SaaS普及のラストピース? APIエコノミー

SaaS/クラウドサービスが普及し、業務利用も定着しつつあります。しかしながら、Webサービスは特化した機能を提供しているものが多く、データを統合するには一度csv形式で書きだすことが初期のサービスには多く見られました。近年、銀行系のAPI公開をトリガーに外部サービス連携を強化する目的にオープンプラットフォーム戦略をうちだしている「freee」やプログラミングなしで複数のSaaSを繋ぎ合わせて業務を効率化する「Anyflow」などAPI連携が改めて注目されています。
自分だけでは提供できない価値を創造できるとして注目されているAPIエコノミー。現在、社内で使用している基幹システムをWebサービスで分散して構築するなど、新しい使い方ができるようになりました。今回はそんなAPIエコノミーの生い立ちとともに可能性について紹介します。

【おさらい】APIエコノミーとは?

システム間を連携させるAPI(Application Programing Interface)を通じて、既存のサービスやデータをつなぎ、新たなビジネスや価値を生み出す仕組みをAPIエコノミーと呼び、API経済圏とも呼ばれています。
APIとは、コンピューター内のアプリケーションソフトや、ウェブ上のアプリケーションなどから、外部のアプリケーションを呼びだし、簡単に利用できるようにした機能や仕様のことです。
APIが提供されていれば、利用者はその部分を独自に開発する必要がなくなるため、プログラム開発を効率よく進めることができるようになります。(その分の利用料は徴収されることになるのですが)

元々、APIは企業内でのシステム連携に使われていましたが、インターネットを経由して連携するWeb APIが登場してから外部システムとの連携が加速したといえます。特に、呼出し手順がシンプルな「REST API(RESTful API)」の登場によって、活用の幅が広がりました。
REST APIとはインターネットでURLを入力するのと同様にAPIを呼び出します。インターネットを介して外部のシステムに処理依頼を送り、相手から処理結果が返ってくる仕組みです。REST APIの登場により企業が運営するサービスのAPIを公開することが増えてきました。

このように無関係な第三者が使用できるAPIのことを「オープンAPI」と呼びます。APIはシステムとシステムをつなぐ役割をする技術的な機能ですが、APIエコノミーという場合は、APIによってビジネスをつなぐ役割に着目します。APIエコノミーでは、公開されているAPIによって、異なるビジネスやサービスをつなぎ、それらをベースにした、新たなビジネスやサービスが提供されることになります。

<画像出典:総務省  ICTスキル総合習得教材>

身近なAPIエコノミーとしては、企業などのウェブページで所在地を地図上に示す際によく利用される「Google Maps API」が有名でしょう。このAPIを使えば、自前の地図を用意することなく、所在地を伝えられるだけでなく、Google Mapの機能を利用して、最寄り駅からの道のりなどを表示させることができます。

またAPIエコノミーは、金融サービス「FinTec(フィンテック)」の分野で注目されています。2017年に銀行法が改正されたことにより、銀行にはAPI公開の努力義務が課せられました。政府としては銀行がAPIを公開することで、FinTech企業を参入しやすくし、経済が活性化することを期待してのものです。
「マネーフォワード」や「freee」などは金融機関各々のサービスを利用しなくても、それぞれの機能上で、簡単に銀行口座の入出金明細や残高確認が行えるサービスをすでに提供しています。それに加え、自社ソフトウエアのAPIも公開し、新たなサービスの創出を目指しています。

例えば、企業の基幹システムとして利用するには不足していると思っていた機能を他社のサービスで補う。APIエコノミーが実現できればWebアプリケーションの可能性は大きく広がります。
このような背景もあり、異なる業種の企業のサービスが互いにAPIでつながりwin-winの関係でビジネスを展開する「APIエコノミー」が注目されているのです。

但し、現状、Google MapなどのAPIは数多くの企業で使われていますが、それでも総務省の企業向け国際アンケートでは、日本においてAPIの認知度・公開率ともに低い結果となっているのも事実です。日本の次に公開率が低いのはドイツですが、公開を検討している企業の割合は、日本が10.2%なのに対し、ドイツは49.8%とかなりの差があります。裏返せば、日本でのAPIエコノミーは始まったばかりで市場のポテンシャルがまだまだあるということかもしれません。

 

今になってAPIが「経済圏」になったワケ

20数年前から使われてきたAPIが、なぜ今になって新たな経済圏として期待されているのでしょうか。その理由としては次のようなことが考えられます。

  1. クラウドサービスの浸透
    システム監視や法改正によるプログラム改修を自社でしなくても済むというメリットから、業務アプリケーションもパッケージからサービス(SaaS)へ移行されつつあります。グループウェアやCRMから、販売管理や会計など基幹業務へと使用範囲も広がってきています。
    しかしながら一般的にSaaSが提供するサービスはその範囲が狭く、企業の基幹システムをリプレイスするほど包括的にカバーするものではありませんでした。そのため必然的に企業は複数のSaaSを利用することとなり、CSVのダウンロード/アップロードを手作業で連携せざるを得ませんでした。
    最近ではSaaSがAPIによるサービス間連携に取り組み、別の企業が運営するサービスでもリアルタイムで連携できるようになりました。例えばCRMサービスの代表格であるSalesforceでは、公開したAPIの数が群を抜いており、こうしたエコシステムの強化がサービスの成長につながっています。
  2. AIの進展
    今や、スマートスピーカーのような音声認識や顔認証のような画像認識など、技術進展によりAIの活躍する舞台は広がっています。しかし、AIが解析できるだけの大量のデータや、機械学習のモデルを自前で用意するのは時間もコストもかかります。
    そこでAPIを活用して付加価値の高いシステムを、いかに労力をかけないでシステムを構築することが主流となっています。
    画像認識においては、Microsoft Azure「Computer Vision API」やGoogle「Google Cloud Vision API」、Amazon「Amazon Rekognition」など、精度の高い解析ができるAPIが続々と登場しています。
  3. IoTとの親和性
    今後あらゆるモノがインターネットにつながると予測されるなかで、処理速度が遅く、記憶容量が少ないデバイスにおいても、膨大なデータの中から絞り込んだ情報をデバイスで受け取る必要がでてきます。
    2015年には株式会社NTTドコモとソフトバンク株式会社によって「デバイスWeb API コンソーシアム」が設立されました。今はKDDIなど約120社が参画し、規格「GotAPI」の普及に取り組んでいます。GotAPIに沿ったWeb APIをスマートフォンにインストールすれば外部のデバイスを制御するための形式がスマートフォンやOSに依存せずに使用でき、スマートフォンからいろいろな機器が操作できるようになります。
    また、ブラウザFireboxを開発するMozilla社は、異なるヘッドセットでも利用できる「WebVR API」やブラウザ上でVRコンテンツ・ARコンテンツにアクセスできる「WebXR API」の取り組みを進めています。

Webサービスを加速するAPIエコノミー

2006年にGoogleのCEOであるエリック・シュミットによりクラウドコンピューティングが提唱してから十数年、様々なWebサービスが登場しましたが、サービス間の連携できてこそSaaS/クラウドサービスの良さが活かされてくると思います。
使わない機能が盛り込まれた高価な基幹システムなど実は不要な会社も多いのでは? 自分たちにあった使い方をAPIエコノミーが実現してくれるかもしれません。

 

【執筆:編集Gp 山際 貴子】

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