BC Vol:04「ブロックチェーンの問題とかつての事件を訪ねて」
2018/06/13
この記事の目次
未知の可能性を持つ素晴らしいテクノロジーですが、たまには冷静な視点で観察するのも大切です。
あたらしいブームやカルチャーのはじまりには熱狂があります。 “これは流行る!”や、“次世代を築く!”など、その期待の大きさによって支えられ、ブームは真のブームに、カルチャーは社会に根付いていきます。ただ、その一方で、過度の期待はときとして危険なこともあります。
今、ブロックチェーンにブームが到来しています。ニュースなどに盛んに取り上げられる様子から「すごいテクノロジーだ」という印象を持つ人は少なくないでしょうし、また、「あらゆる分野に適用できる可能性アリ」と聞けば、万能感を覚える人もいるかもしれません。しかし、ビットコインが2009年にはじめて発行されたことからもわかるように、ブロックチェーンも日が浅いテクノロジーであり、今後の活躍は未知数です。
そこで今回は少し離れた目線でブロックチェーンを観察。これまでに問題視されてきた事柄や事件を振り返ってみようと思います。
問題その① “もう、いっぱいいっぱい”な「スケーラビリティ問題」
「ブロックの容量」にまつわる問題です。ビットコイン・ブロックチェーンは、誰もが、つまりスペックの低いコンピュータでも参加できるよう、ブロックの容量を1MBとしています。これは、ネットワークが高スペックなコンピュータに寡占されないための制限ですが、急激なビットコインの需要拡大から1MBではトランザクションをスムーズに処理できないようになり、ビットコインユーザーにも「取引手数料の上昇」や「取引処理の遅延」といった大きな影響を与えています。
この解決策として、コア派(ビットコインの開発を行っている人たち)から提案されたのが「segwit(セグウェット)」でした。直接、取引処理に影響のないブロック内の「電子著名データ」を「ブロックチェーン以外で管理」し、「空いたスペースにトランザクションを入れる」方法で、2017年8月の実装により、取引遅延が緩和しています。ただ、segwitは対処療法にすぎず、さらなる需要拡大が続けばスケーラビリティ問題は一層深刻化していくのは明らかです。現在、このsegwit方式に加え、ブロックの容量を2MBに増やす「segwit2x」が提案され期待を集めていますが、まだ実装までには至っていません。
問題その② “悪意を持つスゴい能力の人がたくさん”いる「51%アタック問題」
ビットコイン・ブロックチェーンのP2PネットワークはPoWによるマイナーの総意により成り立っています。総意とは何か? といえば、「ナンスをいち早く見つけたマイナーが報酬を得られる競争性」と、「ブロックづくりのラストにマイナー総出で行われるナンスの検証」です。つまり、「早く正しい」ことが絶対であるからこそ、誰もが(よい人もわるい人も)参加してもネットワークの秩序は守られているのです。
しかし、不正を目的として、かつ圧倒的なナンス探しの計算力も持つマイナーがいたとしたら・・・、それが「51%アタック」です。
51%アタックは、一人または「マイニングのためにつくられたグループ(マイニングプール)」が、マイナーの過半数を上回る計算速度を持てばネットワークを独占、つまり不正を働くことができるようになります。
ただ、これまでには「Ghasi.io」というマイニングプールの計算力が全体の50%を超えたものの、不正にはつながりませんでした。なぜなら、この事実がビットコインの価値を低下させたからです。つまり、マイニングを独占すれば、ビットコインは信頼を失い価値も下がる。それでは不正を働いても元も子もありません。ただ、数々の暗号通貨が誕生している現在、または、これからも誕生していく未来を考えると、どこかの暗号通貨で、51%アタックが発生してしまう可能性はあります。
問題その③ ブロックチェーンを“分裂させちゃった”「The DAO事件」
はじめて聞く人は意外、または不可解かもしれませんが、暗号通貨の世界では今や「ブロックチェーンの分裂」は珍しいことではありません。これを「ハードフォーク」といい、従来のブロックチェーンを“なかったこと”にして、あたらしいブロックをつないでいく方法です(その詳細は、またの機会に説明しましょう)。
ハードフォークを有名にしたのは、イーサリアム・ブロックチェーン上で起きた「The DAO事件」でした。今日では、ハードフォークはデメリットばかりではありませんが、この事件はブロックチェーンの信頼を揺るがした大事件として広く知られています。
ことのはじまりはイーサリアム ・ブロックチェーンを使って開発されたサービスの「The Dao」。ドイツの「Slock it」というベンチャーがはじめた「投資ファンド」ブロック・チェーンサービスです。
誰の管理もなく、かつ出資者の投票で投資対象を選べるThe Daoへの注目は高く、開発・運用に向けた資金調達では150億円もの資金を調達。しかし、いざサービスが走り出すとプログラムに脆弱性があり、ハッカーにより50億円分ものイーサ(イーサリアム 上の通貨単位)を盗まれてしまいました。
さて、おわかりだと思いますが、ここまではThe DaoとSlock itだけの問題。確かにこれも大きな事件ですが、The Daoがブロックチェーンの存在を揺るがしたとされるのは、この後のイーサリアムの対応にあります。
イーサリアム の開発に携わるイーサリアム ・コミュニティは事件を重く見て、どういう対応をすべきか議論を行いました。そうして、決行されたのが「この事件をなかったことにする」こと。つまり、ハードフォークです。これにより、ハッカーが盗んだ50億円相当のイーサも存在しないことになりました。
一見すると万事解決ですが、しかし、「管理者不在」で「国や権力者はもちろん、誰の管理下にも置かれない平等なネットワーク」であるとされてきたのがブロックチェーン。それゆえ、「トラブルだからと、仕様を変更するのはいかがなものか」、という声があがります。また、平等なネットワークは結局実現できないのかと、落胆する人々も現れました。
これが「The DAO事件」の概要です。巨額の暗号通貨を悪用されないようにしたイーサリアム・コミュニティの対応は正しいものだったと思われます。しかし、この事件はブロックチェーンの存在意義に大きな問いを投げかける結果を残したのでした。
以上、駆け足で問題と事件を紹介しましたが、このようにブロックチェーンにも負の軌跡があります。しかし、清濁併せ呑み進化していくからこそ、真のテクノロジーになりうるといえなくもありません。今後、ブロックチェーンがどのような進化を遂げていくか楽しみです。
【執筆:編集Gp 坂本 嶺】