【情シス奮闘記】第6回 地方自治体でいち早く仮想化導入 業務システムの情報共有基盤を刷新 横浜市

  • 2016/12/2
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2016/12/02

神奈川県の県庁所在地である横浜市は、370万人以上の人口を抱えた日本最大の政令指定都市だ。その人口数ゆえに行政の住民サービス業務が、システムの情報処理量の多さにもつながっている。

横浜市では、行政サービスのシステムでデータ連携のために情報共有基盤を構築している。しかし、その基盤は増え続けるデータ処理に対応するためのサーバー台数が増加。コスト上昇が余儀なくされていたほか、ストレージに対する負荷も高まっていた。

横浜市 総務局 しごと改革室 住民情報システム課 豊田訓久担当係長(左)と同課の高岡隆守氏

横浜市 総務局 しごと改革室 住民情報システム課 豊田訓久担当係長(左)と同課の高岡隆守氏

そこで横浜市では仮想化技術を活用し拡張性の高いシステムを目指し情報共有基盤の刷新を行った。行政サービスのシステムで仮想化を導入する地方自治体は珍しい。システム導入の経緯と導入後の効果などについて、総務局 しごと改革室 住民情報システム課 豊田訓久担当係長に聞いた。(取材・文:大竹利実)

増え続けるデータ処理で情報共有基盤の負荷が増大

横浜市では行政サービスを住民情報や税務、国民健康保険、年金などを扱う基幹系業務と、障害福祉や母子保健、介護、生活保護などを扱う福祉系業務に分けてシステムを運用。福祉系業務システムをはじめ、各種の行政サービスシステムは基幹系業務システムのデータを参照する必要があり、その連係を行うために情報共有基盤を導入している。

しかし、最近では国から地方自治体に移管される業務や追加される新規業務が発生したことで福祉系業務の扱いが増加。それに伴い処理するデータも増え、約80台の物理サーバーと、その物理サーバーが共有しているストレージとで構成する情報共有基盤の負荷が大きくなっていた。

そのため「ストレージの性能と可用性(システムが継続して稼働できる能力)を向上させる必要がある」と豊田担当係長は感じていたという。また、個々の業務システムはバラバラにスタートしており、更新時期にもばらつきがあった。そして「ベンダーもまちまちで、使われている技術もシステムにより異なるという問題もあった」(豊田担当係長)。

さらに「業務部門の職員は普段からシステムを使いこなしているわけではなく、システムを運用する部署でもない。システム運用は住民情報システム課に集中させた方が業務の効率化になる。また、システムを最適化し集約することでコスト削減につなげたい」(同)と考えたという。そこで、情報共有基盤の更改が迫っていたことを契機に、現行の課題を解決し、求めるシステムを構築するため刷新を決断した。

小刻みな拡張がしやすい仮想化技術に着目

横浜市では情報共有基盤を刷新するにあたり、譲れない条件があった。それは共有するストレージの拡張性だった。

横浜市ではストレージの拡張性を重視して情報共有基盤を刷新(写真は横浜市庁舎)

横浜市ではストレージの拡張性を重視して情報共有基盤を刷新(写真は横浜市庁舎)

一般にシステム構築ではサーバーは構築後に増やすことは容易だが、ストレージはすぐに拡張することができないため、最初から大きな容量を確保して構築する傾向にある。ただし、こうすると「リソースのムダができてしまう」(同)。また、横浜市では行政という立場から「過剰なコストをかけることはできない」(同)という事情もあった。

また、横浜市では情報共有基盤の刷新後、すぐに行政サービスのシステムをすべて移行する考えはなかった。そこで、「順々に拡張できる仕組みがある」ことを最重要視して新情報共有基盤のハードウェアの検討を行っていった。

検討の過程で注目したのが「仮想化」だった。「最初に大きな基盤を作るのではなく、見えている範囲で構築し、リソースが足りなくなったら順次増やしていける仕組みとして仮想化の技術が最適と考えた」(同)という。

仮想化で初期と運用コストを削減 業務効率化にもつながる

新しい情報共有基盤は2016年3月末から稼働を開始。稼働後は初期コストと運用コストともにメリットがあったという。

初期コストでは「ハードウェアの導入と保守費用が抑えられた」と豊田担当係長は話す。運用面では「情報共有基盤で運用する部分と、各業務セクションで運用する部分との線引きが明確になった」(同)。その結果「業務セクションの運用コストや運用時間を削減し効率化が図れた」(同)という。

システムの区分けが明確になったことで一部の業務システムが原因でシステム全体の処理が遅延することがなくなるという効果もあった。旧基盤ではシステムの処理の遅延で行政サービスの遅れが起きることもあったが、その不安を払拭することができたのだ。

仮想化を念頭に検討を続ける中で、出会ったのがニュータニックス(米・カリフォルニア州)の仮想化技術を使ったサーバーとストレージの統合システム基盤だった。スモールスタートが可能で、小刻みな拡張がしやすく、拡張した分だけ容量などを増やしたり性能を上げたりすることができるため、横浜市が新しい情報共有基盤に求めている要件に合致していた。

一方で、不安な点もあった。ニュータニックスの仮想化システムは、日本では行政システムで、まだほとんど使われていなかったからだ。行政サービスのシステムは決して不具合があってはならない。導入例がないシステムを入れることで、そのリスクも懸念された。しかし「日本での事例こそ少ないが、アメリカでは行政サービスに採用されている事例が存在していた。そこで、拡張性が高いというメリットを重視し採用した」と豊田担当係長は説明する。

こうして、2015年12月に導入が決定。2016年1月末頃から着手し、3月末には基盤全体の構築が完了した。

実は横浜市では新しい情報共有基盤の刷新でストレージに加え、ネットワークの仮想化も行っている。

背景には従来の情報共有基盤ではサーバーを段階的に導入していったため、ネットワーク機器の接続が複雑化していたことがある。その結果、ネットワークを見直したくとも容易に手を入れにくい状況になっていた。

そこで「ネットワーク仮想化で集約的に管理できるようにすることで、設定変更やシステムの保守も容易に対応できることを狙った」(同)という。ネットワークの仮想化では「こちらは国内でも実績があった」(同)というヴイエムウェア(米・カリフォルニア州)の仮想化ソフトウェアを選定した。「行政サービスのシステムでネットワークまで仮想化を導入した自治体は例がないのでは」と豊田担当係長は話す。

2017年度中に全福祉業務システムの移行を目指す

新しい情報共有基盤は稼働から半年以上が経過したが、現状ではマイナンバー制度の内部処理業務だけが移行し稼働している段階だ。

今後は「2017年度までに、福祉保健システム(生活保護、児童手当など)、介護システム、障害福祉システム、母子保健システム(乳幼児検診の案内、母子履歴の管理など)といった横浜市の福祉業務はすべて新情報共有基盤に移行することを考えている」(同)という。

一方、ホストコンピュータで運用している住民情報や税務、国民健康保険、年金などの基幹業務の移行は検討中だ。「例えば税務システムの場合、年に何度か非常に重いバッチ処理が発生する。そのため『情報共有基盤と一緒にしても大丈夫か?』といった議論をしているところだ」と豊田担当係長は言う。

「処理能力向上」と「コスト」を念頭に新たな仕組みを大胆に取り入れ情報共有基盤を刷新した横浜市。構築した基盤への行政サービスのシステム移行はこれからが本番を迎える。「新しい基盤にシステムが乗っても止まらないようにしなければならない」と豊田担当係長は気を引き締めている。

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