マテリアルズインフォマティクスとは?活用事例や今後の課題について解説

  • 2022/9/28
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「マテリアルズインフォマティクス(MI)」とは、インフォマティクス(科学技術)を活用し、マテリアル(材料)開発の効率化・最適化を目指す取り組みです。
「第4次産業革命」と称される驚異的な技術革新が進んでいる現在、すべてのビジネスとITは切っても切り離せないほど関係性が深くなっています。
そのような背景から幅広い業種がDXへの対応を急いでおり、材料メーカーにもDX化の波が押し寄せていることが注目を集めています。
そこで本記事では、材料開発のDX化「マテリアルズインフォマティクス(MI)」についてご紹介します。基本的な概要からMIの活用事例はもちろん、今後の課題についても解説します。
MIの意味が分からない方はもちろん、関連技術活用のヒントを探している方もぜひ参考にしてください。

 

マテリアルズインフォマティクス(MI)とは

マテリアルズインフォマティクス(MI)とは、ビッグデータやAI、機械学習などの先端IT技術を応用し、膨大な時間・手間がかかる材料開発の時間短縮やコスト削減を目指す「データ駆動型材料開発」です。
より分かりやすく言い換えるなら、MIは「材料開発のDX化」といえます。
しかし、MIによって材料の選定や設計の効率化を実現したとしても、運用・製造プロセスが従来のままであれば、事業全体の効率化は実現できません。
そのため、AIなどのIT技術によって、MIで選定・設計した材料の運用方法や製造プロセスを探索する「プロセス・インフォマティクス(PI)」も重要な取り組みになります。
開発スピードと利益向上を実現するため、世界中の素材メーカーがMIとPIを導入し始めている今、国内の素材メーカーでも大きな注目を浴びている取り組みなのです。

・従来の材料探索との違い

従来までの材料探索は、研究者の知識や経験に基づく、物質選定・設計がメインでした。
過去の事例や論文データを基に、特性を評価しながら化合物の合成などを繰り返し、材料を選定するプロセスを実施していたのです。
そのため材料探索・開発には、数年〜10年以上の時間がかかることも珍しくなく、それに伴って多大な労力、コストも発生していました。
そこで、大量の研究データや事例から候補となる素材を短時間かつ効率よく選定するためにMIが導入されたのです。
従来は、研究者の経験と直感を頼りに選出されたあらゆる候補素材に対してシミュレーション・試作を行っていたのに対し、MIによって候補となる素材の自動選定が実現しました。
研究者の経験と直感をサイエンスデータとAIが支えることで、革新的なアプローチが可能となったのです。

 

マテリアルズインフォマティクス(MI)の活用事例

MIへの理解を深めるためにも、企業の活用事例を確認していきましょう。
先端IT技術における活用方法の一例としてだけでなく、新たなビジネス創出のヒントになるでしょう。

・旭化成株式会社

科学技術を基盤として幅広い事業を展開する総合化学メーカー「旭化成株式会社」では、以下のMI活用に取り組んでいます。

  • ポリエチレン原料の製造に必要な高性能触媒の開発にMIを導入、開発に成功
  • 低燃費タイヤ用の新規ポリマー開発にMIを導入、わずか半年で開発成功
  • 「初級」「中級」「上級」といった3段階の技術を習得したMI人材を、3年間で600人以上育成する計画を推進
  • 現場の研究員がMIを実践できる環境として社内クラウド教育システム「MI-Hub」を構築
  • 「Jupyter Lab」導入により、ブラウザからのPythonや機械学習などの教育研修を推進 など

さまざまな業種に関連する国内最大級の材料・化学メーカーとして積極的にMIを活用していることが分かります。
また、新規ポリマー材料の開発に関するMI活用事例では、在宅勤務の職員がわずか半年で開発に成功したという驚くべき成果も達成。材料開発におけるMIの革新的な有用性を幅広く周知させる事例と言えるでしょう。

