松田軽太の「一人情シスのすゝめ」#21:システム内製化は言うほど簡単じゃない!?
松田軽太の「一人情シスのすゝめ」、タイトルだけ見ると情シス不要のように思われるかも知れませんが、思いはまったくの”逆”。様々な事情によりやむなく”一人きりのボッチ情シスや専任情シス不在”という状況になってしまっても頑張っていらっしゃる皆様のお役に立つような記事をお届けしたいと思っております。
突然ですが、皆様の会社でもDX(Digital Transformation)はブームになっていますか?
「これからの事業はデジタル技術が重要になる!」という認識が経営者に広まり、ちょっとしたDXブームになっているのではないでしょうか。
これらを達成することを目的にした際、「激しい変化に対応するためにはシステム構築をタイムリーに開発する必要がある」ということでシステム内製化の必要性も高まりました。
だが、しかし!!
「それってそう簡単にはいかないのでは?」と思ったことが、今日のテーマのきっかけです。
今回は、「システム内製化は言うほど簡単じゃない!」というお話です。
この記事の目次
システム内製化をするには、組織変革が必要!?
「風が吹けば桶屋が儲かる」ではありませんが、DXブームでシステム内製化が流行るというのはなぜでしょうか。
でもその前に!! まず考えてみてください。今までITベンダーに丸投げしていた会社の情シス部門が「これからは(システムは)内製化だ!」と経営陣から指示されたからといって、すぐに内製化なんかできないと思うのです。
そんな思いもあってこんなことをつぶやいてみたのが、今回のきかっけでした。
DXブームでシステム内製化が流行ると「ノーコード・ローコード開発なら誰でもアプリを作れるんでしょ」という誤解をしてしまうような気がする。
かつてRPAブームの時、事務員がむりやりフローやらシナリオを作らされた挙げ句、結局、使いこなせなかった。
また同じ轍を踏むのかなぁ〜。
— 松田軽太 5550 (@matudakta) October 23, 2021
システム内製化をするには、組織変革が必要!?
「内製化に取り組む大手企業の事例」がメディアで取り上げられていましたので、ご紹介しておきます。
エディオン:2018年から内製化を本格化。システム子会社を本体システム部門に転籍させて内製化できる体制を整える
https://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/2108/20/news001.htmlカインズ:2019年1月にデジタル部門を新設し、約10人だったデジタル担当をグループ企業からの異動や中途採用で100人にまで拡大した
https://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/2010/20/news042.html
グロービズ:2016年からエンジニアの採用を始め、2021年にはエンジニア80人体制に
https://japan.zdnet.com/article/35168103/
セブン&アイホールディングス:2019年10月にエンジニア専門チームを立ち上げ、2021年6月までに160人のIT/DX人材を採
https://active.nikkeibp.co.jp/atcl/act/19/00313/082300004/ファーストリテイリング:2014年にデジタル戦略強化の方針を打ち出す。最高2000万円の年収を打ち出し、優秀な人材の獲得を進める
https://type.jp/et/feature/9623/星野リゾート:2018年から内製化に舵を切り2017年には10人だった情報システム部門を2021年には45人にまで拡大
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/nc/18/062900238/062900001/
良品計画:2021年9月に「EC・デジタルサービス部」を新設し、エンジニアを100人規模で募集する
https://atmarkit.itmedia.co.jp/ait/articles/1604/21/news026.html
さすがに大手。準備万端といったところでしょうか。コロナ禍を背景にしたテレワークの実施、求められるDXと企業システムに求められる内容はこの2年で大きく変化しています。
従来、情報システムはコストセンターだったこともあり、積極的な人材採用を行ってこなかったこともその一因ではありますが、業界をあげてこのような大きな変化が予測できなかったことにも問題があるでしょう。
上記のように大手企業のシステム内製化の事例を見ると、今まで社内には情報技術に詳しい人材が少なかったので新たに社外から大量の人材を募集しています。
この動きが示しているように「これからの変化が激しいビジネスに対応するには、システム開発も俊敏に行う必要がある。だから内製化しろ!」と命令するだけでは、システム内製化なんて到底無理であることが分かるのではないでしょうか。
まず!今現在の情報システムの仕事内容を確認してみる
そうは言っても「そりゃ、大手と比べると数は少ないかもしれないが我が社にも情報システム部門がある。彼らに内製させればいいではないのか?」と首を傾げる経営者も居るかもしれません。
では、現有戦力である情報システム部門がどんな作業内容なのか、具体的に理解されているのでしょうか?
実際のところ、多くの会社の情報システム部門はITベンダーにシステム開発を依頼していて、実際に自分でシステム構築をしたことがないのではないでしょうか?
