【情シス奮闘記】第14回 契約から保険金払いまでWebでワンストップを実現 ユーザビリティー向上も図る au損保
au損害保険(au損保)は、自転車保険などで保険契約から事故連絡・保険金支払いまでをWeb上で完結させるワンストップサービスを2016年12月1日から開始した。
au損保は、あいおいニッセイ同和損保とKDDIが出資し、2010年に設立。スマートフォン(スマホ)の普及をにらみ、「スマホでソンポ」をコンセプトに掲げる事業戦略を打ち出している。今回のワンストップサービスは、これを受けたものだ。自転車向け保険では業界初の取り組みとなる。
au損害保険 損害サービス業務部 業務グループ 渡辺美和氏(左)、小泉雅裕・IT統括部 部長補佐
サービス実現に向けたシステム導入には、どんな取り組みがあったのか。システム導入プロジェクトの取りまとめ役を務めた小泉雅裕・IT統括部 部長補佐と、ユーザビリティーの助言役としてプロジェクトに参加した損害サービス業務部 業務グループ 渡辺美和氏に聞いた。(取材・文:水上健)
「保険金請求はなぜ、紙ベース?」の問い合わせ
au損保が今回、投入したワンストップサービスの対象となる保険商品は、自転車向け保険「Bycle」「Bycle Best」「Bycle S」と、国内旅行保険、ゴルフ保険。保険種目別に専用画面を用意し、事故の報告や保険金の請求について、Web上で全てを完結できるようにした。
今回のサービスでは、請求補償について、医師の診断書が不要となる通院期間5日間以内に限定した。これは損害査定では病院から提供される診療資料から通院数を割り出す必要があるが、5日間以内の通院の場合であればWebでの確認事項のみで完了できるためだ。
au損保では、これまで事故が発生した場合、保険加入者は電話でau損保に事故報告を行い、与信などの保険金請求書を作成して郵送する手順をとっていた。
電話や書類でのやりとりはタイムラグと手間がかかる。実際、保険契約者からも「なぜ、保険金請求は紙ベースなのか」という問い合わせが多く寄せられていたという。au損保のWebサイトにある問い合わせページのアンケートから事故相談を受けることも少なからずあった。
背景にはスマホやタブレットなどの普及で、PCをはじめ携帯端末からも、手間をかけずに請求処理をしたいという加入者ニーズの高まりがある。しかし、au損保では、契約者の問い合わせに対し、一部だけしかシステム対応ができていなかった。
「旧システムではWeb上に事故情報を記入する欄が少なく、詳細な事故に関する情報は、サイトのフリー欄に入力してもらう必要があった。そのため、どうしてもお客様の手を煩わせていた」と、小泉雅裕部長補佐は振り返る。
その1つが契約者の生年月日の入力欄。現在はプルダウンが多い西暦表記も8桁の入力を必要としていた。こうした手間から、多くの契約者は入力を諦め、電話での対応を選んでいた。その結果、損害サービス業務部では電話でのやりとりや郵送された書類を手書きで転記するなどの作業が発生していた。
Webで事故報告、保険金請求ができるシステムを目指す
au損保ではこうした課題を解決すべく、新システムを導入し、Webサイトのリニューアルを決断した。システム導入のプロジェクトは小泉部長補佐がプロジェクトマネージャーとなり、2016年の年明けからスタート。旧システムの問題の洗い出しを3月まで行った後、会社から正式な承認を得て、4月から開発に着手した。
目指したのは、Webでの事故情報の報告と保険金請求のペーパーレス化を行い、オンラインで保険金の支払いが完結するサービス。これには保険契約者の利便性を上げることはもちろん、競合他社と差別化、損害サービス部の作業削減を図る目的もあった。
開発はユーザーインターフェース(UI)などのフロントヤード、顧客データベース(DB)などのバックヤードで、それぞれ2社のベンダーに委託。ミーティングを毎週重ねながら進められた。
au損保が重視したのは契約者の使いやすさ。その実現のために契約者視点でシステムに対しアドバイスを行ったのが、損害サービス業務部の渡辺美和氏だ。
