【脱!SIerへの丸投げ】IT投資効率を悪化させるSI業界 vol.3 ~SI業界のエンジニアスキル不足~

本連載は、今まであまり語られてこなかったシステムインテグレーション業界(以下SI業界)の実態を交えながら、情シスの皆さまに知っておいていただきたいお話を全4回にわたってお届けします。

今まであまり語られてこなかったSI業界の実態を交え、SIer依存のシステム開発における問題点やその解決策を提案する【脱!SIerへの丸投げ】シリーズ。第3回は「SI業界のエンジニアスキル不足」について考えていきます。

「日本の情シスで働く皆さまがこの事実を知ることで、日本はきっと変わる」という思いで書いておりますので、どうぞ最後までお付き合いください。

なぜ起きる、SI業界のエンジニアスキル不足

第1回で、SIerへの丸投げは2つの問題点をはらんでいるとお話しました。そして第2回では1つ目の問題点「①目の前でエンジニアとすり合わせながら開発していない問題」についてはお話しました。そして今回は2つ目の問題点「②開発しているエンジニアのスキルがプロ未満である場合が多い問題」についてです。

 

有名大手SIerに依頼したとしても、安心はできない

「プロ未満」、とても厳しい表現ではあります。しかしながら、SI業界において主戦力として働いているエンジニアがどのような企業に属しているのかが分かれば、プロ未満が多い理由が明確にご理解いただけると思います。

これまでにお話してきた通り、実際に開発作業を受け持っているのは、三次請け以下に所属するエンジニアです。業界全体で2万社あるといわれていますが、一次請け・二次請けと呼ばれる企業は数えるほどしか存在せず、そのほとんどが三次請け以下の企業というのが実態です。

図1:業界構造実態イメージ

繰り返しになりますが、通常大手一次請けSIerには(実際にシステム開発に手を動かす)エンジニアは存在せず、二次請けの大手SIerには少数の若手エンジニアしか存在しません。

つまり、どんなに有名なSIerに依頼したとしても開発しているのは三次請け以下のエンジニアということになります。有名SIerに依頼するとあたかも超がつくハイスキルなエンジニアが開発を担当しているように錯覚されることが多いのですが、これが実情です。
(もちろん、トラブルがあった際には会社規模が大きなSIerに依頼するほうが、損失分の請求/支払いに安心感があるなどのメリットがあることも事実ですが、半ばそれは保険のようなものかもしれません。)

では三次請け以下に所属するエンジニアとはどのような人たちなのでしょうか?

 

頑張っても最高年収550万円の世界

三次請け企業のビジネスモデルを簡単に説明すると、2次請けの企業が運営するプロジェクトにエンジニアを業務委託契約によって常駐させ、その対価を売上として得ています。

クライアント企業の皆様からすると分かりにくいかもしれませんが、一次請けに任せたシステム開発は機能毎に分割された後、二次請け企業に丸投げされ、プロジェクトを遂行します。
そのプロジェクトに最小単位の1人から数名で常駐するのが三次請けのエンジニアです。

図2:コスト構造イメージ

上図が示すように、クライアント企業が有名なSIerに高額なシステム開発費を支払ったとしても、景気によって変動するものの、3次請け企業にはエンジニア1人当たり50~70万円程度しか支払われないのです。

この50~70万円の売上の中からエンジニアの人件費を払い、残ったものが3次請け企業の粗利益と言う事になります。仮に、3次請け企業が15万円程度の粗利を得るためには、70万円の売り上げを上げるトップレンジのエンジニアでも人件費として55万円、福利厚生費等を勘案すると概ね年収550万円程度となってしまうのです。

欧米や新興国においてエンジニアになる人達は、国を代表する大学の理系学部を卒業した人たちが多いですが、トップレンジのエンジニアに550万程度しか支払えない日本の3次請け企業に、そのような超優秀な人材が流入するでしょうか? 答えは『NO』です。
つまり、トップレンジのエンジニアでさえも超優秀であるとは言い難いというのが、現状なのです。

トップレンジのエンジニアでもその程度の年収なのですから、平均的なエンジニアの年収は400万円代中盤と言ったところでしょうか。
SI業界における3次請け以下の企業は、優秀な人達の受け皿にはなり得ないと言う事がよく分かると思います。

