使える! 情シス三段用語辞典121「PMBOK(Project Management Body of Knowledge)」

常に新しい用語が生まれてくる情報システム部門は、全ての用語を正しく理解するのも一苦労。ましてや他人に伝えるとなると更に難しくなります。『情シスNavi.』では数々のIT用語を三段階で説明します。

一段目 ITの知識がある人向けの説明
二段目 ITが苦手な経営者に理解してもらえる説明
三段目 小学生にもわかる説明

取り上げる用語を“知らない”と思った人は、小学生にもわかる説明から読んでみると、理解が深まるかもしれません!?

一段目 ITの知識がある人向け「PMBOK(Project Management Body of Knowledge)」の意味

社内の基幹システムを導入したり、既存のシステムを刷新するプロジェクトを遂行する立場の人は、プロジェクト成功率は気になるところでしょう。
日経コンピュータが実施した「ITプロジェクト実態調査2018」では、1,745件のシステム導入・刷新プロジェクトについて調査しています。
そのプロジェクトのうち、コスト・納期・満足度の3条件を満たすかを基準に成功・失敗を判断した際、成功という結果となったのは52.8%のプロジェクトでした。
逆に言うと約半数の47.2%のプロジェクトが「失敗」に終わったということになります。コスト・納期・満足度のすべてを満たしたプロジェクトは約半数という驚きの結果が浮き彫りになりました。約半分が不満たらたら出来の悪い社内システム使っているのかと思うとぞっとします。

失敗したプロジェクトについて失敗理由を分析すると、「要件定義の不備」が上位となっており、プロジェクト自体の計画があいまいで、達成したい目的や目標が不明確だったことが原因でした。


出典:日経コンピュータ、2018年3月1日号 プロジェクトの成否の割合

PMBOKとは?

このような問題は日本企業だけでなく諸外国企業でも同様に発生しており、システム導入・刷新プロジェクトを成功させるために、フレームワークに沿った体系的なプロジェクト管理(プロジェクトマネジメント)が重視されるようになりました。
PMBOKは「Project Management Body Of Knowledge」の略で、プロジェクト管理の参考・基準になる知識体系です。「ピンボック」と読みます。
これはプロジェクト管理をするうえで、知っておくべき手法や知識を体系的にまとめたものですが、後述するようにプロジェクトを10の知識エリア、5つのプロセス、3つのパートに分類して考えます。しかしながら、あくまでも考え方や心構えをまとめたものなので、指南書より参考書に近いと思っておくと良いかもしれません。

現在、「PMBOK」はプロジェクト管理に関するフレームワークの世界標準とされており、4年ごとに内容は改定されます。

PMBOKガイドとPMI

PMBOKガイドとは、PMBOKをまとめた文書を指します。全12章で構成されています。
但し、PMBOKのすべてがPMBOKガイドに記載されているわけではありません。PMBOKガイドには、PMBOKの中でも広く知られている内容が抽出して記載されています。
その為、単にPMBOKと呼ぶ場合は、プロジェクト管理において知っておくべき知識や手法を指します。

また、このPMBOKガイドを発行する機関が「PMI:Project Management Institute」になります。PMIは米国のNPOかつプロジェクト管理の研究を行う団体として1969年にアメリカで結成されました。
プロジェクト管理を研究する団体はPMIのほかにも存在しますが、PMIのPMBOKが世界標準として認められています。

PMBOKの目的

PMBOKの目的は、プロセス管理によりQCDを達成することにあります。Quality(品質)、Cost(費用)、Delivery(納期)を指す、プロジェクトで達成すべき3つのゴールです。従来はQCDのみを管理することでプロジェクトを進めていました。ところが、これではプロセスを管理できず、結果的に満足のいくQCDが達成できませんでした。そのため、プロセスの段階からきちんと管理しようという考えが広がりました。

このような背景により構築されたのが、プロジェクトをプロセスから管理するための知識をまとめたPMBOKになります。

知識管理体系:10個の知識エリア

「10個の知識エリア」では、プロジェクト管理に必要な知識を、10エリアに分割して定義しています。

  1. 統合マネジメント
    10個の知識エリア全体を管理します。プロジェクト全体の方向性を定めて、個別の目標やプロセスを調整しながら管理します。
  2. スコープマネジメント
    プロジェクトの成功に必要な成果物やタスクを定義し、作業範囲を決定します。
  3. スケジュールマネジメント
    プロジェクトのスケジュール作成や管理を行います。プロジェクトを計画通りに遂行・管理します。
  4. コストマネジメント
    プロジェクトの予算を設定したり、コスト管理をしたりします。
  5. 品質マネジメント
    プロジェクトの品質を管理します。プロジェクト活動自体の品質の他、プロジェクト活動によって発生した成果物の品質も対象にしています。
  6. 組織マネジメント
    組織のリソース状況を把握して、組織計画や要員計画を策定します。
  7. コミュニケーションマネジメント
    各ステークホルダー(利害関係者)との円滑なコミュニケーションを管理します。伝達だけでなく、関係者の理解を得るところまでをコミュニケーションとして扱っている点が特徴です。
  8. リスクマネジメント
    プロジェクト実行する上で発生するリスクを管理します。
  9. 調達マネジメント
    プロジェクトを遂行するために必要なサービスや製品の調達を管理します。調達先の選定や納品までの進捗管理も含みます。
  10. ステークホルダーマネジメント
    プロジェクトに関わる社内外のステークホルダーを管理します。各ステークホルダーが必要な情報の収集や情報共有を行います。

