情シスアカデミア#01:ASP/SaaS/クラウド事始め「コンピュータの基礎」
情報システム部門にかかわる様々なことを少し学問的に解説してみようという試みである、本シリーズ。
まずは、業務システムに限らず、日常生活にクラウドサービスが当たり前のように使われている今だからこそ、「ASP/SaaS/クラウド」について、その歴史や技術的な背景などを紹介したいと思います。
第1回は「ASP/SaaS/クラウド事始め」と題し、その中でも基本中の基本である「コンピュータの基礎」のお話です。
ASP/SaaS/クラウドは場所的制約のないコンピュータ
ASP/SaaS/クラウドを理解する前に、まずはコンピュータ世界について整理します。
コンピュータとは大雑把にはデジタル信号を蓄積・変換・出力するものであります。これが通信との密接な連携が進んできたことで、”ASP→SaaS→クラウド”と名前を変えながら、広く普及してきました。
クラウドの概念を理解する上で、コンピュータの基礎的な動作の理解は非常に重要であることから、既にご存じかとは思いますが、この解説から始めることにします。
PC(パーソナルコンピュータ)登場の背景
1960年代からコンピュータの主流であったメインフレームなどの汎用コンピュータは、大型で且つ非常に高価であったため、個人が気軽に使用するようなものではありませんでした。
しかしながら、ゲームはもとより、ワープロ、表計算などは、自身の手元で自分の都合に合わせて使いたいのが本音である。 当時のこのようなニーズによってマイクロプロセッサが登場し、パーソナルコンピュータ(以下、PC)が急速に広まったといえます。
参考までに、初期のPCとメインフレームの相違点を下表に整理しています。
表1:PCとメインフレームの違い
PC | メインフレーム | |
利用者 (同時利用) |
1名 | 複数 |
構成 | 本体、記憶装置、ディスプレイ、キーボード | 本体、記憶装置、通信回線、複数の端末装置 |
用途 | ゲーム、ワープロ、表計算など | 基幹業務など |
上表のようにメインフレームが集中管理で通信回線を前提に利用されているのに対し、当時のPCの通信機能は無いに等しい状況でした。(あったとしても、9600bpsのモデム程度)
この状態が大きく変わるのは、インターネットが一般の人にも利用され始めた時(ADSLの普及)からといえます。
コンピュータの構成
PCが登場し、PC-9800シリーズやMacintoshが普及し始めた頃のハードウェア構成は下図のような構成でした。
図1:登場初期のPCの構成
- 本体
CPU (中央処理装置)、RAM(一時的な記憶デバイス) - 内蔵もしくは外付けの永続的な記憶デバイス
ハードディスク(HDD)もしくはSSD、CD-ROM/DVD-ROMなど - ヒューマンインターフェースデバイス
表示デバイス(液晶ディスプレイ、プロジェクターなど)、入力デバイス(キーボード、マウスなど)
内臓ストレージと言えば、昔はHDDが主流でしたが、この10年ほどでNANDフラッシュの微細化やバッドブロック管理の向上によりコストダウンがすすんだことで、すっかりSSDに代わっていたり、もはや光学ドライブなどは存在しないなどの違いはありますが、PCとしての構成要素は現在も基本的には変わっていません。
PCのハードウエア構造は汎用的に出来ていて、特定目的のために構築されているわけではないので、使用目的に合わせた適切なソフトウェアを導入して使用します。
コンピュータ各部の主要部品
次に各部分を構成する主要な部品を解説していきます。
- 本体部
1)CPU
特徴:コンピュータの内部にある、たくさんのピンを持つチップ
役割:計算と判断を行う
演算性能:時代とともにクロックも上昇。マルチコア化も進み、年を追うごとに演算能力は向上
<出典:インテル>2)RAM(メモリ)
特徴:コンピュータの内部にある、たくさんのピンを持つチップ(通常複数個ある)
PCの性能向上とともに増加。現在のPCでは、8~16GB程度が搭載される
(揮発型メモリの為)通電されなくなるとデータは保持されない
古くはスロットに挿して使うものが主流であったが、ラップトップを中心にオンボード実装もある
役割:一時的な情報を記憶する
通信性能:メモリーのクロック周波数も高まり、高速なものでは20GB/sに近い速度も可能
<出典:バッファロー> - 内蔵もしくは外付けの記録デバイス部
内臓SSDでの例
特徴:内臓SSDにはいくつかのフォームファクタが存在。「1.8インチ」「2.5インチ」「mSATA」「M.2」など
