松田軽太の「一人情シスのすゝめ」#8:DXされると『ひとり情シス』の未来は明るくなるのか?

松田軽太の「ひとり情シスのすゝめ」、タイトルだけ見るとひとり情シスを推奨しているように思われるかも知れませんが、思いはまったくの”逆”。様々な事情によりやむなく”ひとり情シス/ゼロ情シス”という状況になってしまっても頑張っていらっしゃる皆様のお役に立つような記事をお届けしたいと思っております。

今回はいつものTipsネタとは異なる情シスの未来のお話です。

昨今、多くの経済誌で『これからの時代はデジタル・トランスフォーメション(DX)が事業の大きな要素になる』と言われているのは耳にタコができるほどお聞きになっていることでしょう。

今までは、IT技術が経営に直接影響するのは、サイバーエージェントやヤフー、楽天などの情報サービス業くらいで、製造業や小売業にはあまり関係ないと思われていました。

ところがです。 IoTの登場・進化によって既存設備にもセンサーが設置できるようになり、今まで認識できていなかった製造設備の稼動状況がリアルタイムに分かるようになったりと、IT技術が事業そのものに影響を与えるようになり、経営的にもIT技術の活用が無視できなくなってきました。
小売業であれば、倉庫内作業やロケーション管理の効率化といったような部分でIoTの活用を検討されつつあります。

このように今まで以上にIT技術の重要が高まる時代に『ひとり情シス』の立場はどのようになっていくのでしょうか?

おさらい:『ひとり情シス』にとって重要なこと

企業数ベースでは日本の企業の99.7%は中小企業です。(従業員数ベースでは異なります)
大企業には情報システム部門というITの面倒をみる専門部隊がありますが、大企業と違って余裕のない中小企業では『ひとり情シス』と呼ばれる、ほぼ独りで会社の基幹システムやパソコンなどの情報システム関連の管理を任される(実際は丸投げされている)人がいます。

しかし残念ながら『ひとり情シス』で必死に頑張っている人も、意外と会社の中での地位は低いということもありました。問題を起こしたら「何してる」、問題を起こさなくても「何してる(遊んでるの意)」と言われるという情シスあるあるがあるくらいです。
特に製造業や小売業のように情シスが会社の本業に関わらない業界では直接、利益をあげることができないので「コストセンター=金喰い虫」と揶揄されること多いのです。

残念ながらこれに関してはDXが始まった現時点でも、今のところ、変わっていません。

近い将来、『ひとり情シス』の価値が高くなる可能性がある

というわけで現時点では忙しいばかりで貧乏クジみたいな扱いの『ひとり情シス』ですがこれから先は『ひとり情シス』の価値が高くなっていく可能性があるのです。

①IT人材が絶望的に不足している

日本は空前の人手不足ですが、IT人材は40万人にも及びます。そんな世の中ですから、情報サービス業以外の業種の会社にはITに興味のある人材は集まるワケがありません。
ところがこれからの中小企業はDX時代のIT革命の波に飲まれていくのは必然ともいえます。
今まで『ひとり情シス』のように社内のIT人材を冷遇していたツケが社会として払わされるのです。

先ほども言いましたが製造設備にはIoTというIT革命が浸透していきます。事務処理ではAIを使ったシステムやつなぎ役としてRPAが普及していきます。つまり、社内にもどうにかしてIT人材を獲得せざるをえなくなるのです。

ですので本格的なDX時代になれば、必ず情シスの価値があがるでしょう。
その中でも特に『ひとり情シス』の価値が高まるのです。

②『ひとり情シス』の強みは「独りで何でもできる」こと

大企業のシステム部門とは違い、中小企業の情シス部門は慢性的に人手不足なので、社内の情報システムに関わる(と思われていること)を全部、自力で解決しなければなりません。
時には社長のiPhoneの機種変のデータ移行とか「これって情シスの仕事じゃないんじゃないの?」という雑用までやらされます。
しかしながら、これはある意味「コンピューターのことはアナタに聞けばだいたい分かる」という信頼の証でもあるのです。(いや、そういう信頼は要らないんで・・・と思うかもしれませんが)
社内で唯一無二の存在であるのであればあるほど、一朝一夕にはその替えは見つけられません。

この状況に持ち込めたら、少なくともコンピューターに関する信頼は持てたということになるのでアナタの情報化投資の提案書が通りやすくなるでしょう。
つまり、ある意味でアナタの理想とする社内システムを思い通りに構築することができるということになります。(もちろんその合理性はきちんと説明できることが大前提ですが)

これは大企業ではなかなか味わえない充実感ではないでしょうか。

そして幸か不幸か中小企業の経営陣にはIT技術の興味のある役員はいないことが多いので、自社にとってその情報化技術が適切なのか判断できません。 故にムチャクチャな金額でなければ、アナタの思い通りに情報システムを構築できるということなのです。
中には「俺のわからないことはやらん!」というワンマン経営者もいらっしゃいますが、こればかりは仕方がないことかもしれません。勇退されることを心待ちにしましょう。

もちろん導入するからには責任が伴いますが、それでも自分が思い描いたシステムを構築できるというのは何ともやりがいが多く楽しいとは思いませんか?

