使える! 情シス三段用語辞典101「ローコード開発」
常に新しい用語が生まれてくる情報システム部門は、全ての用語を正しく理解するのも一苦労。ましてや他人に伝えるとなると更に難しくなります。『情シスNavi.』では数々のIT用語を三段階で説明します。
一段目 ITの知識がある人向けの説明
二段目 ITが苦手な経営者に理解してもらえる説明
三段目 小学生にもわかる説明
取り上げる用語を“知らない”と思った人は、小学生にもわかる説明から読んでみると、理解が深まるかもしれません!?
一段目 ITの知識がある人向け「ローコード開発」の意味
かつて、多くの社内業務は、いにしえより代々伝わるWordやExcelのフォーマットと、人々の間でこれまた脈々と伝えられてきたマニュアル手順を用いてこなされてきました。
「システム導入するほどの業務じゃない」「システム化は高いコストがかかる」「どういうベンダーに頼めばいいのかもわからない」、こうした言い分を持つ企業人たちが多くいる中、人海戦術による古くからの運用が続けられてきました。
しかし時代は2020年、AIやクラウドが活躍するデジタルトランスフォーメーション(DX)が世界中で進み、業務アプリ開発において新たな潮流が生まれています。それが「ローコード開発」です。
「ローコード開発」とは、GUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)による操作でプログラムを生成することができる、システム開発手法のことです。
昨今のクラウド時代になり、ソフトウェア開発もトライ&エラーをショートスパンで繰り返すことが求められます。実際、業務アプリケーションにおいても“ちょっと作ってみよう”ができると楽なことが多いのではないでしょうか?
従来システム開発では、要求仕様に対して必要な機能を一行一行コーディングして作り上げることが必要でした。データベースに1つのデータを入力するのですら、入力内容を受け付けてエラーとなる入力をはじいてデータベースコネクションを確立して……とたくさんのコードを書く必要がありました。
しかしながら、このローコード開発プラットフォーム上では、「データ入力フォーム」や「データベース入力」のような機能がすでに用意されており、開発者はそれを画面上でクリックしたり項目入力をするといった操作で開発していくことができるのです。
ローコード開発では、そうしたコンポーネントツールの配置による機能開発に加え、必要に応じてコーディングも併用してシステムを作り上げることができます。プラットフォームに用意されているコンポーネントで満足できなければ、他の部品をくっつけることができるので、自社要件に合ったシステムを効率的に作ることができます。
「ローコード開発」と似た用語で「ノーコード(またはノンコード)開発」という語もありますが、こちらはまったくプログラミングを伴わない開発手法のことで、コンポーネントに頼っているため実現できる機能に制限が出てしまいます。
ローコード開発のメリットは、迅速にシステム開発ができるということです。すでにできているコンポーネントをつなげて全体を作り上げるので、開発から検証までの工程にかかる時間を短くすることができます。
また、システム開発に必要な仕様管理スキルや設計スキルは必要ですが、熟練のプログラミングスキルがなくても開発ができるということも大きなメリットとなります。デジタルトランスフォーメーションが進みさまざまな企業が業務のIT化を行うようになると、システム開発を行う人材が不足してくることが予想されています。しかしながらこうしたローコード開発を使えば専門のシステムベンダーに頼らずとも機能開発ができるため、企業の情シスが自らシステム開発を行うことも可能となります。
ローコード開発プラットフォームは、例えばGoogle Cloud Platform(GCP)の「App Maker」、Microsoft「PowerApps」、住友電工情報システム「楽々FrameWork3」、OpenText「AppWorks」、キヤノンITソリューションズ「Web Performer」などがあります。GCPやMicrosoftのようにクラウドサービスとの連携が強化されているプラットフォームもあり、企業で既に使っているサービスに合わせて開発を行うことができます。
システム開発のハードルを下げたローコード開発ですが、実際に開発を行うにはコードは書けなくても、それなりにスキルが必要です。現在多くのハンズオンセミナーが開かれており、ローコード開発による高速開発への関心が高まっています。
二段目 ITが苦手な経営者向け