Serial ATA(SATA)をベースに端子が小型化したものとPCIe(PCI Express)ベースのものに大別される
PCIeタイプは「NVMe(NVM Express)」という仕組みにより、SSDの持つポテンシャルを最大限引き出す
半導体メモリーであるが、SSDは非通電でもデータを保持できる特性を持つ
<出典:SanDisk / KIOXIA> - ヒューマンインターフェースデバイス部
1)ディスプレイ装置
特徴:パーソナルコンピュータ登場初期には白黒のCRTだったが、インターネットが一般化した2000年ころには既に液晶モニタが普及していた
液晶が低価格で入手可能な現在ではマルチスクリーンでの利用は珍しくないが、ラップトップPCが普及するまでは珍しい存在でもあった
役割:コンピュータ内のデータを人に提示する
描画性能:最近はノートPCがデファクト化しており、A4ノートではWXGA(1366×768)程度が一般的。外付けモニタにはWQXGA (Wide Quad-XGA:2560×1600)やそれ以上の画素数を有するものもある
通信性能:アナログビデオ信号によって表示することも可能であり、描画コマンドによって、数Mbit/秒程度の通信速度で表示を行うことができる2)キーボード、マウス
特徴:有線または無線にてPCと接続される入力機器。キーボードは文字の入力、マウスはクリックやドラッグ&ドロップなどの作業を行うためのもの
役割:人の意思を、文字や数字、クリックでコンピュータ本体に伝える
通信性能:実質数十 ~数百bit/秒程度の通信スピード
各部品を見て「何をいまさら」と思うかもしれませんが、これらが正確にイメージできているとクラウドの構成が理解しやすいことも理解いただけると思います。
例えば、CPU。Appleは独自にCPUを開発するなど、その性能競争はとどまることを知らず、世代を追うごとに高まっています。現在のCPUにおいては複数の処理を同時に処理するマルチタスクや、その性能の良さから1台のコンピュータ上に複数台のPCを共存させるような仮想化を行なうことができます。
そこで、仮にCPUやメモリー、記憶装置がデータセンター(以下、DC)上にあり、ディスプレイやキーボード、マウスが自宅にあると考えてみましょう。
あれ?これってクラウドではないでしょうか?
そういうことなんです、クラウドって。何か特別な存在ではなく、自分の目の前にあるPCが場所を超えてPCを構成していることが”クラウドコンピューティング”なのだと覚えていただければいいと思います。
おまけ:コンピュータ各部の接続(通信)
補足ではありますが、PCの構成を理解するにあたり、どのような接続端子があるのかおさらいしておきましょう。
- 本体と外付け記憶デバイスの間
現在、ほとんどのPCではUSBで接続されていると言っても過言ではないでしょう。
過去にはi.LINK/FireWireやeSATA、近いところでもThunderboltによる接続などもありましたが、USB3.0が制定されてからは、ほぼ一択と言えます。
USBについては、あえてご紹介する必要もないと思いますが、さらに進化したUSB3.1も登場しています。
USB3.1にはSUPER SPEED(Gen.1)とSUPER SPEED PLUS(Gen.2)の2種類のモードがあり、Gen.2であれば最高10Gbpsでの通信が可能、且つ、大容量の電源供給も行える新時代規格なのです。
この「USB3.1 Gen.2」として広く普及しているのがType-C端子であり、スマートフォンをはじめ様々な機器での利用が広がっています。(あのMacBook Airでも採用されたくらい)
- 本体とヒューマンインターフェイスデバイスの間
昨今はラップトップPCが多いので、あまりディスプレイケーブルを見かけることはないと思いますが、ラップトップPCであれば、本体とディスプレイ間の接続にはHDMIがポピュラーな方法です。
かつては”D-sub 15ピン”などと呼ばれたVGAケーブル(アナログディスプレイ接続)が使われたが、その後、アナログ方式に代わりデジタル方式で画面情報を伝送する規格としてDVI(Digital Visual Interface)が採用された経緯もあります。
本体とキーボード・マウス間については、古くはPS/2で優先接続されていましたが、現在はUSBに置き換わっています。
また、この領域は必要な通信速度が低いことから、Bluetoothをはじめ2.4GHz帯での独自方式などワイヤレス通信が使われることもあります。
次回は『ネットワーク』をキーワードにASP/SaaS/クラウドを紐解いていこうと思います。
【執筆:編集Gp ハラダケンジ】