使える! 情シス三段用語辞典67「スマート・コントラクト」
- 2018/9/19
- ナレッジ, 情シス用語辞典
- イーサリアム, スマートコントラクト, ブロックチェーン
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常に新しい用語が生まれてくる情報システム部門は、全ての用語を正しく理解するのも一苦労。ましてや他人に伝えるとなると更に難しくなります。『情シスNavi.』では数々のIT用語を三段階で説明します。
一段目 ITの知識がある人向けの説明
二段目 ITが苦手な経営者に理解してもらえる説明
三段目 小学生にもわかる説明
取り上げる用語を“知らない”と思った人は、小学生にもわかる説明から読んでみると、理解が深まるかもしれません!?
一段目 ITの知識がある人向け「スマート・コントラクト」の意味
スマート・コントラクトとは、ブロックチェーン上で機能するプログラムのひとつである。
ビットコインに次ぐ知名度を誇るブロックチェーン「イーサリアム」最大の特徴としても語られ、イーサリアム×スマート・コントラクトを活用したサービスが複数リリースされている。
それらの特徴は「契約の自動化」。たとえば、送金や決済、認証などのブロックチェーンサービスをつくったとする。このとき、必須となるユーザーとの契約事項(送金であれば、送金に至るまでに必要な「いつ」「誰に」「いくら」)を自動で記録し実行してくれる機能がスマート・コントラクトだ。
スマート・コントラクトは、たびたびイーサリアムとともに紹介される。だが、その歴史はイーサリアムよりもはるかに古い。また、もともとはプログラムではなく「概念」である。アメリカの法学者/暗号学者「Nick Szabo(ニック・スザボ)」が1994年に提唱した「デジタルおよびプログラム化された契約」の概念であり、それをブロックチェーン上に実装したのがイーサリアムであった。
なぜ、スマート・コントラクトが話題を集めるか? については、「ブロックチェーンとの融合による革新的メリット」がその答えだ。「事実上改ざん不可能なシステム」上で、「あらゆる契約事項を自動化」できる。つまり、不正の心配のない環境で、契約にかかる人員と労力/コストを割かずサービスを提供できることから、現在、さまざまな分野での活用が検討されている。
二段目 ITが苦手な経営者向け
とある不動産会社のオフィス。必要書類の誤送信からたいへんな事態に—
Aさん:部長、管轄部署にFAXするはずのお客さまの登記簿謄本を誤送信してしまいました。。
部長:・・・、一大事だ。現状はどうなってるんだ?
Aさん:先ほど、誤送信先の会社からご連絡をいただいたところです。
部長:わかった。すぐ会社さんへお詫びと登記簿謄本の回収に向かってくれ。そのあと、私と一緒にお客さま宅に謝罪と経緯のご報告に行くぞ。あとでよいからHPに掲載する情報漏えいのお知らせの文言もしっかり考えておいてくれ。
一通りの対応が無事終わり、夜のオフィス。部長はひとり、Aさんの作成した文章を確認している。そこに通りがかった、仕事終わりの情シスの鈴木さん—
鈴木さん:遅くまでおつかれさまです。
部長:おう、鈴木くんか。君もこんな時間までおつかれさま。もう少しで終わるから、どうだね、このあと一杯?
鈴木さん:いいですね。お伴させていただきます。
部長は、この先、会社の競合優位性を確保するためにはITしかないと感じている。しかし、自分では少しITが苦手。そこでベテラン情シスの鈴木さんを懇意にしていた—
部長:おつかれさん!
鈴木さん:おつかれさまです。なんか、今日たいへんだったみたいですね?
部長:そうなんだよ。かくかくしかじかで・・・。
鈴木さん:なるほど。でも、人が書類を扱っているかぎり、リスクはゼロにはなりませんよね。気をつけていても、万が一はある。
部長:いきなり、痛いところをつくなよ(笑)。そういうのはITでなんとかならんのかね?
