【Japan IT Week 秋 2018】レポート:IoT/M2M展

2018年10月24日(水)から26日(金)までの3日間、幕張メッセにて「第9回 Japan IT Week 秋」が開催されている。国内のIT関連展示会としては最大級の規模を持つ「Japan IT Week」は、クラウド コンピューティングEXPO、情報セキュリティEXPO、Web&デジタルマーケティングEXPOなど全部で10のIT専門展で構成されている。

今回はIoT/M2M展についてレポートする。情シスには少し関わりは少ないかも知れないIoTの領域ではあるが、OTや社内環境改善などにIoTを用いるケースも増えており、その動向は知っておくべきであろう。

ようやくサービス化への準備が整った感のあるLPWAソリューション

ブームが過ぎ去った感のあるLPWA(Low Power Wide Area)。NTTドコモやau、ソフトバンクといった大手事業者からのIoT出展がなかったが、会場には、Sigfox、LoRaWAN、独自LoRa、Bluetoothなど様々な無線通信方式でのソリューションやデバイス展示がされていた。中でもセンスウェイブースでは、パートナー企業のソリューションも展示し、様々な利用シーンに応じたサービスを紹介していた。

LoRaWAN普及のラストピースを埋める -センスウェイ

センスウェイブースでは、SenseWay Mission Connectの紹介と共にパートナー企業からこの仕組みにつながるソリューション/デバイスの展示を行っていた。

独自にサービス構築をLoRaWANを使って実現するには、2つのハードルがある。一つはゲートウェイの設置であり、もう一つはネットワークサーバーの立ち上げである。ゲートウェイは1年前に比べ購入の選択肢が増えたため、ハードルは少し下がったように感じる。上は約50万円から下は約5万円まで要求スペックに応じて購入することになる。ゲートウェイよりもやっかいなのが、ネットワークサーバーの立ち上げと言える。GitHubにはLoRaWANのネットワークサーバーを構築する為のソースも公開されており、自作もできる。しかしながら、公開されている仕様の理解やネットワークサーバーとゲートウェイの相性、LoRaWANデバイス側との通信プロトコルの調整など、キチンと動かすにはそれなりに幅広く知識が必要になる。実際に5人、1ヶ月でLoRaWANデモ環境を構築した経験はあるからこそ、強く思う。

これらのハードルを”SenseWay Mission Connect”がカバーしてくれる。しかも安価に。
センスウェイが設置したLoRaWANゲートウェイと、センスウェイのLoRaWANサーバを通じ、ユーザーのデバイスとアプリケーション間の双方向通信が実現する。


画像出展:https://service.senseway.net/

これまでもActilityやThe Things Networkなどネットワークサーバーを使うことは可能であった。しかしながら、現状はエリア限定とは言え、パブリックゲートウェイが準備されていることは利用者にとっては大きなメリットである。
また、デバイス当たりの課金も接続回数に応じた課金体系を採用するなど、「月30円から始められるIoT」を実現したことは、とても価値がある。エリアについては、来春に向けて拡張中ではあるが、東京・大阪周辺では既に使用することができる。


通信モジュールや評価ボードについては、昨年からPoC用途を中心にちらほら提供がされ始めていたが、このような動きによりPoCからサービス構築のフェーズに加速することは間違いなく、今後の業界動向には要注目である。

 

企画から量産まで国内生産のLoRaWAN -三信電気

三信電気では、国内ODM企業と協力し、顧客のニーズに合わせたLPWAソリューションを提供する。

Wireless Japanでも展示されていたが、興味深いのはGPSトラッカーとBLE-LoRaWANルーターである。

このご時世、GPSトラッカーは様々なものに応用が可能であり、Sigfoxに比べてLoRaWANの方がサービス設計は容易になることもあり、この先しばらくは見守りなど様々な場面でこのデバイスを見かけることになるに違いない。

また、BLE-LoRaWANルーターは、インターネット回線がない場所でもBLEデバイスを使うことを可能にする中継器であり、BLEのデメリットである通信距離を気にすることがなくなり、コストメリットを活かしたBLEデバイス活用が実現できる。

 

