「ソフトバンクワールド2016」孫社長がAI活用のグループ成長戦略を発表
ソフトバンクは、グループ最大規模の法人向けイベント「ソフトバンクワールド2016」を7月21日と22日にかけて開催した。21日はソフトバンクグループの孫正義社長が基調講演を行い、英国の半導体会社「ARM(アーム)」を買収した狙いと今後の見込みについて発表。22日には宮内謙・ソフトバンク社長が基調講演で、AI(人工知能)とIoT(モノのインターネット)が変えるビジネスの未来について語った。
孫正義・ソフトバンクグループ社長
この記事の目次
アーム社は10年程前から買収したいと考えていた
「アーム社のことは10年ぐらい前からいつか(買収したい)と考えていた」。
孫社長は講演でこう切り出した。
実際に買収がまとまったのは、買収発表をした日の2週間前という。トルコの港町のとあるレストランでアーム社の会長と社長を交えてランチをした時がきっかけだったという。孫社長はアーム社の社長とは何度も会ったことはあるが、会長と会うのはその日が初めてだったといい、そこで初めて「アーム社の買収」という“プロポーズ”を行い、わずか2週間で買収の発表まで、電撃的にこぎ着けたと語った。
「人類が今まで体験した中で、初めて遭遇する新たな技術的特異点『Singularity(シンギュラリティー)』に対して、自分は何ができるのかずっと考え続けていた。これに対する自分なりの答えがアーム社(の買収)だった」。孫社長はアーム社の買収理由を、こう説明した。
続けて、「アーム社の買収は、囲碁で例えるならば重要な“飛び石”」と説明。「定石ならば自分が持っているのと同じ色の石のそばに置くとわかりやすいが、先の先を見据えて考えると、どうしてここに石を置いたのか意味がわかる」と熱弁した。
ソフトバンクの原点はマイクロチップ(半導体)
続いて、話は40年前、ソフトバンクを起業した原点にさかのぼった。孫社長は、アメリカ留学中に読んだサイエンス雑誌で摩訶不思議な写真に巡り会ったエピソードを披露。
ソフトバンクの原点である「マイクロチップ」について語る孫社長
「その正体は、指先に乗っかるほど小さなマイクロチップの拡大写真だった。その時、両手両足の指がジーンとしびれて感動した。ついに人類は、自らの知性を超えるモノを生み出した。その感動と興奮を40年間、脳の潜在意識に封印していた」と述懐した。
今後20年で地球全体にアームのチップを1兆個ばらまく
ソフトバンクは、パソコンからインターネット、そしてモバイルインターネットへという、パラダイムシフトの度に事業領域を変えて成長してきた。この変遷で一貫していえるのは、「情報革命に合わせて成長している」ということだ。
そして今、人類史上最大のパラダイムシフトである、すべての物がインターネットにつながるという「IoT」が起きており、コンピューターが人類の知性を超える日が訪れようとしている。そのカギとなるのがAIで、支えるのが半導体だ。
孫社長はこうした流れを受け、ソフトバンクの原点である40年前に見たマイクロチップを引き合いに出し、「人間の脳細胞とCPUの1チップのトランジスタ数を比較すると、2018年を境に人間の脳細胞の数を超えるだろう」と説明。「2040年には1チップのトランジスタ数が人間の脳細胞の100万倍にもなり、ありとあらゆるディープランニング(深層学習)をAIが瞬時にこなせるようになる」と話した。
孫社長によると2018年には半導体のトランジスタ数が人間の脳細胞の数を超えるという
またAIの進化ではアーム社のチップが活躍すると強調。「今後20年間でアーム社が設計したチップは地球全体に1兆個(現在は148億個)がばらまかれるようになるだろう」と強調した。
ソフトバンクでは買収したアームの半導体を核にして、AIを活用し、地球上の森羅万象のデータを集め、自然災害の予知・推論や、病の治療などに生かしていくとを孫社長は話し、今後のグループの成長戦略の考えを示した。
ソフトバンクホークスの強みはAIとデータ
孫社長の講演が行われた翌日の22日には宮内謙・ソフトバンク社長が基調講演に登壇。「AI」と「IoT」を活用した具体的な事例を紹介した。
宮内謙・ソフトバンク社長
講演ではオーナーである福岡ソフトバンクホークスを例に出し、今シーズン躍進している強さの秘密について「データを持っていること」と説明。
「監督、選手が素晴らしいのはもちろんだが、監督、コーチ、選手一人一人がスマートフォン、スマートパッドを持ち最新のデータを素早く共有。戦略を練ったり、故障要望をしたり、練習プログラムを作成したりといったことをAIで活用し始めている」と語った。
この取り組みは医療に関しても有効で、AIを組み合わせて膨大なデータから最適な治療法を提示できるようになると話した。
宮内社長は今後、ビジネスで優位に立つ企業は、AIもデータも持っている企業であり、そうではない企業との差が歴然と現れると強調。一例として、自社の法人営業部門で試しているAI活用の取り組み「ソフトバンク・ブレーン(スマートフォンで使えるAI)」やコンタクトセンターのAI活用事例を紹介した。
人間とロボットのすることを考えるべき
同日には、グループ内でロボット事業を推進している冨澤文秀・ソフトバンクロボティクス社長も基調講演を行った。
冨澤文秀・ソフトバンクロボティクス社長
冨澤社長はグーグルのOS「Android(アンドロイド)」に対応した人型ロボット「Pepper(ペッパー)」の開発者向けモデルを紹介。法人向けモデルを8月以降に「Pepper for Biz 2.0」へとバージョンアップすることも発表した。
加えて、法人向けモデルではマルチプラットフォームに対応していくほか、業務用ロボアプリのラインナップを拡充し、「インバウンド」「接客」「ヘルスケア」「受付」のカテゴリーに分けた28種類のロボアプリを8月以降順次提供する方針を示した。
また、「Pepper」に代表されるロボットの今後について「2040年には全世界に100億台が存在するだろう」という見通しを示し、「『人間は何をして、ロボットは何をするのか』という分業を前提として考えなければいけない。法人なら、ロボット活用を前提で事業プランを作成していくべき」と強調した。
さらに「今後、家庭でヒューマノイド型のスマートロボットがセンターデバイスとなってIoTを制御する世界が訪れる」と話し、最後に「『日本=ロボット、ロボット=日本』といわれるようにロボットで日本が世界をリードしていきたい」と締めくくった。
カテゴリー: