【Japan IT Week 秋 2018】レポート:データセンター展

2018年10月24日(水)から26日(金)までの3日間、幕張メッセにて「第9回 Japan IT Week 秋」が開催されている。国内のIT関連展示会としては最大級の規模を持つ「Japan IT Week」は、クラウド コンピューティングEXPO、情報セキュリティEXPO、Web&デジタルマーケティングEXPOなど全部で10のIT専門展で構成される。

今回は、データセンター展についてレポートする。

昨今、オンプレミスで管理していた社内サーバーをクラウド管理への移行が始まっているが、データセンター選びはどのようにしているのであろうか? コスト? 場所? 冗長性? レイテンシー? はたまた安心感?
一方、データセンターもティアレベルでしかその性能が語られず、その詳細は未知であることも多い。今年のデータセンター展では、データセンターを構成する為のHW展示が多く、数年前に多かった地方自治体のデータセンター誘致はほとんど見つけられなかったことから、国内のデータセンターの立ち上がりを感じた。(参考:今、地方のデータセンターがアツい!

これまでの冷却概念が変わる液浸冷却

データセンター展でまず目についたのが日比谷総合設備。サーバーが液体に浸かり、且つ、動作しているという一見すると非常識な光景に目が釘付けになる。従来のシステムは、空気を媒介にして空調(冷房)により機器を冷却する。しかしながら、液浸冷却は空気よりも比熱容量が高く、絶縁性に優れた液体を介して冷却を行う。本ブースではHPCシステムズとファーストシステムがそれぞれに液浸冷却システムを展示していた。

驚異のPUE1.02を実現する2フェーズ液浸冷却

IoTデバイスなどでは、防水性能を証明する為に金魚と共にデバイスが沈んでいることがあるが、むき出しの基板が液体に浸かっている姿は違和感を感じ得ない。HPCシステムズが提供するこの「液浸HPCサーバーソリューション」は、ExaScaler社が開発したスーパーコンピューター向けの液浸冷却技術をベースに2フェーズ液浸冷却を採用。PUE1.02を実現するという。

このデモ機はインテルXeon CPU + 7 GPUを搭載しているが、水冷式ラジエター&ポンプを備え、最大3kWの冷却性能があるという。注目はその密度。冷却用液体には、フッ素系不活性液体(3M社製”フロリナート”)が使われているが、この冷却性能の高さにより、空気冷却ではできない集積度合いを可能とし、省スペースに貢献する。

15年間交換不要の油浸冷却システム

ファーストシステムは、GRC(Green Revolution Cooling)社のCarnotJetシステムを紹介。ブレードサーバーごと油浸ラックに収める形である。

試算によれば、冷却のためのエネルギーコストは、従来型に比べて約90%削減できるという。また、冷却は油浸ラック単体で受け持っているため、冷却用の空調や外気冷房などの付帯設備も不要の為、建物を専用設計する必要もない。

冷却を媒介するのが液体のため、蒸発などによる冷却油の減少が気になるところであるが、15年間は交換不要という。仮に補充をするとしても、その冷却油はリッター980円と思ったほど高くはない。

また、冷却油はメジャーなオイルメーカの汎用品(メーカ4社、5製品)を使用可能。無色・無臭・絶縁で発火温度(引火点)は260℃と高く、危険物指定(石油第XX類等)・消防法の適用外と安心できる。

CarnotJetシステムとは

気になる液浸冷却、今後の展開

液浸冷却はデータセンター事業を大きく変える可能性を感じる。ここ数年低PUEデータセンターを構築するには、外気冷房や雪氷冷房などを用いることが一般的であった。しかしながら、これら液浸冷却システムを用いることで、同等のPUEを実現する可能性もある。そうなれば、地理的条件に縛られることはなくなり、(運用のノウハウの有無を除外すれば)”おらが町のデータセンター”の実現も可能になるであろう。

但し、システムとしての弱点がないわけではない。それぞれに室外機(ドライクーラー)やポンプ&熱交換器も必要になり、液体が通る配管が必要になることから、液漏れ等の潜在的リスクは避けられない。また、ストレージの面では通常のHDDは使えなくなるので液浸対応のHDDを選択するなど、調達コストが一般的なデータセンターよりも高くなる恐れはある。

しかしながら、空調冷却に比べ、温湿度や塵埃などの設置環境条件も緩和できるなど、従来のデータセンター構築の際にケアすべき内容が減ることから安定稼働やメンテナンスコスト削減にもつながり、データセンターの事業化がしやすくなるとも言える。今後の更なる進化に期待したい。

構築するだけじゃない、作る前も作った後もサポート

液浸冷却のインパクトで薄れがちであるが、日比谷総合設備では構築前のシミュレーションから構築後のリニューアルまで、様々なフェーズでのサポートを行う。中でも今回初お目見えしたのが、「サーバ室構築ガイドブック」である。JDCCと東京大学が中心となり、32社の共同ワーキンググループでまとめたものだという。その内容は、”データセンター構築ガイドブック”と言い換えてもおかしくない内容であり、情シス担当者も知っているとデータセンター選定が楽しくなるかも知れない。
現在は”Preliminary”版ということで、関係者しか見ることはできないが、一般販売も計画しているとのことなので、情シスに一冊は備えてもよいのではないだろうか。

 

デジタルの悩みはデータ保存にあり

先週の日経xTECH EXPOの記事(データ管理は希望の光!?)では光ディスクのことに触れたが、富士フイルムでは伝統のLTOを更に磨いた技術を紹介していた。現状の最高記録容量は、エンタープライズシステム向けの1巻15TBであるが、将来的には1巻あたり400TBを目標にしているとのこと。400TBが実現されるとなると、ビット単価でLTOに勝てるライバルは不在の為、LTOの世代互換のリミットを迎えるごとにデータリプレイスをし続けるという無限ループ地獄からは、まだしばらく抜け出せそうにない。(世代を超えた読み出し互換だけでも維持してくれれば、まだいいのであるが)

展示でもストレージコストはHDD比で1/4と低価格を訴求。その一方で、やはりデータ読み出しの遅さは大きなデメリットであるため、LTO/HDDのハイブリッドストレージの訴求に力を注いでいた。テープメディアはもはや残存者利益の領域なのかも知れないが、HDD同様記録密度の高まりが終わりを迎えるまで、更なる進化をしていくことだろう。

 

その他のハード展示(データセンター展)

データセンター展というだけのことはあり、オープンダクトやラック、UPSなど普段お見かけすることがあまりない製品の展示もあった。

 

 

【取材後記】技術進化の過程には”目利き”が重要

今回のデータセンター展では、正直なところ液浸冷却に釘付けとなった。導入コストでいえば高価になると思うのだが、空調冷却型のDCと比較して、BEPが前倒しできる試算結果であれば、大いに検討すべきである。熱交換器の効率を改善する、もしくは、その他の自然エネルギーを取り込むことで効率化するなどできれば、データセンターの地産地消もありえるのではないだろうか。

しかしながら、このような新しい仕組みを取り入れるとなると、周辺機器も進化せざるを得ない状況になる。料理人が築地の仲卸を信じるように、時代を読む”目利き”の力が技術進化の過程では求められる。

 

【執筆:編集Gp 原田 健司】

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