情シスとデジタルトランスフォーメーション(DX)の関係【前編】

「デジタルトランスフォーメーション(DX)」と呼ばれる“革命”の時代が来ています。社会構造にも影響を及ぼすであろうDXの形と具体的な進め方、そして情シスが知っておくべきDXの側面とは?情シスとDXの関係について解説する前編です。

デジタルトランスフォーメーション(DX)とは

一般紙の一面を飾るまでには至っていませんが、さまざまなところで目にするようになった「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉。情シスの皆さんは興味半分義務半分で受け止めているのではないでしょうか?「DXは情シスの仕事に関係あるな」という予感があっても、具体的にどうすることがDXなのか、情シスとしてどうすればいいのかまではわからないこともあるのではないでしょうか。
IDCでも、DXに取り組む国内のITユーザー企業に対して、DX推進における阻害要因についての調査を実施。(参考:国内DX推進調査結果-IDC)その結果によれば、DXに取り組む企業の2割でその推進意欲が減退し、DXの取り組みを阻害する要因としては「社員のDX理解不足と受容性の不足」を挙げる企業が4割もあり、思いがけないハードルが存在しているという企業も多いようである。

そこで今回はDXとは一体何なのか、そしてDXと情シスの関係について整理します。まずは前編、DXについて具体的に理解しましょう。

DXの概念は、ITを使い新しい価値を生み出すこと

DX:Digital Transformationとは、2004年にスウェーデンのウメオ大学教授のErik Stolterman氏が提唱したとされる概念で、「The changes that the digital technology causes or influences in all aspects of human life(ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる)」ということを指します。一般的に使われているDXの意味とは「既存の仕組みから脱却して、デジタルテクノロジーを駆使した新しいビジネスモデルまたはライフスタイルへ変革すること」です。
世界中でさまざまな組織が最新のIT活用によって今までにない全く新しいビジネスを生み出しています。これは世界的な流れであり、止まることはないでしょう。その流れに乗り遅れないよう、経済産業省でも平成30年5月から「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を立ち上げDX実現に向けて課題の調査やガイドラインの設置などを行い、国内のDXを推進していこうとしています。

DXは単純な「デジタル化」ではない!Uberの事例

既存業務にIT活用なんて今さら言われるまでもないよ、と思うかもしれません。しかしながら、DXとは単純にアナログビジネスをデジタル化したものではないのです。
例えば、「お店のレジに販売管理システムを導入し、精算業務を効率化する」といったようなケースはDXとは言わないのです。それはあくまでも、従来人の手で帳簿付けし計算していた業務をコンピュータ計算に置き換えただけの「デジタル化(デジタイゼーション)」です。
DXの実例としては、Uberの例が有名です。日本でもサービスが多く利用されているUber Eatsの例を見てみましょう。

・Uber Eats
飲食店に出向いて行かなくても、スマホからお気に入りのお店に依頼するだけで、近くにいるデリバリーサービス提供者がそのお店から希望の場所まで料理を運んできてくれるサービス。登録をすれば消費者側でなくデリバリーサービス提供者にもなることができ、空いている時間で収入を得ることができます。

Uber Eatsの例では、従来の固定された「提供者」が一方的に「消費者」に向けて価値を提供するのではなく、ネットワークでつながった個人・企業がニーズを調整し合い価値を生み出す全く新しいサービスとなっています。

企業から見てDXのメリットは、新たなビジネスモデル創出によって新たな市場を開拓し、将来の成長、経営力強化が見込めることです。
そして社会・個人から見たDXのメリットは、新しい価値のサービスが生まれて従来の問題を解決し、今まで見過ごされてきた小さなニーズでも満たすことができるような社会になることです。

DX実現への道のり

DXとはITを使った未知の領域への挑戦なのです。ではその未知のゴールにどうやって向かっていけばいいのでしょうか?

DXの推進には、既存システム改善、データ運用改善、業務改善(=経営改善)を行う必要があります。
経済産業省は2018年12月に「DX推進ガイドライン」を公開しています。組織がどのようにDXを進めていくとよいかを調査し、DX実現に際して考慮すべき点をまとめたものです。
このガイドラインでは、大きく以下の2要素があります。
1.DX推進のための経営視点でのガイドライン(図の左側のツリー)
2.DX実現に向けたITシステム構築のガイドライン(同右側のツリー)

具体的な内容をざっくりとまとめると以下のようになります。

経営視点でのガイドライン

・経営戦略・ビジョンの提示
業務そのものに関する変革であるため、現場での抵抗も大きくなりがちです。経営層がまずはDXに向けての意思表示をすることで、組織としての意識を醸成します。