損害サービス業務部は、問い合わせ業務などで加入者と直接接点を持ち、契約者の要望を最も把握している。渡辺氏は開発ミーティングで決定した機能をベンダーが反映後、その機能について部門に持ち帰り、契約者が使いやすいかどうかを検討。その内容を次のミーティングで報告するという役割を担った。検討では特に入力項目に注意を払ったという。
「お客様とコンタクトをとる際、事故状況などの情報を多く入手していたほうが、流れが早くなる。だから、詳細な情報をお客様に入力していただくことがベター。しかし、項目が細かくなりすぎると入力の手間が増えてしまう、そのバランスが重要だった」と、渡辺氏は説明する。
一方、小泉部長補佐は、損害サービス業務部から出される意見を聞きながら、すり合わせを行い、UIや機能を決定していった。「機能は入力項目の設定、並び順を中心に実装していった。一方で入力したデータを損害サービス部がどのように業務と結び付けることができるのか、そのために、データをどう処理するかを考えた」と、小泉部長補佐は話す。
使い勝手のよい、高いユーザビリティーを重視
開発チームは、高いレベルのユーザビリティーの実現に取り組んだ。事故発生直後、スマホからの入力の際、証券番号などが分からない人が多いと判断したからだ。
そのために、入力された項目を元に、契約情報などをDBから自動で照合する機能を搭載。事故連絡では契約者がイラストで自分が該当する内容を確認して簡単に報告できるようにした。こうして契約者の入力ストレスの軽減を図った。
事故連絡・保険金請求の入力トップ画面。事故内容についてイラストで分かりやすく表示
また、入力欄は必須項目と任意項目に振り分けた。必要な項目を「必須項目」として絞り込むことで契約者が入力する手間が減り「より使い勝手が高まると考えた」(小泉部長補佐)からだ。必須項目は「メールアドレス」「氏名」「事故の発生場所」など。任意項目は「手首を骨折した」などの具体的な症状にした。
簡素化された入力項目の詳細画面(ペット保険以外)
一方で、その場で分からない場合や打ち込みが困難な場合は、損害サービス業務部とメールのやりとりなどで、状況のヒアリングができるようにした。任意項目以外の情報のやりとりもメールだけでなく、電話での受け付けも可能にした。
また「契約者が打ち込んだ個人情報のセキュリティ確保に苦労した」と小泉部長補佐は話す。システムは当初、契約者が入力した個人情報のセキュリティ確保の観点から、フロントとバックヤードを基幹システムと連携しようと考えた。しかし「莫大な予算がかかってしまう」(小泉部長補佐)と見送った。
代わりに、フロント、バックヤードの機能を分離。契約者が入力したデータはバックヤードのDBと連携させ、入力された項目から契約に関する情報を照合する仕組みにした。しかし、この方法ではフロントで入力されたデータを一時的に退避させる必要があり、その段階でセキュリティ面での問題が残る。
そこで、フロントで入力されたデータをクラウドサービスのストレージに一時的に退避させ、DBに移行された直後に消去する基盤を構築することでセキュリティを確保した。こうして、システムは半年強で開発が完了した。
全事故件数の1割がWeb経由に
新システムは2016年12月に稼働を開始。導入してまだ日は浅いが、加入者へのアンケートでは「ストレスなく入力できた」という回答が寄せられている。自転車示談の案件では、Webによる事故報告などの処理速度が向上し、10日間で支払いが完結。契約者と示談相手の双方から感謝されたという。
事故保険の受け付けが充実したau損保のサイト
また、ゼロに近かったWebによる保険金の支払いは、au損保の全事故件数の約1割に達している。「システムがお客様に浸透すれば、2割、3割と利用率がアップしていくと思っている」と小泉部長補佐は期待を込める。
一方で、課題も残る。現在はサイトに画像のアップロード機能がないため、契約者は事故状況や領収書の画像などはメールで送る必要がある。こうした点も今後は解決していく予定だ。「機能だけなく、5日間という通院の枠組みもあり、現在の形で全てが完結しているわけではない。第2フェーズも近いうちにも取り組みたい」と、小泉部長補佐は意気込みを示した。
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