コロナ禍とテレワークによる雇用・労働への影響に関する調査結果-パーソル総合研究所
株式会社パーソル総合研究所は、新型コロナ感染拡大が雇用・労働にもたらした影響・実態を定量的に把握することを目的に、テレワーク時の生産性や、副業・兼業、転職などの意向、個人年収の変化、企業の採用計画、失業者・休業者の実態などに関する調査を実施し、その結果を公開している。
この記事の目次
テレワーク時の生産性は出社時の84.1%、高いのか低いのか
会社にいればいいと言うわけではないと思うのだが、とかくテレワークだと”目が届かない”と感じるマネジメント層も多いことだろう。調査でもテレワークの生産性について触れている。
①テレワークの生産性
職場に出勤したときの仕事の生産性を100%としたとき、テレワークしたときの生産性がどのくらいになるかを聞いたところ、全体平均で84.1%となり、職場への出勤時と比べてテレワークでは生産性低下を実感している結果となった。
また、コロナ対策がきっかけで初めてテレワークを行ったという回答者の生産性は82.2%となったのに対して、以前からテレワークを行っていた回答者の生産性は89.4%と差がある。
図表1.テレワークの生産性
データ出所:「パーソル総合研究所」
テレワークの生産性が100%に満たないことについては、一概にテレワークが悪い訳ではない。
Microsoftは国内でも有数の働き方改革先進企業であるが、2019年夏に「ワークライフ チョイス チャレンジ 2019夏」を実施。将来を見据え、週休3日にトライし、その結果も良好であったという。
参考:「ワークライフチョイス チャレンジ 2019 夏」の 効果測定結果を公開
このイベントに向けてMicrosoftは短い時間でより効率良く働くために「時間の使い方改革」を推進。社員が多くの時間を費やしている社内の会議やメールのコミュニケーションのお作法を改革する、全社員共通の「コミュニケーションのお作法」を策定し、全社員に呼びかけるなどしている。
この事例は一例であるが、Microsoftのように以前から生産性向上を目的に様々なアクションを実施してきた会社であるからこそ、テレワークにおける生産性を向上の為には、今までと”同じ”やり方ではダメなことを知っているのかもしれない。
また、生産性以外にも興味深い結果が見えてきた。
②コロナ禍によるキャリア・就業意識の変化
コロナ禍により「副業・兼業を行いたい」思いが強まった人は28.3%。テレワーク頻度が高くなるほど、副業・兼業の意向も高くなる傾向がみられる(図表3)。また、「テレワークできる会社・職種に転職したい」思いが強まった人は17.6%。
勤務先の都道府県別に、移住意向の思いが強まった割合をみると、最も高いのは神奈川県で16.8%、2位は東京都で16.2%、3位は埼玉県で16.0%、4位は千葉県で15.6%、5位は大阪府で13.9%だった。
「専門性が高いスキルを身につけたい」思いが強まった人は30.9%と最も高く、「学び直しをしたい」も27.7%おり、コロナ禍によって仕事に対する不安や仕事以外の時間が増したことで、スキル向上や学習意欲向上の契機となったことが伺える。
図表2.コロナ禍によるキャリア・就業意識の変化
データ出所:「パーソル総合研究所」
図表3.就業形態・テレワーク頻度別の副業・兼業意向
データ出所:「パーソル総合研究所」
個人的には「副業」ではなく、意識としては「複業」であると思っているが、副業・兼業ニーズが高まるのは時間的に余裕が増すからであろうか? 生産性が100%に満たない結果であるにもかかわらず、現場は副業・兼業ニーズがあるというのは少し奇妙に感じるところもある。
③業界別の個人年収の変化
コロナ禍により「宿泊業、飲食サービス業」の個人年収は28.5万円減少と、すべての業界の中で最も下がる見通しとなった。
図表4.業界別の個人年収の変化
データ出所:「パーソル総合研究所」
新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言の発出もあり、コロナ禍の打撃が最も大きい業界であることが影響していることは想像に難くない。
④今後の採用計画
企業における今後(来年度・再来年度)の中途・新卒採用の計画をみると、いずれも「減らす」が「増やす」を上回っている一方、5割程度の企業は今まで通りとなった。
図表5.今後の採用計画
データ出所:「パーソル総合研究所」
これはサンプル数の業界構成比にも影響されるかも知れない。
