「新しい生活様式」における働き方 ~富士通「Work Life Shift」に学ぶ~

テレワーク(在宅勤務)はコロナ禍以前にも東京オリンピック2020の混雑緩和を目的に「テレワークデイズ」の実施など、国や東京都が中心となって推進してきた。しかしながら、その努力もむなしくコロナ禍以前のテレワーク導入率は約2割という状況であった。
それがどうだろう、緊急事態宣言以降「出勤者7割削減」の号令や「命を守る」という観点から、それまでテレワークと無縁だった企業も対応することになり、東京商工会議所の調べでは、都内の中小企業においても約67%がテレワークを導入したという。これは驚くべきことであり(やればできたんじゃないかと思うところもあるが)、働き方の多様化という意味では、新型コロナウィルスにより”進化”したと言えよう。

経済活動が再開し、日々感染者が拡大している状況の中、富士通株式会社は”ニューノーマルにおける新たな働き方「Work Life Shift」”を推進すると発表。約8万人の国内グループ従業員の勤務形態が原則テレワークに切り替わる。ワクチンや治療薬といった新型コロナウィルス感染症(COVID-19)への対策が整うまでの期間だけでなく、これまでの”働く”概念を変え、最適な働き方の実現を目指すという。

今回はこの富士通の取り組みを参考に参考に今後の働き方について考えてみることにしよう。

■富士通が「Work Life Shift」を推進した背景

富士通は2017年4月にテレワーク勤務制度を正式導入し、多様な人材の活躍を重視した柔軟な働き方にいち早く取り組んでいた。しかしながら、新型コロナウィルスの感染拡大にあわせて在宅勤務が増加。緊急事態宣言後には約9割が在宅勤務となった。現在も出社率の上限を25%として、在宅勤務を実施している。

富士通においてもこのような規模での在宅勤務は過去経験がなく、テレワークでは対応不可能と考えていた業務においても、仕事のやり方をテレワークに適用させる工夫により、かなりの業務が対応可能であることが確認できたという。

また、社員35,000人にアンケートを行った結果、今後の働く場所として「従来通りオフィスに出社」と回答した社員はわずかであり、「用途に合わせて自宅やサテライトオフィスなど働く場所を選択したい」というのが、多くの社員の望みであったことも背中を押したと言えよう。

在宅勤務を実現するハードルの一つに人事制度があるが、2020年4月から更なる変革を実現するために人事制度改革にも着手。国内グループの幹部社員約15,000人を対象に、一人ひとりが果たすべき職責を明確に定義し、その職責に応じた報酬設定と柔軟な人材配置を実現するジョブ型人事制度を導入してきた。

このような取り組みがあり、ニューノーマルに対応したビジネスモデルや業務プロセス、働き方への変革の実現手段として、生産性を高めながらイノベーションを創出し続けることを可能とする新しい働き方「Work Life Shift」を推進することとなった。

では、「Work Life Shift」とはどんなものなのであろうか?

■Work Life Shiftの概要

「Work Life Shift」は、「働く」ということだけでなく、「仕事」と「生活」をトータルにシフトし、Well-beingを実現するコンセプトである。このコンセプトのもと、固定的なオフィスに出勤する従来の通勤の概念を変え、多様な人材が高い自律性と相互の信頼に基づき、場所や時間にとらわれることなくお客様への提供価値の創造と自らの変革に継続的に取り組むことができる働き方を実現するため、人事制度とオフィス環境整備の両面から様々な施策を推進する。
この「Work Life Shift」は、最適な働き方を実現する「Smart Working」、オフィスの在り方を見直す「Borderless Office」、社内カルチャーを変革する「Culture Change」の3つの要素から構成されている。

1.仕事と生活、両面のエンゲージメントを高める「Smart Working」

Smart Workingは、従来の「仕事は会社に出社して行うもの」という概念に基づいた勤務制度や手当、福利厚生、IT環境などを全面的に見直すことに始まり、「成約の解消・効率化」、「環境整備・費用補助」の切り口で施策が考えられている。
その結果、テレワーク勤務を基本とした勤務形態により、業務の内容や目的、ライフスタイルに応じて時間や場所をフレキシブルに活用できる最適な働き方の実現を目指している。

