5Gの登場でDaaSは再燃するのか?

IaaS、PaaS、SaaSという言葉と共に、DaaS(Desktop as a Service)も生まれた。セキュリティや管理の観点からThin client&DaaSは理想的な関係であったが、2013年頃はサーバー側のパフォーマンスや回線速度の影響もあり、業務利用としては許容できない状況だったことから、表舞台からは姿を消した。しかしながら、働き方改革の大号令により、ここにきて再び注目されている。低遅延、高速通信を得意とする5Gの登場で浸透するのだろうか?

おさらい DaaSとVDIの違い

まず、DaaSのお話をする前に、似て非なるDaaS(Desktop as a Service)とVDI(Virtual Desktop Infrastructure)の関係整理をしておきましょう。どちらもクライアント端末からネットワークを通じてデスクトップ環境を呼び出して利用することは変わらず、クライアント端末は表示&入出力デバイスの役割を担います。しかしながら、その違いはクライアント端末から呼び出すデスクトップ環境がどこにあるか、そして誰がその環境を提供しているかで異なります。

デスクトップ環境がクラウド上に展開され、外部のサービス事業者が提供している場合はDaaS。自社内のサーバー(またはデスクトップPC)にデスクトップ環境が展開され、自社内で運用されている場合はVDIといえるでしょう。

VDIをリモートアクセス環境で利用する場合もありますが、往々にして社内のネットワーク環境はデータセンターのネットワーク環境と比較すると、様々な部分にボトルネックがあり、データ伝送速度の低下や遅延がサービス品質に影響するものと考えます。

 

理由 5GとDaaSの親和性

5GとDaaSの親和性を語る前に、5Gがどのようなサービスなのかをおさらいしておきましょう。

5Gとは、第5世代移動通信システムのことであり、国際標準のモバイル通信の規格である。第5世代:5th Generationを表す”5G“として呼ばれています。現在利用されている4G(LTE/LTE-Advance)の次の世代の規格になります。

【参考】使える! 情シス三段用語辞典64「5G」

 

<画像出典:新価値創造展2018 ドコモ基調講演より>

 

5Gにおける目標性能は、「高速・大容量:20Gbps」、「低遅延:1msec」、「多数接続:100万デバイス/㎢」と4Gを圧倒します。現状の4Gであっても3D CADのような負荷の高い利用用途でなければ、ほとんど問題はないと思いますが、5Gの通信環境であれば、ストレスのないThin Client環境の構築も可能となるでしょう。

そうなると最大のネックは通信料となりますが、NTT docomoの吉沢和弘社長は産経新聞のインタビューにて以下のように発言がありました。

5Gは通信速度が現行の主流規格の4Gの10倍以上になるため、データ通信量も速度に比例して飛躍的に増加する見通し。ただ、通信料金をデータの使用量に比例して増やせば、利用料金が大幅に高くなる。吉沢氏は「速度が10倍なら料金を10分の1、速度が20倍なら20分の1にできるように通信ネットワークの技術を高め、コストを削減しなければいけない」と強調した。

現在、ドコモは個人向けにデータ通信量10ギガバイトのプランを6千円で提供しているが、5Gの場合は通信量が10倍の100ギガバイトのプランで、この水準を参考に料金設定するとみられる。

【産経新聞より】

想像ではありますが、キャリアとしては実入りとなるARPUは維持したいでしょう。しかしながら、今でも値下げ要求をされる中、5Gになったからといって値上げすることは非現実的と思われます。したがって、更なる利便性を訴求し、より“容量を使ってもらう”方向に舵取りをすることになります。

そうなるとキャリアの思惑としても、DaaSは理想的なアプリケーションの一つではないでしょうか。

 

検証 5GはDaaSの普及に貢献するのか

改めてDaaSのメリットについて整理しておきましょう。DaaS導入のメリットは以下と考えます。

1)小規模/低コストでのスタート

オンプレミスと比較したDaaSのメリットとして挙げられるのはやはり小規模・低コストで利用でき、ユーザ数の増減などが容易なこと。大きな初期投資不要で、月額利用できることが魅力である。また従業員の増減にあわせ、ユーザ数の変更が容易であるのもDaaSならではの良さと言えるでしょう。
ただし、サービスによっては最低ユーザ数が定められているなど、一定以上の規模でなければ利用できないものや、一定期間解約できないなどの制限があるものも存在します。選定時にこれらの条件もしっかり確認しておきましょう。

2)スピーディーな導入

大規模なインフラ構築が不要であることから、短期間で利用開始できることもDaaSのメリットである。イチからインフラを構築するオンプレミスと比較すると導入期間はかなり短くできるが、それでもセキュアなネットワーク回線や、快適な操作環境を実現するための初期設定などの準備作業は必要である。この辺りがどの程度簡単にできるのかもDaaS選びの際のチェックポイントであろう。