鈴木さん:データ化によるペーパーレスは今でも十分可能ですよ。でも、ペーパーレスだけで、今回のような情報の扱いやお客さまとのやり取りの過程で生じるリスクを下げられるとは思えません。
部長:だよな。中古投資物件事業だけでも、売渡承諾書、買付証明書、不動産売買契約書、重要事項説明書。さらに住民票や今回の登記簿謄本など、扱う書類が多すぎるよ。だから・・・、今日はかなり怒ってしまったけど、新人がミスを起こすのもわからなくはないんだ。
鈴木さん:そうですよね。でも、可能性がないわけではないですよ。今、「スマート・コントラクト」が浸透しはじめているし。
部長:なんだ? スマートなんちゃらって?
鈴木さん:部長、ビットコインって聞いたことあります?
部長:そのぐらい知ってるさ。仮想通貨のひとつだろう。
鈴木さん:そうです。その仮想通貨を安全に流通させるための技術をブロックチェーンっていうんですけど、スマート・コントラクトはそこに追加できる機能なんです。
部長:さっぱりわからん。
鈴木さん:まずブロックチェーンは、簡単に言うと安全な台帳みたいなもの。そこに記録した情報は事実上改ざんすることができない仕組みになっているんですね。あと、個人が情報を流出させない工夫もできます。これを不動産業にあてはめてみると、重要な情報をブロックチェーンで記録しておけば、まず改ざんされないし、今日みたいな“うっかり流出”も防げる。
部長:おお。
鈴木さん:ただ、お客さまとのやり取りについて考えてみると、契約成立までに考えられるリスクや手間は変わらない。ブロックチェーンは、ただ単に安全に情報を記録しておけるだけですから。そこで注目すべきなのがスマート・コントラクトです。「契約の自動化」ができるんですよ。たとえば、中古物件を買いたいお客さまとのやり取りがあったとしますよね? このとき、必要になるのは、「お客さま」のほかに、「必要書類」と「担当者」。
部長:そりゃ、そうだ。
鈴木さん:書類内容と担当者の判断により、お客さまは物件を購入にする信用を得るわけですが、スマート・コントラクトを使えば、「書類」も「担当者」も不要。契約成立まで、自動で正しい工程が踏まれるんです。どういうことかというと、お客さまが、インターネットから必要事項を入力するだけで信用が証明されて、物件を買えるようになる。
部長:逆を言えば、我々としても書類確認が不要になり、担当者つけなくていいってことか。ヒューマンエラーを回避でき、加えて、労力もコストも省ける。
鈴木さん:ですね。なぜかと言うと、スマート・コントラクトって、売買にかかる詳細情報や契約のための必須事項などを覚えさせることができるんですね。だから、“お客さまがこう入力したらOK”とかをあらかじめ決めておくことができ、自動化できるんです。しかも、ブロックチェーン上でのことなのでペーパレスですし、情報の安全性も担保できるというわけです。
部長:すごいな。
鈴木さん:たしか、「REX」という名前だったと思いますが、海外ではスマート・コントラクトを活用した不動産取引のマッチングサービスがすでにあるそうです。日本の市場は海外ほどではないですが、いずれREXみたいな、不動産系のサービスも出てくるんじゃないでしょうか。
部長:なるほどね。そうなると、現時点ではまだ、当社のペーパーレスや不動産契約の自動化は難しい、か。でも、スマート・コントラクトの動向は押さえておくべきだよな。また、なんか情報あったら教えてくれよ。
鈴木さん:はい、よろこんで。
三段目 小学生向け
のりお君は世の中の不思議が大好き。
なんで鳥は空を飛べるんだろう? なんで星はあんな遠くにあるだろう? なんで自動車はあんなに早くはしれるんだろう? わからないことがあると、ずっと考えちゃう。
さらに、のりお君は、“なんで人って考えるんだろう?”なんて難しいことも。そうすると、パパは決まって「のりおは将来、えらい学者さんになりそうだね」って、ほめてくれるんだ。それがうれしくて、また考える。
ある日のこと。家の近くの公園で、パパとキャッチボールをした帰り道、喉が渇いたのりお君はパパにおねだり。
「パパ、ジュース飲みたい!」
たくさん遊んだもんなと、パパはお財布からお金を取り出して自動販売機に入れようとした。
“だめ、僕がするの”って、のりお君がお金を入れてオレンジジュースのボタンをポチ。ガシャンという音と一緒にジュースが出てきた。
おいしいな、おいしいな。
よし帰ろうとパパが手を握ると、のりお君のいつもの不思議がはじまった。
ねえパパ、なんで自動販売機って、お金とボタンでジュースが出てくるんだろう? なかにお兄さんが入ってる?
