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時事ネタ:廃棄業者からの横流し問題
先日、 「カレーハウスCoCo壱番屋」を展開する壱番屋が製造工程で異物が混入したため廃棄処分を依頼した冷凍ビーフカツ約4万600枚(約5・6トン)の一部が不正に転売された事件がありました。このニュースを見て、情報システム部門で廃棄を担当された方は、ヒヤッとされた方もおられるのでないでしょうか? 私は、企業が廃棄したはずのパソコンがデータ消去もされないまま、流出する事を想像しました。
前回のコラムで、IT機器の処分に関して、委託を行う場合、監査が必要だと書きました。壱番屋の担当者も廃棄企業へ定期監査はおこなっていたのでしょうが、結局は流出して転売されてしまいました。一番問題なのは産廃業者ですが、このようなトラブルで真っ先に名前が出るのは、「カレーハウスCoCo壱番屋」です。そのような事を考えると、排出者のリスク管理という事は、廃棄したら終わりにできないなとも感じました。
日本の「ITAD」
話しをIT機器処分に戻しましょう。「ITAD」(アイタッド)とは、「IT Asset Disposition」(情報機器資産の処分) の略語で、欧米では広く認知されており、事業戦略に通じる重要性のある業務である。と連載の初回に書きました。それでは、日本における「ITAD」は、どのようなものになるでしょう? 今回は、これからの日本のITAD=「J-ITAD」の課題を考察したいと思います。
企業自治体など事業系PCはどこに行くのか?
みなさんが、排出した使用済パソコンの行き先を考えた事がありますでしょうか?
排出機器の流通経路は、国内で(1)リユース・(2)リサイクル・(3)廃棄、海外で(4)リユース・(5)リサイクル、大きく分けるとこの5種類に分かれています。みなさんがお使いのパソコンやIT機器もこの中のルートの中にのっていると思います。ITADに深くかかわる最終的な処分ルートの現在の状況と課題を記します。
厳しくなる輸出環境
バーゼル法とバーゼル条約 ※1
バーゼル条約という国際条約があります。そちらに基づき、日本では「特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律」、一般的には、バーゼル法と呼ばれる法律があり、IT機器などに有害物質を含む電子機器に関しても廃棄物の輸出には規制がかかっています。
リユース品の輸出に関しては、バーゼル法上の問題はありませんが、リユースには適さないものが、中古品と偽って輸出され、輸出相手国、特に発展途上国において、部品、金属等が回収されている実態があり、それらの含有する有害物質が、人の健康及び生活環境に悪影響を及ぼしていることが強く懸念されている事が問題となっています。
それにより、平成25年9月に環境省が「使用済み電気・電子機器の輸出時における中古品判断基準について」という通達が出されました。
https://www.env.go.jp/press/files/jp/23042.pdf
こちらの内容としては、 [1]年式・外観、[2]正常作動性、[3]梱包・積載状態、[4]中古取引の事実関係、[5]中古市場の5項目によって構成されています。
バーゼル法に基づく輸出の承認を得ずに輸出された場合、バーゼル法の違反となるだけでなく、バーゼル条約上の不法輸出として国際問題に発展するおそれがあります。
使用済IT機器の不正輸出問題
シップバック問題
リユース品として輸出されたIT機器が、相手国の税関で通関できず、日本にシップバック(返送)される事例が発生しています。上記のバーゼル条約もあり、相手国との間で国際問題になる可能性もあります。平成27年度は、12件ものシップバックが発生しています。下の写真のように、荷姿や、年式・外観などの問題から、相手国においてリユース品とみなされず、バーゼル条約に基づきシップバックされたり、そもそもリユース品の輸入規制がかかっている国からのシップバックがあります。
シップバック事例:環境省のホームページより
https://www.env.go.jp/recycle/yugai/shipback/index.html
環境省資料:廃棄物等の不適正輸出対策強化に 関する課題について資料3-1より抜粋(29ページ目)
雑品スクラップの輸出先での不適切処理の問題
雑品とは、鉄、非鉄金属・プラスチック等を含む雑多な「未解体」「未選別」のスクラップであり、「雑品スクラップ」と呼ばれる。解体業者・工場や一般家庭・事業所等から使用済となって排出されたものです。
こちらが海外へ輸出され、輸出先の国で不適切に処理され環境問題を引き起こしています。
環境省資料:廃棄物等の不適正輸出対策強化に 関する課題について資料3-1より抜粋(9ページ目)
環境省資料:廃棄物等の不適正輸出対策強化に 関する課題について資料3-1より
https://www.env.go.jp/recycle/yugai/conf/conf27-01/H270929_05.pdf
あなたの会社の使用済IT機器はどこに行く
バーゼル法に絡むシップバック問題や、輸出先での環境汚染の問題、種類は違いますが、「カレーハウスCoCo壱番屋」の廃棄品の横流し問題など、排出したIT機器のリスクは排出した後もつきまとっていると言えます。
使用済IT機器を高く売却できる、費用が少なくて処分できるなどの裏側には、こういう事情があるのかもしれません。
企業の排出は出せば終わりなのか?
製造メーカーの責任として、家電リサイクルやパソコンリサイクルの制度があります。一方、排出企業の責任としては、廃棄物処理法のような法律はありますが、廃棄以外の有価での売却などに対しては明確な規制なり責任があるわけでありません。
それにもこだわらず、万が一、廃棄物なり有価で売却した使用済IT機器が流出し、コンプライアンスに違反している場合(例えば不正輸出、不法投棄、廃棄物の横流しによる情報漏洩など)、社会的に名前が出るのは、名の知れた大企業であったり自治体の名前です。
まとめ
企業の使用済IT機器の排出に関しては、法整備に関しても十分ではありません。しかしながら、実際のITADを委託できる事業者は小規模であったり、透明性が不十分であったりします。最終的に問題があった場合のリスクは、結局、排出する大手企業が負うことになります。そこに日本のITADが抱える課題があるように感じます。
※1 有害廃棄物の輸出時の許可制や事前通告制、不適正な輸出や処分行為が行われた場合の再輸入の義務などを規定した国際条約として定められています。我が国も1993年に同条約に加入し、その履行のための国内法としてバーゼル法を定めています。
経済産業省ホームページより
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