使える! 情シス三段用語辞典86「情報銀行」
常に新しい用語が生まれてくる情報システム部門は、全ての用語を正しく理解するのも一苦労。ましてや他人に伝えるとなると更に難しくなります。『情シスNavi.』では数々のIT用語を三段階で説明します。
一段目 ITの知識がある人向けの説明
二段目 ITが苦手な経営者に理解してもらえる説明
三段目 小学生にもわかる説明
取り上げる用語を“知らない”と思った人は、小学生にもわかる説明から読んでみると、理解が深まるかもしれません!?
一段目 ITの知識がある人向け「情報銀行」の意味
「情報銀行」とは、情報を貨幣のように価値のあるものとして個人から集めて管理し、その収集した情報を第三者の企業に提供するなどして活用する機関のこと。個人情報を有効活用するための仕組みです。
情報銀行は2019年1月時点でまだ実現しておらず、政府主導でその設置の準備が行われている段階です。総務省が公開した情報銀行のイメージ図は以下のようになります。
情報銀行で扱う情報とは、行動履歴や購買履歴などの生活に関するデータ、受けた医療や身長体重などの健康に関するデータ、所得や資産など金融に関するデータなどさまざまです。仕組みとしては、データを提供する個人が自分で情報銀行の事業者を選び、これらのデータを預けることになります。預けられたデータは情報銀行が安全に管理し、第三者の企業から情報提供依頼があった場合、情報を預けている個人の許可を得た上で提供することとなります。第三者の企業は提供されたデータを事業に活用し、社会のニーズに合ったサービス提供を行うなど社会に還元することが期待されています。また、情報活用により得られた直接的な利益は個人にも還元することを前提に考えられています。とはいえ、そのビジネススキームもまだ開発途中ではあるのですが。
こうした個人情報を集めて運用することにより、新たな市場の開拓や今までになかったようなサービスの開発ができる可能性があります。市場開拓の例を挙げると、現在でもGAFA(GoogleやAmazon、Facebook、Apple)と呼ばれる巨大IT企業には、個人が検索した情報や購買履歴などが蓄積されており、そのビッグデータを分析して個人の嗜好に合った広告を出すことで、売り上げ増進につなげています。
情報銀行の取り組みは、今までは個人から集められた膨大なデータの流通ができず、これらのデータ活用の受益はビッグデータを収集することができた大企業にのみ限定されていることを課題として出発しました。GAFAなどの数社の企業が個人情報を独占して利用し、大きな利益を得ていることが問題視されています。中小企業は自社で集めるデータの規模にも限りがあります。そこで情報銀行が信託機関として独立して情報流通を行うことで、企業の規模に関わらず、優れたビジネスモデルを有する企業に情報活用ができるようにしていこうというのが狙いです。
もちろん、まだまだ課題は山積みです。まず、個人からの情報の委託を受けるためには、社会的な認知と信頼が欠かせません。「情報銀行」という言葉さえ認知度が高いとは言えない状況であり、情報銀行となる事業者はまだ決定されていませんが、この事業者には信頼性の確保が必須条件となります。そして、情報銀行を運営する際には、安全な情報管理のためのセキュリティ対策が必須です。情報提供を受ける企業が多岐にわたるであろうことから、社会全体での安全な情報流通基盤の整備も必要でしょう。仮想通貨流出のようなことがないことを願うばかりです。また、情報提供時のデータ形式などの標準化や、提供される企業の審査ルールなど国が主導して検討すべき項目も多くあります。
EUでは2018年5月に施行されたGDPRにより、企業に渡した個人情報であっても、個人が自分で自身の情報を管理できる権利が規定されています。日本では、個人情報の運用を銀行に委託するという方向に舵を切りました。情報銀行事業者の認定は、2019年3月に行われる予定であることが発表されていますが、その動向については一人一人がキチンとチェックしておくべきだと考えます。
二段目 ITが苦手な経営者向け
とある水産加工会社の社長、サバの缶詰とタコ飯パックを片手にボヤいていた。そこに通りかかった情シス半沢さん。
社長:サバ缶はブームが来たな。いろいろなレシピがテレビで放映されて、売り上げも好調だ。それに引き換え、タコ飯パックは地味だなあ。この地味だけど美味しい商品をどうにかしてもっと売り出したい。情シスの君にいうのもなんだけど、なんかいい販売戦略はないかなあ。
半沢さん:うーん、タコ飯パックは知名度が低いんですよね。
社長:知名度が低くても、カズノコの唐辛子漬けはけっこう売れているんだよ。居酒屋の大口注文があってね。これはね、地元の飲食店への営業が成功したんだ。うちはあまり広告費も大きく出せないから、効果的にピンポイントで広告を打っていかないと。
半沢さん:タコ飯パックを買いそうな人たちに広告を打つ。なかなか難しいですね。こういうときに情報銀行があればいいかもしれないですけどね。
社長:ジョウホウ銀行って?新しいネット銀行かね?
半沢さん:データという意味の「情報銀行」です。お金じゃなくて、情報を集める銀行のことですよ。今、政府が進めている新しい取り組みで、個人の購買行動や嗜好などのデータをたくさん集めて、ビッグデータとして活用できるようにするための銀行なんです。
社長:よくわからないな。お金じゃなくて情報を集める銀行があったとして、我々にどう関係あるんだ?
半沢さん:情報銀行が集めたデータは、関係ない企業でも提供してもらうことができるんです。ウチみたいな小規模な地域企業でもです。
社長:まだわからんよ。ビッグデータとやらでタコ飯パックが売れるのか?
半沢さん:例えば、うちの直売店でタコ飯パックを買ってくださったお客さんに、販売員がお顔を覚えておいて次のご来店でもタコ飯パックをお勧めしたりできますよね。それは「このお客さんが過去にタコ飯パックを買った」というデータがあるからですよね。
社長:なんとなくわかってきたぞ。お客様の好みに関する情報ってことだな。
半沢さん:ビッグデータを使うと、直売店のお客さん以外でも広い客層の好みの傾向がわかるってことです。
社長:なるほど。ビッグデータを使えば、どういうお客様がタコ飯パックを好みそうかわかるってことだな。そうしたらそこへ売っていけば、ただやみくもに宣伝するよりずっと効果的だ。
半沢さん:そうです。これまでは、GAFAと呼ばれる大きな4つの企業がそういうビッグデータを独占していたんですよ。全世界から個人情報を集めて。
社長:GAFAなら知ってるよ。Google、Amazon、Facebook、Appleだろ。そんな大企業と同じことがうちでもできるんだなぁ。
半沢さん:でも! 情報銀行はまだ存在しないんですよ。今は計画段階なんです。
社長:そうか。そんな銀行ができたらぜひ利用したいものだ。
三段目 小学生向け
皆さんは今年のお年玉をもう使いましたか?貯金するために銀行にあずけた、という人も多いかもしれませんね。さて、銀行ってどんなところか知っていますか?いろんな人がお金をあずけて、それを金庫にしまっておく・・・だけではないのです。銀行は、あずかったお金を他の会社に貸したりして「お金の運用」ということをしているのです。運用をすると、貸したお金の利子がもらえたりすることでもうかる、という仕組みになっているのです。
そして、今の時代、皆さんのお金以外に「個人情報」も銀行に預けたらどうか、という試みがあります。それを「情報銀行」といいます。お金とちがって、情報なんて何も買えないじゃないか、と思うかもしれません。でも使い方によっては、情報にはお金と同じくらい価値があるのです。「情報」と聞いて皆さんが思い浮かべるのは「名前」「年齢」「身長・体重」といったものかもしれませんが、実は「どんな食べ物が好きか」「あこがれている有名人はだれか」といったことも価値のある情報なのです。
例えば、牛丼が好きでたまらない人がいたとします。その人が、行列のできる牛丼屋さんのおいしいタレが発売されたというCMを見たら、きっと買いたくなるでしょう。もし牛丼屋さん側に、「どこの誰が牛丼好きか」という情報がわかっていれば、その人たちにダイレクトメールを送って宣伝したほうが、高いお金をはらってテレビCMをするよりも(テレビCMを出すというのはとてもお金のかかることです!)ずっと売れやすくて良いのです。テレビを見ている人みんなが牛丼好きなわけではないですから。そして、テレビCMだと見逃す可能性もありますが、このやり方ならば、牛丼好きな人はおいしいタレのことを確実に知ることができ手に入れることができるのです。このように情報をうまく使えば、何かを売る会社にとってもお客さんであるわたしたちにとっても良い効果をもたらすことがあります。
そのための情報を預けておくところが情報銀行です。今、日本政府がこうした情報銀行を作ろうという計画をしています。この情報銀行が、お客さんから「何が好きか」などの情報を集めて、必要な会社にわたしてくれるのです。でも、牛丼好きな人だって、おいしくて良心的な牛丼屋さんに知られるのはいいけれど、ボッタクリでおいしくない牛丼屋さんには自分の情報を知られたくないですよね。銀行からどういう会社に自分の情報をわたすかは自分で決められることになっています。変なところに情報がもれないようにきちんとあずかるという役割を、この銀行ははたしてくれるのです。
さて、皆様のご理解は深まったでしょうか?
【執筆:編集Gp 星野 美緒】