【制約の解消・効率化】

・コアタイムの撤廃

コアタイムのないフレックス勤務(スーパーフレックス制度)の国内グループ全従業員への適用拡大。

・通勤定期券の廃止

業務都合による移動は実費精算。近隣事業所への通勤は自転車通勤を推奨。

・単身赴任の解消

単身赴任者においてテレワークと出張で従来業務に対応可能な場合は、随時自宅勤務に切り替え。

【環境整備・費用補助】

・環境整備サポート

スマートワーキング手当として、通信料、光熱費、デスクやイス等のテレワーク環境整備費用補助として、一人当たり月額5千円を支給。

・スマートフォンの徹底活用(2020年度中に開始予定)

社給スマホ、またはBYODのいずれかを選択。スピーディ且つ効率的な1対1コミュニケーションの実現。また、業務システムとの連携による、業務効率化や社員教育の利便性向上などに活用。

2.従来の働き方の概念を変える「Borderless Office」

Borderless Officeでは、場所に縛られない働き方実現の為、オフィスの在り方を見直しています。固定的なオフィスに縛られることなく、各々の業務内容やコミュニケーションスタイルに合わせて再編。コラボレートを目的とした「ハブオフィス」、コネクトを目的とした「サテライトオフィス」、コンセントレートを目的とした「ホーム&シェアドオフィス」に分類し、目的とロケーションから社員が選択し、自律的に利用することができるようになる。

富士通では、今後3年程度をかけて国内の既存オフィスの床面積を現在の50%程度に最適化し、フリーアドレス化なども行いながら、快適で創造性が発揮できるオフィスを構築するという。
このオフィス環境の整備では、「Well-being」を意識して推進される。社員の健康に対する貢献や、社内外コミュニティ形成の一助となるように、人が集まりやすい機能を設置するという。 その一環として、ロケーションプラットフォーム「EXBOARD for Office」を国内すべてのオフィスに導入する。
これはスマホやPCのWi-Fi情報を用いて人の動きを可視化、オフィスの利用状況や社員の位置情報を把握し、データを活用した最適なオフィス環境の改善に生かすだけでなく、感染症対策として、オフィスの密集度や感染者発生時の行動履歴を把握することで、安全で、快適な働き方の実現にもつながる。

また、新たな働き方とオフィスのあり方に合わせ、常にセキュリティポリシーを最新化するとともに、あらゆる場所から必要な情報にダイレクトにアクセスできるセキュアなネットワーク基盤をグローバルに構築する予定となっている。(2021年1月から順次展開)


どこからでも、(PCだけでなく)スマートフォンでも必要な情報にダイレクトにアクセスできる環境を提供し、社員の利便性をスポイルすることがないようにすることで生産向上にも貢献する。

3.社内カルチャーの変革「Culture Change」

大きく働き方を変えるということは、これまでの企業文化を変えることでもある。その為にも「Culture Change」は必要不可欠であり、この実現においては、社員の高い自律性を求めるだけでなく、会社が社員を信頼するピープルマネジメントの高度化が重要であるとしている。これについては、3つの視点から施策を実施する。

一つ目は、「信頼に基づく制度・プロセス」の構築である。制度やプロセスのシンプル化、上司や人事のチェックや承認の最小化を図るなど、セルフサービス化実現準備をする。それと並行して出社を不要とするための各ワークフローのオンライン化も実現する。

また、テレワーク実施上の課題とされる作業状況の把握や負荷状況の可視化、長時間労働の常態化防止などのためのツールとして「FUJITSU Workplace Innovation Zinrai for 365 Dashboard」を活用し、蓄積されたメールや文書のタイトル、スケジュール、PCの利用状況などのデータからAIで業務状況を可視化する。

現状の働き方の課題を抽出し、それを元に上司と部下のコミュニケーションが行われることで、さらなる生産性の向上や業務の質の改善につながる。

二つ目は、「社員の役割・期待の共有と適切な評価」であるが、この為に「Job型人事制度」を一般職にも拡大して導入する予定である。(2020年度中に労働組合との検討開始)
この「Job型人事制度」を実施する上で、上司-部下間の1on1 Meetingによる課題共有/コーチング/フィードバックは欠かせない要素であり、これをすべての階層で実施できるよう、全従業員を対象に1対1コミュニケーションスキルアップ研修も実施する。

