【情シス奮闘記】第15回 顧客対応部門をFAQシステムで改善 “脱コストセンター”に挑む スターティア

2017/05/11

スターティアは、中小・中堅企業を中心にサーバーや複合機の販売などを行うITインフラ関連事業とWeb制作などのデジタルマーケティング関連事業を展開する。その同社でコンタクトセンターは「顧客窓口」という重要な役割を担う。一方で扱う商材が多いため、センターの担当者は商品知識の習得に時間を割かれており、その影響で顧客満足度と生産性の低下を招いていた。

スターティア 技術サポート統括部インフラサポート部 小谷洋介シニアマネージャー

スターティア 技術サポート統括部インフラサポート部 小谷洋介シニアマネージャー

この課題を解決するべく、スターティアでは2016年10月に「FAQシステム」を導入。担当者の情報共有と顧客対応の迅速化、生産性向上を図った。ただ、その道のりは決して平たんではなかったという。導入への取り組みとビジネスに与えたインパクトについて小谷洋介・技術サポート統括部インフラサポート部シニアマネージャーに聞いた。(取材・文:山際貴子)


事業部を横断する問い合わせが増加 対応が追い付かず

スターティアがITインフラ関連事業で手がけるのはサーバー構築やネットワーク構築・保守、複合機、ビジネスフォンの販売など、いわば「情報システム部門」機能の提供だ。そして、顧客とする中小・中堅企業では担当者がITに必ずしも詳しくなかったり、そもそもいなかったりする場合も少なくない。

そうした企業にとって駆け込み寺となるのがサポートを行うコンタクトセンターだ。最近ではIT人材が不足している影響もあり顧客が増加。加えて、同社が扱う商材・サービスが拡大したこともあって問い合わせ数は右肩上がりで増えているという。

スターティアがFAQシステムを導入したきっかけは2013年までさかのぼる。当時はネットワーク構築・保守とOA機器関連で事業部が分かれており、そのサポート部門として、各々でコンタクトセンターを設置していた。

しかし、OA機器がネットワークに接続されるようになると、ネットワークとOA機器にまたがる複合的な問い合わせが増え始める。すると、片方の窓口だけでは解決できず、センター間で問い合わせの電話の転送が頻発。顧客はたらいまわし状態となり、クレームにつながることが少なくなかったという。また、一方のセンターは人員に余裕があるのに対し、もう一方では業務多忙で人員を補充するという現象も起きていた。

2つのセンターを統合 人員のマルチスキル化にも取り組む

この課題解決に取り組んだのが小谷シニアマネージャーだ。手始めに2つのセンター統合に着手した。「顧客の満足度を上げるためにも、生産性を向上させるためにも、コンタクトセンターの統合がまず必要だった」と説明する。

小谷シニアマネージャーの働きかけで、センターの統合は2014年10月に実現。同時にフリーダイヤル、IVR(音声自動応答システム)などの環境も整備した。しかし、これだけではセンター人員の作業平準化には至らなかった。担当者はそれぞれ得意分野を持っており、それ以外の問い合わせ対応が難しいという状態だったからだ。これはセンターが統合されても同じだった。

そこで、次の策として人員の「マルチスキル化」に取り組む。具体的には、センターの担当者全員に対して「スキルマップ」を作成。扱う商材の単位で個々の知識や対応スキルを評価するレベルを設定し可視化した。

また、担当者にはスキルの保持状況を公開。次のレベルの目標を個々に設定した。その結果、対応範囲は大幅に広がり、問い合わせ件数が2年間で約2倍に増加したが、人員補充は約1割増でとどめることができた。

知識の統一とマルチスキル化の取り組み

知識の統一とマルチスキル化の取り組み

しかし、この施策も長くは続かなかった。担当者から「負担が重い」という意見が次第に出るようになったからだ。マルチスキル化は実現したが、問い合わせの増加に追い付けないのが原因だった。これを受け、2016年1月にはコールセンターシステムを導入。業務効率化で一定の成果を得たが、全体のパフォーマンスを向上させるには限界だった。

1コール解決率の低下と営業サポート対応も課題に

そのほかにも課題があった。コンタクトセンターでは、顧客満足度向上の一環として「1コール解決率」を増やすことを目標に立てている。1コール解決率とは、一回の問い合わせで顧客の疑問や課題を解決できたかを示す指標だ。

マルチスキル化によりセンター人員は得意分野以外の知識や対応スキルも習得していた。しかし、十分とはいえず、詳しい担当者に聞いてから折り返し回答の電話をすることが多くなっていた。当然、解決率も低下する。また、その間、顧客は折り返しの電話を待たなければならず満足度の低下にもつながった。

さらにセンターでは営業部門のサポートも担当。新商材の契約方法や技術的な問題について対応していた。この業務では事業拡大の影響で、営業からの問い合わせが殺到。全体の問い合わせ数の約2割を占めるまでになり、大きな負荷となっていた。

