CIOが押さえておくべき人材の新常識-ガートナー

ガートナー ジャパン株式会社 (以下ガートナー) は、日本のCIOが押さえておくべき人材の新常識を発表。
その中で、日本企業の従業員の中で「今の会社で働き続けたい」という意思を持つ人の割合は世界平均より少ないという調査結果が明らかになった。
日本のCIOは、人材に関する4つの誤解を認識し、新たな常識を基に時流に即した人材戦略を推進すべきである。

デジタル・トランスフォーメーション(DX)のプロジェクトでは、常に変化を前提にして、刻々と訪れる新しい局面に迅速に適応しながら進める能力が不可欠である。こうした能力の確保に向けて、日本でも内製人材の強化と創出に乗り出すIT部門が増加している。
しかしながら、今まで固有の人材戦略を手掛けたことがないIT部門では、人材の採用や定着に関する知識が少ないこともあり、人材を採用しても良い成果が得られていないケースが多く見られるという。
そのため、結果として優秀な人材を採用できてもその能力を発揮させることができなかったり、自社に合わない改革施策を導入して組織全体の士気を低下させてしまったりするなどの例が散見される。

ディスティングイッシュト バイス プレジデントでガートナー フェローの足立 祐子氏は次のように述べています。
「リモートワークの浸透や従業員の世代交代を契機に、人材に関する現在の常識は通用しなくなります。CIOは、就業意欲、働き方、スキル習得などに関する知識を常に更新し、時流に即した人材戦略と施策を進めていくことが重要です」

このような問題に対し、ガートナーでは以下の人材に関する4つの誤った考えと新たな常識を挙げている (図1参照)。

図1. 人材に関する誤った考えと正解

出典:Gartner (2021年2月)

 

「今の会社で働き続けたい」という割合は、世界平均より少ない

高度経済成長を支えた日本企業の従業員 (主に日本人) の忠誠心や帰属意識の強さは、長い間、日本企業の成長力の源泉として語られてきました。現在でも、若手従業員を除く大半の従業員に対して同じように考える経営層は少なくないと考えられますが、それはもはや幻想かもしれません。
ガートナーが世界規模で実施した調査において、「今の会社で働き続けたい」と考えているかを尋ねたところ、「今の会社で働き続けたい」と考えている人の割合が世界では平均39%であるのに対し、日本では35.8%と、驚くべきことに世界平均を下回っていることが明らかになりました。

前出の足立氏はこれについて次のように述べています。「日本のCIOは、『どうすれば、従業員が意欲を持って長く働き続けてくれるようになるか』という点を探求し、2021年以降の人材戦略に反映させなければなりません。従業員が意欲を持って長く定着するような組織をつくるためには、『従業員を管理する』という発想から、『従業員エンゲージメントを強化する』という発想に転換することが有効です。従業員エンゲージメントの強化に当たっては、まずは人事や人材開発部門と協力してマネージャー層の意識改革に着手し、制度や慣行を段階的に改善していくことを推奨します。具体的には、キャリアパスや現在の業務の割り当て方法を見直し、やりがいや成長機会を感じられるようにする、業務と個人の目標を結び付けられるようにし、現在の業務を意味あるものにする、リーダーシップやスキルアップなどの教育や支援を行う、などの施策が考えられます」

 

Z世代は、業務とプライベートの境界線が曖昧である

経営層の多くは、自分たちと「若い世代」を区別し、若者はプライベートな時間を重視し残業を嫌う傾向が強い、という固定観念を持っているのではないだろうか。
しかしながら、2018年以降、企業にはミレニアル世代とZ世代というかなり異なる2種類の「若い世代」が存在するようになっており、これまでの理解が必ずしも当てはまらなくなってきている。
個人差はあるものの、ミレニアル世代 (1980~1994年生まれ) は、比較的、ワーク・ライフ・バランスを重視する傾向が強い一方、Z世代 (1995年以降の生まれ) は、ワーク・ライフ・バランスを重視する姿勢はミレニアル世代よりも圧倒的に低く、むしろ業務を通じて経験の幅を広げ、自己成長を実現することに期待を示す傾向が強いことがガートナーの調査から明らかになっている。

