【脱!SIerへの丸投げ】IT投資効率を悪化させるSI業界 vol.1~なぜ丸投げが問題なのか~

この連載は、今まであまり語られてこなかったシステムインテグレーション(以下SI)業界の実態を交えながら、情報システム部門の皆さまに知っておいていただきたいことを全四回にわたってお届けします。

はじめに

はじめまして。私、情報戦略テクノロジーの稲葉と申します。大手企業のシステム開発内製支援事業を行い、金融・流通・製造・ゲームなどあらゆる業界の企業様との直取引100%を実現しているソフトウェア開発会社で広報をしております。

本題に入る前に少しだけ弊社の紹介をさせていただきますと、弊社はSI業界を変革し、クライアントのIT投資効率の最大化を目指しております。そして広報の私は、SI業界の問題点を多くの方に知って頂くための活動をしており、この度『情シスNavi.』にて寄稿することとなりました。

本シリーズでご紹介させていただくテーマは「脱!SIerへの丸投げ」です。丸投げというと聞こえが悪いかもしれませんが、自社でシステム開発するとなれば、実際のところ、多くの企業がSIerに発注していることでしょう。そんな場合には大きく2つの問題があり、これらがIT投資効率を大きく棄損している可能性が高いというお話になります。

 

2つの大きな問題とは

2つの大きな問題があると述べましたが、その問題とは以下の二つになります。

① 目の前でエンジニアとすり合わせながら開発していない問題
② 開発しているエンジニアのスキルがプロ未満(※某経済紙の関連媒体の表現を拝借)であるという問題

②は某経済紙の関連媒体で十数年前から見られるフレーズですが、私はやや違う意味で使っています。もしかしたらエンジニアの方が見ると不愉快な気持ちになられてしまうかも知れないので補足させていただくと、このプロ未満という表現はこのような記事をお目通しいただいている情報感度が高いエンジニアのことを指しているわけではありません。本当にいいシステムを作るためにはスキルだけでなく高い情報感度・ビジネスセンスを持つエンジニアが必要となり、それらをすべて満たすプロフェッショナルは本当にごく一部であるということをここでは述べています。

本連載では第一回で全体の概要を、第二、第三回では①②の詳細について、第四回で①②の解決の糸口についてお話していきます。これからのIT投資を考えるヒントにしていただければうれしいです。

「情シスで働く皆さまがこの事実を知れば、日本はきっと変わる」という思いで書いておりますので、どうぞお付き合いください。

 

SIerへの丸投げはIT投資効率1/10以下!?

近年、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)という言葉が盛んに言われはじめていることに象徴されるように、IT投資の重要性はますます高まっています。2016年度中小企業白書によると、IT投資している企業の直近3年間の平均売上高は23億6900万円、IT投資していない企業は11億4000万円と倍以上の売上差になっています。

ですが、IT投資の際に行われる「SIerへの丸投げ」には大きな問題があることはご存知でしょうか。すべてとは言いませんがSIerに依頼すると、投資に見合わない 価値のシステムが開発されてしまう可能性があるのです。「思っていたモノとぜんぜん違うモノが出来上がってくる」と話すクライアント企業は少なくなく、この件に対する問題意識が高い方々(クライアント側・SI側双方の)の間では「投資額の10分1程度の価値しかないシステムが開発されてしまう」 などとも言われています。要件定義がきちんとできていないためにこのようなことが起きるのかもしれませんが、これについてはSIerのみならず、クライアント企業(または依頼されているコンサルティング会社)にもその原因はあります。また一回の要件定義ですべてに配慮することも現実的には不可能でしょう。一般的に上流工程と呼ばれる部分の問題については別途紹介することといたします。

では、なぜ「投資額の10分1程度の価値しかないシステム」が生み出されてしまうのか。わかりやすく説明するために、一旦たとえ話から入らせて下さい。

システム開発は「相手の要望をヒアリングし、ヒアリング内容をモノに変換していく」ものです。お絵描きで言えば、相手の好みのタイプの顔をピッタリ描き当てるということになります。お絵描きに例えて「相手の好みのタイプの顔の特徴をヒアリングし、絵に起こしていく」ことを考えてみます。