「自己解決」をキーワードにFAQシステムに着目

「担当者の知識・対応スキルの向上」「センターの業務低減、生産性向上」「1コール解決率の向上」…。こうした課題解決に必要なのは何か。

小谷シニアマネージャーが出した答えは「自己解決」だった。それには「各メンバーの持っている知識を集約して共有する以外に解決策はなかった」(小谷シニアマネージャー)という。その実現に向け着目したのが「社内向けFAQシステム」だった。

しかし、導入したコールセンターシステムとは異なり、社内向けFAQシステムは業務効率化に直接は結び付かないことが懸念された。実際、導入を提案した時には経営層からは費用対効果について疑問が出たという。

そこで、小谷シニアマネージャーは、脱コストセンターの取り組みの一環として、社内向けFAQシステムを位置付け、システムが生み出す価値を訴求することから始めた。「顧客に公開して利便性を高める」「営業担当者が訪問先で情報を迅速に提供できるツールで利用する」など、活用方法を提案してメリットを訴えた。

そして、小谷シニアマネージャーの粘り強い提案に加え、当時、営業部門が統合され営業担当者もマルチスキル化を求められてきたことが追い風となり、導入が決定した。

小谷シニアマネージャーは2016年4月、プロジェクトマネージャー(PM)となり、技術部門、マーケティング部門、管理部門の責任者で構成された社内向けFAQシステムの導入チームを結成。「検索精度」「費用」「使いやすさ」「サポート」を評価項目に決めて選定を行っていった。

中でも「検索精度」を特に重視した。情報の取得を瞬時に行うためには高い検索精度が必要だったからだ。同じく「サポート」にも運営の面で重きを置いた。また、使いやすさでは、センターの担当者に検討しているベンダーのシステムを採用する他社のFAQシステムを実際に操作してもらい、使用感をアンケートで収集して点数化した。

検討の結果、オラクルの「Oracle Service Cloud」に決定した。具体的には、AI(人工知能)で検索のヒット率を高めている点を評価した。操作のサポートだけではなく、データ分析や運営方法などについての提案をしてもらえることもポイントだった。

担当者の知識を吸い上げ700の回答作成 「知識の属人化」の完全撤廃へ

小谷シニアマネージャーが導入フェーズで、一番時間をかけたのが「ナレッジの蓄積」だった。ただ、今まで属人化していた知識をほかの担当者と完全に共有するということは容易なことではなかった。

マルチスキル化の取り組みの一環としてこれまでも勉強会を定期的に開催し、自分の専門分野をほかの担当者に教える取り組みを実施していたが「全ての知識をもらさず共有するのは難しいと考えていた」(同)という。そこで、コンタクトセンター、技術部門、営業部門の人員ひとりひとりから、今まで個人的にエクセルなどで管理していたものを収集。その集めたデータについて項目を抽出し、各項目の回答を作っていった。

 

FAQシステム導入のスケジュール案

FAQシステム導入のスケジュール案

この手順でシステムの運用開始まで半年をかけて約700項目を作成。一方で情報の質にはこだわった。具体的には画像を追加して分かりやすい内容になるように作り込んで技術者がひとつひとつを検証した。

システム導入効果で1コール解決率が35.3→59%に上昇

こうして、システムは2016年10月には公開にこぎ着けた。しかし、公開当初、営業部門からの問い合わせは減らなかったという。「分からないことがあったらコンタクトセンターに聞くという習慣はなかなか変えられない。そもそもFAQシステムの認知度も低かった」と小谷シニアマネージャーは振り返る。

FAQシステムの画面

FAQシステムの画面

そこで、コンタクトセンターでは社内から問い合わせが来たら、FAQシステムを見てもらうように誘導するといった地道な啓蒙(けいもう)活動を続けた。その結果、半年でFAQシステムのアクセス数は倍増し活用が進んだ。また、マルチスキル化が最も難しいとされていたネットワーク機器関連の1コール解決率も改善。2013年度に解決率は35.3%だったが、2016年度には59%と大幅に上昇した。

顧客への要望をビジネスへつなげるコンタクトセンターへ

導入したFAQシステムは、コンタクトセンターの担当者たちから「欲しい情報がすぐに取り出せて、内容も分かりやすい」と好評だという。

スターティアでは今後、顧客向けにFAQシステムを公開していく予定だ。背景にはコールセンターへの問い合わせを減らすだけでなく、顧客への情報提供を充実させ、満足度を高める狙いがある。さらに「対応履歴から顧客の要望をテキストマイニングで抽出し、営業活動に生かしていきたい」と小谷シニアマネージャーは意気込む。

一般に顧客のサポートセンターは、サービスへの要望や不満などの情報が集まってくる顧客との貴重な接点だ。ここにはビジネスのヒントとなるデータが豊富に埋まっている。スターティアでは、コンタクトセンターを“プロフィットセンター”として、より一層の価値を生み出す部門にするための挑戦をこれからも続けていく。

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