AI Vol:04「AIの知能試験!? 『チューリング・テスト』ってなに?」

2018/06/08

 

ワタシたちにも突破したい試験があります

少し前の話ですが、2014年6月にAI界のトピックがありました。ロシア人のウラジミール・ベセロフ氏とウクライナ人のユージン・デムチェンコ氏、このふたりの人工知能研究者が開発したコンピュータ「Eugene(ユージーン)」が、「チューリング・テスト」に合格したと報道されたのです。

ん? と、疑問に感じる人も少なくないと思いますので、順を追って説明していきましょう。

 

チューリング・テストはむずかしい

・「チューリング・テスト」

「機械は、“人のような考え(ふるまい)”を出力できるか?」をテーマにしたコンピュータ用のテスト。テストに合格できれば、「人のようにふるまえる」と証明されたことになります。

・「試験内容」

機械的にコンピュータの能力を測定するようなテストではありません。用意されるのは試験スペースと仕切りに使う壁。参加するのは審査員(人間)、コンピュータと参加者(人間)で、「審査員→壁←コンピュータ&参加者」の対面形式で行われます。このとき、審査員は向こう側にいるのがコンピュータなのか人なのかは知らされていません。

試験は審査員の主導により行われます。さまざまな質問をテキストメッセージで送ると、壁向こうからメッセージが返ってきます。その内容をもとに「壁の向こうは、人かコンピュータか?」を推測していきます。合格基準はいくつかあり、主要なものは「多数決」です。もし、審査員全体の30%以上が「人と対話している」と答えれば、そのコンピュータは「人と変わらないふるまいをしている」ことが証明されます。 

・「合格したコンピュータ」

なぜ、冒頭のEugeneの合格が大きなトピックになったか? それは、チューリング・テストが考案された1950年から、合格したコンピュータが皆無だから。計算や正解が決まっている回答は得意なものの、人間のようなふるまいは、今もなお、コンピュータにとって相当な難関のようです。

では、冒頭のEugeneはどうして30%以上の審査員が人と判定したのか? これについては、次で説明しましょう。

 

合格という声もあれば、あやしいという声もあります

チューリング・テスト合格には、必ずしも質疑応答の「正しさ」が重要になるわけではありません。

例えば、審査員の誰かが「イデアル類群とはなにか?」と質問したとしましょう。コンピュータはこの答えをプログラミングされていません。しかし、「知りません、教えてください」、または「そんなことまで知っているんですか? 驚きです」と、返せば内容はつながります。

さらにいえば、対話は「相手への配慮」が欠かせません。その思考があり、言葉のキャッチボールが成り立ちます。つまり、逆をいえば、「相手にこちらのイメージを植え付けることができれば」コミュニケーションは自在であるともいえるのです。

それが如実に現れたのが、Eugeneの合格でした。

なぜなら、はじめに「13歳のウクライナ人である」、「英語は話せるが主要言語ではない」という設定があったから。つまり、わからない言葉や質問があれば“わかりません”、または、黙るのもよいでしょう。さらに、メッセージが不自然でも“英語が得意ではない13歳の子どもだから”と、さらに追求を受けることは少ないと思います。Eugenehの精度は不明ですが、合格にはこのカモフラージュが大きく影響したようです。

しかし、これが災いしてか、Eugeneの合格は物議を醸しました。世界的な人工知能研究の権威である「レイ・カーツワイル博士」やニューヨーク大学で認知科学を教える「ゲイリー・マーカス教授」はじめ、著名な専門家や識者から「本当の合格ではない」という指摘が集中したのです。

 

正しい合否はわかりませんが、合格と下されたのは事実です

果たして、Eugeneを本当の合格とするか否かについてはわかりませんが、どんな背景であれEugeneがチューリング・テストをパスしたのは、確かな事実としてAIの歴史に刻まれています。

それを考えれば、見つめるべきは今後のチューリング・テスト。 「人間らしさ」とは、また「思考」とは? さらに、どのように判定すれば誰もが「知能があるコンピュータ」だと納得できるのか? そこを再考していく必要があるのかもしれません。ただ、人間らしさとは何か? または思考や知能とは? それは今もなお解き明かされていない謎。そこも考えれば、しばらくこの議論は続きそうです。

さて、これは、またの機会に詳しく紹介してきたいと思いますが、最後にチューリング・テストを考案者は「コンピュータの父」とよばれる、「アラン・チューリング博士」です。20世紀を代表する数学者のひとりであり、第二次世界大戦でドイツが使用した難攻不落の暗号「エニグマ」を解読したことでも知られています。

 

チューリング博士の軌跡は『イミテーション・ゲーム』という映画にもなっています。まだ観たことがない人はぜひ観てみてください。とてもおもしろい映画ですよ。

 

【執筆:編集Gp 坂本 嶺】

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