自身の好みの顔について、言葉だけでキッチリと説明し切ることなんてできるでしょうか?なかなかに難しいはずです。また描く方も、一方的に言葉だけを聞いてピッタリと描き当てることなんて不可能に近いはずです。
結局、その場で漠然としたイメージをヒアリングしながらすこし描いては見せ、フィードバックをもらい修正してまた見せ、という風にすりあわせながら描いていく必要があります。
(刑事ドラマだったら、まさに犯人の似顔絵を描く警察官のように)
ところが、その場ですり合わせながら描いていくことができない状況だとしたら、一体どうなるでしょう?ヒアリングした内容を、伝言ゲームで誰かを介して離れた場所にいる人に伝え、その人に絵を描いてもらうとしたら?おそらくピッタリ描き当てるのは困難、出来ても相当時間がかかってしまうのではないでしょうか。さらに、この絵を描く人が、絵は描くけど似顔絵は苦手という人だったらどうでしょうか?このような効率の悪い状況を実際に起きてしまいがちなのがSIerへの丸投げによるシステム開発になります。そして、この状況を引き起こす原因となっているのがSI業界の「多重下請け構造」なのです。

 

SI業界の構造について

ここでSI業界の業界構造について、説明をさせていただきます。

SI業界は建築や製造業界と同じく、多重下請け構造であることが多いです。特に開発規模が大きくなればなるほど、その傾向が強まります。一次請けである大手SIerがクライアント企業と要望をまとめ、そのまとめた内容に沿って二次請け以下がシステムを開発していく構造です。

詳しく見ていくと、まず一次請けである大手SIerがクライアント企業と直接やりとりをして要望をまとめ、その要望を二次請けが設計図に落とし込みつつシステム開発プロジェクト全体の指揮・管理をします。そして三次請け以下に所属するエンジニアが二次請けのプロジェクトに出向・指示通りにプログラミングし、システムを作っていくという流れです。

一見問題なさそうですが、実はこの構造にはある大きな欠陥が存在します。それは、一次請けが要件をまとめ切ることはほぼ不可能であるということです。一次請けの担当者はクライアント先に常駐せず、またプログラミングのスキル・知見を持ち合わせているわけでもありません。ですが、お絵描きの例えでお伝えした通り、目の前ですり合わせながら高速でPDCAを回して開発して見せていかなければイメージ通りのシステムを開発することは難しいのです。これが「①目の前でエンジニアとすり合わせながら開発していない問題」ということです。

また、もう一つの問題点である「②開発しているエンジニアの能力がプロ未満である場合が多い問題」。これは業界構造図を見て頂くと分かるとおり実際に手を動かしてシステムを開発しているのは三次請け以下に所属するエンジニアです。一次請けである有名SIerに依頼したからと言って、そこにいるエンジニアが開発しているという確証は一切ないということです。
三次請け以下所属のエンジニアの能力に関してですが、三次請けだからと言って優秀な人材がいないわけではありません。但し、実態として三次請け以下企業は日々カツカツの状況で経営しており、能力が高いエンジニアを採用・育成する余裕がないという背景があります。つまり、こちらもやはり多重下請け構造が根本原因となっているのです。

本シリーズを通してお読みいただければ、誰が悪いという話ではなく、業界の構造自体が悪いということがご理解いただけると思います。

 

知っていただくだけで、大きな一歩

最後に、この記事を寄稿させていただいた理由について少し触れさせてください。

仕事柄、情シスの方ともお話する機会が多いのですが「SIerに丸投げすると要望通りのシステムが上がってこないことが多い」というお話自体はよく耳にしていました。しかしながら、なぜそうなってしまうのかについて知る方はあまりいらっしゃらなかったこともあり、知っていただく機会を作れたらと思っていたところです。

この連載で一人でも多くの情シスのみなさまに実情を知っていただくことで、企業全体、日本全体のIT投資効率が改善されればと思っております。

最後までお付き合いの程、どうぞよろしくお願いいたします。


稲葉 徹(イナバ トオル)

株式会社情報戦略テクノロジー

社長直下の組織として会社の未来を描いていく「未来創造室」所属。
スローガンである「IT投資効果を最大化するゼロ次請け」を実践し、顧客のビジネス課題解決という「結果」にこだわる同社において、「ゼロ次請け」を業界に浸透させる活動を行う。

 

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