LoRa百貨店! -菱洋エレクトロ

菱洋エレクトロは、「LoRaでつながるスマート社会」実現に向けた様々なデバイスを用意し、モジュールから見える化まで一括提案が可能な”LoRa百貨店”を目指しているという。

また、kiwitecとは独占契約を結び、ゲートウエイやセンサーデバイス、トラッキングデバイスなどを独自に調達できるところは、他社とは一線を画するところである。

ニーズに合わせたLPWAソリューションを提供できる環境を持っていることは、リードタイム短縮に貢献し、顧客にとってはシステム構築の際の安心材料になるであろう。

 

ラズパイ専用に設計されたモジュール群で様々なビジネス用途に活用

メカトラックスは、Raspberry Pi用のモジュール群を展示。新製品を2モデル投入した。

NEW ラズベリーパイ用4G(LTE)通信モジュール「4GPi」
NEW ラズベリーパイ用電源管理/死活管理モジュール「slee-Pi 2 Plus」

攻めの情シスにも共通する「まずはやってみる」というのが、IoTの基本の”き”。ラズパイをベースにしていることで、ハードウェアが苦手なソフトウェアエンジニアでもあまり苦労せずにプロトタイピングを構築することができるようになる。
数年前よりラズパイベースの通信モジュールは存在したが、価格もこなれてきたこと、またIoTサービスとして必要になる関連モジュールも充実してきたからこそ、より身近な存在になったと言えよう。

置くだけラズパイ屋外稼働! -Pi-field

通常、ラズベリーパイは消費電力が比較的大きく、通信機能も有線/無線LAN等のみで、屋外での環境モニタリング等には電源や通信環境が別途必要となるもの。しかし、Pi-field(パイフィールド)はこれら全てを防水ボックスで一体化、電源やネット接続環境がない屋外でもラズベリーパイでの環境モニタリング等が可能となる屋外キットである。

農家の散水管理やハウス空調管理などリアルタイム性をあまり必要としないシーンであれば、配線などが不要で、その場に設置して完結してしまうことはメンテナンスなどを考えると望ましいスタイルである。

 

IoTの弱点を補完する「電池レス」×「配線レス」データ収集

KOMATSUでは「熱電EH無線デバイス」を展示。これは熱電発電によるエネルギーハーベスティング(EH)のデバイスである。

IoTといえば、センシングデバイスによる見える化がその入口になると思うが、OTの領域においては、これが非常に重要である。
LPWAなどの無線方式が進化し、通信の低消費電力化は進んでいるものの、これまでバッテリーレスや電池交換不要といったソリューションは存在しなかった。しかしながら、この「熱電EH無線デバイス」は廃熱を活用して発電する仕組みを持つ。使用環境は限定されるものの、様々なセンシングができ、且つ、IoTデバイスの最大の弱点とも言える電池交換問題から解放される意味は大きい。

発電は15℃の温度差があれば安定動作するという。Japan IT Week秋では、工場のIoT化ソリューションもいくつか出展されていたが、熱源があるという環境は必須であるが、配線工事が不要、電池交換不要というメンテナンスフリーなシステムは大いに注目すべきである。
データ収集と分析を可能とすることで、設備の予兆診断や保全工数削減・生産性向上・省エネなどに貢献することであろう。

 

バイタルモニタービーコンで体調も含めた行動管理を

IoTと聞いて思い浮かぶものの一つにウェアラブル端末がある。HOSIDENブースでは、バイタルモニタービーコン「MEDiTAG」を展示。光学脈波センサーや気圧センサーに加え、ちまたのアクティビティトラッカーとは異なり、9軸センサーをおごる。

昨今、バスやトラック運転手が運行中に体調不良になったことで発生した事故などの話を聞くが、これがあればそのような事故が減るかも知れない。例えば、福島の”1F”構内で働く作業員がこれをつけておくことで、夏場の過酷な作業環境下で発生するトラブルを最小限にすることができる可能性を感じた。

