使える! 情シス三段用語辞典84「クローニング」

常に新しい用語が生まれてくる情報システム部門は、全ての用語を正しく理解するのも一苦労。ましてや他人に伝えるとなると更に難しくなります。『情シスNavi.』では数々のIT用語を三段階で説明します。

 

一段目 ITの知識がある人向けの説明
二段目 ITが苦手な経営者に理解してもらえる説明
三段目 小学生にもわかる説明

 

取り上げる用語を“知らない”と思った人は、小学生にもわかる説明から読んでみると、理解が深まるかもしれません!?

一段目 ITの知識がある人向け 「クローニング」の意味

「クローン」といえば“特定の生体と同じ遺伝情報を持った生体コピー”のことで、先日クローン猿が誕生して話題にもなりました。今回のテーマ「クローニング」とは、生体ではなくパソコン端末のコピーを作る手法のことです。多くの企業では、社内の環境に合わせた端末設定、使用するアプリケーションなどが決められています。従業員の端末にあらかじめそうした設定やアプリをインストールしたりして環境を整える作業をキッティングといい、クローニングはそのキッティングを効率的に行うことのできる機能です。必要な設定やアプリケーションをインストールしたマスターとなるPC端末を用意し、そのマスターイメージを複数の端末に一気に配信して、短時間で効率的に端末のセットアップを行うことができます。2020年にWindows 7のサポート終了を控えWindows 10への乗り換えを計画している企業も多い中、短時間に大量のセットアップができるクローニングが良くも悪くも見直されています。

Windowsのクローニングを行う前提として、ボリュームライセンスサービスを契約する必要があります。ボリュームライセンスとは、再イメージ化することが許容されたライセンスであり、これ以外のライセンスのOSを使ってマスターイメージを作成することはできません。クローニングを使ったキッティングは、以下のような手順で行われます。

1.マスターイメージ作成(Sysprep※による一般化、マスターイメージ抽出)
2.イメージ配信
3.個別キッティング(ホスト名・IPアドレス・その他OS設定、アプリ設定、管理情報更新、ラベリングなど)
4.動作確認

※Sysprepとは・・・マスターPCの固有識別子SIDなどの端末固有となる情報を削除して、イメージコピー用に一般化するためのツール。

クローニングではネットワークで接続している端末に一斉にイメージ配信できるので、大量の端末に対しても短時間でセットアップを行うことが可能となります。

<クローニングのメリット>
・複数の端末に、短時間で一気にイメージ展開が行える
・以前からある展開方法なので、手法が確立され安定している
・ほとんどのアプリのインストールに対応

個々の端末ごとに行う必要があり、しかもインストールできるアプリが制限されているプロビジョニングに比べ、クローニングは短時間での大量コピーにより向いている機能といえるでしょう。(参考記事:使える! 情シス三段用語辞典83「プロビジョニング」

しかしながら、クローニングにもデメリットはあります。それは、事前の作業に手間がかかることです。

<クローニングのデメリット>
・マスターイメージ作成にはある程度の工数がかかる
・Sysprepでの一般化、マスターイメージ作成作業をミスなく行う技術力が必要
・展開する端末の機種ごとにマスターを作る必要がある

さらにここで考慮しておかなければならない点は、Windows10は半年ごとに新しいバージョンがリリースされるということです。OSのバージョンごとにマスターイメージを作る必要があるため、半年に一度、全機種分のマスターイメージ作り直しが必要になるのです。マスターイメージの更新頻度が高くなったことでデメリットが大きくなってしまうため、クローニングからプロビジョニングへキッティング方法を変更することや、キッティングを専門企業へ外注することも考慮に入れ、キッティングの最適解を見直す時期なのかもしれません。

 

二段目 ITが苦手な経営者向け

とある小売企業の社長、新卒向けの会社説明会の休憩中。去年の新人で情シスの黒田さんも一緒です。

社長:あー、世間でも人材不足というけれど、本当に今年は厳しいなあ。席がスカスカだ。映画の世界では優秀な兵士はどこかの星で作られたクローンだったが…。現実はなかなか厳しいね。

黒田さん:クローンですかあ。「クローニング」なら情シスでやっているんですけどね。

社長:え? うちはいつからバイオ系の企業になったんだね。

黒田さん:クローニングっていって、生物じゃなくてパソコンのセットアップのことですよ。会社で購入したパソコンって、情シスでセットアップしてから社員に渡しているじゃないですか。それ、クローニングなんですよ。