前出の足立氏は次のようにも述べている。
「今後、職場の中心層はミレニアル世代とZ世代に移行します。CIOは、両者が対立せず、互いを尊重しながら最高のパフォーマンスを出せるような環境を用意しなければなりません。そのためには、働き方のルールやガイドラインを全社一律で設定するのではなく、個人が自らの業務の性質、プロジェクトの状況、好みに合わせて、働き方や働く場所を選択できるようにすることが重要です。CIOには、テクノロジを駆使しながら、自由で創造的な働き方ができるように方向転換を主導していく役割が求められます。例えば、オフィス、サテライト・オフィス、自宅など複数の場所から業務を行えるハイブリッド・ワークプレースを導入する、世代間ならびに他部門の人とのコミュニケーションや協業を促進する機会を充実させる、従業員の健康を損なわないように稼働状況を把握・分析するツールを活用する、などが挙げられます」

 

ハイパフォーマーの定着には、待遇よりも受け入れ側の能力が重要である

ガートナーの調査では、入社の決め手は「給与」と「企業の成長性と安定性」が常に上位を占めている一方で、退職の決め手としては「同僚の能力」「マネージャーの能力」「人事管理」など、人に関係する項目が重視されることが明らかになっているという。
このことは、給与や処遇はハイパフォーマーの獲得には有効であっても定着には効果がないことを示している。
つまり、受け入れ側の従業員も高い能力を持ち、ハイパフォーマーが活躍できる組織文化が醸成されていなければ、どれだけ厚遇してもハイパフォーマーが退職するリスクは抑制できないのだ。

更に足立氏は述べています。
「既に内製力強化のためにビジネス部門からの異動や経験者採用を計画しているCIOは、同時にIT部門内の意識改革、受け入れ態勢の充実、マネージャーの再教育を進める必要があります。その際には、自分たちの既存の手法や枠組みに対して相手に合わせるよう求めるのではなく、外部から持ち込まれる新しい手法や考え方を自分たちも取り入れられる状態をつくっておくことが重要となります。そのためには、新人 (中途入社) の周囲に配置するメンバーを厳選し、技術や知識面の不足はあっても、成長意欲と適応力が高く、論理的思考に長けた者で固めることが望ましいでしょう」

 

スキル予測に基づいて習得したスキルの大半は、実際には使われない

ガートナーが実施した大規模な調査では、予測に基づいて習得したスキルのうち50%以上は使われておらず、むしろ、予測せずに都度のニーズに応じてスキル教育を実施した方が、活用されるスキルは多かったという結果になったという。
教育を重視するCIOは、将来必要になるスキルを予測したいと考えることが多いですが、技術の進化が激しく、さらに経営環境が不透明な現代において、中期的に必要になるスキルをCIOがすべて確実に予測するのは不可能でもあります。

続けて足立氏は次のように述べています。
「これからのスキルは、タイプに分けて育成することが望ましいです。マネジメントや意思決定、分析評価、経営分析など、不変的に必要とされるビジネス・スキルの場合は、中長期的な育成計画を適用します。データ・サイエンスのように、これからのすべてのビジネスにおいて必須のスキルと、経営戦略の実行に密接に結び付いているテクニカル・スキルの場合は、1年程度の短期間での育成計画を、それ以外のスキルについては、アジャイルな育成計画を実行することが推奨されます。人材を取り巻く環境は大きく変化しつつあり、CIOは過渡期での難しい舵取りを要求されています。既存の知識を盲信せず、情報を常にアップデートしながら臨機応変に人材戦略を変更することが重要です」

 

関連する内容は、ガートナーのレポート「CIOが押さえておくべき人材の新常識」(ITM-21-03) で見ることが可能である。


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本レポートは、ガートナージャパン様のプレスリリースの内容を元に作成しております。
ソース:https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20210215

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