松田軽太の「一人情シスのすゝめ」#13:情シスは果たしてIT介護者なのか
松田軽太の「ひとり情シスのすゝめ」、タイトルだけ見るとひとり情シスを推奨しているように思われるかも知れませんが、思いはまったくの”逆”。様々な事情によりやむなく”ひとり情シス/ゼロ情シス”という状況になってしまっても頑張っていらっしゃる皆様のお役に立つような記事をお届けしたいと思っております。
なにやら最近、Twitterで気になるワードが目につきました。
それは『IT介護』という言葉です。今回はこのIT介護について着目したいと思います。
この記事の目次
はたして”IT介護”とは?
早速ですが、今回、IT介護を知るキッカケとなったのは以下のツイートからでした。
とんでもなくバズってましたので、それだけこの内容に共感する人がいるという証明でしょうか。
で、IT介護っ何?
『IT介護』でググると多くは介護業務のIT化に関する情報が見つかります。しかしながら、ここでいうIT介護というのは、そういうコトではありません。
『絶望的にITリテラシーが欠除したITオンチの高齢経営者や高齢管理職に対して、手とり足取りして、超初歩的なパソコンやらExcelやらの使い方を介助すること』といったような定義でしょうか。
その様子がまるで介護のように見えることから”IT介護”という言葉が生まれたのです。
ことITに限っては、使えない方が偉そうなのは何故か?
パソコン操作が苦手なのは世代を問わずある一定数存在します。
特に最近はスマホネイティブ世代が社会に出てきているので、以前に比べてパソコン操作の苦手な若者が増えていると実感します。ですが、ジェネレーションZやスマホネイティブ世代の若者はパソコン操作やExcel操作を教えたら、素直に喜んでくれるのです。
しかし、役職者になるとこれが様変わりします。
パソコン操作やExcel操作を教えても「それじゃ分からん!」とか「もっと分かりやすく丁寧に教えろ!」とか当然のごとく上から目線で文句ばかり言い出すのです。
そのような態度だから、見ている人からも教えている人たちからも「IT介護」と陰口を言われるのです。
なぜ情シスは『何でも屋』されてしまうのか?
Twitterで情シス系アカウントを見ていると『情シス=何でも屋』といった内容を目にします。
どのくらい何でもやらされているかというと…。
- オフィスグリコの納品立ち会い(情報漏洩対策だとか・・・)
- 乾電池の管理(電気絡み)
- 蛍光灯の交換(これも電気絡み)
- 役員へのスマートフォン操作レクチャー(機種交換のたびに)
- 役員の孫のゲーム器操作方法(ゲーム機とパソコンの区別がつかいないのかも?)
- 総務が導入した複合機の操作説明(導入は総務だけど、総務に聞いても分からないという答えしかこないから)
- オフィスの引っ越し計画(机や什器もパソコン移動のついでにやらされる)
挙げたらキリがありませんが、このような業務とも言い難い内容まで情シスの人たちが押し付けられているのも事実としてあるのです。
とある情シスイベントに参加して耳にしたことがありますが、電気やネットワーク(通信)に関係するありとあらゆるモノは情シスが担当という会社もあるようです。お気の毒に…。
しかしながら、情シスの人たちは親切でマメな人が多いので、お門違いな問い合わせに対しても、ソツなく対応してしまうからなのかもしれません。
ITオンチの集まる会社の驚くべき事例
Twitterにてあーちゃんという地方の製造業でRPAやグループウェア導入のために孤軍奮闘されている人を見つけました。
そのツイートを見ているとあーちゃんの職場で起こる出来事は、もはやコントみたいな実話ばかりで目を疑います。
例えばこれ。
その考え方で言えば、長時間のパソコン作業を隣接して行うのは感染リスクがあると考えるのは、まぁ、間違いではないでしょう。
どう考えてもノートパソコンを使う場所をちょっと動かせば良いだけなんですけどね。
そして次に起きたのがこれ。
なんで箱にしまっちゃうの??