5つのプロセス

「5つのプロセス」は、プロジェクトの開始から終結までの流れを定義したものです。

  1. 立ち上げ(Initiating
    プロジェクトの開始前に、プロジェクトの目的や目標・予算・成果を定義します。
  2. 計画(Planning
    プロジェクトの目的や目標を達成するための作業計画を立案します。
  3. 実行(Executing
    立案した作業計画に基づいてプロジェクトを実行します。
  4. 監視・管理(Controlling
    実行中の作業について、計画と差異が発生していないかを常時チェックして是正します。
  5. 終結(Closing
    各作業の完了を確認し、プロジェクトやフェーズを終結させます。

3つのパート

各プロセスの各知識エリアに、以下の3つのパートがあると考えます。

  1. 入力
    設計書など
  2. ツールと技法
    入力パートをもとに成果物を作成
  3. 出力
    成果物

PMBOKはプロジェクト管理の“参考書”

各企業の個別案件がすべてPMBOKで解決できるとも限りません。それはPMBOKにも特徴があるからです。

  • 大規模プロジェクト向き
  • 具体的な方法は記載されていない
  • 複数のプロジェクト管理向きではない

参考書のようなものだと考え、利用できそうな部分だけ使うといった臨機応変さも必要になります。

 

二段目 ITが苦手な経営者向け

とある部品メーカーでの昼下がり。情シス課長の真根さんの元へ社長がやってきました。

社長:真根さん、真根さん。我社の創業当時から付き合いのあるABC金属工業の社長と話をしていて怖いこと聞いちゃって・・。ABC金属工業は、急速に売上を伸ばしたもので昨年、業務システムを導入したそうなんだ。
真根さん:ええ、噂には聞いています。生産管理から納品処理までの機能を揃えたシステムだとか・・。
社長:そうなんだ。でも、海外企業が取引先の場合、納品処理ができないらしい。
真根さん:ええっ!ABC金属工業さんが売上を伸ばしているのは、欧州向けの製品が好調だからだったような。
社長:うん。それで、システムの構築費用も、2,000万円の予定が最終的には3,000万円かかったそうだ。
真根さん:なんと!プロジェクトのQCD(品質・費用・納期)の管理に失敗してしまった悪例と言ってもよいですね。
社長:そうだな。品質・費用・納期の管理は重要だけど、なんかこう、プロジェクト管理のお手本にできるようなものはないのかなあ。基幹システムほど大規模じゃなくても、情シスでもたびたびシステムを新規導入したり刷新したりしているじゃない。
真根さん:それでしたら、プロジェクト管理に関するフレームワークとして世界標準と言われている、「PMBOK(Project Management Body of Knowledge)」がありますよ。
社長:ほお。
真根さん:PMBOKは「ピンボック」と読みますが、プロジェクトのQCD(品質・費用・納期)を管理するための教科書にあたります。プロジェクトマネジメントの知識を「10個の知識エリア」に分割してまとめていることと、プロセスの流れを「5つのプロセス」として定義しているのが特長です。
社長:へー。俺が我社を創業したときにもPMBOKがあったら良かったのになあ。プロジェクト管理の方法って、昔は我流だったから。

 

三段目 小学生向け

6年3組の20人が、卒業制作として大きな壁画を描こうとしています。

A君「絵を描くにはまず絵の具だよね。文房具屋さんで買ってこよう」
Bさん「せっかくの大作だから、超難しいデザインの絵にしちゃうもんね」

20人それぞれが自分の思い描く壁画のイメージを元に、作業に取り掛かりました。

C君「あれ、A君の買ってきた絵の具水性じゃない?雨が降ったら消えちゃうよ」
A君「おっと、そうだった。もう一度文房具屋さん行って油性の絵の具買ってこよう」

全員で一生懸命作業していますが、卒業式まであと3日。

Dさん「どうしよう。全然描き終わらないよ。下絵が細かすぎて塗るのにすごく時間がかかるし。」
E君「ぐあー。急いだら猫の部分がウサギっぽくなっちゃった。」
Fさん「あれ、まだ“6年3組卒業制作”のバッジも作らなくちゃいけないのに、お金があと100円しか残っていないよ。」
G君「そもそも、いつまでに、どんな絵を、いくらで作るかって、描きはじめる前に決めておくべきだったね。」

会社での仕事を行うために使うシステムを作ったり、変更したりするときにも6年3組の卒業制作で起こった問題と同じことが起きているのです。
このため、プロジェクトを管理するための基準としてまとめられたのが、「PMBOK(Project Management Body of Knowledge)」なのです。

学校でも教科書に沿って授業を行うように、会社の中のプロジェクトでも、教科書としてPMBOKを使うと、期日内に・良いものを・決められたお金で作ることができるということですね。

 

さて、皆様のご理解は深まったでしょうか?

 

【執筆:編集Gp コンドウマリ】

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