【情シス奮闘記】第11回 コールセンターシステムを刷新 「オムニチャネル」加速の基盤に 東京スター銀行

2017/01/24

2001年に創業した東京スター銀行。現在は個人金融部門、法人金融部門、金融市場部門の3部門で事業を展開する。

個人向け部門では定期預金「スターワン円定期預金プラス」をはじめ、預金連動型の住宅ローン「スターワン住宅ローン」などの金融商品を提供。法人向け部門や金融市場部門では資金調達や資金運用などを手がける。また、資産形成の情報とアドバイス提供に特化した店舗「ファイナンシャル・ラウンジ」を展開。ユニークな商品、サービスを提供し、銀行業界の中でも独自の存在感を示している。

一方で、東京スター銀行は店舗が首都圏を中心に全国で32店と多くはない。そこで重要となるのが店舗以外の顧客との接点だ。そのために同行ではテレホンバンキング、インターネットバンキングなどの顧客接点(チャネル)を広げる「オムニチャネル戦略」に取り組んでいる。

東京スター銀行 犬山史・個人金融部門 個人企画部 個人システム企画 ヴァイスプレジデント

東京スター銀行 犬山史・個人金融部門 個人企画部 個人システム企画 ヴァイスプレジデント

その戦略の核となるのがコールセンターだ。しかし、これまではコールセンターとデータベース(DB)を含む顧客情報管理(CRM)が上手く機能しておらず、満足な成果を得ているとはいい難かった。そこで、同行ではコールセンターシステムとCRMシステムの一元化に着手した。その狙いや導入の苦労などについて、プロジェクトの推進役を務めた犬山史・個人金融部門 個人企画部 個人システム企画 ヴァイスプレジデントに聞いた。(取材・文:大竹利実、ジョーシス編集部)


データベースの分断で顧客満足度が低下

東京スター銀行の顧客は、一般的な預金サービス利用などではなく、同行に対し資産運用の相談を考えている人が中心だ。そのため、顧客が最初に相談する窓口としてコールセンターは「重要な位置を占める部門」(犬山ヴァイスプレジデント)になっている。なぜなら、ここで得た相談内容などの情報を共有し、いかに早く対応するかが、既存客に対してはサービスの満足度、新規客は同行を利用するきっかけにつながるからだ。

しかし、同行のコールセンターシステムには課題があった。コールセンターのシステムがCRMのデータベース(DB)と一部しか連携していなかったのだ。そのため、担当者は顧客とのすべてのやり取りを把握するには、電話番号などから離れた場所にある端末でCRMのDBを検索し、顧客情報を持って自席に戻ってから対応をしなければならなかった。

課題という点ではDBも同様だった。まずコールセンターシステムは、「口座開設受付」「資料請求受付」「テレホンバンキング」といったインバウンド系と「資産運用相談」といったアウトバウンド系にDBが分かれていた。

そのほかに銀行全体で保有しているCRMの顧客DB、インターネットバンキングの顧客DBが存在。さらに、コールセンターではシステムを導入した当初にはなかった追加業務が発生しており、そのためにマイクロソフトのアクセスやエクセルで独自にDBが作られていた。そして「それぞれがバラバラに稼働して、まったく連携されていなかった」(同)という。

システムの連携がなく、複数のDBが存在していたことは、顧客サービスに影響した。例えば、新規客がコールセンターである程度質問をしてから店舗に行くことは少なくない。しかし、コールセンターでのやりとりが店舗と共有されていないことで店頭で情報の食い違いが生じることがあった。犬山ヴァイスプレジデントは「データベースが複数あり、連携していないことで顧客満足度が低下していた。新規顧客の囲い込みもしづらいといった弊害が生じていた」と振り返る。

このままでは、目標とするオムニチャネル戦略が停滞しかねない――。こうした危機感から東京スター銀行ではコールセンターとCRMのDBと連動させるシステムの一本化に乗り出した。

拡張性と堅牢性を重視したシステムを模索

東京スター銀行では2014年春からコールセンターシステム刷新の検討を開始。11月にプロジェクトをスタートさせた。これには当時稼働していたシステムの更新時期を迎えていたことも一因にあった。

プロジェクトは当初、犬山ヴァイスプレジデントをはじめとする3名で開始。最終的にメンバーは開発やCRM担当など10名までになった。犬山ヴァイスプレジデントはプロジェクトマネージャー(PM)としてシステム刷新の計画を推進した。

プロジェクトでは「すべてのチャネルのコンタクト履歴がリアルタイムで可視化できるシステム」をゴールに置いた。また、銀行本体のCRMがマイクロソフトの「Dynamics CRM」がベースになっていたため、このCRMとコールセンターシステムがリアルタイムで連携ができるDBが条件になった。

同時に新システムには「拡張性」と「堅牢性」を求めた。拡張性は複数の顧客接点を持つオムニチャネル戦略にはWebなどと連携できる機能が不可欠と考えたためだ。一方、堅牢性については、電話がコミュニケーション手段となるコールセンターではどのような障害が発生しても電話が最後までつながることが最重要と見ていたことが理由にある。

