オリンピック観戦チケット販売に見る社内システム

「5月28日(火)23:59」、これはオリンピック観戦チケット(抽選)の販売終了時刻である。しかしながら、蓋を開けてみれば予想通りに駆け込み購入の為にアクセス集中、終了10分前でも約100万人が待合室で順番待ちをしている状況であり、急遽、当初の受付締め切りから5月29日(水)11:59まで12時間受付を延長することとなった。

企業内においても業務系システムの導入などでは気を遣う部分であると思うが、オリンピック観戦チケット販売を例に考えてみる。

どこまでが想定内なのか?

人の行動を考えれば、昨夜の事態は間違いなく予想できたはずである。チケット販売当初も早々にシステムダウンし、アクセスできない状況が発生していた。約20日間という販売期間に調整する余地は残されていたのではないかと思う。(サービス提供中にシステム変更というリスクはあるが、クラウド上でのサービス提供であれば、それができない環境ではない)
〆切を延長するということは、サービス企画としては失敗と言わざるを得ない。

東京2020組織委員会の入札結果は公表されているのだが、確認した時点では「チケット販売に係るチケッティングシステム&サービスオペレーション業務委託」の結果は掲載されていないので、誰が作ったかは不明である。しかしながら、このご時世を考えれば、クラウド上で構築されているシステムと考えるのが妥当であろう。スケーラブルな対応が得意なはずのクラウドでも”想定外”のアクセス集中だったのか、それとも想定が甘かったのかは関係者のみぞ知ることである。

では、企業内においてはどうだろうか? まずボトルネックとなりやすいものには、回線が挙げられる。昨今、Windows 10に切り替えた企業がWindows Updateの為にトラフィックが増え、業務アプリケーションにも影響が出るなどの声が聞かれる。オリンピック観戦チケット販売と異なるのは、Windows 10のアップデートは後付けで対応せざるを得ないところであるが、効果的なWSUSの構築やインターネットブレイクアウトの活用などで対応されていることであろう。

また、基幹系システムについてもクラウドサービスの利用が増えていることから、「回線がボトルネックになる=業務に支障をきたす」こととなる。

社内にどんな業務があり、どのような利用特性があるのを把握しておくことが必要で、ネットワーク管理は情シスにとって重要な役割の一つになるであろう。

【参考】

https://josysnavi.jp/josys-words079_wsus_windowsserverupdateservices

https://josysnavi.jp/josys-words075_internetbreakout

デザインの好みは人それぞれ、しかし…

「チケットの購入がしにくい」という声が多く聞こえた今回のシステムであったが、実際にご自身でやってみて、どうお感じになっただろうか? あくまでも個人の意見であるが、自分にとっては分かりにくいし、使いにくい印象を受けた。

見た目のデザインはとてもすっきりしていて好感がもてる。但し、デザインは好みなので、人それぞれに意見はあると思う。しかしながら、使い勝手となると話は別だ。人がどのようにチケット予約するのか考えた上でベターな解を提供する必要がある。結果的に観戦チケット購入ができないことはないので、”良”なのかもしれないが、”優”という印象はない。購入したい競技を検索するが、いくつも検索してもチケット購入の際は一つの競技に選択されてしまい、購入決定後に一つ前の状態(観戦希望競技選択結果)に戻れず、また競技の選択からはじめなければならない。
更にカート内の情報の表示も同時に見られないので、何をどれだけ買ったのか選択中に把握できない為に一旦カートを確認するという行為も発生した。
これらのようなチリツモが操作時間を延ばし、”待合室”の渋滞にも影響していると言えるであろう。
4,371,464,160円を上限とする今回の入札で、一体いくらで落札したのかは分からないが、初期のテストでもう少しUI/UXの洗い出しができる時間も費用もあったと思われることが残念でならない。
また、「チケッティング戦略に関する有識者会議」というのも開催していたが、種別や価格が中心でシステムのことについてまでの討議はなかったようである。

企業においては、フルスクラッチで業務システムを作る場合は別として、何かしらのサービスを利用する場合においては、新システムを導入した場合に業務フローがどうなるのかをキチンとシミュレーションしておく必要がある。
コンシューマーサービスを経験しているところはあまり見かけないが、B2B向けのシステムだけを手がけているところだと案外”当たり前”と思っていたことができないこともある。
例えば、環境変化を配慮したサービスアップデートは当然行われるものと誰しも思うが、実際にそれもない基幹系サービスも存在する。
せっかく新システムを入れたのに以前よりできることが退化してしまった、手作業が発生してしまったなどが起きないよう、情シスは社内の業務について把握しておくべきである。
その意味でも、情シスは社内ITコンサルタントの役割も求められるのかも知れない。

 

情シスもアンテナは高く

今回の観戦チケット販売トラブルも「対岸の火事」とせず、自分の担当業務を見直すきっかけにしてはどうかと思う。日々の業務に忙殺され、内にこもりがちな情シスと言われているが、アンテナを高く張り、「他人のトラブルは自分の教訓」とするような癖を付けることで、情シス業務にも積極的に取り組んでいけることであろう。

 

【執筆:編集Gp ハラダケンジ】

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