こんな事例もあります。
超高速開発で「内製」強化 200の乱立EUC、刷新へ種まき
https://xtech.nikkei.com/it/atcl/ncd/14/526875/101900124/乱立した経緯を紐解くと、システム部門が基幹系システムの外部委託を過去30年にわたって進めてきたことが分かった。
その結果、システム部門は開発力を失い、利用部門の開発要請に機敏に応えられなくなっていた。利用部門から「この業務をシステム化できないか」「この事業アイデアをITでどう実現するか」といった相談を受けても、外部委託に慣れたシステム部は費用や実現可能性をタイムリーに答えられない。
利用部門は「システム部門には頼れない。自分たちでやるしかない」と考え、EUCが進んだようだ。
これは、特殊な事例ではなくて、こういう実情の情報システム部門が多いと思うのです。
先にも述べましたが「情報システム部門は利益を生み出すことのないコストセンターだ」と揶揄されることがあります。そのためバブル崩壊に端を発する経済低迷の「失われた30年」の間に、情報システム部門は縮小の一途を辿っていきました。
その結果、「ひとりで情シスを担う」というワンオペ情シスが増えてしまい、既存システムのお守りと「パソコン壊れた!」みたいな問い合わせのヘルプデスクで手一杯になってしまったのです。
過去に実施した「情シス一斉調査2019」でも、全従業員に対するシステム部門の人数割合は平均1%という結果でした。
これは従業員100人だったら1人。1000人だったら10人です。
そんな状態の中で「これからはシステム内製化だ」と言われて、手が廻るとは考えにくいでしょう。外部協力会社に丸投げではなく、メンバーとしてプロマネするようなことができれば話は違うのかもしれませんが。
もし「え!? 情報システムってそんな状態なの?」と感じたのであれば、一度、情報システム部門のスタッフに実情を聞いてみると良いでしょう。
ローコード開発は人手不足を解消する救世主になるのか?
大手企業であれば「年収2000万円で募集」のような荒技を使い、スーパーな人材を登用できるかもしれませんが、果たして中小企業ではどうでしょう?
とくに創業から数十年経っているとような老舗企業であれば、他の部門との給与バランスが崩れるので、なかなかそんな例外規定を実現するのは難しいのが現実でしょう。
そうなると人手が確保できないなら、開発時間を短縮するしかないという話になります。
そのような事情もあり、現在、脚光を浴びているのが「ローコード開発ツール」です。
しかしローコード開発といっても、これもそう単純ではありません。
まったくシステム開発をしたことがない人が「さぁ、ローコード開発でバリバリ開発するぞ!」と意気込んでみたとして複雑な業務システムを作れるかというと、そんなことはないのです。
「効率よく作れる」と「誰でも作れる」はまったく違うことなのです。
例えばローコード開発の代名詞となっているkintoneはどうでしょうか?
ツイッターでもこんな現場の声が挙がっています。
弊社でもkintone導入して「誰でも」アプリが作れる状態になってますが、データベースやいろんなことしっかり理解してから作らないと「やりたいことはわかるけどその構造では勿体ない」ってのができてしまいますね。
しかも本人はそれで満足してたりして。できてないことが何か知らないといけないのに。
そうです、業務システムを作るには最低限、データベースの知識が必要になるのです。
では、どういう状態であればローコード開発が効果を発揮するのでしょうか?
そのヒントを以下の記事の中に見つけました。
ローコードはITプロフェッショナルを幸せにするのか?――FileMakerエンジニアに学ぶ、ローコード開発の本質
https://codezine.jp/article/detail/14843ローコード開発の本質は、高い技術力と経験を持ったITプロフェッショナルが、ローコード開発ツールを活用することで、その力をより効率的に発揮し、ひとりでも多くのユーザに喜ばれるソフトウェアを高速に構築することが可能なことです。
また、従来のソフトウェア開発と比較して、より低い学習コストで高度なソフトウェア開発を高速に開発できるようになったことから、これまでにはない新しいビジネスモデルでの事業も可能となります。
つまりデータベースの知識や業務システム構築の経験があるような基本的な知識・経験を持っている人が使うと効果絶大だということです。
その他にも伊勢神宮の参道で食堂営んでいる「ゑびや大食堂」がITツールを自社開発しDXを推進していることは有名なところです。
ゑびや大食堂は大企業なのかというとそうではありません。資本金500万円、従業員数50人という会社です。
つまりやる気があって人材があれば、システム内製化は可能なのです。
(もちろん、EBI LABにかかわった人材が優秀であったことは間違いがありませんが)
システム内製化を実現するには経営側の意識改革が必要
これまでの事例を見ても分かるように、今までシステム内製化をしていなかった会社がDXブームに乗るように、いきなり「システム内製化だ!」と意気込んだところで、途中で頓挫するのは火を見るよりも明らかでしょう。
社外から優秀な人材を獲得すれば実現できるものでもありません。システムを使う側も社内で育成する必要があります。
もし、これからDXを行うための人材を社内で育成するには、それ相当の教育投資が必要ですし、DXをけん引できる優秀なIT人材を外部から獲得するには給与や労働環境の待遇改善も必要となるでしょう。
またDXによって既存の業務を変革する必要があるなら、トップダウンで改革を指示しなければ、現業を維持したい人々に抵抗されてしまうに決まってます。
これらのことからわかるように、単純に内製化しやすいからと言ってローコード開発ツールを導入すれば開発するという話ではないのです。
「システム内製化」というのは企業文化まで改革する大きな話であり、そう簡単には実現できないのが実情なのです。
また、DXを実現しようとすると現業を維持したい人々、ちょっと古い表現だと「抵抗勢力」という人々が必ず存在します。
そのような場合、社内だけでDXを行うと遅々として進まないといったことも発生し、本来目指すべき着地点から大きく外れてしまうことなどもあります。
DXの取り組みが硬直してしまうような場合は、外部(ITコンサルティングなど)の力を借りることも一つの手であることは覚えておいてください。
※本記事は松田軽太様許諾の元、「松田軽太のブロぐる」の記事をベースに再編集しております。
松田軽太(まつだ・けいた)
とある企業に勤務する現役情シス。会社の中では「何をしているのかナゾな職場」でもある情シス業務についてのTipsや基礎知識などを紹介する。
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