とある販売会社の社長、営業さんといっしょに顧客管理用のデータを見ながらため息をつきました。そこに情シスの六角さんが通りかかって……。
六角さん:「どうしたんですか?」
社長:「お得意さんが引っ越したっていうから、彼に顧客名簿を直してもらってたんだ。ちょっと見てたんだけど、顧客名簿を修正しても、他に営業用の管理簿にも同じ修正をしなくちゃならないんだって」
営業さん:「ついでにいえば、年賀状用の住所録も忘れずに変えないといけません」
社長:「もう全部まとめてできないの?」
六角さん:「今はデータが全部別管理になっていますからね。いっぺんに直すには、システム改修をしないといけないですね」
社長:「わかった、六角さん、ちょっと見積もりとってよ」
そして1週間後。
六角さん:「社長、ベンダーからの見積もり出ました」
社長:「え、こんなに高いの!? ちょこっと直したいだけなんだけどなあ」
六角さん:「ベンダーが言うには、データを一元的に管理するためには根本的にシステム統合する必要があるっていうんですよね。つまり、全部を作り直しってことです。やっつけ案としては、修正を個別に反映する後付けプログラムを作るという案で、その見積もりはこちらです」
社長:「うーん、これでもけっこう高いなあ」
六角さん:「まあ、やっつけ案ならローコード開発で僕でもできるかもしれませんけどね」
社長:「え? ローコード開発って何だい?」
六角さん:「ローコード開発って、プログラミング開発しなくても簡単なシステムが作れる機能があるんです。必要な機能がもう作ってあって、それを画面上で組み合わせてシステムを作れるっていうものです。うちで使っているクラウドサービスにもそういうローコード開発プラットフォームがついていまして。業務改善につなげたいと思って勉強を始めてて、先日セミナーにも行ってきたんです」
社長:「そうだったのか。で、どうだい、作れそうかな?」
六角さん:「ええまあ、ウチのシステムは把握してますしね。でも今回やっつけで作ったとしても今後いつかは、根本的にデータ統合されたシステムを作らなくちゃいけないとは思います」
社長:「うーん、それを六角さんが作れるようになったらいいなあ。勉強をがんばってください!」
三段目 小学生向け
お菓子が大好きなココちゃんは、エプロンを片手にお母さんに声をかけました。
「お菓子の家を作りたいから、台所かして!」
「いいよ。お菓子の家ができたら、お母さんにも一口食べさせてね」
「いいよ! 一口じゃなくていっぱい食べてね、すっごい大きいの作るから」
ココちゃんは自分が入れるくらい大きい本物のお菓子の家を作る気なのです。お母さんはびっくりして言いました。
「そんなに大きいの、自分で作れるの? それにいつまでかかるのかしら。」
「大丈夫! “大きなお菓子の家キット”を買ってきたの。もう屋根のチョコレートも壁のクッキーもできてて、あとはくっつけてデコるだけ。でも、えんとつをつけたいからそこだけは手作りのケーキを焼くよ」
ココちゃんはレシピを見ながらえんとつ用の四角いケーキを焼き、キットについていたクッキーやチョコレートを組み立てて、大きなお菓子の家を作ったのでした。
さて、本日のテーマ「ローコード開発」は、まさにこのお菓子の家キットのようなものなのです。ふつうは、お菓子の家を作るには小麦粉や卵から必要な大きさのクッキーを焼いたり、大きくチョコレートをつなげたり必要な形に切ったりといろいろな作業をしなければなりません。とても手間がかかりますよね。それに、お菓子作りの上手な人でないとできません。でも、キットの中にもうできている壁や屋根のパーツがあればそれを組み立てるだけなので簡単です。ふだんは食べる方専門のココちゃんでもできます。
これと同じで、システム開発もふつうはいろんな部品をプログラミングして作らなければなりません。部品ひとつひとつのプログラムを作ってさらに全体をくっつけるのにはとても手間がかかり、お金も時間もかかります。でも、もうできている部品を使えるのならもっと簡単につくることができます。ローコード開発は、こうしたシステム開発のための部品が集まっているものなのです。
ローコード開発は、料理上手でない人でも作りやすいお菓子キットのような、プログラムが得意でない人でも作りやすいシステム開発キットです。ローコード開発を利用して、今まで時間やお金がかかっていたシステム開発をより速く安くすることができるようになりました。また、これまではシステム開発は難しくて手間がかかるためその専門の会社でしかできなかったのですが、ローコード開発を使えば画面をポチポチしてささっとシステム開発が行えるので、専門の会社でなくてもシステム開発ができる人が増えることが期待されています。
さて、皆様のご理解は深まったでしょうか?
【執筆:編集Gp 星野 美緒】