2019年 中堅・中小企業におけるIT活用の注目ポイント(インフラ編)-ノークリサーチ調査
ノークリサーチは、2019年の中堅・中小企業におけるIT活用の注目ポイントのうち、基幹系、情報系、運用管理系といった業務システムに関する今後の見解を発表。
PCでは「ハードウェアも含めたサービス化」、サーバでは「HCI普及に伴う選択の変化」が焦点になると予測する。
この記事の目次
■「2世代目のDevice as a Service」は中堅・中小企業にとっても現実的なPC環境の選択肢
ノークリサーチでは毎年、年頭所感として「インフラ」、「ソリューション」、「業務システム」などのテーマに分けた注目ポイントをまとめている。本リリースではPCやサーバといった「インフラ」を取り上げる。
2020年1月には「Windows 7」と「Windows Server 2008」が共に延長サポート終了を迎えるため、2019年には中堅・中小企業においてもインフラ移行が更に活発になると予想される。特に注目すべきなのは「Windows OSの更新に伴って、PC環境におけるサービス化がどこまで進むか?」という点だ。下図が示すように、近年のWindows環境においては「Office365」によるアプリケーションのサービス化や「Windows 10(WaaS)」によるOSのサービス化に向けた取り組みが目立つ。また「Microsoft 365 Business」を通じて、中堅・中小企業にとって負担となりやすいPC管理/運用も含む統合的なサービス提案も始まっている。2018年秋には更にPCレンタル的な要素を加えた「Microsoft Managed Desktop(MMD)」も発表された。日本での同サービスの展開がどこまで本格化するかはまだ未知数だが、米国では「Surface」以外のPCハードウェアを採用したパートナによるサービス提供の可能性にも言及があり、これが実現すれば「アプリケーションからハードウェアまでを含めたPC環境全体のサービス化」も現実味を帯びてくる。
実はPCハードウェアの調達、導入(設定やキッティングなど)、管理/運用をサービスとして提供する取り組みは「Device as a Service」などの呼称で2016年頃から幾つかのPCベンダが既に着手していた。アプリケーションやOSのサービス化という要素も加わった「MMD」の登場によって、今後は「Device as a Service」が再度注目を集めると予想される。類似した用語としてはデスクトップ仮想化環境(VDI)をクラウド形態で提供する「Desktop as a Service」があり、共に略称は「DaaS」となる。
しかし、後者はOSやアプリケーションも含めた仮想イメージ作成が障壁となることも多く、同一のPC環境が数多く存在する大企業でないと十分な投資対効果が得られないという課題があった。その点で、「MMD」のような「2世代目のDevice as a Service」は中堅・中小企業でも実現可能な「PC環境全体のサービス化」の選択肢となる可能性がある。ただし、PC環境のサービス化が進む過程においては幾つかの課題も存在する。以下にそれらについて述べていく。
■「Windows 10への移行」と「ユーザ企業によるWaaSの積極的な容認」は必ずしも一致しない
以下のグラフは、年商500億円未満の中堅・中小企業全体における「グループウェア」製品/サービスの導入社数シェアを2017年と2018年で比較したものだ。(ここではシェア上位の製品/サービスのみを抜粋してプロットしている)
「Office 365」(「Exchange Online」も含む)は2017年から2018年にかけて導入社数シェアを伸ばしており、首位の「サイボウズOffice」に迫る勢いを見せている。
会計、販売、人事給与などの基幹系では中堅・中小企業においても依然としてパッケージ形態が多くを占めているが、情報系では前頁に図示した「アプリケーションのサービス化」が既に進んでいることを以下のグラフは示している。
