【情シス奮闘記】第13回 「モノ・コトの見える化」を推進 ナレッジ共有基盤構築へ アマナ
アマナは、コンテンツやビジュアルの企画制作を手がけている会社だ。同社はそれぞれの専門分野に特化した複数の会社でグループを形成している。一方で、これまでグループ各社が、制作の過程で使用してた制作物の素材をバラバラに管理していたため、グループを横断した共有ができず、仕事の効率化が進まないという課題があった。
そこで、同社はグループ全体の制作プロセスを合理化するプラットフォームの構築を決断。「モノ・コトの見える化」の構想のもと、グループ全体のプロデューサー兼営業担当者、クリエイター、顧客などが同じ基盤上で業務を行えるようにして、素材やナレッジの共有と生産性の向上を図っている。
アマナ ICT部門 ICTディレクション部 黒川高宏マネージャー
業務に対する文化や考え方の異なる10数社のグループを束ね、情報システム部門主導で導入したプラットフォームはグループ全体の生産性にどのようなインパクトを与えたのだろうか。プラットフォーム構築の責任者であるICT部門 ICTディレクション部の黒川高宏マネージャーに聞いた。(取材・文:ジョーシス編集部)
グループ会社に点在する事例の共有化が課題に
アマナは1979年広告写真の受託制作からスタートした。当時は撮影と画像販売が別だった業界で、デジタルでの写真流通を推進。ストックフォトの企画販売事業を立ち上げる。その後はCG制作、映像制作、デジタルコンテンツ、アートフォトなど、事業領域を拡大してきた。
一方、同社のビジネスは、これまでメディアの一部分の素材だけを提供する「制作受託販売」が中心だった。しかし、今ではメディアの多様化やコンテンツマーケティングの隆盛を背景に、Webや写真、動画、テレビCMなどの広告やプロモーションを一括で提供する「制作企画販売」の占める割合が増加傾向にある。
事業環境の変化とサービス範囲の広がりとともに、アマナでは専門性の高いクリエイター集団を育成すべく、専門分野に特化したグループ会社を次々と設立してきた。ただ、グループ会社が増え専門性が磨き上げられる一方で、グループ全体での情報共有に課題も出てきた。
同社のコンテンツ制作は、複数のグループ会社が関わることが多い。例えば、企業のプロモーションを受注した場合、制作全体を統括するプロデューサーはプロモーションに必要な撮影、Webサイトの構築、動画制作、出演者のコーディネートといった単位で案件を分割し、その分野に強いグループ会社にそれぞれ依頼する。
しかし、これまではグループを横断した過去の制作物の素材が共有できていなかったため、「既存の顧客からの新規案件への対応に時間がかかっていた」と黒川マネージャーは話す。
そこで、アマナでは、2012年にグループ全体で、ナレッジの共有とワークフローの合理化を図るクリエイティブプラットフォーム「amana creative platform(acp)」の導入を決断した。
プラットフォームのポリシーは“一元管理”と“自動収集”
acpは、プライベートクラウド環境で2012年に着手。構築では「1つの案件に関連する全情報を一元管理すること」と「データ入力をワークフローに組み込むことで、制作に関わるスタッフが持つ情報収集を自動化すること」をポリシー(方針)に据えた。
acpの概念図
ナレッジの共有には制作実績の入力が必須だ。しかし、制作に追われ外出の多いプロデューサーやクリエイターがナレッジの蓄積に積極的に協力することは難しい。そこで黒川氏をはじめとする構築メンバーは、一連のワークフローの中に制作情報の入力を組み込むことで情報収集の自動化を図った。これには、入力作業の手間がかからないようにシステムでカバーし、ナレッジの蓄積を促進する狙いがあった。
acpは、2013年にビジュアル資産を管理するシステム「shelf(シェルフ)」をリリースしたのを皮切りに、必要なシステムを順次構築。現在では主に7つのシステムが稼動している。
acpのシステム・サービス一覧
ワークフローの統合で収益性が向上
acpの中で中核となるシステムが2015年にリリースした「compass(コンパス)」だ。制作案件の受注活動から制作、納品までの進行と採算を管理し、制作物と、その素材を格納するストレージを関連付けて一元管理する。compassを導入したことで、複数のグループ会社を横断する案件も一元管理が可能になった。
compassの画面
アマナグループは現在20社近くあり、各社で専門分野が異なるため、業務に対する文化も考え方も大きな違いがある。そのため、各社の要求はバラバラで、相反する要求が出ることも珍しくない。各社の持つローカルルールも多数存在する。
グループ各社に対して、いかに納得するシステムを構築するのか――。黒川ディレクターは難しい舵取りを強いられた。そこで、ナレッジの共有という目的のもと、各社への要件ヒアリングについて時間をかけて実施した。「『ナレッジの共有』という目的を達成する要求かを見極め、ICT部門がリーダーシップを取ってくぐらいの意気込みで取り組んだ」と黒川ディレクターは話す。
そこでICT部門ではベースの仕様を決めると同時に、表示順の切り替えなどのカスタマイズを行えるようにして操作する人が使いやすいように工夫を重ねた。
アマナではこれまでも社内システムは自前で開発してきた。ただ、今回のcompassをはじめとするacpは大規模な開発で手間がかかることが予想された。それでもグループ各社の要求に柔軟に対応するために、外部の手を借りることなく自社開発を貫くことにした。「社内のニーズに迅速に対応できる社内開発の方が効果は高い」と黒川ディレクターも説明する。
compassに登録した制作物はWebで検索できるシステム「clip(クリップ)」や管理システム「shelf(シェルフ)」と連携することで社内ポータルに案件の情報を集約。社員が手がけた作品としてcompassに事例として表示することで、制作事例や営業成功事例の共有を強化した。
「事例やクリエイターを軸として過去に手がけた制作物の情報を参照できるようになり、利便性が増した」と、黒川氏と共にプラットフォーム構築を担当したICT ICT部門 ソリューションテクノロジー部の山口誠シニアソフトウェアエンジニアはこの機能について胸を張る。実際、「個々のクリエイターの得意分野が分かるので相談がしやすくなり、業務がスムーズになった」と制作全体を統括するプロデューサーからも反響があった。
制作物の完全共有・生産性向上を進める
着実に成果をあげているacpだが、課題も残る。全案件をワークフローに乗せることはできたが、現状では「全ての制作物の情報がcompassに格納されているわけではない」(黒川ディレクター)という。「入力を楽にする」という仕組みの実現はまだ途上の段階にある。
もう1つの課題が開発部門の生産性向上だ。現在開発を担当するテクノロジー部は約10名が在籍。acpの構築を開始した当初より人的リソースは増えている。しかし、「思ったより開発のパフォーマンスが上がっていない」と山口エンジニアは説明する。そこで、開発の生産性を上げ拡大するマーケットに対応できるよう、アーキテクチャの見直しやライブラリの整備を進めている。
acpの掲げるナレッジ共有の範囲は、制作情報のデータ化にとどまらない。acpにAI(人工知能)を取り込むことも想定している。具体的には案件のサポートでの活用だ。AIを使って案件に対する最適なスタッフの選定、予算の最適値予測などで利用する。
「“顧客に刺さる”提案とは何か、効果的な採算管理はどのようにすればよいか、システムを使ってアドバイスすることで、社員の生産性を引き上げることができる」と黒川ディレクターは意気込む。acpは「モノ・コトの見える化」の新たなステージへ、さらなる一歩を踏み出した。
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