IT周りの管理者である情報システム部のみなさんは、日々社内のメンバーが安全にネットワークを利用できる環境を整備する必要があります。その一環を担うのがVPNによるアクセス環境を整える方法です。この記事では、VPNの仕組みや導入方法、安全性などについて解説します。
この記事の目次
1.VPNとは
VPN(Virtual Private Network)は、インターネットを通じて安全にデータをやり取りするための仕組みです。通常のインターネット通信では、データが暗号化されずに送受信されるため、悪意ある第三者にデータを盗み見られるリスクがあります。一方でVPNは、インターネット上に仮想的なプライベート専用回線を作ることで、データを暗号化し、安全に通信できる環境を提供します。そのため、仮想専用ネットワーク」とも呼ばれます。
たとえば、公共Wi-Fiを利用する際にVPNを使えば、データの盗聴や改ざんのリスクを大幅に軽減することができます。また、企業内ネットワークへのリモートアクセスや、地理的制約を回避して海外のコンテンツを利用する際にも広く活用されています。
2.VPNの仕組みや導入方法について
VPNの仕組みは、インターネット上で安全なトンネル(通信経路)を構築し、その中でデータを送受信します。このトンネルを作る際に使用される技術として、IPSec、SSL/TLS、PPTP、L2TP/IPSecなどがあります。これにより、データは暗号化され、第三者が内容を盗み見ることが困難になります。
導入方法の4ステップ
1|VPNサービスの選定
無料、有料問わず、用途に合ったVPNサービスを選びます。有料サービスでは、セキュリティ機能や通信速度が充実しています。
2|VPNクライアントのインストール
選んだサービスに対応するアプリやソフトウェアをデバイス(PCやスマートフォン)にインストールします。
3|接続設定
サービス提供元から提供される接続情報(サーバー名やユーザー名、パスワード)を設定します。
4|接続の確認
VPN接続を有効にし、安全に通信できていることを確認します。
多くのVPNサービスでは、初心者向けに簡単なセットアップガイドを提供しているため、難しい技術知識がなくても比較的簡単に利用を開始できます。
3.VPNの種類、種別
VPNにはいくつかの種類があり、用途や目的によって選択が異なります。以下に代表的な種類を挙げます。
リモートアクセスVPN
主に企業で利用されるVPNの形式です。社員が自宅や外出先から企業内ネットワークに安全にアクセスできるようになります。
サイト間VPN(拠点間VPN)
複数の拠点を持つ企業が、それぞれの拠点間で安全にデータ通信を行うためのVPNです。企業の規模や予算、通信の安定性のニーズに応じて方式が選ばれます。各方式の特徴を理解し、ビジネス要件に最適なVPNを選定することが重要です。
パーソナルVPN
一般ユーザーが個人的に使用するVPNで、公共Wi-Fi利用時のセキュリティ強化や、海外コンテンツへのアクセスなどに使われます。
モバイルVPN
スマートフォンやタブレットなど、モバイルデバイス向けに最適化されたVPNです。リモートワークや出張先でのセキュアな通信を実現するために不可欠です。SSL-VPNは手軽に導入可能で、IPsec-VPNやL2TP/IPsecはより強固なセキュリティを提供します。
ハイブリッドVPN
リモートアクセスVPNとサイト間VPNの両方の機能を持ち合わせたVPNで、複雑なネットワーク構成を持つ企業に適しています。
4.VPNの利便性
VPNは、社内ネットワークやクラウドサービスの安全な利用を可能にするだけでなく、企業のセキュリティや業務効率向上にも大きく貢献します。ここでは、情報システム部の担当者にとって有益な視点を加えながら、VPNの利便性について詳しく解説します。
セキュリティの向上
社内ネットワークやクラウド環境への通信が暗号化され、データの盗聴や改ざんを防ぐことができます。公共Wi-Fi利用時のリスク軽減や社内システムへの不正アクセス対策に有効です。
プライバシー保護
VPNを使うと、IPアドレスが隠される(マスキングされる)ため、ネット上での追跡(トラッキング)を防ぐことができ、社員のプライバシーを保護します。これにより、情報漏洩リスクの低減やログ管理の最適化が可能です。
地理的制約の回避
企業のグローバル化に伴い、海外からのサービス利用や海外拠点とのシームレスな接続が求められる場面が増えています。VPNによって、海外限定コンテンツや地域制限がかかったサービスにアクセスできるようになります。海外出張時の業務効率向上なども期待できます。
企業データへの安全なアクセス
リモートワークの普及に伴い、社内システムへの安全なアクセス手段として広く利用されています。
通信速度の向上(一部のケース)
VPNが通信速度に与える影響は環境によって異なりますが、VPNサーバーを経由することで、インターネットプロバイダーの速度制限を回避できる場合があります。また、帯域幅の最適化が図ることも可能です。
5.VPNの安全性
VPNは非常に便利ですが、セキュリティが万全とは限りません。安全性を確保するためには、以下のポイントを押さえておくことが重要です。
信頼性の高いVPNサービスを選ぶ
無料VPNの中には、通信データを第三者に販売する悪質なものもあるため、評判の良いサービスを選びましょう。
強力な暗号化プロトコルを使用
AES-256のような高水準の暗号化をサポートしているサービスを利用することで、通信の安全性を高めることができます。
