利用意義を見失い、手間だけが表面化し、最終的には利用されなくなってしまうのです。
・効果を予測・計測しにくい
これまでの業務効率化を目的としたシステム導入では、「この作業には従来A分必要だった。導入によりB分に短縮されるため、年間ではC時間の削減となる。それゆえコスト換算するとD円の削減効果が望める」というように、効果を数値で表すことができました。しかし、「売上拡大」「顧客満足度向上」「組織力強化」などを目的とした場合、「導入によりX円の売上向上が見込める」というように直接的な効果予測や、「IT活用により組織力がYポイントアップした」といったような数値化が困難といえます。
<システム導入を成功させるためには、どうすればよい?>
とはいえ、メディアに目を向ければ、数々のシステム導入成功事例があることは明らかであり、日に日に魅力的なITシステムやツールが続々とリリースされています。
一体、「売上拡大」「顧客満足度向上」「組織力強化」でのITシステム導入を成功に導くためにはどうすればよいのでしょうか?
それには、まず「システムによる目的・効果の違いを正しく認識し、関係者(経営層・利用ユーザー)と早期に共有すること」、そして「その目的に合わせて計画・導入・運用を行うこと」が重要です。
「じっくり計画し、多くのパッケージを比較し、品質高く構築・テストすれば問題ない」というこれまでのスタンスで導入しようとすると、導入は一見上手く行ったように見えても、その目的の違いから、運用開始後に「せっかく導入したのに使われない」「せっかく導入したのに効果がでない」といった結果に陥る可能性が高まります。
それゆえ、従来のシステム導入とは目的が異なることを理解した上での計画・導入方法の策定が必要となってくるのです。
“従来とは異なる方法”というと、多くの人はここで「アジャイル」を思い浮かべるかもしれません。確かにそれも1つの方法であり、アジャイル的な手法で完成度を高められるのであれば、それに越したことはありません。しかし、ベンダーにシステム導入を一式請負で発注することが多い日本企業の現状や、契約形態などの諸事情を考えると、アジャイルは言うほど簡単ではありません。
そこで、本稿では従来のウォーターホール方式をベースにしつつ、よい導入を実現させるポイントを以下に挙げます。IT導入に悩んだときは、ぜひ参考にしてみてください。
企業によって業態や企業文化、組織構造などが異なり、採るべき手法も異なると思いますが、「使われるIT」を目指して最適な進め方を追求していきましょう!
<導入には、このポイントをチェック!>
・「しっかりRFP提示し選定」から「まずは利用してみて判断」
効果の確証が持てないIT活用の場合、しっかりとしたRFPの提示と選定は有用とは言い難い面があります。それよりもまず評価版の利用からメリットを検討・実感し、社内に適するか否かのジャッジを行うことが大切です。いくら考えても答えが出てくるものではありません。イニシャルコストの低いクラウドサービスの利用も効果的といえます。
・「計画より導入後の効果分析や促進に注力」
日々、「PDCA」というキーワードをよく耳にするように、日本の企業は「計画」を重視する傾向にあります。IT計画・導入についても同様で、「しっかりとした計画がよい結果を生む」というイメージが浸透しています。しかし、これまでで述べてきたように、それでは効果を得づらいのが現代のIT活用です。一方、業務効率化以外の分野に巨額の投資を行っている企業が多い欧米では、「計画重視」よりも「振り返り」を重視する傾向にあります。つまり、事前の計画は最小限とし、それよりも、導入後にどのような効果が生まれているかを分析し、即時軌道修正を行うサイクルを高速で回すことで、効果を最大化させるのです。
・「社外ネットワークを活用、他社事例に学ぶ」
各社ベンダーや、コンサルタント、これまでの人脈を活用し他社での活用事例を情報収集してみて下さい。「うちは特殊だから」「他社は教えてくれないよ」と社内完結でものごとを進めてしまわず、社外からさまざまな情報を入手することで、適切な判断が可能となります。上手く行っている企業も、失敗してしまった企業も、同じ情シスということで、意外と多くのことを語ってくれるものです。