さらに以下のグラフは、年商500億円未満の中堅・中小企業に対して「導入済みPCのOS」と「導入予定PCのOS」を尋ねた結果である。グラフからも読み取れるように、中堅・中小企業においてもWindows PC環境における今後の主要なOSは「Windows 10」となることが予想される。
「Windows 10」では「サービスとしてのWindows(Windows as a Service)」が採用され、定期的な更新プログラムの提供によってOS自体がアップデートされていく。上記の結果だけを見ると「アプリケーションのサービス化」だけでなく、「OSのサービス化」についても多くのユーザ企業が受け入れているように思える。だが、「Windows 7のサポート終了に伴う移行先としてWindows 10が選ばれている」という状況がそのまま「OSのサービス化が受け入れられる」ことを意味するわけではない点に注意が必要だ。
「アプリケーションのサービス化」はその影響が当該のアプリケーションに留まるのに対して、「OSのサービス化」はPC上で稼動する全てのアプリケーションに影響を与える可能性がある。そのため、次頁のグラフが示すように「PC環境のサービス化」が進む過程においては、「OSのサービス化」における障壁をどう乗り越えるか?を考える必要がある。
■IT企業による「機能更新プログラムの分かりやすい説明」が課題解消に向けた最初の一歩
以下の2つのグラフは年商500億円未満の中堅・中小企業全体に対し、「Windows 10の利点と考えられる機能や特徴」ならびに「Windows 10導入で課題と考える事柄」を尋ねた結果のうち、代表的な項目の回答結果をプロットしたものだ。
赤帯で示したように、利点としては「ネットワーク経由の更新で、新たな機能が追加される」が最も多く上げられている一方、課題としても「必要のない機能が更新によって追加されてしまう」が最も多くなっている。
したがって、現時点では「サービスとしてのWindows(Windows as a Service)」に対しては、利点と課題の双方の捉え方が混在している状況となっている。
「Microsoft 365 Business」の訴求に際しては、「中堅・中小企業はPC管理/運用を担う人材が不足しているのだから、Office 365 に加えてWindows 10やEnterprise Mobility + Security(EMS)も含めた『統合性』をアピールすれば良い」という考え方もある。しかし「WaaS」を課題と捉えているユーザ企業にとっては「OSのサービス化」が新たな負担となる。また、PCのセキュリティ対策は実施済みである認識している中堅・中小企業も多く、新たに「EMS」の必要性を理解してもらうための啓蒙も必要だ。したがって、単に『統合性』を訴求するだけでは、「Microsoft 365 Business」による「PC環境のサービス化」を実現することは難しいと考えられる。
「PC環境のサービス化」に向けては、まずユーザ企業が「WaaS」を前向きに捉えられるための土台作りが不可欠となる。そこでIT企業側が検討する価値のある取り組みの一つが、「更新情報の提供方法を工夫する」ことだ。
例えば、2017年10月および2018年4月に提供された機能更新プログラムにおける代表的な追加機能を幾つかピックアップしてみると以下のようになる。
2017年10月:「Fall Creators Update(1709)」(※1)
「Windows Mixed Reality」ヘッドセットと組み合わせて仮想現実(VR)や複合現実(MR)の基盤を構成できる
「スマートフォン連携(Microsoft Launcherなど)」スマートフォンで行っていたWebやファイルの閲覧をPC上で手軽に引き継げる
2018年4月:「April 2018 Update(1803)」(※2)
「タイムライン」過去の作業状態を時系列に沿って選択し、別の端末上にも復元できる
「集中モード」時間帯や相手に応じて、SNSなどからの不要な通知や音を遮断できる
(※1)はVR/MRを活用した現場作業の効率化や従業員の教育、およびスマートフォン活用に積極的なユーザ企業にとっては魅力的な機能強化といえる。一方、(※2)はオフィス内における事務作業を効率化したいと考えるユーザ企業におけるニーズが期待できる。