「どうしてかな、考えてごらん」とパパ。
う〜ん、お兄さんはたぶんいないよね。だって、自動販売機のなかってきっとまっ暗で怖いし、それにとっても暑そうだもの。
「正解、お兄さんはいないね」
でも、なんで誰もいないのにジュースが出てくるんだろう? う〜ん、もしかするとコンピュータのおかげかなぁ?
「えらいぞ、それも正解だよ」
続けてパパはこう言った。
「自動販売機にはね、ふたつの決まりごとがあるんだよ。ひとつはお金について。ジュースのねだんのお金が入ってくると“買えるよ”ってボタンのランプをつけなければいけない。もうひとつは、ジュースを出すこと。ちゃんとお金が入っていてボタンも押されたら、必ずそのジュースを出さなければいけないってことさ。このふたつの決まりごとをコンピュータが守っているから、みんなジュースを買えるんだ」
やった、大正解! よろこぶのりお君。とってもうれしくなって、“ママのお買い物も自動販売機みたいになればラクチンなのにね”って言ってみた。
パパは、「やっぱり、のりおは学者さん向きだね」と笑う。
「自動販売機みたいな仕組みはね、今とっても注目されているんだよ。もう一度考えてごらん。たとえば、お店でジュースを買ったらどうなるかな?」
うんとね、あのジュースくださいって言うでしょ、そのあとお金を渡すでしょ、そしたらジュースをもらえる!
「そうだね。でも、お店の人はたいへんだよね。たくさんのジュースのなかから、のりおが欲しいジュースを探さなくちゃいけなし、お金が本物かどうかだったり、ねだんがあっているかを確認しなくちゃいけない。それにずっと一日中ジュースを売るわけにもいかない」
うん、とってもたいへん。
「でも、自動販売機はそれを全部コンピュータがやってくれる。こういう仕組みを『スマート・コントラクト』っていうんだ。とても便利な仕組みだから、今、世界中のみんながどんなことに使えるかなって考えているんだよ」
僕、わかっちゃった! お金とボタンじゃなくてもいいんだね。たとえば、教科書とふでばこをコンピュータの上に乗せると、授業を受けられるとか。そしたら、忘れ物調べとか“廊下に立ってなさい”なんていらないよ!
「はは、そうそう。ある決まりごとをつくっておけば、コンピュータが自動でそれをチェックして、のりおは欲しいものを受け取れたり、なにかの許可をもらえたりする。それがスマート・コントラクトなんだ」
じゃあじゃあ、ママがスーパーに行って、お肉や野菜の名前のついたボタンを押すでしょ。それで、コンピュータの上にママの写真を乗せると、自動で買い物がお家に届くの。それも、スマート・コントラクトでできる?
「もしかしたら、未来にはそんなスーパーができてるかもしれないね」
それだったら、いいなぁ。だって、僕たちのゴハンをたくさんカゴに入れて、たくさんの人の列に並んで、いつもママはたいへんそうなんだもの。それに・・・、スーパーのレジの人も、きっとそのほうがラクチンだよね。
さて、皆様のご理解は深まったでしょうか?
【執筆:編集Gp 坂本 嶺】