“多様性”こそが真の「改革」になる サイボウズの青野社長が考える、これからの働き方

  • 2017/6/30
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2017/06/30

昨今、必要性が叫ばれている「働き方改革」。このテーマに10年にわたって取り組んできたのがサイボウズだ。6年間の育児休暇制度、9種類の働き方が選べる選択型人事制度、在宅勤務制度、副業の許可などの「働き方改革」を次々と実践してきた。その旗振り役となったのが青野慶久社長だ。「100人いれば100通りの働き方がある」と言う青野社長。今の「働き方改革」をどう見ているのかを聞いた。(取材:ジョーシス編集部 文:三好裕紀<Yu-Factory> 撮影:ヨシナガトモヒコ)

青野慶久・サイボウズ社長

青野慶久・サイボウズ社長

残業規制は「働き方改革」の入り口に過ぎない

――昨今の「働き方改革」の風潮をどう見ていますか?

一昨年にあった電通(による違法残業事件)の一件以来、「働き方改革」が話題になっています。もちろん、話題になることは社会の問題として意識されることであり、望ましいと思います。しかし、今、世間でいわれているのは「労働時間の短縮」にすぎません。我々が考える「働き方改革」の本質まではいっていない。もちろん、長時間労働を規制することはセーフティーネットとして必要です。(政府が)残業時間の上限を100時間と決めたことは大きな前進ですが、労働時間の削減は「働き方改革」の入り口でしかありません。

一方で、いくら労働時間を削減しても仕事量が減らなければ、早朝出勤や、外に仕事を持ち出して行う「隠れ残業」が横行することになります。単に時間を短くするだけでは、働く人は辛いだけなのです。

真の「働き方改革」を実現するには、「どんな仕事」を「どういうふうに改革していくか」ということが大切になります。つまり、「仕事改革」をしない限りは、現場にしわ寄せが行くだけだと思います。そして、そのひずみは企業にとって恐ろしい結果を生むことになるでしょう。

――青野社長の考える「働き方改革」とは?

私はよく「100人いれば100通りの働き方があるはず」と言っています。「残業したい人、したくない人」「今日はやってもいいけど、明日はしたくないという人」と、働き方は人それぞれで異なっています。

ところが、日本の多くの企業では一律的な働き方しか認めていない。3月から始まった「プレミアムフライデー」や「(政府が2018年度から導入を予定している)キッズウィーク」などは、まさにその典型といえます。

現実的には一律に休むのではなく、働き方の多様性を受け入れる方が必要性は高いと思います。だからこそ、会社は働き方の多様性を認める必要がある。それが働き方改革になるし、今までの働き方のバージョンアップにもなるでしょう。

働く人の意向をくみ取ることが“多様性のある働き方”につながる

――「多様性」とは具体的にどういうことですか?

「働く時間や場所」「副業をしたいか、したくないか」「給料の額」「仕事の種類や内容」「誰と働くのか」「この技術だけはやりたいとか」といったことを社員が全て自分で選んで決められるということです。

「給料はそこそこでもいいから、その製品に関わる仕事をしたい」と思っている人や「この会社で働きたい」と思っている人など、ひとりひとりが仕事に対するモチベーションは異なります。また、「どうやって働きたいか」も、その時々で変わります。このことを全て受け入れることが、多様性のある働き方だと考えています。

――多様性のある働き方に対して、サイボウズでは、どんな取り組みをしていますか?

我々も最初は他社と同じく働き方は一律でした。それを2種類、3種類と増やし、今は働く時間で3種類、働く場所で3種類、合計で9種類に働き方を選べる制度にしていったわけです。

サイボウズが導入した9種類のワークスタイル(働き方)

サイボウズが導入した9種類のワークスタイル(働き方)

しかし、これはまだ進化の途中です。今の制度では、例えば「毎週水曜だけは在宅で働きたい」という希望には対応していません。「100人いれば100通りの働き方」を実現するにはフルカスタマイズできる制度が必要です。それには検討や調整が不可欠ですが、実現したいと考えています。

“公明正大な態度”と“仕事の細分化”があってテレワークは機能する

――働き方改革の手段として、注目されている「テレワーク」については、どう見ていますか?