・経営トップのコミットメント
業務を大きく変える可能性のあるDXでは、仕事のしかた・人事や組織の仕組みまでも変わることも必要になってきます。そうしたあらゆる面での変革を経営トップがリードしていくことが重要です。

・DX推進のための体制整備
継続的な変革への取り組みが行える体制の整備です。DXとは全く新しい分野への挑戦であるため、挑戦と失敗を繰り返すことは必須となります。あきらめずに挑戦し続けるマインドセットと、それをサポートできる体制を構築します。また、それに関わる人材の育成・確保が必要です。

・投資等の意思決定のあり方
意思決定基準にDXへの挑戦の観点を取り入れることです。短期的な損益のみでなく、長期的にDXへ対応していくことが組織の利益になる、という基準での意思決定が求められます。

・DXにより実現すべきもの=スピーディな変化への対応力
DXを一度成功させたとしてもその後も社会と技術は進化し続けます。将来の社会構造・社会的価値観やビジネスモデルの変化に対応できるような仕組みを作り上げることが重要です。

IT基盤構築のガイドライン

・全社的なITシステムの構築のための体制
DXの実行には事業部門を超えてシステムやデータの連携を行い、全社的に対応していくことが求められます。そのIT基盤構築を行える体制を持つことが必要です。

・全社的なITシステムの構築に向けたガバナンス
自社システムの俯瞰と最適化新システムと既存システムとの融合やシステム全体の最適化ができるよう、基盤全体を俯瞰する体制が必要です。

・事業部門のオーナーシップと要件定義能力
実際にDX後のシステムを使うのは事業部門です。IT部門やベンダー任せではなく、事業部門がしっかりとDX後の業務を設計し、システムに反映させるためのシステム要件を理解していなければなりません。

こうした視点に加え、IT資産の評価・分析といった項目がガイドラインには記載されています。

DXへの壁、そして「2025年の崖」

ガイドラインを見るだけでも、DXへの道のりはそう簡単ではなく、多くの困難と時間がかかることがひしひしと感じられます。しかしながら、「DXはまだいいや…」とあきらめることは全く得策ではありません。
経済産業省はDXに関して「DXレポート」という現状調査の資料を公開しており、そこでは「2025年の崖」という言葉でDXに乗り遅れることの危機感が語られています。
このレポートによるとDX推進に際し多くの組織が当たる壁として、既存システムがブラックボックス化しており改造が困難、部門ごとにシステムが孤立しデータが全社横断的に使用できない、などの課題があるとしています。そして、投資するリソースが不足しているという指摘があります。既存システムの運用に資源を取られてしまい、新しい投資ができないのです。
しかしながら国内の企業がこれらの壁を突破できなかった場合、2025年以降に最大12兆円/年の経済損失が見込まれる可能性があるとの試算で、これが「2025年の崖」と名付けられました。

具体的に2025年に何が起きるかというと、企業で使う基幹システムの老朽化による維持費または更改費の高騰、最新技術に従事するIT人材の不足、旧来のシステムに対応できるIT人材の減少、SAP ERPサービス終了によりIT再投資が必要になる、といったことです。現状を放置すれば、こうしたことが2025年頃に顕在化してきて企業の経営リスクとなるのです。

DXの具体的例を見ると、もっと危機感が見えてくる

DXに乗り遅れて顕在化するのはそうしたIT資産に関わるリスクだけではありません。以下のDX事例を見てみましょう。

これは、2018年に公開されたIPAの資料「デジタルトランスフォーメーションに必要な技術と人材」で紹介されたDXの一例です。
このように、『本を作って売る』というビジネスモデルが、提供者・関連事業者・消費者の全てに関わって変わってくることを示しています。この例では新しいDX後のビジネスモデルでは印刷業者や配送業者等が不要になり、代わりにITのプラットフォームやAIが活躍します。そして、一部の作家しか出版できなかった本を一般の個人でも提供できるようになり、本屋でなければ買えなかった本がいつでもどこでも手に入るという新しい価値が生まれています。
とはいっても、この例を見ると、DXによって廃業を余儀なくされる事業も出てくることがわかります。印刷業や配送業は、出版業務の変革により衰退してしまうように見えます。

しかしながらDXは全ての業界に通じるもので、印刷業者には印刷業者の、配送業者には配送業者のDXがあるのです。ビジネスの変化に自ら飛び込み、変革を起こしていかないといけないのです。

前編まとめ

ここまで、DXとは何か、大きなメリットがありつつも険しい道のりが待っている現状について整理してきました。後編では、情シスとしてどうDXに関わっていくことができるのかを整理します。

 

~後編に続く~

 

【執筆:編集Gp 星野 美緒】

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