前述のように宿泊業・飲食サービス業は大きな影響を受け、店舗数削減、営業体制の変更、廃業などもあり減少傾向であると思われる。
しかしながら、ある程度の体力のある企業では、この危機を乗り切るためにDXを推進する意志を見せているところも多く、これを下支えする企業、特にIT関連企業はコロナ禍の影響も最小限であり、投資傾向にさえある。
⑤人員の過不足感
企業における人員の過不足感をみると、従業員全体では「過剰」が9.1%、「不足」が52.5%と不足が大きく上回っている。しかし、中高年(40歳以上)の従業員については、「過剰」な人員になっているとの認識の割合が27.7%となり、「不足」の23.8%を上回った。
職種別にみると、事務系が「過剰」な人員になっているとの認識の割合は13.8%となり、他職種よりも顕著に多い。
図表6.人員の過不足感
データ出所:「パーソル総合研究所」
「中高年の事務系人材」が過剰と思われてしまう理由は想像に容易い。
例えば、Excelで集計していた予実管理などはシステム導入し、BIツールなどを導入すれば大幅に工数削減できる。
そして、中高年であるが故にコストも高いから目を付けられやすい。
図表2にあるように「専門性の高いスキルを身につけたい」という結果とリンクしているのかも知れない。
⑥失業者の不安
さらにコロナ禍の影響による失業者に「これから仕事が見つかるか不安」かどうかを踏み込んで質問している。約8割が不安を抱えているという結果だった。
図表7.これから仕事が見つかるか不安
データ出所:「パーソル総合研究所」
コロナ禍でニーズの高まった業種がある事も確かではあるが、そこに全ての人がフィットするわけではないし、希望する職種との乖離などもあり、”不安”はなくならない。
⑦休業者への会社からの補償
休業者に会社からの補償について聞いたところ、何も支払われていない人が14.7%いることが明らかとなった。賃金の全額が補償されている人は20.5%と5分の1にとどまる。
図表8.休業者への会社からの補償
データ出所:「パーソル総合研究所」
経営者としては「ないものはない」という気持ちであろうが、従業員を守り、会社を存続させるためにも現状の売上規模に則したバーンレートにコントロールする必要はある。ANAが行ったように一時的に他業種への出向などもその一つといえるが、各企業が個々にこのような出向先を見つけるのは難しく、公の活動として支援体制が構築されることを望む。
生産性向上に努めながら、働き方の選択肢として今後もテレワークを認めるべき
今回の調査結果では、テレワーク時における主観的な生産性は出社時に比べて低下しているが、企業の組織風土やマネジメント次第では生産性を高めることができると考える。
テレワーク時の生産性を高める組織の特徴としては、業務プロセスや上司のマインドの柔軟性が高く、結果を重視する志向性を持っていることが挙げられる。
逆に生産性を低めていたのは、集団・対面志向が強く、年功的な秩序の組織であった(その他の要素については、図表9参照)。
コロナ収束後もテレワークを継続したいという正社員の割合は78.6%にも及んでおり、ワークライフバランスの観点からも企業は働き方の選択肢としてテレワークを定着させるとともに、生産性を上げる工夫を同時に模索していくことが求められる。
コロナ禍による失業者はこれからの仕事探しに大きな不安を感じ、ストレスが高い状況におかれている。今後も、効率的なマッチングや情報提供などの手厚い支援が継続的に求められる。休業者への補償も不十分であり、生活者支援のための各種セーフティネットが継続的に必要な状況が伺える。
図表9.テレワークの生産性に影響する要素
データ出所:「パーソル総合研究所」
調査概要
【株式会社パーソル総合研究所】<http://rc.persol-group.co.jp/>について
パーソル総合研究所は、パーソルグループのシンクタンク・コンサルティングファームとして、調査・研究、組織人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム提供、社員研修などを行っている。
経営・人事の課題解決に資するよう、データに基づいた実証的な提言・ソリューションを提供し、人と組織の成長をサポートしている。
本記事は、パーソル総合研究所様のニュースリリースの内容を元に作成しております。
ソース:https://rc.persol-group.co.jp/news/202101190001.html