テレワークは導入が難しいといわれています。しかし、難しいのは顔を会わせずに仕事をするからではなく、「チームワーク」というインフラが整っていないことにあると思っています。

サイボウズでは理念を実現するために「理想への共感」という考えを大切にしています。これは、チームがビジョンに向かって活動するのを重要視することです。それは、ビジョンに合わないことはやってはいけないということでもあります。

だから、チームのメンバーは、ほかのメンバーに対し常に「公明正大」で、嘘をついてはいけない。もし、それができていなければ、お互い疑心暗鬼になり、「あいつはサボっているのではないか」とか「きちんと監視してないといけない」ということになります。

そんな状態であれば、テレワークで仕事することにメリットはありません。だからこそ、公明正大であることは、テレワークでは非常に重要だと思います。組織の整備ができていないのであれば、テレワークは機能しないのです。

――業種や職種で向き・不向きがあるとの声もあります。

「職種」という観点でいえばそうかもしれません。例えば、コールセンター業務は機材が必要なので、在宅勤務でこなすのは難しい。しかし、サポート業務という観点でいうとテレワークでできるものもある。

私は職種ではなく「仕事の細分化」、つまりタスクレベルまで落とし込めば、社長業でも営業でも仕事によってテレワークでこなせるものもあると考えています。

営業を例にすれと、客先で行うプレゼンはテレワークでは無理です。しかし、ほかのメンバーと行うミーティングはWeb会議で行えば在宅でも可能になる。調査や提案書の作成なども在宅で行うことはできる。このようにタスクを細分化すればテレワークも多様化のある働き方もできると思います。

多様な働き方の社会では「市場性」が報酬を決める

――働き方が多様になれば、人事評価も変わると思いますが、どうなると考えていますか?

給与にフォーカスすると「市場性」に基づく評価になるでしょう。具体的には、ある社員が当社から転職しようとした時に、転職先からどれぐらいの報酬を得ることができるのか。また、他社から当社に転職してくる時に、どれぐらいの待遇で迎えるのかという給与が基準になるということです。

これは、野球やサッカーといったプロスポーツ選手の契約と同じようなものだと思います。会社のオファーに対し、本人が納得すればサインをするし、納得ができなければ、条件交渉をする。折り合わなければ、ほかに行く。

ほかに行かれてしまうと会社にとっては残念なことになりますが、これこそが「市場性」だと思っています。市場性を基準としたのは我々としては多様性ある働き方を評価するには今のところ、ほかの方法が考えられなかったこともあります。

――例えば「情シス」のような部門は「市場性」を獲得するのは難しいのでは?

そんなことはありません。情シスの人たちは、ほかの部門にはできない仕事をやっています。しかし、依頼されたことをなんでも受けてしまうので、自分たちの価値を下げてしまっているわけです。

例えば、夕方に「○○を明日の朝までに対応してほしい」といわれて一生懸命やるのに、そのことが評価されない。「やって当然」というふうに見られている。また、依頼された仕事が、本当に緊急性があるのかどうかも疑問です。

日本では“過剰”なサービスが多すぎます。その行き着いた例が宅配便です。今では現場が業務に耐えきれなくなり、仕事を断り始めました。だから、情シスも必要以上の仕事は断っていいと思います。

――しかし、日本には「おもてなし」に象徴される無償のサービスに重きを置く考えが根強くあります。

オーストラリアのシドニーでは最低賃金が時給1500円で、休日は時給が4000円になるそうです。これは休日は仕事をする人がいないので報酬が跳ね上がるわけです。需要と供給のバランスであり、これこそが「市場性」といえます。本当に必要なサービスであれば、その分だけ高くすればいいわけです。

確かに日本では「無償のサービス」に価値があると考えられています。しかし、本当に評価されているのであれば、もっとお客さんがいてもよいはずです。でも、実際はそうでもない。それよりも、適切なサービスへの対価が得られない。だから、低賃金だったり、増大する社会保障費が支えられなくなったりしている。その結果、日本という国自体の力が落ちていっているように見えます。

――青野社長は、働く人と会社は、今後どう変わるべきと考えていますか?

「働き方改革」をきっかけに、働く人たちが自分自身の価値を意識しはじめ、高める努力をし始めるでしょう。多様性のある働き方は、各自の個性を重んじるもので、自分自身で選び取る意識や力が必要になるからです。その力を付けると働く人たちは会社から自立できる状態になります。そうなると会社という組織も意味合いが変わってくる。社員が自立するわけだから、年功序列は意味をなさなくなります。私の理想もそこにある。

また、これからの会社は、地域コミュニティと同じような存在になると思います。つまり、会社は所属する場ではなく、報酬を得るためのコミュニティになるわけです。すると、複数の会社や地域のコミュニティ参加していくことが当然になります。これこそが真の「働き方改革」でしょう。そうなれば日本も活性化していくと思います。

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