レポート「ニューノーマルの働き方改革 :すぐに始められるデジタル変革への道」前編
2020年10月20日と21日の2日間にわたって開催された、Webセミナー「ニューノーマル(新常態)の働き方改革~すぐに始められるデジタル変革への道~」。
Day2のプログラムの中でも情シスの興味であろう「セキュリティ」トラックを聴講。
5名の登壇者のほぼ全員が強調していたのが「経営層が変わることなしにセキュリティ対策の成功はない!」というメッセージでした。もしかすると経営層の皆様には耳が痛いセミナーだったのかも知れません?!
Webセミナー「ニューノーマル(新常態)の働き方改革~すぐに始められるデジタル変革への道~」概要
- Day1:2020年10月20日(火)13:00 – 16:00 クラウド活用、マーケティングの2トラック
- Day2:2020年10月21日(水)13:00 – 16:00 営業/フロント業務、セキュリティの2トラック
今回は、Day2の「セキュリティ」トラックのオープニングセッションとして開催された基調講演について紹介します。
大企業ならではという事情もあるでしょうが、その要素は様々な規模の会社でも参考にできると思いました。
この記事の目次
98%という脅威の在宅勤務率!LIXILのニューノーマルな働き方(基調講演)
株式会社LIXIL、理事 デジタル部門デジタルテクノロジーセンター長「安井卓氏」による講演「ニューノーマルの働き方に向けて – LIXILの実例」。
まず、本公演の冒頭で筆者の目が点になったのは、LIXILでは都内勤務者の98%を在宅勤務化したという事実です。
「ドアやサッシの会社なのにどうやって?」という疑問が湧いてきますが、安井氏はその秘密についてお話してくださいました。
ドアやサッシなどの金属製品や水回り製品を中心に扱う企業であるLIXILは、ショールームも多いため、在宅勤務とは無縁というイメージがあります。しかしながら、周囲のイメージを払拭し、LIXILは「強制在宅勤務」という施策を実行します。ショールームでさえ2020年3月には強制在宅勤務とし、2020年4月には在宅勤務化率98%を達成。国内25,000人が同時に在宅勤務できる状態になったと言います。
デジタルテクノロジーセンター長である安井氏は、ニューノーマルの働き方について、冒頭で次のように結論を述べました。
「ニューノーマルへの対応というのは、変化への適応になる。組織だけではなく個人が変化・適応していく」
LIXILのコロナウイルス下の対応
「強制在宅勤務」導入の背景には新型コロナウイルスの拡大がありますが、LIXILはなぜ、いち早くかつ大規模に在宅勤務化できたのでしょうか?
安井氏は成功要因について次のように分析しました。
LIXILの新型コロナウイルス対応の成功要因
- 在宅勤務など人事制度を予め整えていた
- 在宅勤務のためのインフラ・マニュアル等を整備していた
- 在宅勤務経験者が多かった
- IT方針として、クラウドの活用・ゼロトラスト化という方針を掲げていた
- オンラインでも気軽なコミュニケーションができるSNS(Facebook社の「Workplace」)がすでに活用されていた
- 経営陣が社会や従業員に寄り添い、柔軟な考えで施策を素早く実施した
成功要因は様々ですが、経営陣が社員の声に寄り添い、柔軟に決定できたことが勝因と思われるとまとめています。
LIXILの働き方改革とは
LIXILは国内5社が合併した企業ということもあり、異なる企業文化が共存していることや、国内外に拠点が散らばっていることから、コミュニケーションが取りにくいなどの課題を抱えていたといいます。
この問題解決の為、現在、次の3本を柱とする「変わらないとリクシル」という社内プログラムを実行しています。
- 顧客志向に変える
- キャリアを変える
- 働き方を変える
今回のプレゼンテーションは、この中の「働き方を変える」という部分に基づいています。
「働き方を変える」ために、LIXILのIT部門が実行したIT/デジタル施策は次のとおりでした。
- クラウドサービスの活用
- コミュニケーション改革
- ゼロトラスト・アーキテクチャの実現
- アジャイルスクラムの採用
では、その内容はどのようなものだったのでしょうか。
コミュニケーション改革
LIXILではコミュニケーション改革のツールとしてFacebook社の「Workplace」を採用しています。その理由は、「無料で試せるため、まずは使ってみた」・「既存の社内SNSやコミュニケーションツールよりも盛り上がっていたから」という非常にシンプルなものでした。
Facebookという既に多くの人がが使っているSNSのUI/UXをベースとしているので、導入のハードルが低く、部門や階層を超えて社員同士がダイレクトにコミュニケーションできるようになったと言います。
トップメッセージなどの各種社内アナウンスや業務事例の共有だけにとどまらず、世の中のニュースから趣味を含む雑多な会話まで気軽にチャットし、「ありとあらゆるコミュニケーションをデジタル化した」ことが非常に有効だったとしています。
特に新型コロナウイルス対応下において、2020年8月のお盆休み中でも2.1万人が「Workplace」を継続的に利用していたという結果になりました。
ゼロトラスト・アーキテクチャの実現
またLIXILでは、あらゆるアクセスを信用せずすべてを確認することにより防御するという「ゼロトラスト」モデルをセキュリティーに採用しています。理由には、働き方改革などにより柔軟な業務環境を提供する必要があったことや、従来型のVPN接続でネットワーク帯域が圧迫したことなどでした。
<引用:LIXIL様プレゼン資料より抜粋>
安井氏によれば、将来的にはVRのグラスを付けて勤務しているのかも知れませんと例を挙げ、将来への備えからも、今、ゼロトラスト化しておくことが重要と強調しました。
ただ、従来のレガシーシステムを、一朝一夕にゼロトラスト化することは困難であり、今回の緊急導入においてもLIXILでは、社内アプリケーションへのアクセスを制限する仕組み「Akamai EAA(Enterprise Application Access)」とVPNの増強により、25,000名分のリモートアクセスキャパを確保。また、クラウドベースのセキュアなWebゲートウェイ「Akamai ETP(Enterprise Threat Protector)」を活用したエンドポイント強化を行い、直接インターネットにアクセスする環境でも安全に業務が行える環境を構築しています。
アジャイルスクラムの採用
LIXILのIT部門では、かつては要件定義から本番までを一連の流れで行うウォーターフォール型を採用して開発を行っていました。
時代も変わり、ウォーターフォール型では、大きなサービスの開発には長期間かかってしまうことや、今回のように新型コロナへの対応で、一部の機能しか開発しないということになるとウォーターフォール型は変化に弱く、不都合が生じます。
そこで、短い期間で少しずつ積み上げることができるアジャイルスクラムを採用したといいます。
アジャイルスクラムだと、価値が少し出るところでリリースすることができると安井氏はそのメリットを述べています。
<引用:LIXIL様プレゼン資料より抜粋>
アジャイルスクラム採用の効果は、働き方にも現れており、メンバーの47.1%が以前よりも仕事での幸福度が増したと回答したそうです。現在は150名でアジャイルスクラムを活用しています。
そして、安井氏は次の3点を強調して、講演を締めくくりました。
- 在宅勤務化を進めるには、普段から在宅勤務やリモート勤務を行っていることが重要
- 普段使っているツールを使うことがコミュニケーションの心理的障壁を減らすことに有効
- CEOなど経営幹部の関与は絶対に必要
次回はセキュリティトラックの本編についてレポートいたします。
【執筆:編集Gp 近藤真理】