更に深堀して3次請け企業について説明していきます。
3次請け企業のエンジニアについて紹介してきましたが、これが仕事において決定的な差異化要因となる訳ではありません。あるとすれば、付き合いがある2次請け企業の得意とする分野程度の話です。そこは安心してよいと思います。
そして、3次請け以下の企業は取引先に選ばれるためには少しでもレベルの高いエンジニアを社内に確保する必要があります。粗利を削れるだけ削り、エンジニアの給料を出来る限り上げる事で採用競争を勝ち抜く必要があるのです。

当然のことながら、この少ない粗利の中から会社を運営していく上で不可欠な経費を支払い、その残りが採用費、教育費、営業マンの人件費と言う事になります。

三次請け企業は採用費もほぼかけられない状況の中、今最も人手が不足している職種であるエンジニア(求人倍率16倍!)を雇う採用競争を行うのですから大変です。
結果的につい最近までパソコンにすら縁もゆかりもない職業についていたが、エンジニアになるための職業訓練校に通っただけの未経験ITエンジニアを雇ったと言う話もよく耳にします。(キチンと育成していくのであれば、とても良い話なのですが…)

では、このような環境において、以下のことはキチンと行われているでしょうか?

  • 採用したエンジニアの卵やヒヨコ!?をきちんと教育した上で、プロジェクトにアサインしているか?
  • エンジニアのキャリアパスを勘案した上でプロジェクトにアサインを行い、エンジニアの力量の向上を目指せるだけ豊富な案件を獲得し、単価を上げる交渉の出来る優秀な営業を雇えるか?

答えは火を見るより明らかだと思います。

この状況がいかに特殊なことなのか、海外と比較するとよくわかります。
特に、エンジニアという職業に対する市場価値の違いには驚くものがあります。海外では、ITエンジニアは他の職業の3倍以上の給与と市場価値が非常に高く、一流大学で優秀な成績を収めた人がなる職業として認知されています。(参考:【IT人材を探る】日本のエンジニアの給料は高いのか、安いのか

大半の人は大学でコンピュータサイエンスを専攻していることもあり、クライアントとビジネス視点で対等に話し合うことができ、且つ、高度なプログラミングスキルを持ち、自らシステム開発ができる人たちがたくさんいます。
日本の三次請け以下企業のエンジニアのように、クライアントと直接話すことなく上からの指示通り手を動かして作るだけの人を海外では“テクニシャン”と呼び、エンジニアとは区別して語られるのです。

 

SIerへの丸投げ以外の道を

これまでの説明で、以下の要素が潜んでいることは、ご理解いただけましたでしょうか。

  • 「大手SIerに依頼すれば、超一流のエンジニアが開発する」というのは錯覚に過ぎないこと
  • 超一流のエンジニアはごく稀なこと
  • その背景に多重下請け構造の影響を受けた下請け企業のカツカツの経営状態が根底にあること

「SIerに丸投げすると、スキルが不十分なエンジニアが、クライアントの目が届かないところで開発してしまう」、それが前回と今回のお話の結論になります。
SI業界のこの慣習は、基幹システムのカスタマイズ開発ですら適応し切れず、炎上が続いています。

今後、力を入れなければならないビジネス直結型のシステムは、そのほとんどがビジネスモデルから業務フローまで、ゼロから構築しつつ並走して開発するシステムです。基幹システムとは比較にならないほど柔軟な開発スタイルが必須なのです。
SIerへの丸投げ以外の道を考えなければ、今後の労働力不足などを発端に生き残りをかけて各企業に求められるデジタルトランスフォーメーション(DX)などの対応は難しいといえるでしょう。

 

第1回~3回までを通じてSIerへの丸投げが、IT投資効率をいかに悪化させているかについてお話ししました。
次回が最終回です。SIer丸投げ脱却の道についてお話しさせていただき、今後の備えの参考にしていただければと思います。

 


稲葉 徹(イナバ トオル)

株式会社情報戦略テクノロジー

社長直下の組織として会社の未来を描いていく「未来創造室」所属。
スローガンである「IT投資効果を最大化するゼロ次請け」を実践し、顧客のビジネス課題解決という「結果」にこだわる同社において、「ゼロ次請け」を業界に浸透させる活動を行う。

 

 

<連載>

Vol1:なぜ丸投げが問題なのか

Vol.2:IT投資をゆがめるSIer

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