技術的負債(テクニカルデット)という言葉、聞いたことがあるでしょうか?技術的負債の”あるある”を交えつつ、改めて「負債になりうるかも」という状況を認識し、解消するにはどうすればよいだろうか、などについて、反省しつつ、考えてみました。
技術的負債とは?
技術的負債とは、短期的な成果を優先するために行った妥協や未解決の問題が、将来的に目に見えない大きなコストを生むという状況を指します。
例えば、リリースのスケジュールを優先するためにテストを省略したり、再利用性を考えずにスパゲティコードを書いたり、スピードのために質をトレードオフしたり、などなど、のちのち返済すべき目に見えないコストを生み出す典型といえます。
(こういう状況によく遭遇します、いろいろなプロジェクトでも、個人的にも、身に覚えがあります………。)
こういった負債は、後々コードを変更したりバグを修正するときに大きな壁となり、チームの生産性を下げる原因になります。
しかし、その時の最善の選択だったかもしれない
技術的負債は、時には「その時の最善の選択」だったかもしれない、ということは念頭に置いておきたいです。
プロジェクトのスケジュールやビジネス上の要件に対応するため、リリース日が変えられないなど、変えられない優先順位によって、なにかとトレードオフすることは良くあることだと思います。特に、新しい技術やサービスのスピード感が増している昨今、将来の開発効率に目をつむってもスピード重視になる傾向は強く、その時の状況では最適な判断で、結果として後で手間がかかる形を選ぶということは少なくないと思います。
その時の判断や背景を理解することは心理的にも大切です!
しかし、負債をきちんと管理し、後から解消する計画を立てておくことは必要だと思います。
技術的負債の例
1.コードの複雑さの増大
時間に追われて書いたコードがどんどん複雑になっていき、他の開発者が理解するのに時間がかかる。あるある…。付随的に、新しい機能を追加しようとしたら、予期せぬエラーが出てくる、なども…。あるある…。
2.テストの不足
充分なテストを書かなかったコード、充分なテストを行っていない機能などは、後からバグが見つかるリスクが高くなります。また、テストがないと安心してコードをリファクタリングするのも難しいため、結果的に後々の作業が大変になります。
3.設計上の妥協
最初は簡単に実装するために「とりあえずこれでやろう」と設計上の妥協をしてしまうこともあります。でも、プロジェクトが成長するにつれて、その妥協が大きな障害になることがあります。例えば、疎結合を意識しないまま作られたシステムは、後で変更が非常に難しくなります。
他の業種での技術的負債の例え
技術的負債の概念は、他の業種や職種でも共通するものがあります。いくつか例を挙げてみましょう。
1.営業部門での顧客データ管理の例
営業チームが急いで顧客情報を適当にExcelやスプレッドシートに記録し続けると、後から検索や分析が非常に大変になります。
データがバラバラな形式で記録されていたり、重要な項目が抜けていることで、他のメンバーが理解できずに時間を浪費する…。「とりあえず今はこれでいいか」とした判断が、後から手間を増やしてしまう、ということが技術的負債に相当します。
2.バックオフィスでの書類管理の例
経理や総務で紙の書類を適当に保管してしまうと、後で必要な書類を探すのに非常に時間がかかります。領収書を日付順に整理せずに保管しておいた結果、経費をまとめる時に大混乱…などなど…。
短期的には時間を節約できたかもしれませんが、長期的には余計なコストがかかるという点で技術的負債と同じです。
3.プロジェクト管理でのタスクの割り当ての例
プロジェクト管理でも、細かい計画を立てずにとりあえずタスクを割り当てて進めることがあります。でも、後から進捗が停滞したり、必要な調整に時間がかかってしまうことに。このように、計画段階での手抜きが後々の手間を増やしてしまう、このようなことも技術的負債に相当すると思います。
なぜ技術的負債を解消することが重要なのか?
技術的負債は、最初は「納期最優先」「スピードとトレードオフ」などと合理的な選択に思えることもありますが、そのまま放置してしまうと、次のような問題が発生します。
1.保守性の低下
複雑で理解しにくいコードは、新しい機能を追加したりバグを修正するのに時間がかかります。その結果、開発スピードがどんどん落ちてしまいます。
2.バグの発生リスク増加
技術的負債が多いコードはエラーが発生しやすく、修正にも多くの時間と労力がかかります。また、修正するたびに新しいバグが発生するリスクも高まります。
3.チームメンバーのフラストレーション
技術的負債が多い環境で仕事をしていると、古いコードの問題に悩まされることが増え、開発者のモチベーションが下がります。その結果、チーム全体のパフォーマンスにも悪影響が出てしまいます。
技術的負債をどう解消するか?
技術的負債は、最初は「急いでいるから仕方ない」「スピードとトレードオフ」などと合理的な選択に思えることもありますが、そのまま放置してしまうと、次のような問題が発生します。
1.リファクタリングの実施
定期的にリファクタリングを行い、複雑なコードを整理していくことで負債を減らしていきましょう。リファクタリングは、コードの動作を変えずに内部の構造を改善することが目的です。
2.テストの充実
テストを自動化するなど、テストコードを追加して、コードの品質を確保しましょう。テストが充実していると、将来的な変更にも安心して対応できます。
3.技術的負債の可視化
技術的負債の存在をチーム全体で共有し、優先的に解決する計画を立てることが大切です。チケット管理システムで負債に関するタスクを管理するなど、具体的なアクションを取り計画を立てましょう。
4.小さな改善を積み重ねる
一度に全ての負債を解消するのは難しいため、日常の開発の中で少しずつ改善していくことが大切です。”Boy Scout Rule”(ボーイスカウトの規則)として、「自分が関わった部分は、見つけた時より少しでも良くしておく」という考え方を持つと良いかもしれません。
まとめ
技術的負債は、プロジェクトにおける「あるある」な状況です。短期的には迅速な開発を可能にしますが、長期的には開発スピードを遅くし、コードの保守性を低下させる要因となります。でも、技術的負債は必ずしも悪いことばかりではなく、その時の状況に応じて最善の選択をした結果でもあります。「あの時は仕方なかった」と思い返すことも多いでしょう。大事なのは、その負債をそのまま放置しないことです。
負債を認識して、少しずつ返済していくことで、プロジェクト全体の健全性を保つことができます。技術的負債を適切に管理し、計画的に解消していくことで、チームの生産性やモチベーションも大きく向上します。
技術的負債の解消はチーム全体で取り組むべき課題です。その過程で、何を優先し、どのように進めるのか、一度振り返って考えてみましょう。プロジェクトでの「あるある」や成功例・失敗例を通じて、新たな気づきが得られるかもしれません。
カテゴリー: