使える! 情シス三段用語辞典125「NSA/SA」

常に新しい用語が生まれてくる情報システム部門は、全ての用語を正しく理解するのも一苦労。ましてや他人に伝えるとなると更に難しくなります。『情シスNavi.』では数々のIT用語を三段階で説明します。

一段目 ITの知識がある人向けの説明
二段目 ITが苦手な経営者に理解してもらえる説明
三段目 小学生にもわかる説明

取り上げる用語を“知らない”と思った人は、小学生にもわかる説明から読んでみると、理解が深まるかもしれません!?

一段目 ITの知識がある人向け「NSA/SA」の意味

NSAと聞くとアメリカ国家安全保障局(National Security Agency:アメリカ国防総省の情報機関)が頭に思い浮かんでしまう人もいるのではないでしょうか。実は5Gが本格化してきたことで目にするようになった言葉が「NSA/SA」なのです。

これは、5Gネットワークに関する用語で、NSAは非スタンドアローン(Non-StandAlone)、SAはスタンドアローン(Stand Alone)の略です。ご存じのようにスタンドアローンは「単独」を意味する英単語ですが、何がスタンドアローンなのでしょうか?
今回は今後の働き方にも関係する5Gの関連用語、「NSA/SA」について解説します。

おさらい

NSA/SAの話の前に5Gまでの変遷について再確認しておくことにする。

上図のように携帯電話の世代は「〜G」と表現されるが、ここでのGはGeneration、すなわち世代を意味している。それぞれの世代で使用する通信方式などの技術や各国における周波数帯なども異なる。多少の違いがあるかも知れないが、世代の特徴は概ね上図のようなものであろう。

2Gにおいては欧州:GSM、北米:CDMA、日本:PDCと各地域で別々の方式が展開されていた。その後、携帯電話はグローバル化の方向に向かい、NTTドコモを始めノキアやエリクソンなどの欧州の携帯電話機器メーカーとの共同開発により、W-CDMA(Wideband Code Division Multiple Access:広帯域符号分割多重接続) が3Gの無線アクセス方式として規格化された。
次に第3世代移動通信システム(ITUの定める「IMT-2000」規格)を高度化したものを区別する為、LTE(Long Term Evolution:ロング・ターム・エヴォリューション)や3.9Gなどと呼ばれる過渡期の規格が登場。
LTEから更なるデータ通信の高速化を目指して4Gは登場した。
しかしながら、ITUが規定する厳密な意味での4G規格はLTE-AdvancedとWiMAX2の二つのみである。しかしながら、3.9Gに相当するLTEやWiMAX、あるいは3.5Gに相当するHSPA+などもマーケティング的に「4G」と呼ばれてしまっていた。
技術的な違いはあってもユーザー視点ではほとんど区別がつかない為であるが、ITUでは市場の混乱を避けることを目的にLTEやWiMAX、さらには HSPA+などの3Gを発展させた規格も「4Gと呼称してよい」とする声明を発表している。

そして2020年、国内でも5Gのサービスが始まった。
まだまだ本来の5Gのメリットが享受できる環境ではないものの、データ無制限や料金体系など少しずつ変わってきており、今後の法人向けサービスには期待したいものである。

SAとNSAの違いと背景

では本題に戻ります。NSAとSAは何が違うのだろうか? NSA:Non-StandAloneの”Non”は5G専用ではないことを意味している。
事業社としては当然ながら、5Gローンチの際には速やかにカバーエリアを広げたい。そこで、ネットワーク内のインタフェースが4G/LTEで使用されているものをそのまま流用でき、通信事業者や通信機器ベンダーにとっても導入障壁が低い、4G/LTEのコアネットワーク(EPC)と5Gの基地局(en-gNB)とを組み合わせた構成となっているNSA方式が先行して導入されることになる。
しかしながら、NSA方式では5Gのメリットを享受できないという弱点もあるのだ。