もはや何をしたいのかが分からないレベルの行動です。
他にもこんなエピソードがあります。
1台のノートパソコンでむりやり大人数でリモート会議をしようするからこんなおかしなコトになってしまうわけです。
そして、さらにこの症状が深刻になると、こんなことになってしまいました。
大人数で行うなら専用のTV会議システムを使えば良いのですが、そんな発想もないのでしょう。
Twitterで紹介されていた今回のエピソードだけでも強烈ですが、きっと他にも驚きの行動はたくさんあることでしょう。
しかし、2020年の令和の時代に、こういう会社が実在しているのも現実です。
知人が働く100名規模の電気工事会社では、創業メンバーである現在の会長はスマホも使いこなせない80歳。「自分がわからないことは導入しない」という方針もあり、社内のIT環境(ワークフローなど)はここ15年大きな変化なしと言います。
未だに経費精算や出勤簿はExcelですから。(苦笑)
なぜIT介護の必要な経営者が生まれてしまうのか?
これからはソフトウェアファーストと言われています。時価総額ランキングを見れば一目瞭然、世界的に冨を築いているのはGAFAMを代表とするプラットフォーマーですから。
では日本の高齢経営者は果たしてソフトウェアファーストという考え方を受け入れるでしょうか?
少し前にこんなニュースが話題になり、ザワついた記憶があります。
『経団連会長の執務室、ついにPC導入。中西会長「正直、無いのは驚いた」 事務方「対面が基本だから…」
これまでの財界トップがパソコンを導入せず、メールで指示を出していなかったのか?』
高齢経営者でも大企業のトップを務めるような方はスマホは使っているハズですが、やはり電話とメールが多いのでしょうか?
そうえば必要なアプリのインストールも情シスのスタッフがやっているという会社もあると聞きます。
では、このようなIT介護されているような経営者にデジタル・トランスフォーメーション(DX)を実現できるのでしょうか?
どう考えても、そんなことできるワケありません。前出の知人の会社の会長にDXを説明するだけでも無理があるでしょう。だって、スマホも使えないのですから。
創業時期が1998年頃を境に企業文化が大きく変わる
これらのIT介護の必要な経営者が鎮座している会社は、創業から数十年の歴史のある会社が多いのではないでしょうか? 戦後、たたき上げで成長してきた中小企業の経営者が80歳前後だと思います。
一方で、ITを抵抗無く受け入れて活用できる会社の共通点は「1998年以降に創業された企業」がひとつの目安だと言われています。日本の企業にパソコンが大きく普及したのはWindows 98以降だからだという説です。
実際、楽天やサイボウズやサイバーエージェントやディー・エヌ・エーやZOZOTOWNのzozoといったITを経営基盤として柔軟な会社は1998年前後に創業されています
つまり創業した時からパソコンを始めとするIT技術に抵抗のない会社はわずか20年足らずで大きく成長しているのです。
今は耐え忍ぶしかないのか、経営者の世代交代まで
では歴史のある会社の経営者がすべからくIT介護が必要なのかといえば、もちろん、そんなことはありません。
基本的には人によるものと思います。年齢に関わらず、新しい知識や技術に関心を持つ人も多くいらっしゃいます。
しかしながら、今はITに疎い創業者が会長だったとしても、いつかはリタイアし、経営者の世代交代はやってきます。そうなると状況は大きく変わります。歴史のある会社でも経営者の世代が変われば企業文化も変わるのです。
例えば、「イシイのミートボール」でお馴染みの石井食品の現在の社長はアクセンチュア出身のスクラムマスターだったりします。
あるいは陣屋という老舗旅館はSalesforceでシステム内製化を行い、IoTを使いこなしてデジタル・トランスフォーメーション(DX)を実現しています。
なので「ウチの経営者はIT介護が必要だ・・・」と嘆いている人にとっての希望は、いずれ時間の流れが解決してくれるだろう、ということです。
もちろん、それまで待てれば・・・ですがね。
※本記事は松田軽太氏許諾の元、「松田軽太のブロぐる」の記事をベースに再編集しております。
松田軽太(まつだ・けいた)
とある企業に勤務する現役情シス。会社の中では「何をしているのかナゾな職場」でもある情シス業務についてのTipsや基礎知識などを紹介する。
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