※プロトコルとは、コンピュータでデータをやりとりするために定められた手順や規約、信号の電気的規則、通信における送受信の手順などを定めた規格のこと。
ログポリシーを確認する
サービス提供者がユーザーのログを記録している場合、プライバシーが侵害される可能性があります。「ログを保存しない」と明記されているサービスを選ぶのが安心です。
二要素認証の利用
VPNへのアクセス時に二要素認証を設定することで、不正アクセスを防ぎます。
6.VPN はじめての使い方
VPNを利用することで、安全にインターネットを使用したり、社内ネットワークへ接続したりすることができます。一般的なVPNの起動方法は以下のとおりです。
1.VPNの契約または設定を確認する
まず、VPNサービスを契約しているか、会社などから提供されているVPNの設定情報を確認しましょう。
必要な情報 |
VPN接続先のアドレス(サーバーアドレス) |
ユーザー名とパスワード |
接続プロトコル(例:L2TP/IPsec、OpenVPN、WireGuard など) |
必要に応じて提供されるVPNアプリやクライアントソフトウェア |
2.VPNアプリをインストールする(提供されている場合)
多くのVPNサービスでは、専用アプリを提供しています。
インストールの手順 |
公式サイトからVPNアプリをダウンロードする |
インストールを実行し、指示に従ってセットアップを進める |
アプリを起動し、ログイン情報を入力する |
会社のVPNを利用する場合は、企業のIT担当者から提供されたVPNクライアントをインストールします。
3.OS標準のVPN機能を利用する場合(手動設定)
VPNアプリを使用せず、WindowsやMacの標準機能を使ってVPNを設定する方法もあります。
Windowsの場合 |
「設定」→「ネットワークとインターネット」→「VPN」を開く |
「VPN接続を追加する」をクリック |
サーバーアドレス、接続方式、ユーザー名・パスワードを入力 |
保存後、「接続」ボタンを押す |
Macの場合 |
「システム設定」→「ネットワーク」→「VPN」を選択 |
「VPNを追加」し、接続情報を入力 |
保存後、「接続」ボタンを押す |
スマートフォンでも、同様に設定アプリからVPN情報を入力して接続できます。
4.VPNを起動し、接続を確認する
VPNを起動する方法は以下の2つがあります。
- 専用アプリで「接続」ボタンを押す
- 手動設定したVPN接続を開始する
接続後、IPアドレスが変更されているか、社内ネットワークへアクセスできるかを確認しましょう。
5.VPNの切断方法
使用が終わったら、以下の方法でVPNを切断できます。
- VPNアプリで「切断」ボタンを押す
- OSのVPN設定画面から「切断」を選択する
この流れでVPNを起動すれば、安全な通信環境でインターネットを利用できます!
7.VPNの注意点
速度低下の可能性
VPNを経由することで通信速度が遅くなる場合があります。高速なサーバーを選ぶことが重要です。
信頼できるサービスの選定
無料VPNサービスの中には、ユーザーデータを悪用するケースもあるため、慎重に選びましょう。
すべてのリスクをカバーするわけではない
VPNはあくまで通信を暗号化する技術であり、ウイルスやマルウェアからの保護には別途対策が必要です。
接続先の国の法律に注意
VPNの使用が禁止されている国もあるため、海外で使用する際には現地の法律を確認しましょう。
適切な設定が必要
正しく設定しないと、VPNが期待通りの効果を発揮しない場合があります。事前に設定ガイドを確認しましょう。
8.まとめ
VPNは、個人から企業まで幅広い場面で利用できる便利なツールです。データの暗号化や地理的制約の回避など、多くの利便性を提供する一方で、信頼できるサービスを選ぶことが安全性の確保には不可欠です。目的や用途に応じて、適切に活用することで、インターネット利用がより安心で便利なものとなるでしょう。
9.番外編|おすすめのVPN
①無料|VPN Gate
VPN Gateは、筑波大学が学術実験の一環として提供している完全無料のVPNサービスです。
主に日本、韓国、イラン、ロシア、アメリカのサーバーに対応しており、すべてボランティアによって提供されています。また、データ量無制限で完全日本語対応という大きなメリットがあり、手軽に試せるVPNサービスの一つです。誰でもサーバーを提供・利用できる手軽さが魅力ですが、その反面、セキュリティ面での情報は利用前にしっかり収集することが必要です。
②無料/有料|ProtonVPN
無料プランと有料プランの両方が利用できるVPNで、最大10Gbpsの高速通信や高い安全性に定評があります。運営企業は、暗号化電子メール「Proton Mail」を開発したProton Technologies AG社です。そのため、無料VPNの中でも安心して利用できるサービスといえるでしょう。ただし弱みとしては、無料プランの場合に接続できる国が限られることと、サポートに日本語の選択肢がない点が挙げられます。
③有料|NordVPN
NordVPNは、業界トップクラスのVPNサーバー数を誇る人気のVPNサービスです。サーバー数が多いため、世界中のユーザーに利用されており、圧倒的なシェアを持っています。
また、長期契約ほど料金が割安になるのが特徴です。知名度の高いVPNを選びたい方や、コストを抑えつつもセキュリティにしっかり対策を打ち高品質なVPNを利用したい方には、NordVPNがおすすめです。
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