リーダーのための「時間管理」解決クリニック1 「むちゃ振り上司に困っています……」
ここは時間に追われ、忙しいリーダーのために開設されたクリニック。
このクリニックには時間管理にお悩みのリーダーが処方箋を求めて来院します。
おやおや、今日もお悩み抱えたリーダーがやってきたようですよ……。
【今回のお悩み】
橋本さん(仮名) 課長職(42歳)
うちの川島部長に困っています。思いつきでいろいろ指示するタイプの人で、毎日のように「□□についてまとめてくれ」「○○について調べておいてくれ」と次々と指示が飛んできます。
通常業務だけでも忙しいのに、そんなむちゃ振りされても対応できるわけがないじゃないですか。「どうせ思いつきだろうから……」と放っておくと、忘れてくれることもありますが、「○○の件はまとまったか?」と急に催促してくることもあります。
今日は何を催促されるだろうかと思うと気が重くなります。部長のむちゃ振りに振り回されるのは、もういやです・・・。
※このお悩みは実際の相談の内容を元にしたフィクションです。
このお悩みのように、「思いつきで次々と指示を出す上司」に困っているという悩みは時々聞きます。
こういう上司は、立場を変えて見ると情報収集に努めていたり、アイデアマンだったりするなどよい面もあります。
また、新しいことに取り組もうとする姿勢は管理職や経営層に必要なものです。部下への配慮が足りないという欠点はありますが、何もチャレンジせず、現状維持だけ考えている上司よりはいいという見方もできます(もちろん程度にもよりますけど)。
とはいえ、こういう上司の下で働くとなったら、ちょっと大変ですよね。頼まれたことをすべてまともに引き受けていては時間がいくらあっても足りません。なんでも指示に従うのではなく、言うべきことは言う。そして、自分の身は自分で守ることが必要です。
では、対策を解説していきましょう。
【むちゃ振り上司への対策】
忘れてくれるのを期待するのはやめよう
まず、やめた方がいいことが2つあります。1つは「上司が忘れてくれるのを期待すること」です。
これは上司のためにというよりも、自分のためによくないからです。むちゃ振りとはいえ、引き受けてしまった仕事を放置すれば、多少なりとも罪悪感が生まれます。
催促された時に「ドキッ!?」とするのはそのせいです。こういう状況が続くのは、自分のメンタルにもよくありません。引き受けてしまった仕事はやる方向で考えましょう。
これは、「無理してでも上司の指示を100パーセントやりとげろ」という意味ではありません。「引き受けるけどやらない(忘れてくれるのを待つ)」という消極的な対応よりも、「できる範囲でしかやらない」という、戦う姿勢でいきましょう。
上司に反抗するのは気がひける人もいるかもしれませんが、「引き受けるけどやらない」のも上司に対する(消極的な)反抗です。
それよりも、ハッキリと言う方が生産的ではないでしょうか。また、戦うといっても実際には「できる」「できない」という話ではなく、「いつなら取りかかれるか」という観点で調整すればいいのです。ただし、そのために必要なことがあります。これは後ほど紹介します。
まずは1つを終わらせる
もう1つのやめた方がいいことは「同時に手をつけること」です。前のシリーズ「情シスリーダーのための時間管理術10」ので紹介したように、「あれもこれも」といろいろな仕事に手をつけて、どれも中途半端になる状況はタイパ(タイムパフォーマンス=時間対効果)が最悪になります。
時間は取られているのに形にならない。いつまでも自分の手から離れない。そんな状況はタイパがよくないですし、忙しい割に達成感が得られず、仕事への意欲が減退してしまうこともあります。
タスクを書きとめる習慣が役立つ
むちゃ振り上司とうまく渡り合うために、やった方がいいことは3つあります。
1つは、普段から自分の仕事を必ず書きとめる(または入力する)ことです。
今、どんな仕事があって、それ以外にどんな頼まれごとを引き受けているのか、それらを必ず書き留めて、すぐに確認できるようにしておきます。普段からこれを行っておくことで自分の仕事量が見えてきますし、むちゃ振りされた時にも冷静に判断できます。無理な頼まれごとをうかつに引き受けてしまうことも防げます。
できれば、「情シスリーダーのための時間管理術2」で紹介したように、タスクを実行日に書いておくのがベストです。こうすると、直近の数日間のタスクをすぐに確認できます。
