「Change or Back!?」あなたの会社のテレワークは?
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の拡大により、首都圏の企業を中心に”やむを得ず”かもしれないがテレワーク(在宅勤務)の導入が進んだ。その結果、テレワークをポジティブに転機と捉えて改革を進めるGMOや富士通などがある一方で、東京商工リサーチの調査結果によれば「実施したが、現在は取りやめた」という企業が26.7%*もあったといいます。
緊急事態宣言により浸透しつつあるテレワーク。今後も続けていくことができるのか、それともリモートワーク先進国の米国のようにオフィス勤務に戻ってしまうのか。様々な角度から検証してみましょう。
この記事の目次
■いったいテレワークはどのくらい普及したのだろうか?
厚生労働省とLINEが4月12日から13日にかけて実施した調査では、全国でのテレワーク導入率は27%でしたが、東京都は52%と大きく全国平均を押し上げていると思われますが、それでもこの数字ということは、東京以外の地域での普及はかなり限定的だったと言えるでしょう。
また、東京商工会議所が発表した「テレワークの実施状況に関する緊急アンケート」調査結果を見ると、「テレワークの実施率は67.3%(3月調査時に比べ、41.3ポイント増加)」ということでしたが、調査対象が東京商工会議所会員企業であったこと、また回答数も1,111社と少なめであることから偏りがあるかもしれません。
実態として参考になりそうなのが、東京商工リサーチが実施した第6回「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査結果ではないかと思います。
本調査は、2020年6月29日~7月8日にインターネットによるアンケートとして実施しており、有効回答1万4,602社でした。また、資本金1億円以上を大企業、1億円未満や個人企業等を中小企業と定義し、その差分が見えることも興味深いです。
この調査結果によれば、新型コロナウィルス感染症拡大防止の為、テレワーク(在宅勤務・リモートワーク)を実施し、緊急事態宣言が解除された「今もテレワークを実施している」企業は31.0%、逆に「実施したが、現在は取りやめた」という企業も26.7%という結果となっています。
<データ出典:東京商工リサーチ「第6回「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査>
会社規模別にみると大企業はピーク時には約85%近くの企業が実施したことが見て取れます。また現在も継続している企業が約55%もあり、この新型コロナウィルスが拡大している状況では、先日の富士通が実施する「Work Life Shift」のようにデフォルトテレワークというような企業も増えてくると思われます。
一方で、中小企業ではその半数くらいがそもそも「一度も実施していない」状況です。そもそも日本企業においては「出勤不要、上司や同僚と机を並べずに働く」ということ自体に対する抵抗感や業務効率低下への懸念などもあり、テレワークの実施にに足踏みしてしまうケースもあるでしょう。特に中小企業ではその傾向が顕著に表れたのではないかと考えます。
もちろん、大企業に比べて中小企業の方がテレワークがしにくい業務が多いことも想像されますし、休業補償を受けるために業務停止した企業も含まれていることは考えられます。
■現在は取りやめたという企業、その理由は?
気になった結果としては、大企業でも中小企業でも「新型コロナ以降に実施したが、現在は取りやめた」という企業の割合が25%を超えて存在することです。当時は「人命第一」として、感染リスクを避けるためにほぼ休業に近い状態でも無理やりテレワークとした企業もあったことでしょう。緊急事態宣言が解除されたことで、通常業務に戻す、すなわち”現在は取りやめた”とした企業もあると思います。
しかしながら、果たしてそんな企業ばかりなのでしょうか? 25%超という数字にはもっと深い意味があるのではないでしょうか?
勤務の見えないこと問題
テレワークの課題としてまず一番に語られるのは、勤務状況の不透明化ではないでしょうか。
これには企業側からの側面と社員側の側面があります。
企業側としては、社員が会社に出社し、自分のデスクで作業をしていれば仕事をしているように感じられることでしょう。それがたとえ業務とは関係のないWebサイトを閲覧していたり、FXやデイトレなどをしていたとしても、その実態には関係なく、オフィスの滞在時間を管理することで安心感はあるでしょう。(PCの操作ログ記録やCASBが導入されていれば別ですが)
しかしながら、テレワークとなるとそうもいきません。企業はテレワークの導入と共にそのマインドを変え、管理しなくても良い組織を目指すべきではないでしょうか。
そんな組織作りのヒントに「納品のない受託開発」に取り組む株式会社ソニックガーデンの取り組みが挙げられます。代表を務める倉貫氏が『ソニックガーデンでは、管理のない会社経営を目指し、セルフマネジメントできる人材を集め、自律的に行動できるよう育成し、そうした人材が最大限に働きやすくなるような環境づくりを目指してきました。』とおっしゃっていたことをよく覚えています。これは「ホラクラシー」と呼ばれ、新しい組織の形などともいわれました。
「ホラクラシー」とは、ヒエラルキーの反対を表わす造語で、組織をトップダウンの階層構造で管理するのではなく、メンバー個々人に意思決定が委ねられてフラットな構造を保つような組織のあり方を指しています。Airbnb、Zappos、Mediumなどの米国IT企業やスタートアップで実践されているマネジメント手法であり、日本でも前述のソニックガーデンの他、ヌーラボでもホラクラシーを実践しているようです。
会社がスケールしてくるとさすがにどうなるのだろうかとも思いますが、前述のソニックガーデンでは「クリエイティブな仕事は管理しない方が生産的になる」という信念の下、社員の入社に1年以上を費やすなど、このシステムが機能する人材を選りすぐっているからこそできることなのかもしれません。
一方で、社員側にも求められることがあります。それが「社員の自立」です。
