「データセンター調査報告書2019」にみるデータセンター「生き残り」策とは?
インプレス総合研究所は、新産業調査レポート「データセンター調査報告書2019[クラウド併存時代のデータセンター『生き残り』策]」を1月24日に発売する。
本レポートは、インプレスによる専門媒体『クラウド&データセンター完全ガイド』による監修のもと、データセンターの市場動向、サービス動向、ユーザー企業の利用動向をまとめた調査報告書である。オンプレミス運用からクラウド利用への移行が加速する現状、ここから読み取れるデータセンターのトレンドを知っておくことも情シスには必要な知識であろう。
データセンターの大規模化
日本国内に存在する全データセンターについて、平均のラック規模を開設年次でまとめると図表1のように、2017年以降に開設・開設予定のデータセンターが大規模化していることがわかる。
※2019年のデータは、2018年11月25日時点で発表されているデータセンターまでを対象としている
※ラック規模が不明なものはサーバールームなどの面積からモデル化して算出している
【図表1. 開設年次別 国内データセンター平均ラック規模】
これには東日本大震災以降、DRなどの観点からデータセンター利用が見直され、クラウドブームも相まって、多くのデータセンターが新設されたことにも関係するであろう。事業規模の確保やエネルギー効率/コスト効率に優れたデータセンターを構築するために、ある程度のサイズが必要であることから、近年に開設または開設予定のデータセンターでは平均ラック数が増えたと考えられる。
データセンター事業者の取り組み
データセンター事業者が近年取り組んでいること(複数回答、図表2)では、「回線・接続/インターネットエクスチェンジ/データセンター間接続/SDN」が55%で最も高く、「BCP/DR」が47%、「働き方改革ソリューション(VDI、リモートワーク、MDMなど)」が38%、「AI/機械学習/ディープラーニング対応」が28%と続いく。
【図表2. 近年の取組事項(複数回答)】
「回線・接続/インターネットエクスチェンジ/データセンター間接続/SDN」はデータセンターの基本性能を問われる部分であり、この部分の強化はある意味当然ともいえる。一方で、「AI/機械学習/ディープラーニング対応」への取り組みが上位にきていることは興味深い。この分野で差異化することは、ある程度、設備に投資が必要であることを意味する。とあるデータセンターでは、HPC・AIインフラの設置に最適な特注サーバーラックでのハウジングサービスをウリにしているが、データセンターとして、GPUサーバーを設置する、階層化ストレージを導入するなど、AI対応データセンターといった特徴づけをしてくるところもあるであろう。
また、今後の施設・設備(ファシリティ)の調達で重視する点(複数回答、図表3)では、「回線(光ケーブル、回線サービス、IXへの近さなど)」(43%)、「天災が起きにくい立地」(38%)、「受電容量(施設規模)」(34%)の順となっている。
【図表3. 今後の施設・設備(ファシリティ)の調達で重視する点(複数回答)】
回答上位の項目は、データセンター事業の基本項目ともいえ、王道の部分でライバルに負けたくない意識の表れのように思える。しかしながら、「販売先であるユーザー企業に近い地域」という回答が未だに29%もあったことには、この”クラウド時代”には驚きである。よほど特殊な使い方なのであろうか?
その他にも6~7年前であれば外気冷房目的の「寒冷地」が上位にあってもよいのではないかと思うが、現在は液冷/油冷などの技術も進化しており、代替案の登場により、以前よりもそのニーズは下がっているのかもしれない。
また、大手クラウドサービスとの専用接続サービス(複数回答、図表4)を見ると、「AWS Direct Connect」が30%(18事業者)と最も高く、「Microsoft Azure ExpressRoute」が18%(11事業者)と続く。AWSとAzure、この2強が年々伸びていることは想像に容易いが、これに追随するのがIBMである。大手クラウドサービスとの専用接続が提供できることは、もはやデータセンター事業者にとっては必須ともいえよう。
【図表4. 提供している大手クラウドサービスとの専用接続サービス(複数回答)】
これらのことから、大手クラウドとの共存や新たなトラフィックが発生要素となる5G時代に向けた環境整備など、回線環境を強化することでアドバンテージを得たいデータセンター事業者の思惑が読み取れる。
ユーザー企業の現状・意向
本調査ではユーザー企業のITインフラ事情についても調査をしている。ユーザー企業を対象とした商用データセンターの利用状況(図表5)では、利用している企業は48.6%となっている。ITサービス業では55.4%と全体平均より高いが、製造業及び非製造業では5割弱で大きな差は見られない。
【図表5. 商用データセンターの利用状況】
一方、商用データセンターを利用していない企業に対して、今後の利用意向と条件のヒアリングの結果(図表6)、約7割の企業が条件次第で利用する可能性があると判明。利用条件としては、「コスト増が負担と感じない程度なら利用する」が45.7%で最も高く、「ネットワーク経由でも十分な応答性能なら利用する」が27.2%、「手元設置のサーバーと同程度の運用ができるなら利用する」が24.7%と続く。
これらは、まだまだデータセンター事業者にとって未開拓な市場が残されていることを示しており、中堅・中小企業の実態を考慮すれば、その市場規模は計り知れない。
【図表6. 商用データセンターの今後の利用意向と条件】
サーバーの高性能化と高集積化により、ラックあたりの消費電力は増大傾向にあることはご存知であろう。老朽化し、ラックあたりの電力がとれない、規模が小さい、PUE値が悪いなどの非効率でコスト高なデータセンターは、閉鎖や新設などの対応を求められる。また、データセンターは料金面において、AWSやAzureなどのクラウドサービスと比較されるため、特徴を打ち出すなど単価ダウンさせない差異化も求められる。
しかしながら、ユーザー企業ではITインフラのクラウド移行が進み、経済産業省でもその後押しとなるような助成金の検討もされている。働き方改革の名のもと、様々なサービスやソリューションが登場しているが、”未開拓の市場”の扉を開けるには至っていない印象があり、何によってこの扉が開くのか、大いに楽しみである。
【執筆:編集Gp 原田 健司】
データ出展:データセンター調査報告書2019[クラウド併存時代のデータセンター「生き残り」策]
https://research.impress.co.jp/report/list/dc/500520
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