・ENEOSホールディングス

ガソリンスタンドでおなじみ、石油・石炭製品業の大手企業「ENEOSホールディングス」でも、自社事業にMIを積極的に取り入れています。

  • 独自AI技術を駆使した汎用原子レベルシミュレータ「Matlantis」を開発、広範囲かつ高速な新規素材探索を実現
  • 触媒反応のシミュレーション結果を機械学習・AIで解析し、触媒の高機能化を探索
  • 「Matlantis™」を代表とするシミュレーション技術により、機械システムの高効率化・高性能化・環境負荷低減を実現可能な潤滑油・グリース設計を推進
  • 長年蓄積された科学的知見、実験データとAIを併用することで、高性能ポリマー収率を向上するモノマー配合組成を実現

上記からも実験・シミュレーション・AIを融合させたMI技術により、幅広い分野での革新的素材の探索に注力していることが分かります。

株式会社日立ハイテクグループ

幅広い業界・分野にテクノロジーソリューションを提供する「株式会社日立ハイテクグループ」では、他社のMI導入を推進する事業を実施しています。
なお、日立ハイテクが提供しているMIソリューションは大きく分けて以下の2種類です。

  • 材料データ分析支援サービス
  • 材料データ分析環境提供サービス

材料データ分析支援サービスはデータ分析を委託できるサービスであり、AIなどの分析に関する専門知識がなくても利用できるのが特徴。
日立ハイテクから受け取ったデータを基に効率的かつ精度の高い実験を行うことで革新的な材料開発が可能となります。
一方、材料データ分析環境提供サービスは、研究者がAIを活用して自由に分析できる環境を提供するサービスです。
分析から開発までを自社完結できるため、研究者の思い通りに研究を進められます。「Python」などのプログラミング知識がなくても使えるのも有用性の高いポイントです。
上記のように自社だけでなく、他社のMIソリューションを推進するための事業も今後拡大していくことが予想されます。

 

マテリアルズインフォマティクス(MI)における今後の課題

材料開発における革新的な技術であるMIですが、今後普及するにあたっての課題も存在します。
MIを有効的に活用していくためにも、現状の課題についてしっかり把握しておきましょう。

・データ管理に多大な時間・労力を要する

MIを有効活用するためには、材料データベースで管理されるデータの質と量を担保しなければなりません。
AIが最適解を導き出すための素材となるデータがお粗末なものばかりであれば、結果もそれに基づいた質の低いものになってしまいます。
また質だけでなく、実験やシミュレーションなど多角的なアプローチから得た膨大なデータ量を蓄積しなければなりません。
そのため、頻繁なデータの更新やテンプレート変更などに労力がかかってしまいます。
だからといって、不特定多数の人間によるデータ入力を許可してしまうと、質が保てなくなるというジレンマも。
したがってMIを幅広く実用化するためには、この課題への対策にも取り組んでいかなければなりません。
具体的な対策としては、データ入力支援機能の導入や材料データベースの活用に関する啓蒙などの取り組みを実施している企業もあるようです。

・専門的な知識を持つ人材が不足している

MIの導入や実用化が広がる中で、大きな課題となっているのが人材不足です。
MIを有効活用するためには、化学・材料分野の専門知識はもちろん、AIや機械学習、データベースなどの先端IT技術への理解も必要となります。
しかし、求められる知識の専門性が高いため、両方の知識を兼ね備えた人材を見つけるのは難しいかもしれません。
分業や外部リソースの活用などの対策も考えられますが最低限、基本的な知識は必要となるため、人材確保に苦戦する企業も多いようです。
対策として、研究者をデジタル人材に育成するための教育に力を入れている企業もあります。
逆に需要の高いIT人材を目指すエンジニアであれば、材料や科学の知識を獲得するのも有効な手段といえるでしょう。

 

まとめ

従来の材料探索プロセスに革新的な利便性を与える先端技術「マテリアルズインフォマティクス(MI)」。
現状、大手企業を中心に活用されていますが、将来的には幅広い業種、規模の材料メーカーへの浸透が予想されます。
そのためには、データ管理方法や人材不足などの課題解決に向けて取り組んでいかなければなりません。
先端IT技術の活用方法を探しているエンジニアであれば、需要拡大が見込まれるMI特化型の人材を目指してみてはいかがでしょうか。

 

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