BC Vol:06「あの“電子国家”がブロックチェーンをかなり前から活用している件」
ブロックチェーンと言うと仮想通貨を思い浮かべると思いますが、この”ブロックチェーン技術”は仮想通貨だけに限ったものではありません。
先日の電子政府の記事でも触れていますが、ブロックチェーン技術を国家運営に活用し、電子国家として注目の「エストニア」を紹介します。
この記事の目次
エストニアは牧歌的で美しいところですが、先端テクノロジー国家です
当時、自民党の筆頭副次幹事長の小泉進次郎さんが政調会議で使う資料を「今後ペーパーレスにする」と宣言しました。資料をフェイスブック上にアップして、タブレットで共有。コストカットと業務効率化がねらいのようです。
このようなIT活用のデータ化について。誰もがスマホやタブレットを持ち、SNSのビジネス利用やオンラインストレージの利用も今や当然。この現状を考えれば、今後、あらゆる情報がよりデータ化してくのは明らかです。生活、ビジネスの隅々まで情報化が広がり、デバイスからさまざまな手続きも行える。いつかはそんなスタイルが当たり前になると感じている人も多いでしょう。
さて、その実現には日本では少し時間がかかりそうですが・・・、実はそんな未来をすでに実現している国があります。
エストニアという国を知っているでしょうか? リトアニア、ラトビアと並ぶ「バルト三国」のひとつで、総人口わずか130万人の小さな国です。観光イメージでは、美しい北欧の風景と世界一美男美女が多い国で有名ですが、実は“ものすごい”テクノロジー国家。あのスカイプ発祥の国でもあり、さらに世界に先駆けブロックチェーンを公的サービスに活用している国なのです。
今回は、知られざるテクノロジー国家・エストニアのITを紹介していきましょう。
15歳以上の国民には「eIDカード」が発行されます
エストニアがテクノロジー国家であることを印象づけるのが、「eIDカード」。15歳以上の国民の保持が義務付けられているもので、日本でいえばマイナンバーカードのようなもの。そもそも、マイナンバーの元ネタでもあるとか。
eIDカードのメリットのなかで、よく知られているのが4つの医療サービス。「電子保険記録システム」、「電子画像管理システム」、「電子処方箋システム」、そして「電子予約登録システム」です。国民保険情報、個人情報、通院歴・病歴・薬歴、レントゲン情報がデータベース化されていて、医療機関は初来院の患者さんでも、スムーズに情報を確認できます。また、患者さんにとっても、オンラインから通院予約ができ、かつeIDカードを提示するだけで服用薬を処方してもらうことができます。
このように医療サービスだけでも魅力的ですが、実はまだまだほんのひとにぎり。エストニアの行政サービスの99%は電子化されていて、税金の申告も、移転届けも、さらに出産届けなどもオンラインで完結。つまり、スマホを持っているだけで、生活に必要なあらゆる行政サービスを利用できるのです。すごい。
国家レベルでのブロックチェーン導入についても、世界初といわれています
ITで世界をリードするエストニアですが、ブロックチェーンについてもいち早く国家レベルで検討し、先述の医療をはじめ、大切な情報の管理に活用してきた国としても知られています。
遡れば、エストニアがブロックチェーンの導入を検討したのは、なんと1990年代後半。そこから2011年ごろから導入がスタートし、現在ではすでに法律や安全保障などの登記にも活用されているのだとか。
ビットコインがはじめて発行されたのが2009年。そして、ブロックチェーンが認知度を得たのは最近のこと。それなのに、すでに国の基盤技術に活用している国がある事実に驚愕です。
そこには、逆境からのスタートがあるようです
エストニアの先進的な取り組みは、国家としての進退をかけたものだったといわれています。
1991年、エストニアは旧ソ連から独立を回復させました。しかし、あらたな国家建設を目指すも、目新しい産業はなく、資源にも乏しい。この逆境を打破する方法として選んだのがITでした。
1996年。当時のレナルト・メリ大統領は「タイガーリーププログラム」を発表し、「すべての学校をインターネットでつなぎ、国民にパソコンを普及させる」取り組みを行っています。また、電話線も数少なかった環境も幸いし、2000年代初頭になると携帯電話も爆発的に普及。あっという間にITのインフラ化は進んでいきました。
また、エストニアが電子政府であることを世界に決定づけたのが2007年に勃発した大事件。一部にはロシアの関与が噂されているサイバーテロを受け、ITインフラの一部が麻痺しました。現在、エストニアのオンラインバンキング率がほぼ100%といわれていることからもわかるように、もし、ネットが完全にダウンしてしまえば、その影響は計り知れません。しかし、この危機を自国の対策チームだけで対処し、インフラの維持を守り抜いたのです。この事件は、のちに世界初の「サイバー戦争」だったともいわれますが、自国のエンジニアの能力の高さを世界に知らしめた結果にもなりました。
さらに、近年では、2012年に先述のタイガーリーププログラムのネクスト・プロジェクトである、「Proge Tiiger」もスタート。小学生からプログラミングを学ばせる取り組みがはじまっています。近い将来、スカイプのように、世界中で利用されるサービスを生み出す若手が続々と登場するかもしれません。
エストニアのように電子国家をめざすことは簡単ではありません。日本と比較しても人口は10分の一に過ぎず国土も九州程度。この規模だからこそ、急速なIT化を実現できたとも考えられます。しかし、世界に類を見ない高齢者社会にあり、かつエネルギー資源枯渇問題も深刻化。加えて、ITリテラシーについて度々指摘される日本において、エストニアは学ぶべきことがたくさんある国だといえます。
【執筆:編集Gp 坂本 嶺】