「例えば、テレホンバンキングの場合、振り込みの途中で回線が切断すると振込処理が実行されたのか分からなくなってしまう。このような事故が発生した場合、顧客からの信頼性が著しく低下してしまうため、銀行にとって電話回線は瞬断でもあってはいけない。だからシステムの堅牢性は何よりも大事だった」と、犬山ヴァイスプレジデントは説明する。

こうして犬山ヴァイスプレジデントをはじめとするメンバーは製品をはじめ、業界動向や予算、実際に使用する現場からの意見の吸い上げを行いながら、新システムについて検討を重ねていった。検討段階では、ほかの業種も含め多くのセンターを実際に見学し、インフラや運用ノウハウも学んだ。そして、3社のベンダーに絞り込んだ。

検討の結果、選んだのは米アバイア(カリフォルニア州)のシステムだった。決め手となったのは「CRMの機能や堅牢性はもちろんだが、音声を主にした拡張性の高さが大きかった」(同)という。

一方で、導入にあたっては関連部署との調整に苦労したという。東京スター銀行では顧客接点で大きな位置を占めるコールセンターシステムには大小さまざまな部署が関わっている。そのため、それぞれの部署でシステムに対して要望があった。「そうした部署の思いをくみ取り可能な限り仕様化し、関係部署に『要望はこういう内容ですよね』と業務要件をしっかり固めていくのが大変だった」と、犬山ヴァイスプレジデントは話す。

やり直しきないデータ移行 3回のリハーサルを実行

新システム決定後、犬山ヴァイスプレジデントらのメンバーには導入に向けて大きな難所が待ち構えていた。それがデータ移行作業だった。

実はプロジェクトでは「2016年1月の3連休に新システムの稼働」を掲げていた。犬山ヴァイスプレジデントたちはデータの移行作業には2~3日が必要と算定。一方で、作業の間はコールセンター業務を止める必要があった。そこで、影響が少ない3連休でのデータ移行を計画し、1月の稼働開始を設定した。

ただ、年間で見ると三連休は数少ない上、その中でも大きな影響が出ない休日のタイミングは数えるほどしかない。そのため「計画通りに進めるにはデータの移行はやり直しがきかない作業」(同)となった。そこで2015年に3~4か月をかけて移行シナリオを策定。2016年1月の稼働を目指し、2015年内に3回の移行リハーサルを実施することにした。

具体的には、第1回目のリハーサルは散在していたデータの項目をそろえ、そのデータが移行時に確実に新しいDBに入るかなどをテーマに行った。2回目は1回目で浮かび上がった課題などがあれば、それを重点ポイントとしてリハーサルを行った。そして、3回目では2回目の内容を整理して最終的なシナリオを設定。本番に準じたリハーサルを行った。

「当行のコールセンターシステムの規模感なら2回の移行リハーサルで、よかったのかもしれない。しかし、分散して異なるDBの一本化するには慎重に慎重を期したほうがいいと考えて、入念に移行リハーサルを実行した」と、犬山ヴァイスプレジデントは3回のリハーサルに踏み切った理由をこう話す。そして、リハーサルを入念に行ったことで、移行作業はスムーズに進み、新システムは予定通り2016年1月に稼働することができた。

 

新システムで「O to O」コミュニケーションとオムニチャネル戦略を加速

新システム導入により、東京スター銀行では課題だった顧客対応の履歴をリアルタイムで共有できるようになった。それに伴いチャネルを横断した対応も可能になった。また、顧客の属性に応じて、最適なオペレーターやサービスセンターに振り分ける連係体制も構築できた。

新しいコールセンターシステムのイメージ画面

新しいコールセンターシステムのイメージ画面

コールセンターのオペレーターの業務効率化にも効果があった。旧システムでは顧客から電話を受けた時にコンピューターには複数の画面が立ち上がっていたため、オペレーターは対応に時間がかかっていた。しかし、新システムでは単一画面になったため、検索時間や処理時間が大幅に改善。オペレーターの対応スピードが上がり、顧客の待ち時間の削減につながった。このことは満足度の向上にも貢献した。

さらに「当行ではコールセンターでニーズ喚起して店舗に来店して契約まで至ることを『送客』と呼んでいるが、システムを刷新してから、この送客数が20%アップした」(犬山ヴァイスプレジデント)という。

東京スター銀行では新しいコールセンターシステムを活用し、「O to O」(オーツーオー、ネットからリアル店舗などへの行動を促したり、店舗などからネットへの集客につなげたりする施策)のコミュニケーションを目指している。

その実現に向け、電話だけのコミュニケーションではなく、電話の会話中に必要に応じてWebやSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)などにつなぐ、逆にSNSなどからの問い合わせを電話に切り替えるといった施策を考えており、サービスの付加価値を高めていきたい考えだ。「お客様のサービスニーズをいち早く察知し、チャネルを意識することなくサービスを提供するオムニチャネル戦略を加速させていく」と、犬山ヴァイスプレジデントは意欲を燃やしている。

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