Face to Faceでコミュニケーションする機会は格段に減少する、テレワーク。そうなると、与えられたミッションをクリアすることが、最低限求められることになります。見えないが故にさぼろうと思えばさぼれてしまいます。しかしながら、会社の期待に応え、業績向上に貢献することが社員としての大原則であることは忘れてはなりません。自分が個人事業主、または起業しているとしたら、クライアントの期待に応えるように業務を遂行し、その結果として対価を得るのではないでしょうか。サラリーマンでもこれは変わらないのです。
生産性向上問題
先にも述べましたが、時間で管理するというのは企業側も分かりやすく、楽なのです。これを成果で評価するとなると、まずはその人のことを理解する必要があります。求めている貢献内容は期待値として適切なのか、成果としてどうあらわれているのか、売り上げにどう貢献したのかなど、細かく把握せねばなりません。このような評価制度の構築は時間も労力もかかりる為、大企業はともかく、中小企業では敬遠されがちです。
例えば、8時間と見積もった業務があるとして、自分の得意分野だったこともあり4時間で終わらせてしまったとしたら…。
・生産性は2倍になったのだからその日の業務はこれで終了し、好きな時間に費やして良い
・生産性は2倍になったが、他にもまだやることはあるので、残りの4時間分働くべきである
昔の日本企業的な考え方でいけば、「勤務時間中なので、残りの4時間分も働いてください」となるのでしょうが、この努力は本人に還元すべきでしょう。なぜなら、生産性を二倍にした対価は給与に含まれていないからです。生産性を上げて獲得した4時間は、みなし労働時間として本人に還元することが文化となれば、企業の魅力は増すことでしょう。
今回、非常事態宣言が発令され、社会がテレワークを求めたことで、”まずはやってみた”という企業も多かったことでしょう。それ故、様々な面で乖離があったのかもしれません。もう一度立ち止まって、制度面も考えてみてはどうでしょうか。
テレワークという働き方への理解不足問題
その他にテレワークの問題と考えられるのが、特有な働き方への理解不足が挙げられます。
テレワークにおける労働時間を考えると、まずは会社までの移動時間が無くなる分、労働する時間は単純には伸びる方向にあります。しかしながら、テレワークは自宅またはその他の場所で行うことから、オフィスでの業務とは異なり、様々な用事に時間をインターセプトされます。
オフィスに出社して、9:30~18:30、休憩挟んでの8時間を連続で業務にあたるようなことは「現実としては難しい」と企業側も理解すべきではないでしょうか。
とある会社では「休憩時間で調節してください」という柔軟な運用をしているところもあります。特に制度は設けず、性善説で勤務運用することは一つの解決策であります。
この機会にもう一歩進めてみるのはどうでしょうか? テレワークは根本的には「本人の求める時間に自由に働いてよい」としてはどうかと思います。残業は会社の命令によって行うものであることは変わりません。企業側は”管理する”というマインドを切り替え、残業時間はセルフマネジメントで管理してもらうことを義務としてしまう方法も一つの策でしょう。
標準勤務時間(例えば、8:00~21:00など)の前後に業務を行う場合は残業申請を行うことというのが一般的です。
しかしながら、このような申請作業、理由の説明、特定の残業時間を超えるとマイナス評価などからサービス残業としてしまう人もいるのではないでしょうか。
仮に残業申請を廃止すると残業代を稼ぎたい人は深夜ばかり働くかもしれません。しかしながら、企業の中で一人で黙々と作業を実行するということは少なく、実態としてはチームメンバーやコラボレーションパートナーとのコミュニケーションをしながら作業が進むものと考えられ、自然淘汰的に労働効率の良い9:00~18:00(時間は例であり、この時間を特定するものではない)前後に集約されるのではないでしょうか。
一時的に残業代が増える可能性もありますが、昼夜逆転生活は本人の負担も大きく、リアルタイムでのコミュニケーションがしにくいなどのデメリットも多いことから、特異な業務を行う人以外は結局は日中に働くことになると思います。一度、小さい単位で実証実験をしていただけるとよいかもしれません。
■安心して働ける環境の提供
皆さんは「サービス残業をさせない、社員の健康を守るために監視ツールを導入します」というような、とても聞こえの良い説明を耳にしたことありませんか? このような大義名分の為に導入される”操作ログ取得エージェント/アプリ”ですが、これらは大方、さぼり発見の方に使われます。
ですが、企業は当然さぼりは見つけて構わないと思います。給与はあくまでも”労働の対価”なのですから。
しかしながら、これには前提があると考えます。その前提とは「心理的安全性」のある組織・チームであることが求められます。ベースとなる関係が良くないと、「監視されないようにシャドウITで対応する」というような悪循環になる可能性があります。そうなってしまっては本末転倒です。
先日、とあるテレワークに関するWebセミナーに登場されていたパネリストの方は「監視のために自社サービスを全社導入している」とおっしゃっていましたが、そのデータの使い方が問われるところでしょう。
新型コロナウィルス感染防止を目的としたテレワークにより「勤務場所」からは解放されました。しかしながら、これとペアで「勤務時間」も解放、すなわち新しい生活様式に見合った働き方にならないと企業と社員の双方がWin-Winとなる制度とはいえません。これには企業側の意識改革が必要であり、長年培ってきた経営理念ともいえるので、ハードルが高いことも事実です。
もし、勤務場所と共に勤務時間の制約からも解放され、あたかも請負業務のようにスケジュール管理しながら、時間を自由にやりくりできれば、個人のQoLは格段に向上することでしょう。結果的に自由度の高い働き方は、会社の評判や採用等へも良い影響をもたらすかもしれません。
”with コロナの世界”が現実のものとなってしまった今、これを変革のチャンスととらえ、新しいことに挑戦してみてはいかがでしょうか?
やって効果が出ればラッキー! もしダメだったら元に戻せばいいだけなのですから。
【執筆:編集Gp ハラダケンジ】