kintoneを“必修”科目に初導入!大阪産業大学のチャレンジで見えたものvol.6 「本当のチャレンジ 大学で“情報共有”を避けたいワケ」
- 2016/9/29
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「kintoneが、初めて大学の必修科目のカリキュラムで採用される」という知らせを受けて、サイボウズ社のkintoneビジネスプロデューサー中村龍太氏とともに、大阪産業大学 デザイン工学部 情報システム学科の山田耕嗣先生を訪ねた。kintoneの導入は“きっかけ”に過ぎない。山田先生や龍太氏の本当のチャレンジとは何か。(最終回 取材・文:井ノ上美和)
クラウドも情報共有も当たり前
学生たちは当たり前のように、GmailやEvernote、Dropboxなどのクラウドサービスを使っている。LINEやFacebook、TwitterなどのSNSでいつでもどこでも誰かとつながり、情報を共有している。
「クラウドってどう?」と聞いたところで、「便利ですね」なんていう答えは返ってこない。むしろ学生からは「クラウドシステムの説明を受けてはじめて、自分が意識していないだけで普段から多用しているのだと感じました」「今回の演習でクラウドの重要性がよく分かった」というコメントが出るくらいだ。いつでもどこでもすぐにアクセスできて大量のデータを保存でき、オンタイムで変更できるのが“当たり前”なのだから、それが便利かどうかを改めて実感することはない。社内サーバーの存在を知らないからその違いも分からない。
最近、ある企業でメ—ルソフトをGmailに変えたところ、若手社員から「(うちの会社も)やればできるじゃん」と言われた、という話を聞いた。
こういった若者たちの情報システムの感覚に対応できない企業には、優秀な若手社員が入ってくることなどまず望めない。
情報共有を避けたい教員たち
一方で、一般的に大学の先生たちは、クラウドの利用や情報の共有ということにあまり積極的ではないようだ。
全学生が学内のメールアドレスを持っているにも関わらず、休講のお知らせはメール通知ではなく、あくまで校内の掲示板に紙で張り出されるとか(結局それを見た学生がLINE等で次々に他の学生に連絡を回しているのだろうが)、課題の内容は教授の口頭通知あるいは配布資料のみで、提出はメール添付ではなく、手書きのレポート用紙を研究室のポストに入れておくこと、といったことが、いまだに多くの大学で実施されている。
先生たちが情報共有に前向きになれない理由のひとつが、試験対策だ。
一般的な試験問題では、“正解”といえる答えが1つある。特に日本の場合は、何か意見を書かせるというよりも、マークシート等で1つの正解だけを要求するような試験問題が多い。その方が採点も明確で楽なのだろうが、それでは学生たちが問題や解答といった情報を共有すれば解が出てしまうので、容易にカンニングができてしまう。だから普段から情報を共有するような“場”は作りたくないと考えている先生もいるようだ。課題レポートは手書きで研究室のポストに入れろというのも、簡単にコピペをするのを防ぐためだろう。
他にも“研究機関”ならではの理由がある。以前、私が龍太氏と訪ねた某国立大学の産学官連携のプロジェクトで、「チームメンバーは学外の人も入れて、いろいろな情報やアイデアを広く集めたいが、集まった情報やアイデアを持ち出されるのは困る。だから情報アクセスに制限をかけたい」と言われたことがある。つまり、情報が入っていくのは大歓迎だが、出ていくのは困るということだ。セキュリティーは重要だが、チームで情報を共有しながら研究やプロジェクトを進めていこうとする時に、完全に情報が一方通行ということはありえない。
また別の大学では、学会での発表の際、教授から「研究発表のプレゼンは、なるべくわかりにくくやって欲しい。わかりやすく伝えられると(技術や発明を)盗られてしまうから」と言われたという話も聞いた。じゃぁ、プレゼンなんかしなければいいのにと思ってしまうが、似たような話は大学内だけではなく、企業内でもあったりする。
正解がないものを評価する
しかし、誰もが情報発信者になり、ありとあらゆる情報が飛び交う現代の情報社会の中では、情報の流れを止めようとする方にムリがある。
しかも、これからの時代に必要とされる能力は、1つの解を暗記すればいいという類のものではない。必要な情報を集め、そこからアウトプットを創り出していくスキルが求められる。新しいアイデア、サービス、コンテンツ、デザインなどは、どれもコレ!という1つの正解があるわけではない。1つの解を求めるだけなら、それこそ簡単にAIにとって替わられてしまうだろう。
プログラミングの授業なら、式が合っていれば正解だが、今回のkintoneのような授業では“コレが正解!”といえるものはない。アンケートの内容は自由だし、フォームの作り方も自由だ。誰でも簡単にアプリを作成できるのだから、操作の仕方がわからなかった、アンケートが作れなかったということもなく、技術面で評価をしてもそれほど差は出ない。
決まった答えがないものを教えるのは想像以上に大変なことだし、評価も難しい。答えが決まっていれば、試験問題を作るのも評価も簡単だ。
これは教員に限らず、企業の人事やマネージャー層が直面している課題でもある。例えばモチベーションやコミュニケーション、マネジメント能力、イノベーション能力の評価などがそうだ。売上や歩留まりのように数値で成果が測れるものでもなく、マニュアル通りに何かをやっていればいいというものでもない。
とはいえ、個々の成長の度合いや成果、貢献度を客観的にみるためにも、何かしらの成績や評価をつける必要がある。
「(試験で)覚えた知識だけを問うのではなく、自ら考えなければ答えられない問いを作るというのは、極めてしんどい作業です。そしてそれをどう評価するかも難しい。正解がないものにコメントをしたり、評価をするのは極めてしんどい。私もやってみて、それはわかります」(山田先生)。
けれど、しんどいからと言って、やらないわけにはいかない。1つの決まった解を求めるのではなく、答えを創り出していく能力を鍛えなければいけないのだから。
これこそが、山田先生や龍太氏の本当のチャレンジだと感じた。
社会や企業側は、こうして目覚め、育ってくる若い芽をつぶさないような環境・体制づくりを、本気で進める必要がある。
コミュニケーション能力が高く、自発的で、イノベーティブな人財が欲しいなどと企業は言うけれど、そういう人財から見て魅力的な企業になっているだろうか。
若者が能力を発揮できる環境や体制になっているだろうか。
本当にイノベーティブな人財に来られたら困る、というのが企業の現状だったりするのだ。
今回の、大学の授業でkintone導入というチャレンジを通して、あなたには何が見えただろうか。【完】
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