旭鉄工本社前に広がる本社工場(愛知県碧南市)には、前回の記事で明らかとなった「製造ラインモニタリングシステム」が導入されていた。敷地内に数棟で構成され、1日16時間ほど稼働する工場は、一見すると誰もが目にしたことがある昭和の下町工場といった雰囲気だ。木村社長インタビュー記事に続く第二回目は、本社に隣接するIoT化した碧南本社工場の内部の様子をレポートする。(取材・文:坂本嶺 撮影:松波賢)
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昭和の下町工場の風情を残しつつ、バックエンドではIoTが製造を支える
ちょうど休憩時間ということもあり、作業員はまばらだった。場内には数多くの機械や材料が置かれてはいるが、整然としており、スペースも広い。黒川氏(同社『ものづくり改革室』次長兼室長)のガイドのもと場内を進んだ。
立ち止まったのは、自動車のエンジンのシリンダーヘッドに用いられるバルブガイドの切削加工ライン。黒川氏、金原氏(『ものづくり改革室』)よりサイクルタイムモニタ(以下=CTモニタ)の説明が行われた。
製品が完成するごとに光センサやリードスイッチを用いて信号をクラウドに送信、AIを用いて情報を処理し、スマホなどの端末から結果を把握できるサイクルタイムモニタ(以下=CTモニタ)。可(べき)動率モニタ、i スマートあんどんにつづく同社の開発したシステムだ。
IoTは、「IT+OT」である。如何に運用するかが鍵となる
『ものづくり改革室』次長兼室長黒川龍二氏
「CTモニタにより、時間帯ごとの生産数と停止時間を自動で保存・集計してます。またサイクルタイム(製品が1個出来てくるのに要する時間)も0.01秒単位で全サイクル把握しております。これは非常に大きな成果です。以前は作業員が所定の時間毎に生産数を示す設備のカウンターを読み取ってました。
弊社の場合1人で10ラインを担当するケースもあり、全ての設備のカウンターを時間通りに読むのはそもそも無理があります。それに、サイクルタイムが4秒前後の製品もあって読む時間が1分ずれても15個数字が違ってしまい、正確な個数が書けるはずもありません。停止時間も以前から記録することになってはいましたが、作業員には正確な停止時間の測定は難しく、2分止まろうが7分止まろうがどれも5分停止という記入になったり、そもそも記入漏れも多くありました。
また、サイクルタイムは人がストップウォッチで計測してましたがコンマ何秒か誤差を含みますし長時間測定するのは大変な負担になります。今は自動測定ですから、正確かつ作業員の負担が軽くなりました。」
付近にはi スマートあんどんやラインストップ会議で議論するためのボードも
『ものづくり改革室』金原良考氏
続いて、金原氏から同社のIoTに対する指針が説明された。
「弊社はIoTをInternet of Thingsではなく、「IT」+「OT」という観点で活用しています。OTはOperation Technologyを指します。どんなよいIT技術があっても、要は使い手次第。運用方法が鍵です。弊社では、システムで集められた生産データから問題点を抽出し対策し結果をフォローする「ラインストップ会議」を日々行ないました。最初は問題点が多すぎて毎日2時間ほども掛かりましたが、地道に続けた結果問題点は徐々に少なくなり、生産性は日増しに向上していきました。」
“ごまかし”がきかないからこそ、作業員のモチベーション向上が大事
CTモニタ導入によって設備の稼働状況を自動的に正確に把握し、生産性を大幅に向上させた同社。会社運営にとっては大きな飛躍といえるが、果たして現場の生の声とはどのようなものだったのか? IoT化は、そのメリットとともに「人の仕事をうばうもの」といったネガティブイメージもあり、同社においても作業員の仕事量の減少はあったと想定される。そこについて、単刀直入に黒川氏に聞いた。
「システム導入により残業は削減、休日出勤廃止となったラインもありましたので、当初は確かに不満を持つ作業員はいました。また、例えば機械の稼働開始や終了時刻もデータで把握できますので、指示と異なればなぜだということになる。仕事に対してごまかしが効かなくなり、ある面ではシビアになりました。しかし一方で、木村社長は現場で一緒になって知恵を出しますし、こまめにデータも現場も見て成果が上がれば褒めてくれる。現場の掲示物にも「よくできました」というスタンプが押されたり褒め言葉が記入される。仕事ぶりを見てもらえている感覚があるんですね。ですので、従業員は率先して改善を進めてくれます。単純なIoT化ではなく、従業員のモチベーションを向上する工夫があるので大きな効果が出たと感じています。」
IoT化した工場に直に触れられた今回の工場見学。システム導入に足踏みする中小企業が多いなか、改革を進めてきた旭鉄工の事例は、IoT化を検討する多くの会社の指針となっていくことだろう。また、作業員の意識についても、導入時に想定される課題にも迫ることができ、非常に有意義な見学ツアーとなった。