松田軽太の「一人情シスのすゝめ」#15:デジタル庁はIT版巨災対になれるのか?

松田軽太の「ひとり情シスのすゝめ」、タイトルだけ見るとひとり情シスを推奨しているように思われるかも知れませんが、思いはまったくの”逆”。様々な事情によりやむなく”ひとり情シス/ゼロ情シス”という状況になってしまっても頑張っていらっしゃる皆様のお役に立つような記事をお届けしたいと思っております。

日経コンピュータ 2020年10月29日号に掲載された『デジタル敗戦からの復興 新政権はコロナ禍の教訓を生かせるか』という、特集記事はとても興味深い見出しでした。
デジタル敗戦・・・なんともセンセーショナルな見出しではないでしょうか。
現代はソフトウェアファーストな社会です。そんな世の中ではあながち「敗戦」という言葉で語られるのも大袈裟ではないのかもしれません。

ということで、本号はデジタル改革相の平井卓也氏のインタビューから始まります。

なぜ日本はコロナ禍の中でデジタル敗戦となったのか?

日本政府は2001年に『e-Japan戦略』2013年に『世界最先端IT国家創造宣言』を掲げていたので、決してIT技術を無視していたワケではないと思います。
それにも関わらず、今回のコロナ禍での感染症対策や行政支援では、ことごとく期待された機能を発揮できませんでした。

日本は光ファイバー網などの通信インフラは諸外国と比べても素晴らしい状態です。しかし足回りは良くても、それだけでは効果を発揮できません。
(元々はNTTに影響を受けて構想された米国のスーパー情報ハイウェイ構想が逆輸入された形で日本ではFTTHが推進された)

発想が供給側目線になっていた

『せっかく作ったシステムが思った以上に使われなかった』という話は情シス界隈では、よくされる話ですね。それらの理由の多くは、使う側への配慮が少なかったからではないでしょうか。
商品企画でいうところのプロダクト・アウトとマーケット・インでも似ているかと思います。

例えば、『デジタル技術で縦割り行政を打破する!』と言いますが、サービスを提供される国民からすれば、そんなのどうでもよいことです。「縦割り行政の課題」はサービスを提供する側の問題であるからです。
しかし、サービス提供側の課題にスポットライトが当たる時点で、それだけ根が深い問題と言えるでしょう。

 

行政システムも2025年の崖にハマっている!?

政府のIT予算は年間約7000億円です。その内訳は新規システム開発に3000億円、既存システムの保守に4000億円という配分です。
実に年間予算の半分以上が保守費用で食われているのです。
(正直、もうちょっとレガシーシステムのお守りで食われているかと思ったのですが、こんな程度で収まっていたことにも驚きましたが)

これも2025年の崖で指摘されている課題ですね。
民間企業だけではなく、行政システムもまさに2025年の崖問題に対峙しなければならないのです。

 

デジタル庁が自らITシステムを調達する

このような状況を踏まえ、保守費用に予算を食われる状況を打破するためにアーキテクチャから見なすそうです。
それまでの体質が縦割り行政だったのなら、全体最適化は考慮されずに個別のシステムがサイロ化してしまうでしょう。

しかし、すでに運用されているそれらのバラバラなシステムを統合するのは、かなり大変、骨の折れる作業であることは情シスの皆様ならお分かりになるのではないでしょうか。(みずほ銀行のシステム統合などをみてもその苦労は想像できるのではないでしょうか)

いっそのこと何もないところに新しいシステムを導入する方が難易度が低いのかもしれません。
そのためにデジタル庁を中心に業務プロセスの変革を推し進めると言います。

そう、皆さんも苦労しながら進めているBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)です。
そして、それを進めるために平井大臣は河野大臣と週1で打ち合わせしてるのだとか。

脱ハンコなどのスピード感が異様に早く感じるのは、こういうことを行ってるからなのですね。

 

国民の接点となるUI、UXの向上を重視

今回は「今までこうだったから」という前例主義から脱却し、あるべきシステム像を描いてそれを実現すると言います。
そして行政サービスを受ける国民の接点となるUI、UXを重視するというのです。

まさかUIだのUXだのという言葉が出てくるとは、以前のITとは縁のなかったIT大臣たちとは大違いの発言に驚きました。

 

IT版”巨災対”の活躍は期待しかない

縦割り行政の頃は、個別システムをITベンダーに外注していました。その結果、相互に連携できないサイロ化したシステムが乱立したのです。
まぁ、これは何も行政だけじゃなくて民間企業だって似たような状況ですよね。
それらの問題を解決するために、自らシステムを発注する能力を持てる人材を育成するとのこと。

2020年9月に各省庁から若手を50人集めて『デジタル改革関連法案準備室』ができたのです。

菅首相は出身省庁のことは気にせずやって欲しいと訓示をしたと言います。
これってシン・ゴジラの”巨災対”ですよね。

日経ビジネスにおいて「「シン・ゴジラ」、私はこう読む」という企画があり、その中ので経営コンサルティング会社A.T.カーニー日本法人の梅澤高明会長がとても興味深いコメントをされていたことを覚えています。

「省庁間の消極的権限争い」というキーワードも象徴的でしょう。
ゴジラという巨大不明生物が東京を襲うという未曾有の有事の中で、誰もが責任を取りたくないから押し付け合う。
そんな様子をうまく言い表しています。形式主義であったり、前例主義であったり。そういった部分がしっかりと描かれている。

ただ、私が注目したのはこうした前半のダメな部分のリアリティ以上に、後半の巨災対のあり方についてです。

「巨大不明生物特設災害対策本部」、通称「巨災対」。

これが組織されて以降は、危機対応における極めて理想的なオペレーションが展開されていきます。

引用元:日経ビジネス

既存システムはゴジラ級の脅威ということなのでしょうか。

 

アジャイルガバメントが生まれるか?

デジタル化のプロセスを透明化し、国民目線で試行錯誤を繰り返して、システムを作り上げていく。
これってまさにアジャイル開発ですね。

このインタビューで見られた言葉だけでも、今までのIT大臣とは雲泥の差だし、よくここまでITに明るい人が議員の中に居るのも奇跡的です。

デジタル庁の活躍には期待しかありません。

 

 

※本記事は松田軽太氏許諾の元、「松田軽太のブロぐる」の記事をベースに再編集しております。


松田軽太(まつだ・けいた)

とある企業に勤務する現役情シス。会社の中では「何をしているのかナゾな職場」でもある情シス業務についてのTipsや基礎知識などを紹介する。

ブログ『松田軽太のブロぐる』を運営。

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