SA:StandAloneのシステム構成では、コアネットワークも含めて5Gの技術に基づいたものとなる。SAは、コントロールプレーンとユーザープレーンの両方に5Gを利用し、フル5Gと言ってもよい。
そのフル5Gの特徴の一つが、「ネットワークスライシング」と呼ばれる高度な制御をネットワークに対して行うことである。
ネットワークスライシングは、要件に応じて仮想的に独立したネットワークを生成する。
5Gでは、「eMBB」(高速大容量)、「URLLC」(超高信頼低遅延)、「mMTC」(超大量端末)という用件が異なる用途をひとつの通信規格でサポートする必要があり、回線中に仮想的に独立したネットワークを生成して、それぞれのサービスで求められる要件を満たすネットワークを提供する。
この5Gらしさを享受する為には、SA方式の基地局が数多く設置される必要があるのである。

 

二段目 ITが苦手な経営者向け

とあるITコンサル会社での残業時間。社長が情シスリーダーの矢野さんのところにやってきました。

社長:矢野さん、社用スマホが5Gになったらテレワークでも快適なネット回線が使えるようになるのだろうか?
矢野さん:概念的にはそうなりますが、現実はそう簡単にはいかないようです。基地局がNSA方式か、SA方式かで通信の性能が左右されるからです。
社長:NSA? SA? 何それ!?
矢野さん:そうですよね、ほとんど知られてないですよね。実は基地局を構成する機器の方式に違いがあるんです。
社長:その違いでスペックに影響があるの?
矢野さん:はい、そうなんです。昔、携帯電話黎明期に「人口カバー率」って言葉があったのご存じですか? あれと同じで5Gのシステムも早く面展開したいのが事業者です。故に導入のハードルが低いNSA:Non-StandAlone方式の基地局から導入されます。 しかしながら、このNSA方式は5Gの良さをフルに引き出すことはできないのです。
社長:なんでできないのかな?
矢野さん:NSA方式では4G/LTEの仕組みを利用していることが足枷になります。これに対してSA:StandAlone方式は、5Gでの要求を満たす技術でシステムが構成されており、いわばフルスペック5Gといえます。
社長:一言で5G対応といっても、実際には5Gのメリットを享受できない環境(場所)もあるということなんだね。
矢野さん:その通りです。 直進性が高い周波数帯との関係もあり、なかなか一筋縄ではいかないですね。
社長:矢野さん、よく分かりました。5Gの売り文句である「eMBB」(高速大容量)、「URLLC」(超高信頼低遅延)が実現できているなら、テレワーク環境がもっと良くなると思ったもので。
矢野さん:そうですね、コロナ禍もあり、基地局設置スケジュールも遅延しているのではないかと思うのですが、情シスの方でも状況をチェックしておきます。

 

三段目 小学生向け

6年生になったジョージ君はお父さんに5Gのスマートフォンが欲しいとおねだりをしています。


お父さんになんで5Gがいいと思うのかを聞かれて、こう答えました。

ジョージ:5Gってデータ通信が速いからYouTubeとか観るのにいいんじゃないの?
お父さん:YouTube程度だったら5Gスマホじゃなくてもちゃんと観られるよ。
ジョージ:じゃあ、5Gってなんなのさ。

そうなんです、YouTubeやNetflix、Huluの視聴程度のことだったら5Gではなくても問題はないでしょう。
5Gの通信速度はこれまでの100倍になると言われています。
そうなるとこれまでできなかったことができるようになります。

例えば、機器の遠隔操作。タイムラグがあっては、操縦にミスが出る可能性があります。
更には、遠隔手術。医療ロボットを遠隔地から操作し、手術を行うなども今後実現されることでしょう。
高速、低遅延という特徴を持つ5Gがあればこそ可能となると言って過言ではありません。

しかしながら、そんな5Gのフルスペックを発揮するには基地局側もその用意が必要であり、それがSA:スタンドアロン方式なのです。
逆にNSA:ノン・スタンドアロン方式の基地局は5G対応を広めるには良いのですが、5Gの性能をフルに使い切れないので、将来的にはSA方式に置き換わっていくことになります。

 

さて、皆様のご理解は深まったでしょうか?

 

【執筆:編集Gp ハラダケンジ】

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