社長:黒田君、もう少しわかりやすく言ってくれないかね。

黒田さん:社内で使うパソコンって、ネットワーク設定とかセキュリティ対策アプリとか社内規定の機能をあらかじめ入れてから社員に渡すようになっているんです。そういう設定ができている、雛形になるパソコンがあってですね、新しいパソコンにはその雛形からもろもろの設定をコピーしてセットアップしているんです。

社長:へー、そうだったのか。パソコンをコピーできるのか。

黒田さん:OS設定とアプリのインストール状況をコピーできるから、必要なアプリを忘れずに入れられるし、設定漏れが起きないようにできるんです。クローニングは、いっぺんにたくさんのパソコンにコピーができるので、新入社員用の準備として先月からやっていました。

社長:そうか。じゃあ、次の新人10人分のパソコンセットアップも一瞬だな。

黒田さん:ええまあ、コピー自体はいっぺんにできるから速いですよ。もちろんシリアルナンバーとか個別設定しないといけない設定もありますけどね。BIOS設定とかホスト名なんかはクローニングのコピーができないので。

社長:そうだ。シリアルナンバー不正なんてやめてくれよ。

黒田さん:大丈夫ですよ。コピー可能なWindowsのライセンスを使っていますから。それに僕が検証して不正がないように確認していますよ。

社長:それならいいんだ。コピーというとライセンスが気になってしまって。それにしても黒田君、検証を任されているなんて、一人前になったなあ。来年のクローニングは新人の仕事になるかな?

黒田さん:ただ、このクローニング機能は、Windows10だとあんまり使えないかもしれないですね。Windows10は半年ごとに新しいバージョンになるので、半年ごとに雛形となるマスターイメージが作り直しになるんですよね。パソコンの機種ごとに雛形作らないといけないし、そもそも雛形を作るのってけっこう時間かかるんですよ。だから、これからはプロビジョニングとか別の方法に乗り換えかなって先輩が言っていました。

社長:そうか。とにかくウチは志望企業を乗り換えられないように今日の説明会をしっかり乗り切ろう。

三段目 小学生向け

4月になり、新しい教室と新しいクラス、新しい先生と新しいものに囲まれている小学生の皆さん。小学生の必須アイテム、お道具箱も準備しましたか?箱自体は変わっていなくとも、3年生になったらコンパスが新しく入ったり、5年生で彫刻刀が入ったりと中身は少しずつ変わっているかもしれませんね。今日は「クローニング」といい、会社員のお道具箱とも言えるパソコンの準備についてのお話です。

 

お道具箱は、小学校の児童みんなが用意するものですよね。道具が足りなかったりしないようにちゃんと小学校で必要な道具リストが決められています。そしてリスト通りに道具がそろって入って、初めて完成したお道具箱となります。お道具箱のリストには、きっと以下のような内容がのっていることでしょう。

・紙用はさみ
・クレヨン(学校指定のメーカーのもの、12色入り)
・液体のり
・三角定規(90度/45度/45度、90度/30度/60度)

等々

他にもたくさんありますね。そして物によって「20センチ以内」とか「12色入り」という条件もあり、メーカーや品番の指定もあるかもしれません。児童はこの条件に合う道具で道具箱を作ればよいのです。自分で「えーと、100色色鉛筆にしようかな。お道具箱に入り切るかな」とか「のりは接着剤のほうがいいの?溶解液もいる?」「分度器ってどこで売っているの?」などとなやんで調べる必要はないのです。

会社で使うパソコンも同じで、会社で必要な道具(パソコンの場合は、アプリやOS設定です)が細かく決められており、リスト通りに作られています。このリストのことを「マスター」といい、会社のパソコンはこのマスターを忠実に再現できるようにコピーして作られています。このパソコンの設定をコピーすることをクローニングといいます。会社で使うパソコンは、お道具箱を児童一人一人が準備するのとは違い、パソコン担当の人が社員みんなの分をまとめてあらかじめそろえておいてくれます。みんなの分のたくさんのパソコンを設定するとき、コピーができればらくちんですね。クローニングは、そうしたパソコンの設定を楽にできる機能なのです。

ただし、お道具箱の中身がたまに変更になるように、パソコンのマスターもときどき作り直しが必要です。みなさんのお道具箱は、新しい教室になって机が変わっても、机のサイズが変わるわけでもなくそのまま使い続けることができます。しかしながらパソコンは、OSが新しいバージョンになったら作り直さなければなりません。Windows10ではOSのバージョンアップが今までよりもずっと多くなるので、クローニングのマスター作りが多くなってパソコン担当の人の仕事が増えてしまうことが課題だといわれています。

 

 

さて、皆様のご理解は深まったでしょうか?

 

【執筆:編集Gp 星野 美緒】

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