三つ目は、顔が見えないからこその配慮「心身の健康面へのサポート」である。社員の自律性が高くなることで、孤立感を生むようなことがあってはならない。その為、心身面でのサポートために、社員の声を随時吸い上げるためのデジタルプラットフォームや、仕事の状況を可視化するプラットフォームを導入する。また、従業員の不安やストレスの早期把握と迅速な対応を目的とした「パルスサーベイ」と呼ばれる簡易的なストレス診断を実施することで、組織と個人の関係性の健全度合いを測るという。
富士通は2020年4月から、1万5000人の管理職を対象にJob型人事制度を導入しており、各ポジションの責任と権限を明確にすることで「適材適所ではなく、適所適材の実現」に向け、今後は全社一丸となって走り出すことになる。

■Work Life Shift≒DX?

富士通の「Work Life Shift」の取り組みは、国が掲げる”新しい生活様式における働き方のスタイル”に合致している。もちろん、富士通の中でも相対形式で行われてきた業務もあるだろうが、今後はその業務をやめ、別の方法で補うようなことも求められていくであろう。
”ニューノーマルな働き方”に業務をフィットさせることは、まさにその企業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)を実践することと言えるであろう。
富士通によれば、「ニューノーマル時代や、将来の環境変化に対応するためにDXを実践し、お客さまのリファレンスとなるような新たな働き方を、Work Life Shiftとして取り組むことが使命である」と述べている。

■自社で実践するには情シスはどうすればいいのか?

「わが社もDXするぞ」と言われていても、漠然としすぎていて何をすればいいのかイメージしにくかったかもしれないが、「テレワークを前提とした業務体系への変革」となれば”何をすべき”なのか、わかりやすいのではないだろうか。
まずは現在の業務プロセス、ワークフロー、ツールなどを把握し、これと並行して最終的にどのような働き方を目指すのか経営陣を交えて意見交換するところからがスタートとなるであろう。
しかしながら、なにも富士通のようなシステムがなければできないわけではない。個別に考えれば、勤怠管理はジョブカンやZOHO peopleなど様々なシステムと連携が可能なWebサービスが多数あり、1ID \100からというものもある。社内申請などのワークフローにおいても、自前で構築できるkintoneやJ-MOTTOなどのようにグループウェアに安価にオプション追加できるものもある。情シスのメイン業務ともいえる社員の端末調達やキッティング、端末セキュリティ、インフラセキュリティについても、横河レンタ・リースの「DaaSサービス」やパシフィックネットの「まるっとテレワーク Marutto Device Service」などを活用することで省力化は可能である。また、社員を守るための端末使用状況管理、社員を孤立させないテレワーク業務支援ツールなどはこのテレワークブームで様々登場している。
その為にも、自社の基幹システムなど変更が難しいものに対して、今後どうしていくか会社としてのビジョンをもっておくべきであり、その過程として何をチョイスすべきか見えてくるはずである。

もちろん「餅は餅屋」というように上流工程を得意としたITコンサルティング会社に依頼するという選択肢もあるが、まずは自身で考えてみることをおススメしたい。自身で会社の現状を正しく把握しておくことは、コンサルティングを依頼するにしても後々役に立つ。

とかく経営層の視点では「社内システム=コスト」としか思われないことが多い。しかしながら、富士通のようにオフィスを縮小することでオフィス賃料の削減、通勤定期の廃止による費用削減など、企業側のメリットもあるのがテレワーク(在宅勤務)である。
これらの削減効果や働き方の自由を選べる会社として新たな価値を生み出すことなどのメリットを上手に数値化することで、経営陣も納得するのではないだろうか。

しかしながら、テレワークシフトだけが正解ではないということについては注意しておく必要がある。実際、リモートワークが進んでいた米国IT企業ではIBMをはじめとして「リモートワーク制度」廃止の動きが起こっているのも事実である。
リモートワークは個人で自己完結する仕事を行う上では効果的であり、向いていることは間違いない。しかしながら、他者と協調しつつ、チームビルディングするような職場の一体感を作り出すためには、相互の信頼関係の構築が必要である。テレワークを成功させるカギが対面での信頼関係づくりというのはなんとも皮肉であるが、これをどうやってITで補えるか考える必要があるだろう。

今回は富士通の取り組みを紹介したが、まだしばらく続く新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の脅威から社員を守る意味でも、是非、自社におけるテレワークについては一度検討してみてもらいたい。

 

【執筆:編集Gp ハラダケンジ】

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