3)管理者負担軽減

DaaSのメリットとして忘れてならないのが、運用負荷の軽減です。大規模なインフラの保守・運用をすることなく、デスクトップ仮想化環境を手に入れられるのは、オンプレミスとの一番の違いです。だからこそ、信頼性の高いインフラを持つサービスをしっかりと選ぶことが重要になります。
また、PCの資産管理やOS、セキュリティ対策ソフトのバージョン管理なども社員のPC1台1台について対応するのではなく、DaaS上での一元管理とすることで、全体的な運用負荷を大きく軽減します。

 

DaaS選びは、これらのようなDaaSの良さを享受でき、且つ、自社の利用状況/方法にマッチしたサービスを見つけることが重要になります。一方で、いくら低料金だとしても信頼性に欠け、“たびたびビジネスが止まってしまう”ようなサービスではお話になりません。カタログスペックからは読み取りにくいデータセンター・インフラなど信頼性についても、ヒアリングした上で選定することが必要です。

金額面は要求事項や提供サービスにより幅があると思いますが、DaaSを使うことで、情報漏洩や紛失対策、管理工数削減など情シス業務には一定の効果が期待できます。使えない仕組みにしないためにも、ネットワークの回線品質は重要な役割を果たし、5GはストレスのないDaaS環境構築に一役買うことでしょう。

 

~Tips~
Windows OSのライセンス費用に着目
サービスによって、Windows OSの必要数についてそれぞれに考え方や会社間取り決めなどがあります。場合によっては、シンクライアントのOSライセンス費用が削減されるなどもあるようです。

 

参考 DaaSって、だれが提供しているのだろう?

先に述べたようなポイントに注意して、DaaSを選んでいただきたいと思いますが、最近、特に取り上げられるようになった“働き方改革”のキーワードに呼応するように、展示会等でDaaSの露出が増えてきました。X-TECH EXPOやJapan IT Weekなどで目にする機会が多かったサービスを紹介します。

freebit cloud X-DaaS – フリービット株式会社

モバイル事業も手がけるフリービットが提供する、“いつでもどこからでもセキュアにアクセス可能なクラウド型デスクトップ“。

フリービットでは「リソースプール」という考え方を採用。従来の仮想デスクトップサービスの多くは、最低デスクトップ数のコミット(50台等)を前提に、vCPU/メモリ/HDDのモデルを何台購入するかを検討するサービス設計となっており、フレキシブルなデスクトップ構成(スペックや台数)の変更が必要な場合は、オンプレミスのVDI環境を構築する必要がありました。しかしながら、X-DaaSでは「リソースプール」により、好きなスペックのデスクトップモデルを好きな数だけ、用途に合わせ自由に割り当て可能なサービス設計を実現し、利用効率を向上させています。

実際にWi-Fi環境(およそ50~100Mbps程度?)を使って、最小リソースで構築したデモを拝見しましたが、一般的なオフィス業務においてはほとんど問題がないように思えました。

s-WorkSquare – ドコモ・システムズ株式会社

厳密に分類するとs-WorkSquareはDaaSではなく、仮想デスクトップサービスになるかもしれません。しかしながら、データセンター内のサーバーを使用している限りはDaaSといえるでしょう。

s-WorkSquareの特長は、なんといってもドコモグループ自らが仮想デスクトップを活用し、働き方改革を実践。そこで蓄積した技術・ノウハウがベースとなっているところではないでしょうか。

但し、少し残念なところは契約条件とサーバースペック。現状、最低契約年数:1年間、利用単位:50IDからとなりますと、いくら1ID:3,800円/月とはいえ、大企業を除いては導入にハードルがあります。また、サーバースペックにおいても、現状は若干パワー不足を感じる構成ではありますが、DaaSのニーズが加速すれば、そこは追加されると想像されます。

※【2022年7月追記】ドコモ・システムズ株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:丸山 誠治、以下 ドコモ・システムズ)は、法人事業(IoT事業)を会社分割により NTTコミュニケーションズ株式会社(以下 NTT Com)へ移管するとともに、ドコモ・システムズを吸収合併にてエヌ・ティ・ティ・コムウェア株式会社(以下 NTTコムウェア)と統合されたため、消滅会社となりました。

 

まとめ お互いを補完する5GとDaaS

ここまで述べてきましたが、5Gは世界標準な規格として、国内では2020年春からの商用利用に向けた準備が進んでいます。一方で、人材不足を背景にした“働き方改革の波”は5Gの商用利用開始とはまったく関係なく、やってきます。ですので、5GとDaaSの相性が良いとはいえ、「5Gを待って…」などという必要はありません。もちろん、5Gの登場でDaaSの普及が加速することは間違いないでしょう。しかしながら、あなたの会社がDaaSの採用を検討するフェーズにあるのであれば、ある程度の将来を予測し、変化を考慮した弾力のあるシステムを選択するなどで、“まずはDaaSを使ってみる”のはいかがでしょうか?

もし「ある程度の将来を予測し、変化を考慮した弾力のあるシステム」が選択できないのであれば、その道の専門家に依頼するのも成功に導くコツかも知れません。

 

【執筆:編集Gp ハラダケンジ】

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