実証事例にあるこども園などは人手不足で悩む現場を助けるソリューションとして、そして預けた親の安心感としても効果的である。今後、体温センサーを搭載するなど、更にバイタルサインを増やすことで、その利用用途は大きく広がりを見せると考える。その為には、このようなウェアラブルデバイスが、医療機器なのか、それともヘルスケアデバイスとして扱ってよいのか(その為には日本の法律も変わらないといけない)など、解決すべき課題もある。

 

IoTデバイス/ソリューションの成功事例!? スマートロック

「ALLIGATE」は出入管理システムで実績のある株式会社アートが提供するクラウドとスマートフォンを使ったアクセスコントロール専用プラットフォームである。

一見すると情シスとは無縁のように思えるが、後付けで、且つ、比較的安価に入退出管理などのアクセスコントロールを可能にするとなると、少し見方が変わるのではないだろうか?

Akerun、Ninja Lock、RemoteLock、Qrio Smart Lockなど、スマートロックのソリューションは数多くあるが、どれも基本的な構造は変わらない。しかしながら、このALLIGATEは少し違ったアプローチを行っていたのでご紹介したい。

ALLIGATEでもNinjaLockとシステム連携するプレスリリースがされていたが、後付けスマートロックはサムターンをカバーするカタチでデバイスを取り付ける。これはこれで便利であるが、サムターンを回すトルクなどを考慮すると電池切れの不安は残る。(Qrioなどは電池切れ対策のために2セット入れておく運用になっている)

ALLIGATEの「CylinderLock」は鍵を交換することになるが、”鍵穴のない鍵”を実現する。通常の鍵であれば、鍵穴に鍵をさし、”鍵を回して”解錠する。しかしながら、この「Cylinder Lock」は”鍵を回す”行為をコントロールする。普段は鍵を回れないように”フリー”な状態になっているが、鍵となるデバイスを近づけるとシリンダーがロックされ、鍵を回す(解錠する)ことが可能になる。

また、鍵自体を電気的に回さない為、電池切れの不安も減る為、デバイスも小型化が可能になるという。

オフィスなどならこれでも充分に思うが、一般住宅でも使いたい場合にはもう少し小型化するか、そもそも外側に鍵穴を作らないデバイスを開発するかが必要と思われるものの、40年の電気錠に関わった実績を持つ企業だからこその商品性は今後更なる発展を期待させる。

さらにはシリンダーロックの構造を使ったキーレス南京錠「Pad Lock」の展示もあった。

システム導入がコスト的に見合わないと考えられた場所でもアクセスコントロールを可能とするのが、この「Pad Lock」のよいところではないだろうか。

更なる小型化やインビジブル化を期待せずにはいられない製品であった。

 

Makers時代の安心保険 IoT事業者向け補償プラン

IoT/M2M展には珍しい出展社であるあいおいニッセイ同和損保。IoT機器の製造・提供事業者に向けた賠償リスクを補償する商品を紹介していた。

納品先で発生したトラブルの原因と判明し、逸失利益の損害賠償請求をされた時や発煙・発火などにより購入者が怪我を負った場合の治療費や製品代金についての損害賠償をされた時などをカバーする。

3Dプリンターの進化や小ロットのものづくりがしやすい環境が整ったことで、誰しもが”メーカー”になれる。しかしながら、製造物責任(PL)法も制定され、万が一の備えはしておくにこしたことはない。

 

【取材後記】より一層、身近になったIoT

LPWAで注目されたSigfoxやLoRaWANであるが、正直なところ、この1年は準備期間だったように思える。しかしながら、Sigfoxは問題であったダウンリンクが条件付きとはいえ可能になり、また、LoRaWANでも待望のパブリックネットワークを提供する事業者が登場するなど、実使用環境が整いつつある。一方で、LTE Cat. M1のチップセットやデバイス、ソリューションも既に使えるレベルにあり、NB-IoTも交えて、IoTの通信方式については今後も目が離せない。ようやく、「PoCから実サービスへ、次のフェーズに進むLPWA」と言ったところであろうか。

しかし、LPWAだけでなく、様々なソリューションが2年前とは比べものにならないほど簡単に使える環境が整い、まさにこれからIoT利用が加速するのであろう。

 

【執筆:編集Gp 原田 健司】

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