あるいは、この頼まれごとだけを別のリストにしておいても構いません。この種の頼まれごとは、マスト(must)かどうかが微妙なタスクなので(そもそも思いつきですし)、通常のタスクとは性質が違います。ですから、最初に行うものだけは他のタスクと同様に書いておきますが、2番目以降のものは別リストで管理しても構いません。
頼まれごとは次々とやってくるとしても、手をつけるのは必ず1つずつ。それが最も効率がいいやり方です。並行して進めるのではなく、あくまでも「まずは1つを終わらせる」ようにします。
ただし、そのためにはどの頼まれごとを優先するかについて、上司の言質を取っておくことが必要です。
上司に「○○よりも□□を先にやれ」と言わせるわけです。これがないと、後で上司の気まぐれな催促に振り回されてしまいます。
頼まれたら、すかさず聞く
2つめのやっておいた方がいいことは、上司から頼まれた時に、すかさず聞くことです。
例えば、「○○について調べておいてくれ」と頼まれたら
「昨日頼まれた□□の件の後でいいですか?」あるいは「昨日の□□の件と、どちらを先にやりましょうか?」
のように聞きます。
頼まれごとのなかでの優先順位を確認するわけです。これを上司に言わせることで、もし後で気まぐれに催促されても対抗できます。
ちなみに、思いつきで指示を出す人は新しい思いつきを優先させたがることが多いです。ですから、このように確認すると「□□の件はもういいから、○○をやってくれ」という答が返ってくることもあります。そうなれば「□□の件」をリストから消すことができます。
「(□□の件も必要だけど)○○を先にやってくれ」となった場合は、「○○の件」が第一優先の頼まれごとになります。
それが終わるまでは、次の「□□の件」には手をつけません。もし、急に「□□の件」を催促されたら「○○の件を先にやれと聞きましたから」と対抗します。そのために言質を取っておくのです。
通常のタスクの場合、その優先順位は自分で判断するのが基本です。しかし、むちゃ振り上司からの頼まれごとは、上司自身に判断してもらう方がうまくいきます。このタイプの人は気まぐれに催促することがありますし、部下が勝手に優先順位を変えることを嫌がるからです。
さらに、もし他の業務で忙しい場合は「今週は△△の件で立て込んでいるので、取りかかるのは月曜になります」のように、すぐには取りかかれないことを伝えておきます。
上司の指示に応えることも大事ですが、現在抱えている「マストの仕事」の方が優先です。ここはゆずれないところです。
ただし、「忙しいから無理です」と突っぱねるのではなく、「何の案件で忙しいのか」「いつ取りかかれるのか」という具体的な話をするようにします。その方が上司も納得しやすくなります。
これをその場で伝えることは意外に重要で、後から伝えると話がこじれやすいです。その場ですぐ伝えるために、先ほどのタスクを書きとめる習慣が役立ちます。
いい意味で手抜きする
こうやって優先順位を明確にした上で「まずは1つを終わらせる」ようにする。こうすると、上司に振り回されている感覚はかなり減るはずです。ただし、「1つ」に絞った分、手早く片づけたいものです。
そのために必要な、3つめのやっておいた方がいいことは「いい意味で手抜きをする」ことです。
前のシリーズの「情シスリーダーのための時間管理術10」で紹介したように、仕事にかける時間と、その成果は比例するわけではありません。時間をかけてていねいにやるよりも、「一応形ができた」程度でリリースしてしまった方がタイパ(時間対効果)は高いです。
例えば、何か調べものを頼まれたら、できるだけ手間をかけずに報告する方法を考えます。また、正式な報告書が必要でないのなら、集めた資料をプリントアウトして、注目してほしいところに赤ペンでマーキングし、欄外にコメントを書き込むだけでも説明はできます。
これでも意外と「ちゃんと調べた感」は出ますし、効率的です。あらためて文書にまとめると、ある程度の文字数がないと貧相に見えてしまい、つい「もう少し」と時間をかけすぎてしまいやすいです。
そもそもが「思いつき」で始まった頼まれごとなら、完成度よりもスピード重視でいくべきです。形式にこだわらず、いい意味で手抜きをしていきましょう。最後に「むちゃ振り上司」に困っている人への処方箋を出して今回の診察を終わります。
【むちゃ振り上司に困っている人への処方箋】
■普段からタスクを書きとめて、仕事量を自覚しておく
■新しい頼まれごとが出てきたら、すかさず優先順位を確認する
■忘れてくれるのを待つのではなく、できないものはできないと言う
■同時に手をつけない。まずは1つを終わらせる
■完成度よりもスピード重視。「一応形ができた」程度で報告する