このように各々の更新プログラムの特徴を捉えた上で、「どのようなメリットが得られるか?」をユーザ企業にまず分かりやすく伝えることが大切だ。勿論、上記に列挙した機能を十分に活用するためには相応の工夫や費用も必要となる。だが、「OSのサービス化」が避けられない道筋であるならば、そこに何らかの利点を見出す努力をすることも大切だ。こうした取り組みを続けることで、中堅・中小企業においても「OSのサービス化」が徐々に受け入れられ、「PC環境のサービス化」への道が拓けていく可能性がある。
ここでは「PC環境のサービス化」に向けた有望な取り組み例を挙げたが、ノークリサーチとしても「PC環境の管理/運用における課題をどのように解消し、IT企業とユーザ企業の双方にとって有望なPC環境のあるべき姿は何か」を探っていくことを今後の重要な調査テーマとしている。
■「HCI」がオンプレミスで柔軟性/伸縮性を実現し、今後はクラウド選択理由も変化していく
続いて、サーバ環境について見ていくことにする。オンプレミスのサーバ環境については引き続き「HCI(ハイパーコンバージドインフラ)」が中堅・中小市場においても注目すべき領域となってくる。以下のグラフは年商500億円未満の中堅・中小企業全体における「HCIの活用状況」および「HCIの用途(導入済みまたは導入を予定/検討しているユーザ企業が対象)」を尋ねた結果である。「導入済み」「導入を計画/予定」「導入を検討」の合計は31.8%に達しており、用途においても基幹系や情報系といった主要な業務システム用途が多く挙げられていることが確認できる。
「HCI」は単なる「サーバ仮想化におけるSANの代替手段」ではなく、「サーバリソースにおける柔軟性や伸縮性をシンプルなオンプレミス環境で実現する手段」と捉える必要がある。そうした視点に立った場合、HCI導入/運用のノウハウが更に蓄積し、サーバハードウェアやHCI基盤ソフトウェアの価格が下がっていけば、「HCI」は中堅・中小企業のサーバ環境における「オンプレミスか、クラウドか?」の選択にも少なからず影響を与える可能性がある。
一方、中堅・中小企業がサーバ環境においてクラウド(IaaSやホスティング)を選択する理由にも変化が生じてきている。以下のグラフはクラウドを導入済みまたは導入予定の中堅・中小企業(年商500億円未満)に対して、「クラウドを選択した理由」を尋ねた結果から代表的な項目を選んで、「導入予定」の値から「導入済み」の値を差し引いた差分をプロットしたものである。
つまり、プラスの項目は今後増えるクラウド選択理由、マイナスの項目は今後減っていくクラウド選択理由ということになる。
上記のグラフが示すように、今後は「ハードウェアやミドルウェアの調達/設置が必要ない」や「OSやミドルウェアの更新作業を外部に任せられる」といった選択理由が減少し、「プログラミングせずにアプリケーションが作成できる」や「オンプレミスより高度なセキュリティを実現できる」といった選択理由が増加すると予想される。「HCI」によって柔軟性/伸縮性を備えたサーバ環境がオンプレミスでも実現できるようになると、「ハードウェアを持たないことによる柔軟性/伸縮性の確保」がクラウドの最も主要な選択理由ではなくなってくる。代わりにPaaSとの融合による迅速/手軽なアプリケーション開発や、専門業者に委託することで得られるセキュリティ強化が選択理由として増えていくことを上記のグラフは示している。このように、中堅・中小企業のサーバ環境におけるオンプレミスとクラウドの選択理由は徐々に変化している。こうした兆候を捉えて常にオンプレミスとクラウドの双方を俯瞰した視点を持つことが大切だ。ノークリサーチとしてもオンプレミスとクラウドの双方を含む「広義のサーバ」の視点から今後も様々な調査/分析を行っていく。
2018年版中堅・中小企業のITアプリケーション利用実態と評価レポート
ERP/ 会計/ 生産/ 販売/ 人給/ ワークフロー/ グループウェア/ CRM/ BI・帳票など10分野の導入社数シェアとユーザによる評価を網羅
【レポートの概要と案内】http://www.norkresearch.co.jp/pdf/2018itapp_rep.pdf