『ひとり情シス』というくらいなので、仕事の量は少ないないかもしれません。(そんなことはないと思っておりますが)
しかし、その分、なんでも自分でやりことができる(というかやらざるを得ない)ので、多方面に渡る経験ができるということでもあります。

つまり自然と『スーパー多能工』として成長できるのです。

③経営とIT技術をつなぐ架け橋になる

また、大方の経営者はIT技術に詳しいわけではありません。 むしろ出来ることなら関わりたくないと思っているのではないでしょうか?

でも、それは仕方がないことでしょう。
製造業や小売業であれば製品を供給することが社会的な使命ですから、IT技術に詳しくないのは当然といえば当然です。

しかし何度も言ってますが、これからの企業経営ではIT技術の活用は切っても切れないものになっていきます。そこに『ひとり情シス』のチャンスがあります。

社内でIT技術に詳しいのはアナタしか居ません。 なのでアナタには「経営とIT技術をつなぐ架け橋」になることが求められるようになるのです。

そのために必要になるのはなんでしょうか? それは経営的なセンスです。
アナタに経営者になれと言っているのではありません。 「経営者であれば、どのようなIT技術を事業に役立てるだろうか?」と考えて、それを経営者にアドバイスするのです。

いわば会社の中で「頼れるIT技術の知恵袋」になるのです。
そしてそれは『ひとり情シス』であるアナタにしか出来ない役割だといえます。

まずは目先の課題を解決しながら徐々に広げる

IT技術の活用と言っても「よし!会社の中の全ての課題を一掃できる管理システムを構築しよう!」などと大風呂敷を広げる必要はありません。
それだとウォーターフォール開発のように「すべての完成図が整えて、大規模なシステムを開発する」ということになってしまいます。(某メーカーではサプライチェーンシステム導入の失敗で、損失額が大きく、その後10年間もIT投資が凍結されたという話も…)

大規模開発となると設計して完成するまでに1年とか2年とか長い時間を要します。 開発期間が長いということは開発費用も掛かるということです。

しかし、現代はビジネス変化も非常に早い時代です。

1年とか2年もかけて開発していたら、その途中で経営判断が変わる可能性が高いのです。そしてそうなってしまうと、途中まで構築したシステムを設計しなおすことになってしまいます。
スゴロクで言えば「振り出しに戻る」ということです。

ですので、これからの時代に求められるのは、まずは目先の困っている課題を片付けて、そこれから徐々に開発範囲を広げていくアジャイル開発と呼ばれる手法です。ちなみに「アジャイル」とは「俊敏」という意味です。
状況に合わせて小まめに変化させながらシステムを築いていくのです。

アジャイル開発では設計者自身がシステムを構築する

小さなサイクルで開発していくので、アジャイル開発では設計者自身が自分でシステムを構築する必要があります。

そこで困るのが「そもそもシステム設計をできるのかどうか?」ということになります。

従来のように要件だけまとめて、そのあとはSIerに丸投げというワケにはいかないのです。 業務フローを描いて業務全体の流れを把握し、その業務に必要な画面構成やデータ項目を洗い出して、データベースを設計していく必要があります。

SIerに丸投げすることの弊害は、こういった設計の勘所が養われないという部分でしょう。
幸い最近は超高速開発ツールとかローコード開発ツールと呼ばれる開発基盤が整ってきています。ローコード開発ツールというくらいなので、ほとんどナゾの英文のコードを書かなくてもシステムを構築できるようになっています。(その分できることの制約もあります)

以下に代表的なローコード開発ツールを挙げておきます。

・PowerApps(マイクロソフト)
・Wagby(ジャスミンソフト)
・Web-Perfomer(キャノンITソリューション)
・楽々フレームワーク(住友電工)
・TALON(HOIPOI)
・Outsystems(BlueMeme)
・Magic Xpa
・GeneXus

まだ他にもツールはありますが、ひとまずこんなところではないでしょうか。

もちろんこれらのツールにはそれぞれの特徴がありますし、おそらく操作方法や設計方法の好みもあるので相性が良いツールを見つけ出す必要があります。

ただし、全てのツールに共通するのは「あくまでも開発効率が良いだけであって、なんでもかんでも自動的にシステムを作ってくれる魔法の杖ではない」というところです。

この辺りの事情はRPAにも通じるところがあるでしょう。

あくまでも作る人が「こういう仕組みを作りたい」という明確な目的を持つことが必要だということをお忘れなく。

 

いずれにせよRPAやローコード開発ツールを使いこなせるようになれば『ひとり情シス』の未来は明るくなると思われます。(希望もこめて)

 

※本記事は松田軽太様許諾の元、「松田軽太のブロぐる」の記事をベースに再編集しております。


松田軽太(まつだ・けいた)

とある企業に勤務する現役情シス。会社の中では「何をしているのかナゾな職場」でもある情シス業務についてのTipsや基礎知識などを紹介する。

ブログ『松田軽太のブロぐる』を運営。

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