従来からのビジネスを変える「CIOと情シス」
「攻めの情シス」が求められるとともに、昨今専任CIOの存在感が高まりを見せています。一方、日本においては、専任ばかりかCIO設置率も外国に比べて低いのが現状。IT活用がビジネスの当たり前になった現在、そしてより戦略的なIT活用が求められることを考えれば、今、CIOと情シスの姿を見直すべき時代に突入しているといっても過言ではないでしょう。
この記事の目次
【CIO】設置率はまだまだ低い
社の成長戦略に必要、というより、もはや必須となったITの活用。今後を見据えてもIT戦略の重要度は増すばかりです。
しかし・・・、経営メンバーのひとりとして、IT戦略を立案し経営トップに提案。また、ITツールの選定・見直しによる業務効率化、ITリソースの最適化などの指揮を取り、トップダウンで実行するはずの最高情報責任者CIO(Chief information Ofiicer)は少ない気がする。
経済産業省の「平成29年情報処理実態調査」を見てみると、調査対象企業の49.5%が「CIOまたはIT担当役員不在」で、「兼任している役員がいる」は42.1%。対して、「専任の役員がいる」は6.5%で、「いるが役員ではない」が1.9%という結果。
<参考:http://www.meti.go.jp/statistics/zyo/zyouhou/result-2/pdf/H29_report.pdf>
総務省の「平成30年版 情報通信白書」では、CIO設置率は11.2%。対して、アメリカは36.2%、イギリスは44.4%、ドイツは設置35.6%。やはり海外と比べても少ないようです。
<参考:http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/pdf/30honpen.pdf>
<出典:http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/pdf/30honpen.pdf>
【そもそも】CIOがパフォーマンスを発揮できない企業風土なのか
近年、CIOの必要性が盛んに叫ばれていますが、日本にCIOという概念が初めて入ってきたのは1990年代。当時も、大きな注目を集め設置の気運が高まったといいます。しかしITの役割は戦略よりも、業務効率化とコスト削減と考えていた企業が多かったからなのか、浸透には至らなかったそうです。そこから、およそ20年を経た近年、ふたたび注目を集めるにようになりました。
国内のCIO設置率は先に述べた通りですが、もうひとつ知っておくべき事実があります。それは、「兼任が多い」ということ。本場アメリカでは、CIOは、CEOやCFOに並ぶ権限を持つポストと位置付けられていて、社外から優秀な人材を招くのが一般的。一方、日本では専任や社外からの招聘ではなく、財務・総務を担当する役員の兼任が多いそうです。これが、なにを意味するかといえば、日本のCIOは、必ずしも情報システムのスペシャリストではないということ。つまり、その結果、IT戦略の推進は情シスに委ねられるということです。
しかし、情シスだけでIT戦略の実行と全体最適の実現は至難の技です。なぜなら、自社の業務をすべて把握できる環境にいるわけではなし、事業部門に率先して改革を促せる立場でもない。そうなると、結果は出にくい。出ないと、当然ITの効果を会社が感じられない。そうして、CIOの重要度や必要性の認知が進まない。ここ20年で微増という専任CIOの少なさは、もしかすれば、このようなサイクルが足かせとなっているのかもしれません。
【しかし】ITはビジネスを、働き方を確実に変化させる
しかし、すさまじいスピードで変化を見せる現代において、企業が生き抜くためには、経営とITに長けたCIOの存在は必要不可欠です。
たとえば、CIOの存在が大きく発揮されるのが、あらたなIT導入について。近年話題を集める業務ツールに「RPA」があります。勤怠管理にはじまり、請求書の作成、新システムへのデータ移行など、これまで人が行ってきた定型業務を、機械学習やAI、ルールエンジンなどのテクノロジーを基盤にしたツールが代替してくれる。業務品質の向上とスピードアップをもたらし、さらに労力の削減と、ヒューマンエラーも防いでくれます。
このRPAをうまく活用すれば、人は従来の定型業務から解放され、人間にしかできない、高付加価値かつ創造性のある業務に注力できるようになると、大きな期待が寄せられています。もしかしたら、うんざりするExcelへのデータ転記も永遠に不要になるかもしれません。
このように従来の業務、働き方そのものを根底から変化させる可能性をRPAは秘めています。
しかし、「スムーズに導入できるのか?」というと、事情は複雑。なぜなら、インパクトの大きいツールほど社員の反発が想定されるからです。もし、「導入による業務プロセスの変化により、現在の業務が失われてしまったら・・・」、そう考えれば誰でも不安を覚えるもの。そこを無下にして導入すれば、会社への不信感にもつながりかねません。
また、RPAの選定や利用環境に合わせた設定は情シスの仕事ですが、上記の不安を払拭し導入を進めることができるか、といえば、おそら難しいでしょう。また、あっちの部門はよくてもこっちはダメなど、事業部門の要望で進めたら、部分最適となり、RPAがいつの間にか野良化なんてことも考えられます。
こういったインシデントを発生させないのがCIOです。会社の意思として全社的なIT戦略を策定し、リーダーシップを取る。そうして、情シス、事業部門双方の理解を得ながら、それぞれの役割分担を明確にし、トップダウンで導入を進めていく。ユーザー/運用といった部門の溝を埋めつつ、全体最適をめざせるのは、経営にもITにも長けたCIO以外に存在しません。
【変わる】CIO時代に求められる情シスのマインド&スキル
今後、CIO不在の会社も兼任CIOの会社も、経営にITがかかわる割合が増えていくのは明らかです。結果、CIOの存在感は高まり続け、専任CIOのニーズも加速していくことでしょう。
さて、この時代に、情シスはどう動く必要があるのか?
それは、「経営へのコミット」です。それゆえ、CIOがそうであるようにIT戦略を企画できるスキルが求められます。従来のように、運用や保守の個別技術を磨くのではなく、他部門から独立するのではなく、システムやツールが活用される先、つまりビジネスを把握して、有用なITを模索・提案していくことこそが、これからの情シスの役割です。
今や、経営はひとつの「ITプロジェクト」といっても過言ではありません。ITはすでにビジネスの手足であり、そこから収集されるデータがKPIとなり、会社の目標と行動を決める。今後IoTやAIが浸透すれば、経営はITそのものになっていくかもしれません。
この巨大なITプロジェクトの計画や調整、管理をCIOの指揮のもと実行していく部隊。それこそ、情シスなのです。
【執筆:編集Gp 坂本 嶺】